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戦国異伝

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第十六話 正装その二


「茶船髷に半袴に」
「そして縄の帯に朱鞘の太刀だったとか」
「それは葬儀どころか」
「人の前に出る時の格好ではありませんな」
「全くです」
「そうした男だぞ」
 義龍はそのことを指摘する。信長をそこから見ているのだ。
「所詮どんな服で出てもだ」
「問題はない」
「そういう相手なのですね」
「そうだ、どんな格好でも構わん」
 このことをはっきりと言い切ってみせた。
「所詮うつけ。相手にするまでもない」
「ではここは」
「殿はどんな格好でもいい」
「相手がそうだからこそ」
「そういうことでござるか」
「誰が犬に人の礼をするか」 
 誰が犬で誰が人かは最早言うまでもなかった。
「そうであろう」
「確かに」
「それはその通りです」
「ではうつけにはうつけの礼を」
「そうされますか」
「左様、では親父殿を待つぞ」
 義龍は如何にも面白くなさそうに述べた。そしてだった。
 どっしりと胡坐をかきそのうえで父を待った。やがてその道三が竹中や明智達と共に寺に入って来た。すぐに家臣達が彼を出迎えた。
「ようこそ、殿」
「お待ちしておりました」
「そしてです」
「すぐにお着替え下さい」
 すぐに着替えを勧める。ここでだった。
 義龍がだ。如何にも面白くなさそうな顔で父に問うた。
「して父上」
「何じゃ」
「どの服を着られる」
 具体的な問いであった。
「一体。どの服を着られるのだ」
「略装だ」
 それだというのだった。
「それにする」
「略装か」
「そうだ、そうする」
 何故か笑っていた。思わせぶりな笑みである。その笑みでの言葉だった。
「わかったな」
「わかった」
 息子は父のその笑みについて何も思わずだ。そのうえで応えた。
 そしてそのうえでだ。彼は周りの家臣達に命じた。
「それではだ」
「はい」
「略装ですね」
「それにする」
 こう言うのであった。
「よいな」
「しかし殿」
 竹中はわかって主に問うてきた。
「それで宜しいのですか」
「どういうことじゃ、半兵衛」
「これは一国の主と主の会見です」
「そうじゃな」
「それでよいのですか?略装で」
 怪訝な顔をわざと作っての言葉だった。
「それで」
「よい」
 素っ気無く言葉を返してさらにであった。道三は言ってみせたのだ。
「あの様なうつけにはだ」
「略装でよいのですか」
「どうせ碌な服は着てこぬ」
 道三もだった。あえてこう言ってみせたのだった。
「だからよ。それでよいのじゃ」
「略装で、ですね」
「そうじゃ。正装はいらぬ」
 はっきりと言い切ってみせた。 
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