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戦国異伝

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第五話 初陣その三


「敵の主力がいるのはわかりましたが」
「何じゃ、爺」
「しかし敵将がおりませぬ」
 彼が言うのはこのことだった。
「この戦い太源雪斎が出陣しています」
「あの老僧がか」
「はい、左様です」
 言わずと知れた今川を支えるその高僧だ。
「あの者を討てば。これからは」
「そうじゃな。今川はかなり弱まる」
 信長もこのことはわかっていた。
「討てればな」
「さすれば。ここは」
「討てるに越したことはない」
 信長はこうも話すのだった。
「討てればな。さすれば三河位は楽に手に入るな」
「その通りです、安祥でのことが返ってきます」
「三河か。爺はあの国が欲しいか」
 信長はこんなことも言うのだった。
「あの国がまことに」
「といいますと」
「まあよい。とにかく今はじゃ」
 多くを語ろうとするのを止めた感じでだ。話を変えてきた。
「敵の主力を叩く」
「ですから太源雪斎は」
「とにかく攻めるぞ。よいな」
 また多くは言わなかった。そのうえでだ。その報告に来ていた忍の者に対してあらためて告げるのだった。その告げることとは。
「よいか、権六と久助に伝えよ」
「はっ」
「何とでしょうか」
「まず権六はそのまま敵陣に突き進め」
 柴田についてはそうせよというのだった。
「そして久助はだ」
「どうされよと」
「敵軍を乱せ」
 滝川に対して伝えることはこれだった。
「よいな、乱せとじゃ」
「そうされよというのですね」
「すぐにわしも他の者も行く」
 実際にだ。信長は今にも馬を進めようとしてた。手綱を握るその手が何よりの証であった。
「だからじゃ。わかったな」
「わかりました。それではすぐに」
「伝えよ」
 信長はまた伝令の忍に告げた。
「すぐに全軍で攻めるぞ」
「畏まりました」
「五郎左にも伝えよ」
 次は丹羽にであった。
「その役目はまずは終わりじゃ。共に攻めるぞ」
「五郎左も加えるのですか」
「あの者も必要じゃ」
 だからだと。また平手に答えたのである。
「だからじゃ。よいな」
「ううむ、しかしあの者は」
「戦ではどうかというのじゃな」
「政や兵糧のことは見事です」
 平手もそれはわかっていた。彼のこれまでの働きを見てだ。
「しかし戦については」
「あの者も初陣だからか」
「力がわかりませぬ。それでもですか」
「何、案ずることはない」
 信長はここでは楽観した言葉を出したのだった。
「役に立たぬ者は最初から用いぬ。あの者もやってくれるぞ」
「では。やはり五郎左も」
「加えよ」
 信長はまた告げた。
「よいな。そうせよ」
「わかりました」
 平手も遂に頷いた。そうしてであった。
 信長も馬を駆けさせた。赤母衣、黒母衣の面々がその周りを固める。そして家臣達も共にいる。そこには丹羽の姿もあった。
 既に前線では柴田と滝川がそれぞれの働きをしていた。信長はまずは彼等に合流しなかった。 
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