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戦国異伝

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第十一話 激戦川中島その十二


 その笑顔でだ。また妻に言った。
「一度会ってみたいものよな」
「それは何故ですか?」
「うむ、わしも尾張を統一した」
 またこのことを話に出してきた。
「そして美濃を治める蝮とだ。会ってみたくなったのだ」
「それでなのですか」
「それにだ」
 信長はまた妻に言った。
「義父と会っておかなくてはな。一度位は」
「殿、御言葉ですが」
 明るい信長と違ってだ。帰蝶の表情は鋭いものになっていた。そしてその顔で信長に対してこう言うのだった。声も鋭くなっている。
「父上はです」
「うむ」
「一筋縄ではいかぬ方です」
 こう夫に告げるのである。
「それは御存知ですか」
「ははは、勿論だ」
 当然だというのであった。
「それはな」
「では何故」
「興味が湧いたからだ」
 だからだというのであった。
「いや、湧いたのではなく」
「それとは違いですか」
「実は前から会いたいと思っていた」
「そうだったのですか」
「しかし。どうにも忙しくてな」
 話ながら首を捻ってもみせた。
「その機会がなかった。しかし尾張も統一し政も軌道に乗ってきたな」
「はい」
「ならば今じゃ」
 目の光を輝かせての言葉だった。
「今こそ蝮に会う時よ」
「では美濃に行かれて」
「いや、それはせぬ」
 信長自ら美濃に行くことはないというのである。
「それはだ。せぬぞ」
「では父上がですか」
「左様、尾張に来てもらう」
「そうされますか」
「うむ。そこで義父上に御会いしたい」
 こう妻に話すのだった。
「それでどうじゃ」
「よいかと」
 帰蝶は信長にすぐに答えた。
「それで」
「そなたは賛成じゃな」
「若し殿が美濃に行かれればです」
「そこで殺されるやも知れぬか」
「その危険は否定できません」
 こうはっきりと言った。娘である彼女の口からは言いにくいことであるがここはあえて、であった。信長に対して言ったのである。
「ですから」
「それでか」
「父上のことは既に御存知の筈です」
「一代で一国の主となったな」
「他の者を蹴落とし、そして主を追い出す」
 また言う帰蝶だった。
「そういう方ですので」
「娘だというのに随分と辛辣だのう」
「事実だからです」
 鋭い表情も言葉もそのままだった。
「そういう方ですから。とてもお勧めできません」
「左様か」
「しかし尾張ならばです」
「いいのだな」
「ここは殿の国です」
 まさにその通りだった。尾張はだ。最早完全に彼の国になっていた。信長は今この国全体を彼の手によって見事に治めているのだ。
 それをわかってだ。帰蝶は夫に話すのだった。
「ですから。大事はありませぬ」
「何しろ周りは全てわしの兵に民達だからのう」
「その通りです。ですから尾張で会われるべきです」
「うむ、わかった」
 信長は妻のその言葉に頷いた。 
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