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FAIRYTAIL-ダークブリングの力を操りし者-

作者:joker@k
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番外編 ヒロイン達の想い【後編】

side ミラジェーン





 このギルドに入ったのは何時だっただろうか。もう遠い昔のようにも感じるし、昨日のことのようにも感じる。ただ、強烈に印象に残っているのが二つある。一つはエルザとの出会い。あれは確か私と同世代で強い女の子がいるって聞いたとき異様に意識した覚えがある。あの時の私は自分の強さに自信があったし、弟と妹を守るために精一杯努力していた。だから信じられなかったかもしれない。いや、侮っていたのかもしれない。私と同年代でしかも同性の子に負けるわけがないと。


 エルザの第一印象は凛とした優等生というイメージだった。ナツとグレイの喧嘩をいつも仲裁し注意をしている女の子。当時の私とは正反対の性格だなと思った覚えがある。事前にエルザのことを周囲の人達から聞いて情報は仕入れていたから戦闘に持ち込むのは容易かった。ただ堂々と模擬戦をしようと言えば応じるという情報とそれでも応じなかった場合はルシアを引き合いに出せば一発だと酔っ払っていたマカオに聞いていた。

 私はその情報を手にナツとグレイの仲裁をしていたエルザに勝負を持ちかけた。するとエルザは仲裁に忙しいからまた後にしてくれと断られてしまった。何度も言うようだけど当時の私は気が短くて、自分の思う通りいかないことに腹を立てて言ってしまった。


――――ルシア・レアグローブの悪口を


 一秒もなかっただろう。私もよく避けられたと思う。背を向けていたエルザの手にはいつも間にか剣が握り締められ、その状態から裏拳の要領で私に牙を向けた。私は咄嗟に後方へ回避した。エルザと私の間の空間には剣によって切られた私の髪の毛が数本宙を舞っていた。あれには冷や汗をかいた。それは唐突な不意打ちによっての冷や汗ではなく、エルザの怒気に対してだ。眼力だけで相手を射殺さんばかりの目で私を睨んでいた。アレも一種の魔眼だと思う。

 その時のナツとグレイがお互いを抱き合ってガタガタと震えていたのは今思えば笑い話だが、当時はその状況のヤバさを表していた指針となっていた。ギルド全体もいつの間にか静寂と化していた。いつもあれ程騒がしいこのギルドがだ。だが、私は手加減なしでやりあえると思い気持ちが高ぶっていた。


 まぁその後は誰もが予想できる通りエルザと激突して激闘を繰り広げた。ナツやグレイにギルドを壊すなと口を酸っぱくして言っていたエルザと私でギルドを全壊させてしまった。これが切っ掛けでエルザとよく競うように争った。

 それが一つ目。二つ目がそのルシアとの出会い。いつの間にか息を吸うようにエルザとの争いが当然のモノと成りはじめていたとき、戦闘後少し会話をするのが当たり前になっていた。そしていつも話題に出てくるのがルシアだ。エルザいわく、剣の基礎を教えてもらったのがルシアだという。そしてエルザ以上の強者。それを聞いて私が興味を持たないわけがなかった。

 ただ、出てくる話題がルシアのことばかりだったので惚れてるのかと聞いたら顔を真っ赤にして叫びながらその場を後にしていた。初めて可愛いところもあるんだなと思うと同時に、からかう材料が増えたと思ったんだけど……私も同じ男性に落ちるとは当時は夢にも思わなかったなぁ。



 それから少ししてクエストから帰ってきたばかりのルシアをカウンターで見かけた。真っ赤なワインを片手に飲んでいる姿はとても十五歳とは思えなかった記憶がある。くすんだ金髪に鋭い眼光。黒尽くめで所々金色の刺繍が入っているマントとロングコートは自然と似合って見えた。普通の人ならばこの見た目だけで敬遠、いや話かけようとも思わないだろう。だが、エルザの話を聞くかぎり内面は優しいとのことだったので割りとすんなり話しかけることができた。内容はもちろんルシアとの戦闘。

 しかし返ってきた答えに憤慨した。「強いと言ってもエルザクラスだろ?」この言葉に私は怒りを覚えた。エルザより私のほうが強い!……ではなく、エルザを馬鹿にされたように聞えたから。今思うとあの当時私はエルザを無意識の内に認めていたんだと思う。ルシアにすぐさま勝負を仕掛けようとしたが、何をされたかわからないまま体を拘束された。魔法を使用する動作も見られず一切の魔力を感じなかった。私はすぐに警戒レベルを最大まで上げ考察していたが、ルシアは着いて来いとばかりにギルドを後にした。

