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戦国異伝

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第二十六話 堺その八


 そしてそれを聞いた前田が問うた。
「ではそれがしもですか」
「又左、無論御主も駄目じゃ」
「左様ですか。では供は」
「だからいらんのじゃ」
 それはだというのである。
「いらん。わし一人で行く」
「あの、殿」
「それは」
 流石にそう言われてはであった。彼に幼い頃から仕えている林兄弟が眉を顰めさせてだ。そのうえで主に言葉を告げるのだった。
「幾ら何でも危険です」
「そうです。危険に過ぎます」
「ははは、わしが返り討ちにあるというのか」
「左様です」
「そうなっては話になりません」
 林兄弟が言うのはまさに正論であった。家臣の誰もが二人の言葉に頷く。
「刺客はどれだけいるのか」
「そして宿は」
「はい、十二人でございます」
 生駒が述べてきた。その彼がだ。
「そして宿はです」
「ふむ」
 信長は生駒から宿の名前と場所も聞いた。そこまで聞いてであった。
 彼はだ。家臣達にあらためて告げた。
「やはりわし一人で充分じゃな」
「ですから十二人ですぞ」
「それをお一人とは」
 林兄弟がまた反論する。
「それで何かあれば」
「お話になりませぬ」
「その通りでございます」
 佐久間も二人の言葉に賛成してきた。
「殿、ここはせめて慶次か才蔵をお連れ下さい」
「わしなら百人おっても大丈夫じゃ」
「わしもじゃ」
 ここぞとばかりに名乗り出る二人であった。
「さすれば殿」
「やはり我等が」
「だからよいと言っておるのだ」
 しかしであった。信長の言葉は変わらない。あくまでこう言うのであった。
「わし一人で充分じゃ」
「ううむ、どうしてもでございますか」
「そうされますか」
 林兄弟は信長がここでは絶対に引かないことを察した。しかしそれでもまだ言う。彼等にも家臣としての意地があるからである。
「御一人で」
「大丈夫だと」
「そうじゃ。見ておれ」
 信長の言葉はここでは素っ気無いものだった。
「わし一人で充分じゃ」
「そうですか。それでは」
「行かれるとよいかと」
 林兄弟が折れるとだ。他の面々もだった。こう言うのだった。
「全く。殿ときたら」
「妙にそうして楽しまれますから」
「困ったものです」
「そうしたところは変わりませんな」
「これも遊びのうちよ」
 信長はこんなことも述べた。
「楽しんでくるわ」
「ということはですな」
 木下がふとした感じで言ってきた。
「殿は絶対にうまくいくとですか」
「だからこその遊びよ」
 木下への言葉もだ。同じ色のものだった。
「そういうことじゃ」
「成功すればいいですが」
「全くよのう」
 佐久間だけでなく柴田もだ。今は流石に慎重派であった。
 それでだ。彼もまた主に述べた。
「殿のその悪戯好きはまことに変わりませんな。それが」
「それが何じゃ、権六よ」
「慶次めによからぬ影響を与えております」
 こう述べるのだった。 
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