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戦国異伝

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第十五話 異装その十三


「私はこれまで斉藤家にいたこともありますし」
「朝倉のところにもいたな」
「はい。そして今は幕府にいますが」
「公方様にはよくしてもらっているか」
「素晴しい方です」
 こう言うのである。
「非常に。ですから」
「義輝様だったな」
 道三は今の将軍の名前を出した。
「文もさることながら武芸がだったな」
「剣では誰にも負けられぬ方です」
「それはいいことだな。しかしだ」
「しかしですか」
「公方様になれば己が剣を持たれることはないのだ」
 これはその通りだった。大将が自ら剣を取るような戦はもう負け戦である。道三はこのことをよくわかっていた。それで言うのである。
「御趣味にしてもだ」
「度が過ぎているというのですね」
「話は聞いておる。腕だけでなくだ」
 剣の腕だけではないというのである。義輝の剣は。
「天下の名剣を集めておるそうだな」
「何分お好きですので」
「それで」
「そこまでする必要はない」
 また言う道三だった。
「そんなことをしても。いざとなれば逃げるしかない」
「では水練に馬術ですね」
「その二つですね」
「そういうことよ。この二つこそが大事なのだ」
 こう言うとであった。竹中がまた信長のことを言うのだった。
「そういえば織田殿はどちらもかなりされているとか」
「それでいいのだ」
「では織田殿はそこでもですか」
「わかっておる」
 信長についてはこう言うのであった。
「実にな」
「さて、その婿殿がです」
「遂に来られましたぞ」
「いよいよですな」
 三人衆が言う。そしてだった。 
 彼等は信長を見たのだった。
 信長は馬上で茶筅髷に上着を右だけ脱いでだ。そして縄の帯に大きな剣、それに半袴といった格好である。その格好で今寺に向かっているのだった。
 その彼を見てだ。道三は言った。
「ふむ、これはだ」
「はい」
「何かありますか」
「面白いことになるな」
 竹中達に楽しげな笑みで返すのだった。
「実にな」
「面白いですか」
「そうよ。では寺に向かうぞ」
 道三は窓の方に踵を返した。
「よいな」
「では今より」
「すぐに戻りましょう」
「そうしてですね」
「そうだ。さて」
 ここでだ。道三はまた笑うのだった。その笑みはというと。
 何処かこれから悪戯をするような。子供の如き笑みであった。その笑みでの言葉だった。
「面白いわ、全くな」
「婿殿がですか」
「そうだというのですね」
「ここは」
「その通りよ。見ておるのだ」
 こう彼等に告げるのだった。
「我が婿をな。そして」
「そして?」
「まだ何かありますか」
「わしの見たものが正しければだ」
 こう前置きしての言葉だった。
「そなた達は皆婿殿の前に集うことになるな」
「といいますとそれは」
「まさかと思いますが」
「美濃がですか」
「そうなるやもな」
 道三は笑っていた。明らかにだ。そのうえで今は寺に向かうのだった。 
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