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戦国異伝

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第十三話 家臣達その九


「慶次と。遊んでいるのではないかと」
「わしとですか」
「そうじゃ。悪戯っ子の相手をしておられるのじゃ」
「わしは子供じゃったか」
「何処が大人だ」
 また叔父に言われた慶次だった。
「人にそんなことばかりする奴の何処が大人なのじゃ」
「叔父御も厳しいのう」
「何なら冬に氷の風呂に入ってみるか」
 前田も容赦がない。
「よくわかるぞ」
「わしは冬でも川で泳ぐぞ」
「そのまま凍ってしまえ」
 また言う前田だった。
「そして反省しておれ」
「そこまで言われることか」
「言われることじゃ」
「ううむ。平手殿も叔父御も冗談がわからぬ」
 挙句にはこんなことを言う慶次だった。
「わしは悲しいぞ」
「そんなに悲しければ一人で悲しがっておれ」
「いや、そういう趣味はないのだが」
「全く。仕方のない奴だ」
「ははは、二人共その位にしておけ」
 二人の間に森が入った。
「よいな、これ位でだ」
「ううむ、わかりました」
 前田は森のその言葉には素直に応えた。
「それでは」
「そういうことでな」
「そうですな。ではそれがしも」
 慶次も森が出て来ると大人しくなった。
「これで慎みましょう」
「流石は森殿よのう」
「出られただけで前田の二人が大人しくなるとは」
「いや、全く」
「ははは、どんな者も与三が出れば静かになるわ」
 信長もその彼を見て笑って言った。
「これも人間故かのう」
「これが平手殿ならばまず叱り飛ばされますからな」
「それで静かにされるのがあの御仁ですが」
「さてさて、与三殿は一言だけでそれをされる」
「お見事であります」
「いや、そういうことはない」
 だがだ。当人はそう言われてもだ。落ち着いた言葉で返すだけであった。
 そうしてだ。こう言うのであった。
「それがしは。何もしておらぬ」
「いやいや、そこにいて一言言うだけで充分なのじゃ」
 主の言葉だった。
「そなたの場合はな」
「左様でございますか」
「爺ものう。あの口やかましさが武器なのだがどうにも厳し過ぎるからのう」
「全くです。平手殿は相変わらずですな」
「幾つになられても」
「ははは、爺がこの場におらんで何よりだ」
 主自らこんなことを言う始末だった。
「全くのう」
「おりますぞ」
 しかしだった。ここで平手の声がしたのであった。
 そしてだ。部屋にだ。彼が一礼と共に入って来たのであった。これには織田家の家臣一同もどう反応していいかわからず呆然となった。
「うっ、まさかここで出て来られるとは」
「もう少し後ならよかったのに」
「まさか全て聞かれていたのか」
「だとすれば」
「それがし。歳は取っても幸いにして目も歯もようござる」
 その平手の言葉である。
「とりわけ耳は」
「つまり全て聞こえておったか」
「はい」
 主に対しても臆面もなく返す。
「その通りでございます」
「左様か」
「厳しくて結構」
 平手はその臆面もない調子で信長に返す。
「厳しいことを言うのがそれがしの役目ですから」
「それでももう少し手柔らかにして欲しいものだ」
「何を仰いますか」
 しかしだった。平手の言葉は変わらない。 
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