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戦国異伝

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第二十六話 堺その四


 舟がとにかく多い。それも巨大な見事な船ばかりだ。そうした船達が次々に出入りしている。港は活気に満ちていた。それを見てであった。
 そして宿に戻ってだ。彼等はあらためて話すのだった。
「この町にはどれだけの富があるのか」
「それだけでも途方もないものですな」
「いや、考えるだけでも」
「この富は手に入れるものではない」
 また家臣達に言う信長だった。
「生み出させるものじゃ」
「生み出させるのですか」
「手に入れるものではなく」
「金自体がそうじゃ」
 それは金そのものがだというのだった。
「生み出すものぞ」
「政によってですな」
「それで」
「堺も同じよ。生み出させる」
 堺についての話に戻った。その堺にだ。
「よいな。そうするのじゃ」
「米と同じですな」
 今言ったのは丹羽だった。彼は考える顔になっている。
「さすれば」
「ほう、気付いたか五郎左」
「はい、若しやですが」
「いや、そなたは気付いておる」
 そうしたことはすぐに見抜く信長だった。相変わらずの鋭さである。
「そのことにだ」
「左様ですか」
「そうじゃ。気付いておる」
 信長は楽しげな笑顔になってまた彼に告げた。
「金も米も同じよ。手に入れるものではないのじゃ」
「生み出すものですな」
「米は田から生まれるものよ」
 まずは米からだった。そこから話すのだった。
「百姓達が耕し育て」
「そして金は商人達が育てる」
 話がつながった。
「そうしたものじゃ」
「ううむ、それがしは」
 柴田がここでまた言う。
「これまで米も金も、作らせ収めさせるものと思っていましたが」
「違うとわかったな」
「はい、その通りでござる」
 主にだ。彼は太い素直な声で述べた。
「百姓や商人達に」
「そなたは税は低いがそう考えておったのはわかっておった」
 このことも見抜いている信長だった。
「既にな」
「左様でござったか」
「税はまあ軽い方がよい」
 信長も税についてはそうした考えだった。
「民に過度に負担をかけても何もならぬ」
「かえって民の反感を買いその力も奪います」
「民に力が無くてどうする」
 信長はこのことも話す。
「何にもならぬな」
「まさに」
「それは確かよ。しかしじゃ」
「生み出させるのですか」
 柴田は主のその言葉を自分でも述べた。
「米と金は」
「何でもそうじゃ。収めさせるのではないということはわかっておることじゃ」
「はっ、それでは」
「今すぐにわからずともよいぞ」
 信長もそこまでは求めなかった。
「少しずつでよい」
「左様でござるか」
「うむ。権六は素直よ」
 柴田のそうしたよいところもだ。信長はよくわかっているのだった。
「その素直さがやがてわからせるからのう」
「そうであればよいのですが」
「また言うが少しずつでよいからな」
 言葉は繰り返しになった。 
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