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戦国異伝

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第二十六話 堺その五


「よいな」
「はっ、では」
「さて。話はこれ位にしてじゃ」
 信長は己のその話を止めてきた。そのうえで、であった。
 あらためて港を見てだ。これからのことを考えるのだった。彼は海も見ていた。それはあくまで広く無限のものがあった。彼はそうしたものも見ていたのである。
 それが終わって港から帰る時にだ。九鬼が彼に言ってきた。
「殿、宜しいでしょうか」
「やはり来たのう」
 九鬼が来てだ。信長は笑みになるのだった。
「今か今かと待っておったぞ」
「そうだったのですか」
「海といえば御主よ」
 だからだというのである。
「絶対に来ると思っておったわ」
「確かに。それがしもです」
「思うところがあるのだな」
「堺のある瀬戸内はです」
 その海のことをだ。九鬼は信長に話す。
「三好のものですが」
「そうじゃな。この海は三好のものじゃ」
 水軍によりそうさせているのだ。これは九鬼が最もよく知っていることである。しかし彼だけでなくだ。信長もそのことについて言うのである。
「そうである限りはじゃな」
「これから我等が大きくなれば」
「当然この和泉全体を治めることになる」
「そしてでござる」
 九鬼はさらに言う。
「そこからさらに」
「四国じゃな」
「当然そこに向かうことも考えておられると思います」
「その通りじゃ。わしは天下統一を目指しておる」
 ならばだというのである。
「さすれば。四国もな」
「では瀬戸内は」
「二郎」
 九鬼のその幼名を告げての言葉であった。
「その時はそなたよ」
「それがしでございますな」
「そなたをただ尾張の海や川を動くだけの者にしておくつもりはない」
「さすれば」
「その時は思う存分に暴れるがよい」
 確かな笑みを浮かべてだ。九鬼に告げる。
「よいな」
「はい、それでは」
「海も国よ」
 信長は海についてもこう考えているのだった。
「さすればわしが治めるものよ」
「左様ですか」
「海もまた」
「そうじゃ。だからこそ尾張や伊勢の海賊達を手中に収めていっておるのじゃ」
 実際に信長はそうしている。そのうえで己の水軍を拡充させていっているのだ。
「とりわけ伊勢じゃ」
「確かに。あの地の水軍は見事です」
「それは」
 家臣達も彼等のことは知っていた。
「だからでございますか」
「今からあの者達を配下にしているのは」
「それで」
「今川は間も無く来るであろう」
 信長は既に読んでいた。このこともだ。
「それを退けたら丁度よい頃じゃ」
「伊勢をですな」
「その時に」
「そうする。まずは伊勢を手に入れ」
 そこからだった。信長は伊勢だけを見てはいなかった。
「そして美濃よ」
「美濃が先ではないですか?」
 今問うたのは金森だった。 
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