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戦国異伝

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第二話 群星集まるその六


「それでは。城壁を」
「そうしてくれ。これでよいな」
「ううむ、金もあり申すか」
 政秀は暫し沈黙して話を聞いていた。だがここでまた口を開いて言った。
「前まで苦労していたというのに」
「いやいや、今もないぞ」
 吉法師はここでこう言うのだった。
「ある筈がなかろう」
「ないとはいいましてよ」
「要は使い方よ」
 それだというのである。
「それなのじゃ」
「使い方ですか」
「爺の見たところ田と市だけで手が一杯だったな」
「むしろ大丈夫ではと思いましたが」
「そこをじゃ。この者に任せてみたのじゃ」
 その池田を見ての言葉であった。
「そのうえでなのじゃ」
「池田勝政にですか」
「左様、財政ではかなり立派な者じゃ」
「恐縮です」
 池田もこう述べてきた。
「吉法師様に任せて頂きまして」
「それでこうしてじゃ。城壁まで工面できた」
「しかしそれでも後はどうされるのですか?」
「安心せい、政での金は戻って来る」
 心配無用というのだった。
「それも注ぎ込んだものよりずっと多くじゃ」
「だからこそ金を注ぎ込まれるのですね」
「戦をするのにもまずは金がいるな」
 吉法師は既にある。このことをわかっていたのだ。
「そうだな」
「はい」
 政秀は主のその言葉に頷いた。まさにその通りである。
「左様でございます」
「ならばじゃ。その金を作るものに金を注ぐのは当然じゃ」
「政あってのことだと仰るのですね」
「如何にも。それで間違っておるか」
「その通りでございます」
 政秀は珍しく主のその言葉に頷いた。
「ではまずは田と市をですか」
「それと城壁じゃ」
 この三つをだというのだ。そしてそれで終わりではなかった。
 吉法師はさらにだ。こうも言うのであった。
「そして二郎よ」
「はっ」
 九鬼だった。彼が応えた。政秀はここで彼が二郎と呼ばれたことに少し怪訝な顔になった。
「二郎といいますと」
「うむ、この者は九鬼家の次男でな。それでなのじゃ」
「それで二郎なのですか」
「左様じゃ。それでわしは二郎と呼んでおる」
 そうだというのである。
「嘉隆と呼ぶよりそちらの方がしっくりきてな。それでなのじゃ」
「綽名というわけですか」
「別にそれでもよかろう」
「そこまで言いはしませぬが」
 政秀もそこまで言うつもりはなかった。吉法師は家臣を幼名や綽名で呼ぶことが殆どである。しかし政秀もそこまでは言わないのだ。
 そしてだ。あらためて主とその九鬼のやり取りを見る。するとだった。
「そなたは次には五郎左を助け堤を整えよ」
「堤をですね」
「左様、領地の堤を全て整えよ」
 こう彼に命じたのである。
「五郎左を主としそなたを従とする」
「わかしました」
「そなたは水に詳しい。それで五郎左を助けよ」
「はっ、それでは」
「堤も整えなくてはな」
 吉法師は九鬼に命じ終えた後に腕を組んで述べた。そしてまだあった。 
 最後にだ。政秀に顔を向けて告げた。
「政秀よ」
「はい」
「そなたは勘十郎を連れて教えてやれ。法により国の治安を整えよ」
「あの法によってですね」
「罪人は何処までも追いそのうえで始末せよ」
 その言葉が厳しいものになっていた。顔もである。 
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