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戦国異伝

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第二十六話 堺その九


「全く。この悪童は」
「悪童とはそれがしでござるか」
「そうよ。この前もじゃ」
 柴田は怒った顔で慶次を見てだ。言葉を続ける。
「わしが寝ている間に髭に何をした」
「少し結んだだけでござるが」
「ほどくのが大変だったぞ」
 そうした悪戯をだ。またしたというのだ。
「全く。いつもいつも」
「しかしでござる。権六殿はその後で」
 慶次はその怒った顔の柴田に対して反論する。
「それがしをしこたま殴ったではござらぬか」
「殴っただけで済んでいいと思え」
 こう返す柴田だった。
「本来ならば斬っておるぞ」
「むむっ、それがしの首をですか」
「そうじゃ。御主という奴は」
「それでは命拾いだったというのですか」
「今度やったら許さぬぞ」
 実はこの言葉を毎度言っている柴田だった。何だかんだと言ってである。彼は慶次の悪戯を殴るだけで許しているのである。いつもそうしているのだ。
「よいな、それは」
「では今度は別のことをしますので」
「それがいかんというのだ、全く」
 そんなやり取りをする二人だった。柴田は慶次に対して言ってから主に顔を戻してだ。そのうえで彼に再び話すのであった。「こういうことになっております」
「わしのせいか」
「殿の悪戯好きがこうした悪童を生んでおりまする」
「しかし権六、御主もその都度悪童をぶん殴っておるな」
 柴田がだ。それをしない筈がなかった。信長もわかっている。
「そうじゃな」
「はい、それは当然として」
「ではよいではないか」
 信長はだ。ここでこう述べたのだった。
「やり返しておるのでは」
「何と、それでよいと」
「そうじゃ。では悪戯をせん慶次は何じゃ」
 逆にだ。柴田にこう問うのであった。
「そんな慶次は面白いか」
「慶次が悪戯をせぬと」
「そうじゃ。考えられるか」
「考えることが無理で申す」
 そうだとだ。すぐに述べた柴田だった。
「この者が悪戯をせんとは」
「そうであろう。それはわしもじゃ」
「この悪童から傾奇と悪戯を抜いたらそれこそ」
「何かわからんぞ」
「いやいや、風流がありますぞ」
 当人が笑いながらその二人に述べた。
「それがし。これでも風流が大好きでござる」
「それと槍じゃな」 
 可児が横から言った。
「それもじゃな」
「そうじゃな。わしには槍と松風もあるのう」
 彼の乗る馬である。自慢の愛馬である。彼はその馬に乗り戦場を駆け回る。そして今の旅にもだ。それに乗って動いているのである。まさにもう一人の彼である。
「何じゃ、結構あるではないか」
「しかしじゃ。傾いておらず悪戯をせん御主はじゃ」
「考えられるな」
 信長と柴田が同時に言った。
「全く。これはこれで」
「難儀な奴じゃ」
「ふむ。確かにそれがしはふべん者でござる」
 自分でこう言う慶次だった。
「政はできませぬ故。殿のお役に立てるのは槍以外にはありませぬ」
「政には興味がないのじゃな」
「はい、ありませぬ」
 佐久間盛重の問いにもはっきりと答える。
「城や国を持とうとも思いませぬ。ただ傾きたいだけでござる」
「おかしな奴じゃ」
 佐久間盛重はそれを聞いて首を傾げることしきりであった。他の者もである。
「土地を求めぬとは」
「食えればよく。後は気ままに傾いてでござる」
「ははは、慶次らしいわ」
 それを横で聞いてだ。前田が笑って述べた。
「御主は昔からそう言うからのう」
「ややこしいことは叔父御がしてくれますからなあ」
 彼もこう前田に返す。
「いや、それがしは気楽に悪戯ができ申す」
「全く。変わった奴じゃ」
「そういう性分でございますので」
「しかしじゃ」
 ここまで話してだ。前田も柴田と同じ顔になって慶次に言ってきた。
「御主の悪戯はじゃ」
「権六殿と同じことを言われますな」
「そうじゃ。実に性質が悪い」
 慶次の予想通りだった。やはりこう言う前田だった。 
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