 その後のルシアと戦い圧倒的に負けた。でも正直私の記憶に鮮明に残っているのはこの戦いではなく、戦った後のことだった。このギルドに入り、友と言える存在は出来た。ライバルといえる存在も出来た。ただ頼るべき人はいなかったし、私はそれで良いと思っていた。だけど、それは自分の心を必要以上に追い込んでいたことに自身では気がついていなかった。

 それを気がつかせてくれたのがルシアだった。私の吐露を受け止めてくれた初めての人。エルザが熱心にいろんな意味で追いかける理由が分かった気がした。恐らくこの時からだろう、ルシアのことを少し気になる存在として見始めたのは……。



 その数年後、私がS級魔導士になって最悪の事件が起こった。それは最愛の妹の死。今でもあまり思い出したくはない最悪の事件。いや、思い出したくはないというよりも、あまり覚えていないと言ったほうが正しいかもしれない。あの事件が起こり、何日かは暴れていたそうだ。それから力尽きたかのように自室に篭った。初めに考えていたことは後悔だった。私があのとき近くにいれば、私がもっと強ければ、そんな考えに縛られ続けていた。

 その呪縛から救ってくれたのはエルザだった。別にこれといった心に残るセリフを言われたわけではない。ただ何気ない会話を私の部屋の扉越しにしてくれていただけだ。ただそれだけで少し気が楽になっていた。その話を聞いてる間だけあの事件を考えずにいられたから。そこから立ち直るまでは早かったと思う。リサーナに受けていた注意をそのまま反映させて自分を変えようと思ったから。短気な所を治し、落ち着いた大人になろうと思った。服装や髪型を変えて、言葉遣いも変えた。ギルドの皆は私を見て驚いていたけど、すぐに温かく迎え入れてくれた。



 私が立ち直って少したったある日、女性四人で集まろうとカナに呼び出された。そのメンバーの名前を聞いたとき大体の内容は予想はできた。ルシア・レアグローブに惚れこんでいる女性達だ。ただ珍しくは思った。この四人が一同を介することなど今までなかったから。案の定、ルシアの事だったが内容は一歩踏み込んだ話となっていた。それはルシアをこの四人で共有すること。

 この提案を初め聞いたとき、正直戸惑った。ただ、次に思ったことは意外と魅力的な案だと感じた。もちろん独占はしたい。けれど、私が精神的に参っていたときに助けれくれたエルザ、さりげない気遣いをしてくれたカナやエバーグリーンとはあまり争いたくはないという思いも強かった。皆同姓の私から見ても良い女性だと思う。だけど、もしルシアとの恋愛の末、以前の関係ではいれなくなる可能性を感じたとき、ならばこの案はいいのではないかと思った。議論の結果、無事皆の共有財産となった。もちろんルシアの気持ちも汲まなければなれないけれど、そこはあまり心配していない。ルシアも男の子だから。


 その会合があった日から数日後、ルシアがクエストから戻ってきた。たぶんルシアがギルドに帰ってきて一番最初に私が気がついたと思う。彼はいつもギルドの扉を音をたてず静かに開けるクセがある。その次に気がついたグレイが真っ先にルシアのほうに向かって行った。たぶんリサーナと私についての事を話すためにギルドから連れ去っていったのだろう。……あの子は一番人に気をつかえる子だと思う。うん、変な女性に引っかからないか少し心配だ。

 それはともかく、これはチャンスだと思った。今夜勝負に打って出よう。事情を聴き混乱しているうちに仕留める。リサーナを利用しているみたいで少し嫌だけど、でもリサーナならそれぐらい武器に使っていくべきだと言ってくれそうだ。昔からマセた女の子で、よくナツをからかっていた。女の武器をあの子は一番理解していたんじゃないかとも思う。

 ……皆のルシアだけど、一番は取られたくなかった。そうして私は生まれて初めての経験をして女の子から女になれた気がする。愛した男性との一夜はとても幸せで至福の一時だった。












side エバーグリーン




 無駄とも思える毎日の積み重ねが女を美しくする。
 それをモットーに私は毎日美容に力を入れている。元々美容に興味はあったが毎日なんてやってられないというのが本音だった。自分で言うのもなんだけど、素材は良いほうだと思うし、そこまで頑張らなくてもと思っていた。その考えが覆ったのはルシアと出会ってからだった。一目惚れというほどでもないが、好きだという気持ちになったのは、そしてその気持ちに気がついたのは早かったと思う。自分がこんなにも惚れっぽい人間だとは思わなかった。いやもしかしたらルシアだからかもしれないし、本当に惚れっぽい人間だったのかもしれない。ただルシアといる時間が心地よくて、至福の時間だった。


