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万華鏡

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プレリュードその三


「いつもいつも。本当にね」
「私は低血圧なのよ」
「ただ単なる寝坊でしょ」
「寝る子は育つの」
「育つって何処が?」
「身体全体が」
「あんた背は普通で胸も小さいじゃない」
 母親から娘にだ。その胸のことを指摘してきた。
「お母さんに似て」
「遺伝かしら」
「遺伝よね。確かに」
「大体私胸はそんなに気にしないから。とにかくね」
「朝御飯は用意しておくからね」
「うん、じゃあお願い」
 こうした話をしてだ。そのうえでだった。
 琴乃は母が部屋を出た後パジャマを脱いで高校の制服を取り出した。それは青いセーラー服だった。その服を着たのである。
 その服を着ながらだ。琴乃は一人微笑んでこんなことを言った。
「今日から私も高校生なのね」
 その制服を着て実感したのである。
「本当にそうなのね」
 そのことに期待を感じていた。それと共に幾分かの不安も。
 その二つの感情を胸に一階に降りてリビングに入った。するとだ。
 父がその彼女にだ。呆れた顔でこう言ってきた。
「おい、遅いぞ」
「おはよう」
「おはよう。しかしな」
「遅いっていうの?」
「食べて歯を磨かないといけないだろ」
 父はその二つにかかる時間を指摘したのである。
「あと髪も整えたり顔も洗ってな」
「あっ、そういうのはね」
「シャワー浴びてか」
「それで身体全体も奇麗になるから」
 まさにだ。一石二鳥どころか三鳥だというのだ。
「そうしようかしらって」
「そう思ってるの?」
「ええ、そうだけれど」
「じゃあそうしろ。とにかくな」
「食べろってこと」
「あと歯を磨け」
 それも忘れるなというのだ。
「わかったな。女の子だから奇麗にしろ」
「清潔にっていうのよね」
「そうだ。女の子だからな」
 父としてだ。このことは厳しく言ったのである。
「そうしろ。すぐにな」
「わかってるから。じゃあね」
 こうしたやり取りを経てだ。琴乃は自分の席に座った。そうしてだった。
 トーストにサラダと目玉焼きを挟んで野菜ジュースで流し込んだ。それからだった。
 風呂場に入りシャワーを浴びる。そこで髪も顔も洗う。ついでに歯も磨く。
 一旦着た制服だがここでまた脱いだ。ついでに下着も替えた。そうしてまた制服を着てだった。
 学校に向かう。鞄を取って母に言う。
「じゃあ行ってきます」
「車に気をつけてね」
「うん、そうするわ」
「車と悪い男には気をつけなさい」
 母は言葉の後半は半分以上本気のものを入れている。
「いつも言ってる通りね」
「ええ、それもそうするわ」
「じゃあ入学式ね」
「行って来るね」
 こうしたやり取りを経てだった。琴乃は学校、今日から通う八条学園高等部に向かった。彼女はバスでその学校に向かった。
 バスから降りると大きなキャンバスが見える。そこにあるのは高校だけではなかった。
「大きい、けれどここって」
「あっ、君一年生よね」
 その高い黒いブレザーの美女が琴乃に声をかけてきた。 
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