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万華鏡

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第五話 豚骨ラーメンその十


「子供の頃言われてね」
「それで何でも真剣にするのね」
「学校の勉強はあまりだけれど」 
 琴乃の成績は見事なまでに中の中だ。よくもなければ悪くもない。琴乃はこのことにおいては全く目立たないのだ。
 だがスポーツや音楽、それに料理についてはだというのだ。
「何時でも。全力なのよ」
「そうなの」
「心。込めてるのかしら」
「多分必死にやってる中でね」
「その中で?」
「そう。真剣にやってるから」
 情熱、心を込めているが故にだというのだ。
「心が入ってるのよ」
「一生懸命やってるから」
「心って向けるものだから」
 ただそこにあるものではないというのだ。心というものは。
 彩夏は自分のラーメンにテーブルの上の胡椒を何度もかけつつ琴乃に対して話す。
「琴乃ちゃんは何に対しても心を向けるからね」
「心が入ってるのね」
「そう思うわ。ただね」
「ただって?」
「今成績のほうが大したことはないって言ったけれど」
「実際にそうなの」
「そっちも真剣にやってみたら?」
 彩夏は真面目な顔で自分のラーメン、胡椒をかなり入れたせいで少し黒がかっているそれをすすりながら提案した。
「そうしたら成績上がると思うわよ」
「そうかしら」
「だって。部活の練習なんか」
 琴乃のその練習もだった。琴乃はとにかく真剣に熱中してやっているのだ。
「汗だくになって肩で息してじゃない」
「その意気でやったら?」
「そう。やってみたら?勉強の方も」
「そうしてみようかしら」
 琴乃も彩夏の言葉に目をしばたかせ少し考える顔になって答えた。その間も自分のラーメンをすすっている。
「お勉強の方も」
「勉強はやればやるだけできるから」
 里香も言ってきた。
「やればいいわよ」
「そういうもの?」
「そう。やればね」
 まず勉強すること、それが前提だというのだ。
「出来るようになるから」
「成績あがるの」
「モーツァルトだってね」
 あの音楽の天才だ。ミューズの子とさえ謳われた人物だ。ただしその人間性はかなりの奇人だったらしい。
「いつも作曲してピアノの前にいたのよ」
「いつも?」
「それであれだけの名曲を一杯作ることができたのよ」
「モーツァルトも努力してたの」
「努力してたっていうか」
 里香は胡椒等は一切かけていないそのままのラーメンを食べながら話す。そのままの味を楽しんでいた。
「作曲していないと苦しいっていう人だったのよ」
「麻薬中毒みたいな感じ?」
「作曲中毒っていうのかしら」
 里香はこう表現した。モーツァルトのその状況を。
「そうした感じだったらしくて」
「作曲していないと苦しいって」
「お勉強も。勉強していないと」
 それならばだというのだ。
「苦しくて仕方がないっていうのなら」
「成績もあがるのね」
「いつも勉強してたらね」
 そうしたならばだというのだ。 
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