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戦国異伝

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第十七話 美濃の異変その十


 札だった。しかもそれは普通の札ではなかった。それは。
「おや、これは」
「勘合札でござるな」
「そう、それでござるな」
「明との貿易に使うあれですか」
「そうよ、それよ」
 まさにそれだというのであった。
「これを一つずつそなた達にやろう」
「一方はそれぞれ我等が持ち」
「そしてもう一方は」
「そういうことでござるか」
「その通りよ。婿殿に渡しておく」
 道三は彼等に静かに話していく。
「事情を話してな。だがそなた達の名は出さぬ」
「して我等が婿殿を完全によしとされた時に」
「婿殿の御前に札を持って現れて」
「そうされよと」
「そうよ、あくまでそなた等が決めよ」
 これは強く言う道三であった。
「よいな」
「はっ、それでは」
「ではその様に」
「これでよし」
 道三の言葉はここでさらに強いものになった。
「後はだ」
「戦われますか」
「最後の戦を」
「一花咲かせてみたくもなった」
 道三はふと笑みも浮かべたのであった。
「この歳になってな」
「ははは、それではでござる」
「我等、その殿の最後の一花を見させてもらうでござる」
「是非共」
「そうさせてもらいます」
「済まぬな」
 道三はここでもだった。笑って言うのであった。
「そなた達の考えを見ずにな」
「いえいえ、御覧になられたうえでのことですから」
「我等もそれで結構です」
「後は。見させてもらいます」
「殿を。そして」
 そして、なのだった。次に言うのは。
「婿殿もまた」
「見させてもらいましょう」
「そうしてくれるか」 
 道三は最早思い残すことはなかった。そしてであった。我が子達を半ば強制的に尾張に送り届けさせたのであった。
 彼等はすぐに清洲に預けられた。当然信長は彼等を匿った。しかしであった。
 信長は彼等を匿ってすぐにであった。家臣達を集め告げるのであった。まずは平手にであった。
「爺、そなたがだ」
「留守をですな」
「清洲に残り守ってくれ」
 こう彼に告げてからであった。他の者達を見回してであった。
「そして他の者はだ」
「はい、すぐに出陣ですな」
「それでは」
「ことは一刻を争う」
 このことがわかっていた。だからこそなのだった。
「すぐに出陣するぞ」
「はっ、では今より」
「我等もまた」
「兵は一万じゃ」
 兵の数も言う信長だった。
「それで出陣するぞ」
「残り五千で、ですね」
「尾張の守りを」
「そうじゃ、そうする」
 まさにそうだと話す信長だった。
「その五千は爺に任せたぞ」
「では。尾張はお任せ下さい」
 すぐに返す平手であった。
「この爺が命にかえましても」
「まあそこまで気張らずともよい」
 信長は生真面目な平手に微笑んでこう告げた。 
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