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八条学園怪異譚

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プレリュードその十四


「嫌なことや辛いこともあってね。それで大きくなるのよ」
「嫌なことや辛いこともですか」
「そうしたこともですか」
「あとはね。悪いことをしてしまって」
 先生はふと悲しい顔にもなった。目が伏せられる。
 だがそこからすぐに二人に視線を戻してだ。こう言ったのだった。
「そのことに傷ついて。後悔したりして」
「悪いことしたら駄目ですよね」
「そんなことしたら」
「けれど。人はしてしまうのよ」
 二人には今はわからなかった。先生の今の笑顔を。
 その笑顔には悲しいものがあった。そのうえでの言葉だった。
「悪いことも。どうしてもね」
「幾ら気をつけてもですか?」
「しちゃうんですか」
「自分で自分を抑えられなくなったり。悪い気持ちにそうなって」
 それでだというのだ。
「してしまうのよ。それでなのよ」
「悪いことをして傷つくんですか?」
「後で」
「そうなのよ。その時は気付かなくても」
 そうなるとだ。先生は二人に悲しい笑顔、二人がまだ気付かないそれで話していk。
「そうなるのよ」
「そうなんですか」
「そうなるんですね」
「ええ。このことも今はわからなくても」
 それでもだと。先生はまた言った。
「覚えておいてね」
「はい、わかりました」
「そうします」
 先生からも答えは得られなかったとだ。二人は今はそう思った。だが。
 そうした話だけでなく二人は一緒に遊び続けた。そしてだった。
 二人はまた誓い合った。今度ははじめて百人一首をした時だ。
 二人で札を読みながらだ。こうした話をしたのだ。
「一杯あって覚えにくいよね」
「そうよね」
 まずは百首、実際にそれだけある歌を読んでいた。まずは覚えなくてはいけないと愛実の姉、彼女にとって自慢の姐に言われてである。
 それで札を読みながらだ。二人で話していたのだ。
「けれど一旦覚えるといいのよね」
「うん、お姉ちゃん言ってたよ」
 愛実が聖花に話す。
「まずは覚えるといいって」
「そうなのね。じゃあ」
「出て来る歌は決まってるからって」
「そうなの」
「確かに百もあって大変だけれど」
 今の二人にとっては百という数は大変だった。かなりの数だった。
 だがそれでもだ。覚えるとだとだ。愛実は姉に言われたのだ。
「まずは覚えないといけないって」
「ううん、大変ね」
「そうよね。私幾ら読んでも覚えられないよ」
 愛実が困った顔で言うとだ。ここでだ。 
 聖花が札を読みながらだ。こんなことを提案してきた。
「読んで覚えられないとね」
「そうだったらって?」
「書くといいって言われたけれど」
「それ誰に言われたの?」
「お兄ちゃん達になの」
 聖花には兄が二人いる。その二人にそれぞれ言われたというのだ。
「書くと読むより覚えられるって」
「そうなの。じゃあ書いてみる?」
「うん。そうしよう」
 聖花は愛実にこう言った。そうしてだった。
 二人は百人一首を聖花の家の子供部屋で卓を囲んで書きあった。そうするとだった。
 確かに読むよりもよく覚えられてだ。愛実は笑顔で聖花に言った。
「聖花ちゃんの言う通りだね」
「書いた方がよく覚えられるよね」
「うん、読むよりもね」
「じゃあ書いていく?」
「そうした方がいいよね」
 二人で言って書いていく。ひたすらといっていい感じで。そうしてだった。 
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