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戦国異伝

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第十九話 夫婦その一


                  第十九話  夫婦
 道三は死んだ。信長は今は美濃を攻めることはせず相変わらず尾張の内政に周辺の国々の調査、それに伊勢志摩への調略に専念していた。静かと言えば静かであった。
 しかしだ。その中においてもだった。彼は柴田に林兄弟を招いてだ。そうしてそのうえで彼等に対してかねてよりのことを話すのであった。
「して、だ」
「はい」
「それではですな」
「いよいよ」
「うむ、そなた等に六千の兵を与える」
 それだけの兵をというのだ。
「そしてそのうえでだ」
「古渡の勘十郎様の下にですね」
「入られよと」
「これまでにもお話されていた通り」
「そうじゃ、それをするのは今を置いて他にはない」
 時から話すことであった。
「だからよ」
「伊勢志摩への調略が身を結ぼうという前に」
「そして今川が来る前に」
「美濃を手に入れる前に」
 織田家においてのさしあたっての懸念が話されていく。このことは信長だけでなく家臣達もよくわかっていることであった。
 特に柴田と林兄弟は信長の家臣達の中でもかなりの高位の者達だ。とりわけ柴田に至っては平手に次いで次席家老とさえされている程だ。
 だからこそ主の言葉に頷いてだ。そのうえで言うのであった。
「そうされますか」
「勘十郎様のことを終わらせる」
「今で」
「わかったな」
 また言う信長だった。
「では古渡に入るのじゃ」
「わかりました。ですが殿」
 ここで言ってきたのは林の兄であった。彼は考える顔になって信長に話すのだった。
「我等が勘十郎様の下に入ってもです」
「勘十郎はそなた等を信じぬな」
「その通りです」
 林兄が言うのはこのことであった。
「我等は間違いなく遠ざけられますが」
「それでも宜しいのですか」
「それで」
「構わん。あ奴に兵を渡すだけだ」
 それだけだというのだった。
「そなた等はただ兵をあ奴に渡すだけでよい」
「ではその後は」
「戦の場においてはどうされよと」
「我等は殿と対することになりますが」
「よい、勘十郎の傍におれ」
 信長は造作もないといった調子で述べた。
「それでよい」
「左様ですか、それでは」
「そうさせてもらいますが」
 柴田達は信長の言葉に頷くしかなかった。主である彼が言うからにはだった。
 そのうえで彼等のすることは決まった。信行の下にその六千の兵と共に入ることがだ。それが決まったのであった。
 彼等が信行の下に入る。それからであった。
 信長はこう残った家臣達に話すのであった。
「して次はじゃ」
「はい」
「何をされますか」
「美濃との境に兵を進める」
 そうするというのである。
「よいな」
「美濃との境にですか」
「そこに兵をですか」
「残る九千の兵をですか」
「左様、よいな」
 こう家臣達に話すのである。
「そうするぞ」
「そうして清洲を空にしたうえでなのですね」
「勘十郎様にあえて兵を挙げさせる」
「そうされると」
「左様、わかったな」
 これが信長の考えだった。策であった。
「そうしてじゃ。この話は早いうちに終わらせる」
「迅速に終わらせる」
「そうされると」
「さもなければ今川や斉藤に付け込まれる」
 だからだというのだ。中でのいざかいがどれだけ外にとって都合がいいのか、信長はこのことを熟知していた、だからこそだった。 
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