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戦国異伝

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第十六話 正装その三


「それはな」
「左様ですか」
「では略装を持って参れ」
 正式に決めた言葉であった。
「よいな」
「はい、それでは」
「今より」
「ここでわかる」
 道三は誰にも聞こえないようにして呟いてみせた。
「婿殿のことがな。存分によ」
 楽しそうに笑って呟いたのであった。そして織田方も寺に着いていた。まずは家臣達がであった。その傾いた服から真面目な服に着替えていた。
 彼等も大忙しだった。その中で森可成が言うのであった。
「さて、我等もとはな」
「殿も手が込んでおられる」
「全くですな」
 村井と島田も同じだった。彼等もそれぞれ着替えている。広い部屋の中で全員である。結構急ぎながら着替えて話もしているのだ。
「我等もとは」
「しかも来ている者全員とは」
「来ておらぬといえば」
 毛利が言った。当然彼も着替えている。
「信行様と信広様だけではないか」
「清洲で留守をされているな」
「御二方だけだな」
「他は全員ではないか」
「全くよ」
 家臣達は話していく。そうしてであった。
 その中でだ。ふと松井が述べた。
「しかし」
「しかし?」
「どうされました、松井殿」
 その彼に堀と原田が問うた。
「やはり清洲ですか」
「その信行様ですか」
「権六殿と新五郎殿達はここにおられる」
 信長が信行の目付けにつけたその者達はというのだ。信長はあえてここに連れて来たのだ。家老である彼等は外せないがそれ以上に思うところがあってである。
「信広様が今はおられるが」
「それで動くかどうか」
「それでござるか」
「どうやらそれはないか」
 松井は考える顔でその堀と原田に述べた。
「信広様がおられると」
「信行様は兵は持っておられぬ」
 佐々がこのことを指摘した。
「それではどうしようもあるまい」
「己は兵はおられぬ」
「そういうことだな」
「だからか」
「今は何もできぬか」
「しかし」
 だが、ここで一つの事実が話される。それが問題だった。
「権六殿達がおられればか」
「何をされるやわからぬ」
「そういうことになるな」
「やはり」
「そうであろうな」
 林が彼等の言葉に応えて述べてきた。彼も着替えている。
「わしに権六が兵を持っておるからな。わし等がいればじゃ」
「信行様は動かれる」
「必ずですな」
「その時は」
「だからじゃな」
 林通具も言ってきた。
「信行様は今は動かれぬ」
「元々あの方は政の方」
 中川はこのことを指摘した。
「兵は持っておられぬからな」
「それに野心もない方だった」
「殿にも忠実であられたし」
「しかしな。それが最近な」
「おかしいのう」
「そうよのう」
 家臣達も感じ取っていたのである。信行のその異変をだ。そしてその異変の原因が何処にあるのかもおおよそ察していたのだ。 
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