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戦国異伝

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第十八話 道三の最期その四


「最期にも。これだけの晴れ舞台にいるのだからな」
「ではここは」
「御自身もまた」
「戦われますね」
「槍をもて」
 こう傍にいる者の一人に告げた。
「蝮の槍、見せておこう」
「我等もです」
「この武辺、今ここで」
「思う存分に」
「行くぞ」
 道三自ら槍を手に取りだった。そのうえで門に向かう。その後ろに兵達が続く。
 その頃だ。信長率いる尾張の兵は。
 美濃に入ろうとしていた。その先陣は。
 滝川とだ。他にいるのは。
「ううむ、我等が先陣とはな」
「これまた何という名誉か」
 前田と佐々だった。今回は彼等も先陣に加わっているのだ。
 二人は意気揚々といよりは意気盛んといった様子で馬を進める。そうしてそれぞれ左右に並んでそうして言い合っているのであった。
「しかしだ」
「どうした又左」
「わしが先陣なのはいい」
 前田はまずはこう言うのであった。
「殿もそれだけわしに目をかけて下さっているということよ」
「いやいや、待つのだ」
 佐々は前田の今の言葉に早速文句をつけた。
「それはわしもぞ」
「そうよ、何故貴様もいるのだ」
 前田はその佐々に顔を向けて口を尖らせて告げた。
「内蔵助、御主もだ」
「だからわしも殿に目をかけられてもらっておるのだ」
「馬鹿を言え、それはわしだ」
「いいや、わしだ」
 こう言い争うのだった。
「わしはな。それこそ黒母衣衆としてだな」
「何を言うか、それならわしも赤母衣衆ぞ」
 お互い負けていない。
「だからこそ殿にもだ」
「いや、又左御主は所詮あれよ」
「あれとは何じゃ」
「槍と算盤だけの男ではないか」
「何、では御主には何がある」
「わしはそれだけではないのだぞ」
 佐々は胸を張って前田に告げる。
「その他にもよ」
「何があるというのじゃ」
「何でもできるぞ。その二つ以外にもじゃ」
「ふん、ではそれを見せてみよ」
 こんな有様だった。そしてだ。
 その二人を見て先陣のもう一人の将である滝川が二人のところに来て言ってきた。
「気がはやるのはわかるがだ」
「むっ、久助殿か」
「どうされた」
「どうされたではない。仲間内で喧嘩をしてどうするか」
「別に喧嘩ではないが」
「左様だ」
 これは二人共否定するのだった。
「我等は別にだ」
「その様なことはしておらんぞ」
「そうか?」
 だが二人の言葉を聞いてもだ。滝川はいぶかしむ顔のままだった。三人共馬に乗っているがその上でそうなっているのである。
「そうは見えぬがな」
「少なくとも又左の喧嘩となると」
 佐々がその滝川に対して話す。
「それこそ殴り合いだからな」
「わしにとっては喧嘩はそれよ」
 実際に誇らしげに言う前田だった。
「しかしその相手はだ」
「あれか。甥のか」
「そうよ、慶次よ」
 前田はこう言って滝川に対してにやりと笑ってみせた。
「あ奴だけは殴らぬと中々気が済まぬ」
「そういえばこの出陣ではまだ喧嘩をしておらぬな」
「うむ、そういえばそうだな」
 前田は今度は佐々の言葉に応えた。 
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