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戦国異伝

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第二話 群星集まるその四


「ふむ、わかっている殿様の様だな」
「まだ元服もされていないがな」
「しかしわかっているな」
 彼は満足した顔で滝川に告げた。
「よくな」
「水軍のことがか」
「それだけではない」
 九鬼はこうも言ってみせた。
「水のことがよくわかっている」
「水をか」
「水軍はただ海で戦をするだけではない」
 九鬼はこう滝川に放す。
「川、そして水全体を見てその中で生きるものだ」
「水全体か」
「それをわかっているとはな」
 声にだ。笑みも宿っていた。
「吉法師殿、うつけではないな」
「そうじゃな、噂に聞くうつけではない」
「これは凄い方になられる」
 九鬼はその笑みのまま語った。
「どうやら。わしの主に相応しいらしいな」
「では来てくれるな」
「うむ」14
 友の言葉に対して頷いてみせた。
「そうさせてもらおう」
「そうか、ではこれからも共にな」
「戦おうぞ」
 二人は今度は不敵な笑みを浮かべ合った。そのうえで交えさせた言葉だった。
 そうしてだ。吉法師の周りにはさらに人が集まってきていた。今度は何処か色白で頼りない顔のひょろりとした男が来たのだった。
 その彼を見てだ。柴田が言った。
「五郎左ではないか」
「これは勝家殿」
「いや、権六でよい」
 柴田は己の幼名を出してその男に言った。
「御主も吉法師様のところにか」
「はい、信秀様に言われまして」
 吉法師の父の名を出しての言葉だった。
「それで、です」
「ふむ。信秀様にか」
「是非吉法師様にお仕えしろと。そう言われました」
 柴田に五郎左と呼ばれた男はこう答えた。
「それでなのですが」
「わかった。それにしても」
「それにしても?」
「御主が来るとはな」
 柴田は彼を見てこう言うのだった。
「いや、吉法師様の下には人が集まる」
「左様ですか」
「先程も二人来たばかりだ」
 柴田はこんなことも話した。
「二人な」
「どういった方々ですか?」
「松井友閑殿と武井夕庵殿だ」 
 その二人の名前が出された。
「どちらも知っているな」
「尾張きっての知恵者の方々ですね」
「その二人が来た」
 そしてだった。前からだ。佐久間によく似たいささか年長の者も来た。柴田は彼の姿を認めて満足した顔で言った。
「重盛殿もおられる」
「あの方まで、ですか」
「林殿の弟君もおられるしな。さながら梁山泊になってきたな」
「ああ、あの明の書ですね」
「そうじゃ、あれみたいになってきおったわこの那古野も」
 今彼等がいるその城のことだ。吉法師は今その那古野を拠点としているのだ。
「面白くなってきおったわ」
「左様ですか、そこまで」
「うむ、では今から吉法師殿のところに参ろうぞ」
「はい、それでは」
 こうしてだった。彼、丹羽長秀もまた吉法師の家臣となったのである。 
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