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戦国異伝

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第十一話 激戦川中島その十


「どうやら甲斐の虎は」
「はい」
「噂通り家臣にも恵まれていますね」
 そうだというのであった。
「私と同じく」
「殿、有り難きお言葉」
「礼を言う必要はありません」
 その礼はいいというのであった。
「何故なら事実だからです」
「だからですか」
「事実に対して礼を言う必要はありません」
 戦の時とは違い穏やかな口調でだ。こう宇佐美に話すのだった。
「ですから」
「左様ですか」
「はい、それでは」
 そしてだ。謙信はこうも言うのであった。
「その若武者ですが」
「真田幸村ですね」
「見事です。間違いなく天下一の者になるでしょう」
「天下一ですか」
「我が家の直江と並ぶ」 
 その彼と共にだと。こう話すのだった。
「傑物になるでしょう」
「そうなるというのですね」
「そうです。これからが楽しみです」
 微笑んでいた。それは敵を語る言葉でも笑みでもなかった。
「その者のことが」
「そして直江もですね」
「あの者もまた同じです」
「天下一となれますか」
「必ずなります。そして」
「そして」
「天下にその名を永遠に残すでしょう」
 今だけでなくだ。これからもだというのであった。
「間違いなく」
「よくぞ我が家に生まれたものですな」
「全くです。さて、これからですが」
 話が変わった。謙信は今後の方針について話すのであった。
「先の軍議でも言いましたが」
「はい」
「武田とはこのまま戦います」
 そうするというのだった。しかしそれだけではなかった。
「そしてです」
「北条ともですね」
「相模の獅子、許しておくことはできません」
 謙信のその声に強いものが入った。氷の様でいてそれでいて熱い、そうしたものが今謙信の言葉の中に入ったのであった。
「関東管領である上杉様を放逐した罪は必ず知らしめます」
「その通りです。そしてなのですが」
「一向一揆もですね」
「あいも変わらず越後を脅かしております」
 謙信の敵は一つではなかったのだ。彼もまた多くの敵を抱えていた。
「それにつきましては」
「同じです」
 返答は一言だった。
「軍議で述べた通りです」
「左様ですか」
「敵は正面から戦い、そして倒す」
 それこそがといわんばかりの口調であった。
「それが毘沙門天の戦い方ですから」
「わかりました。さすれば」
「どの勢力と戦い、そして勝利を収めます」
 そこに二つのものはなかった。ひたすらまでに純粋なものしかなかった。
 そのうえでだ。謙信はまた話題を変えてきたのであった。
「そしてです」
「上洛ですね」
「それはどうなっていますか」
「それについてはです」
 宇佐美の言葉はだ。ここで曇った。そのうえで主に対して言うのであった。
「一向一揆がいる為に」
「容易にいきませんか」
「今少しの時が必要かと」
 こう話すのであった。 
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