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万華鏡

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第十六話 プールと海その九


「それで体重は七十なのよ」
「それで脂肪率は?」
 琴乃は彩夏の兄のそのことも尋ねた。
「何パーセントなの?」
「十八なの」
「ひょっとしてお兄さん何かスポーツしてるの?」
「バスケしてるの」
 それをだというのだ。
「八条大学でね」
「そうなのね」
「だから私お兄ちゃん見てね」
 それでだと言う彩夏だった。
「太ってるかなって思って」
「特撮ヒーローみたいな人と比べることが間違いじゃないかしら」 
 里香は怪訝な顔で彩夏に述べた。
「ちょっとね」
「そうかしら」
「だから男の子と女の子では身体の構造が違うから」 
 彩夏にまた言った。
「それもね」
「比べること自体が間違いなの」
「しかもよ。そのお兄さんちょっと」
「体格が違うっていうのね」
「彩夏ちゃんってお母さん似なのね」
「そう、お兄ちゃんがお父さん似で」
「だから背がそこまで違うのね」
 里香も納得した。
「お兄さんお父さん似だから」
「お父さんも一八五あって」
 やはり高い。
「若い頃はアトラクションのアルバイトもしてたらしいし」
「特撮ヒーローの」
「そう、それの」
 まさにそれをだというのだ。
「悪役もしてたらしいわ」
「あの着ぐるみの中にも入ってたのね」
「大変だって言ってたわよ」
「そうよね。倒れる人もいるらしいから」
「今は港で働いてるの」
 港湾施設でだというのだ。
「ええと、フォークリフトに乗ってね」
「あっ、倉庫で働いてるのね」
「今は現場責任者らしいわ」
 その工場のだというのだ。
「船を一杯見られていい場所らしいわ」
「海が好きなら」
「そう、いい職場だって」
「そのお父さんが一八五で」
「お兄ちゃんが一八七で」
「どちらにしても比較にならないわ」
 里香はまた彩夏に告げた。
「女の子と比べないと」
「そうなのね」
「そう。彩夏ちゃんは本当に」
 彩夏のスタイルを見ての言葉だ。
「太ってないから」
「意識し過ぎなのね」
「そう思うよ。っていうかね」
 ここで琴乃もまた言う。
「変に太ってるって意識する人いるじゃない」
「ええ」
「そこから拒食症になるって話も聞いたし」
「拒食症?」
「そう、それにね」
「私はそこまでは」
 彩夏は顔を顰めさせて言う。
「お料理も好きだし」
「食べることはよね」
「止めるつもりはないから」
 彩夏もそこまでは考えていなかった。
「ただ最近確かに味付けが濃いことがわかったから」 
「薄くはしてるのね」
「コテコテじゃなくてね」
 薄味嗜好の里香を見ての言葉だ。
「あっさりにしていってるけれど」
「お砂糖とかもよね」
「そう、使う量は減らしていってるの」
「それでいいと思うわ、私もね」
「うん、私も食べないっていうのは危ないってわかってるつもりだから」
 拒食症は死につながる。身体だけでなく心さえも蝕まれる病、即ち心の病でもあるからである。だから彩夏も言うのだ。
「そんなことまでなったらね」
「死ぬわよ、本当に」
「死にたくないし」
 それ以前にだった。
「あんな骨と皮ばかりになっても」
「奇麗じゃないわよね」
「というか怖いわ」 
 彩夏は拒食症になった人達の姿を思い出しながら述べた。 
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