 だが、そんな気持ちにさせてくれる男を他の女が放っておくはずもなく、取り合いになったのは当たり前のことだった。いや、どちらかというと私はその取り合いに参加したのは遅いほうだと思う。すでにエルザやカナ、ミラジェーンとの争いの中に私が新たに参加したという形だ。同姓の私から見ても綺麗な女性達だ。これが切っ掛けで私は美容に力を入れ始めた。それだけではない。服装もルシアの家に行ったときに見つけたエッチなラクリマから情報を得て好きそうな服を日頃から身に着けるようにもした。……ルシアはお姉さん系が好きみたいで少し嬉しかった。よかった、ロリコンじゃなくて。


 それから頻繁にデートにも誘うようにしているし、お酒に付き合ってもいる。しかしこれほどアプローチを掛けているにもかかわらずあの男は私に全然告白してこなかった。さすがに一時期は自信を失ったものだ。ただ私だけではなく、ミラ達もアプローチをかけているのに告白したとの情報は全然流れてこなかったことから再び自信を取り戻した。一瞬ロリコンかホモかとも思ったが、ルシア家にあるラクリマから見てもそれはないなとその判断を切り捨てた。自分から告白というのも、あまりしたくはなかった。初めて付き合うなら告白して欲しいという願望があったと思う。今やそんなこと行ってる場合ではないが。


 ルシアと初めて一緒に依頼を受けに行ったときは驚愕した。それは、彼のあまりの強さに。私はその時までルシアの戦う姿を一度も見た事がなかったため、その時の衝撃ったらなかった。あらゆる敵を全て蹂躙し尽くしてしまいそうなほどの派手な戦闘。不覚にも「金髪の悪魔」という二つ名が付くのも仕方ないと思ってしまった。ただ、どちらかというと悪魔よりも魔王よりな気がしたが。とにかくそんな物騒な二つ名が似合うほどの力と戦い方だった。ただそんな猛々しい姿の中にもどこか神聖さ、気品さを感じてしまったのは私の贔屓目のせいだろうか。だからこそ私は金髪の悪魔よりも金髪の魔王という名のほうが似合って見える。……まぁそれ以外にも私が悪魔という言葉が好きではないというのもあるが。

 そのせいで、ミラジェーンとの戦闘に発展することが多々あった。ミラジェーンといえばエルザとの因縁の対決というイメージを持っている人がいるが、それは恐らく喧嘩するたびにギルドが崩壊するせいだと思う。用は印象が強いのだ。私とミラジェーンの場合「表に出ろ」というキーワードを合図に表に出てから争うのであまりギルドには迷惑をかけていない……と思う。初戦以外は。最近は彼女が変わってお淑やかな性格になったため喧嘩に発展するようなことはなくなった。とはいえ、睨み合い程度ならあるが。笑いながらキレるなんて芸当は彼女が変わってからできるようになったものだ。あれは対峙している私でも不気味で怖い。

 そんな私たちでも別に毎回喧嘩をしているわけではない。普通に話もするし、買い物にも行く。全員恋敵で、特にエルザとはある事情により気に喰わないことが重ねてあるがそれを抜きにすれば良い友だと思っている。いずれは何かしらの形で決着をつけたいが。それ以外のギルドメンバーとは挨拶程度はするようになったがあまり話をしない。ルシアやルシアの周りにいる女性達以外とは親しくはなかったがある日を境にそれも変化した。



――雷神衆


 そう呼ばれるギルドチームがある。フリード・ジャスティーン、ビックスロー、そしてエバーグリーンつまり私の三人で構成されたチームだ。このチームはただ単にギルドの依頼を受けるためのチームではなく、ラクサス親衛隊という意味合いが強い。ラクサスといえばルシアと並び称される程の強者。あのルシアとだ。つまり実力は化け物級だ。そんな興味本位で入ったチームではあるが意外と私に合っていてこいつらと居てもあまり苦にならなかった。変な奴らではあったけど、このギルドに所属してる奴は大抵変人なので今更な話だ。一見するとフリードが常識人でビックスローが変態に見えるが長く付き合ってみるとフリードが変態でビックスローが常識人だということが分かる。フリードはラクサスが絡むと途端に変態に変身する。一時はホモ野郎かと真剣に疑った次期もあった。そんな私に苦笑いを浮かべていたビックスローはやはり常識人だ。表面だけ見ればこいつが一番の変態だが。

