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戦国異伝

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第十八話 道三の最期その三


「川を渡ってきましたな」
「我等から反撃できるだけの力を削いだうえで」
「今から」
「そうじゃな。それではだ」
 それを見てだ。道三も言うのだった。
「我等はだ」
「はい」
「ここはどうされますか」
「退く」
 こうするというのだった。
「そして城に入りだ」
「最後の戦いですね」
「いよいよ」
「そこで」
「思う存分戦うとしよう」
 道三はまた笑った。ここでもだった。
「わしの最後の晴れ舞台よ」
「その最後の晴れ舞台にです」
「我等もまた」
「お供させて頂きます」
 こう言ってだった。彼等は退き鷺山城に入り立て篭もる。そこを枕にして最期の最期まで戦いそうして果てる決意をしたうえでだった。
 そして義龍はだ。父の軍の撤退を見てだ。こう己の軍に指示を出すのだった。
「ではだ」
「鷺山城にですね」
「進撃しそうして囲み」
「そのうえで」
「滅ぼす」
 一言だった。
「わかったな」
「はっ、それではです」
「今よりそうして」
「この美濃を」
「今より」
「わしは勝つ」
 義龍は馬上で腕を組み言った。
「父上にな」
「父上に、そうですね」
「大殿に」
「そうされるのですね」
 誰も意識では気付いていなかった。今の言葉にだ。
 だが言葉には出ていたのだった。確かにだ。
「わしは今までだ」
「今までとは」
「何があったのですか」
「それは一体」
「父上に勝ったことがなかった」
 子の言葉だった。だが彼は気付いてはいない。
「だがここでだ」
「遂にですね」
「大殿に勝たれる」
「ここで」
「そうだ、勝ちそして美濃を手に入れるのだ」
 こう言ってだった。軍を進ませそうしてそのうえで川を渡ったのだった。
「行け!」
 義龍もまた川を渡った。そうしてだった。
 大軍が今城を囲んだ。最期の戦いがはじまった。
 十重二十重に囲んだ我が子の軍を櫓から見てだ。道三は己の周りにいる自身の兵達も見回した。既にその数はかなり減ってしまっている。
 その彼等を見てだ。満足して言うのだった。
「わしは幸せだったな」
「といいますと」
「一体」
「わしは一介の小坊主から身を起こし」
 これまでの生涯を思い出してだ。そうして言うのだった。
「そのうえで美濃を手に入れそしてだ」
「そして」
「今もですね」
「そうよ、あれだけの婿殿も来てくれた」
 信長のことも思い出してだ。そして話すのだった。 
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