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万華鏡

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第五話 豚骨ラーメンその九


「同じよ」
「味が?」
「そう。全然普通よ」
 つまり美味いというのだ。
「美味しいわよ」
「景子ちゃんが食べてもなのね」
「うん。普通だけれど」
「だといいけれど」
「そんなに気にすることないから」
 こうも言う景子だった。
「外見のことはね」
「それでもね。ぐちゃぐちゃだからね」
「何でも外見じゃないじゃない」
「外見じゃない?」
「そう。違うのよ」
 まさにそうだというのだ。
「味なのよ。中身なのよ」
「お料理も」
「人もね」
 それもまただった。
「中身が大事だからね」
「よく言われることだけれど」
「よく言われるってことは」
 それ自体がだというのだ。
「真実ってことなのよ」
「その通りっていうのね」
「間違ったことはその都度消えるけれど」
「正しいことは残るのね」
「そう、残るの」
「だから中身についても」
「大事なのは間違いないことよ」
 景子は琴乃に分けてもらったラーメンを食べ終えた。それから自分のラーメンをまた食べてそのうえで言うのだった。
「絶対にね。音楽もね」
「音楽もなのね」
「大事なのは中身よ」 
 音楽もまた然りだというのだ。
「ちゃんとしてね」
「中身のある音楽でないと」
「例え作れないにしてもね」
 それでもだというのだ。
「駄目よ」
「中身なの」
「つまり心ね」
 景子は微笑んで述べた。
「そういうことだと思うわ」
「ううん、心を込めて作れば」
「何でもね」
「逆に言えば心を込めていないと幾ら外見がよくても?」
「それで美味しく作ってもね」
 景子は味についても言及した。
「本物じゃないから」
「心なのね」
「じゃあ琴乃ちゃんお人形さんをどう思うの?」
「お人形さん?」
「マネキンでもこけしでもいいけれど」
 どちらにしても人の形に似せてはいるが心のないものだ。
 景子はこけしについては微妙な顔になってこうも述べた。
「まあね。こけしについてはね」
「好きじゃないの?」
「何か怖いから」
 実はこけしについてはいい感情を持っていない景子だった。
「あまり好きじゃないの」
「そうだったの」
「そうなの。不気味な感じがするから」
 だからだというのだ。
「あまり見たくないし」
「ううん。言われてみれば怖いかしら」
「でしょ?とにかく人の形をしていてもね」
 心がないならばだというのだ。景子が言うのはこのことだった。彼女はその心をかなり重視しているのである。
「心がないと人間じゃないから」
「それじゃあお料理も曲も」
「心が第一。琴乃ちゃんのラーメンには心があるわ」
「作ったのは殆ど美優ちゃんだけれどね」
 肝心のスープは特にだ。彼女が作ったものだ。
「けれど私もなの」
「大体あれよね」
 彩夏も言う。
「琴乃ちゃんって何でも必死にやるよね」
「バスケでもそうだったのよ」
 彼女が中学時代にしていたそれもだというのだ。
「何時でも全力投球で」
「真剣にやってたのね」
「お母さんが何でもやるからには全力でしなさいって」
 母に教えられたというのだ。あの母親にだ。 
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