 そんな雷神衆をまとめているのがラクサス・ドレアー。このギルドのマスターの孫にもあたる人物だ。性格は好戦的で実力もピカイチ。ただ優しいところもある……あまり表立ってその面は出さないが、さり気ない優しさは持っている人だ。そういえばルシアがツンデレな奴って言っていた気がする。文字通りツンツンするほどの雷撃が得意だ。何より、身体能力がハンパじゃない。もしかすると、身体能力だけならルシア以上かもしれない。まぁ実力の差がある私から見ての判断だから違うかもしれないが、それでもルシア並みにあることは確かだ。


 一度だけラクサスとルシアの戦う所を見た事がある。極稀に二つの依頼で同一の魔物がターゲットになることがある。ある一つの依頼では最近頻繁に地震が起こる、その原因を探してきてくれというもの。そしてもう一つの依頼がとある砂漠で馬車が襲われた。その襲った魔物を退治してくれというもの。一見するとまるで違う依頼だが、原因が同一の魔物によるものだった。片方は雷神衆とラクサスが受け、片方はルシアが受けたものだった。つまり原因の魔物の取りあいだ。この場合、どっちがその魔物を倒しても依頼料は貰える。ただどっちも好戦的な気質をもつため争いが起こった。その時の戦闘は今でも覚えている。灼熱地獄の砂漠がオアシスに感じてしまう程、戦闘を繰り広げている二人の周囲は地獄絵図と化していた。目的の魔物などその戦闘の余波ですでに死んでいた。片方が拳を天に掲げれば巨大な雷が天から舞い降り、砂漠にクレーターを作り出し、片方が大剣を一振りすれば絨毯爆撃が如く爆発の連鎖が起きる。普通の砂漠ではありえない光景だった。それから少ししてお互い暴れ足りたのか無言で背を向け帰って来た。用はこの二人、戦闘するために依頼をこなしているのだ。……言うと怒るだろうがやはりこの二人どこか似ていると思った。



 こうして私の毎日はルシアと恋敵と雷神衆でできている。それは一人で本を読んでいたあの頃よりも楽しくて幸せな時間だと思う。ただその恋敵の関係が壊れた出来事があった。
 それはカナ主催で開かれた会合。メンバーはあの四人。告げられた内容はルシアを皆で分け合うというのもだった。それを聞いた瞬間、心の底からドス黒いモノが込み上げてきた。「嫉妬」「独占欲」「支配欲」それらがごちゃ混ぜになった何か。正直あの時はみっともなかったと思う。ただ今思えばこの欲の塊を一番初めに吐き出せてよかったとも思う。しかし、何故彼女達はこの提案を受けて平然としてられたのかが不思議だ。事前に知っていたにしてはカナから提案されたとき驚いていたのは変だ。私の猛抗議もカナとミラジェーンの説得により沈下してしまった。

 提案されたときは感情のみを表立って出してしまったが、なるほど確かに怖い。浮気というのはやはり嫌なモノだ。……いや、そうじゃない。誤魔化しちゃいけない。表面上は良いけど心の中まで誤魔化しちゃいけない。本当に怖いのは今のこの四人の関係が壊れることだ。数少ないこの友人達を失うのが……怖い。またあの時のように一人に、いや独りになるのが怖い。今は雷神衆という仲間達もいる。けれど一度得てしまった友を失うのは嫌だ。私は表だっては渋々この案に了承したように見せたが納得のいく提案だった。

 ルシアが依頼から帰って来た翌日、すぐに理解した。ミラジェーンの変化に。カナと顔を見合わせお互い居合い抜きをするが如く抜刀するように振りぬいた手でジャンケンをした。……結果、雷神衆に八つ当たりをした。クソッ!ジャンケンに勝ったときのカナのドヤ顔が今でも鮮明に思い浮かぶ。

 まぁいい。今日は私の番だ。だからどこか今までと違い色気を放っているカナの事なんかどうでもいい。いつも通り、いやいつも以上に念入りに肌の手入れをして私は決戦場に向かう。


 私、エバーグリーンは今日大人の女になってきます!


 
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