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その答えを探すため(リリなの×デビサバ2)

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第14話 冥犬パスカル(1)

 月明かりもまばらにしか届かない、深くうす暗い森の中でソイツは遥か下にある光の氾濫を見ていた。

——アァ、キレイダナァ

 そう嘆息をした後、近くを見回す。
 自分の周りにあるのは、あの光と活気に満ちた騒音が溢れる場所とは正反対な、うっそうと樹が乱立し、暗く、時折物悲しくホゥホゥと鳥の鳴き声が聞こえるだけだった。

————ナンデ、ワレハアソコニイナイ?

 先ほどとは違うため息をつき、ソイツは考えた。
 あそこに大勢いる者は、人間という生き物だと、前聞いた事がある。そいつらは一人では何もできない貧弱な生き物だが、群れる事で強くなり、周囲の生き物を支配して、あんな大きなものを作り上げた、と。

———ナラバ、ワレモツヨクナレバ、ワレモアソコニイテヨイノカ?

 そしてそう、結論付ける。
 人間は、力があったからあれだけのものを築き、そこに生活をしている。なら、自分も力さえあれば、こんな暗い場所ではなく、あそこに行けるのではないか?

 自身の出した結論に満足し、もう一度ソイツは眼下の街——海鳴市を見るのだった。





「で? あのフェレットは違う世界から来て? 実は魔法が使えて?」

「あ、あのえっと……」

「さらには? 一緒にばら撒かれた宝石がとんでもない危険物だって?」

「にゃ、にゃはは……」

「お・ま・け・に? フェレットから貰った宝石で魔法少女に変身ですって……」

「あ、アサリン……」

「ひ、ひ、非常識も大概にしなさ〜〜〜い!!
 何なのよここ最近誘拐されたり助けられたと思ったら悪魔に助けられたりしかもそいつが他の世界からやってきたなんて訳わかんないことばっかりだって言うのに!
 あと純吾!? やっぱりアサリンって! いい加減アリサって名前覚えなさいよ、たった3文字でしょうが!? アとリとサでア・リ・サ!! はい言ってみる!」

「あ、…ア、リ…………アサリン」

「あんた絶対分かってやってるでしょう!」

 スッパァァァン! と、傍から聞いてたら小気味のいい、けど当人にはたまったものではない音が純吾の後頭部から生まれた。


 そんな風にアリサに対して、フェレットのユーノと彼のもたらした事情を話しているのは、初めてなのはが魔法を使った次の日の昼休みの事だった。

 「アリサちゃん、皆知ってるのに仲間外れにされたら絶対怒ると思うの」と、なのはがすずかと純吾に相談して、そういう流れとなっていた。

「……痛い」

「ふんっ、自業自得よ。それで、どうやってそのジュエルシードとやらを探し出すの?」

 細い眼に涙を一杯にした純吾を尻目に、アリサはなのはとすずかに向き合う。それに対し、半ば予想していたとはいえ、2人は顔を見合わせてしまう。

「アリサちゃん、やっぱり?」

「あったり前でしょう! あんたたちが頑張るってのに、私が指くわえて見てる無いじゃない。ほらほら、放課後から早速動きだすんでしょ? それに備えて、ご飯しっかり食べないとね!」

 そう言って平然と中断していた昼食を食べ始めるアリサ。それにつられて、純吾はまだ少し涙目で、なのはとすずかは苦笑して、それぞれ昼食を再開したのだった。





 放課後、あらかじめリリーに帰りのバス停の近くまで来てもらい、そこから5人で分かれてジュエルシードを捜索する計画となっていたのだが、分かれる間際にひと悶着起こっていた。

「い〜〜っや! ジュンゴと一緒じゃなきゃ嫌よ!?」

「リ、リリーさん、そう言われてもこれが一番良いわけ方なんですから」

「良いわけ無いじゃない! ジュンゴと一緒にいるのが、何で私じゃなくてアサリンなのよ! すずちゃんだってジュンゴと一緒に居たいって思うでしょう? ね!?」

 バス停の前でやんやんと子供が駄々をこねるように顔を振って渋っているリリーに、彼女をどう説得しようか困り顔のすずか。
 そう、どうメンバーを分けるかという事で、アリサと純吾、なのはとすずかと百合子、と言う風に考えていたのだが、それを百合子が拒否してしまったのだ。

 すずかの後ろでは、なのははやり込まれるだろうという事でにゃははと苦笑していた。
 また一番の論客たるアリサが近づこうとすれば、キッと嫉妬交じりの視線を受けて近づく事も憚られたので、すずかがこうして説得に望んでいるのだが、結果はご覧の有様である。


 すずかがうんうんと悩むのを無視して、プーッと頬を膨らませて上を向いている百合子だったが、クイクイ、と服を引っ張られるのを感じた。

「リリー……、どうしても、ダメ?」

 純吾の顔が、体が小さくなって身長がどうしても足りなくなった分、どうしても上目づいになってしまう純吾の顔が、リリーの視線の先にあった。

「うっ、だって、ジュンゴと離れるのヤなんだもん…」

「ん…。ジュンゴも、リリーといたい。でも、今はなのはとすずかを守ってほしい。リリーにしか、任せられない」

「う、うぅぅ」

 それを聞いてリリーが悩み始める。純吾は純粋に彼女を信頼して頼んできたのだ。その信頼に答えるか、やっぱり一緒にいるかに懊悩していると、決定打が撃ち込まれた。


「…じゃあ、終わったらジュンゴ、リリーにお礼する。それで、いい?」

「え、ぇぇえ、いいの!? お義姉ちゃん、好き放題言っちゃうわよ? ジュンゴと一緒にお風呂入りたいとか一緒に寝たいとか言っちゃうわよ、いいの!?」

 さっきまでの懊悩ぶりはどこへやら。途端に態度を翻すリリー。
 白磁の様な顔を紅潮させ目が若干血走り、わきわきと両手を動かすその姿は、今にも獲物に飛びかからんとする獣のようだ。それに対して、こちらも頬を赤くし、リリーを見上げていた視線を下に外して、純吾は本当に恥ずかしそうに答える。

「ん………。はずかしいけど、リ、リリーが、それでいいなら――」



「…………………(ブッハ)」

ふる、ふるふる、プルプルプル……がっし!
「にゃ!」「え? え?」

「いしょっしゃぁぁぁぁぁ! 魔界に生まれてよかったーーー!? まっかせなさいリリーお義姉さんが、絶☆対! あなたたちの安全を保証してあげますからね!! ほら、一刻一秒でも時間が惜しいわ! さっさと何たらシード見つけだして、お家帰るわよーーー!!」

(鼻血が)陽光に照らされきらきらと眩しいとても良い笑顔で、なのはとすずかをひっつかみ、嵐のような勢いでリリーが去っていく。
「にゃあああぁぁぁぁ」「ま、マカラよりはやーーーぃ………」
ドップラー効果を残しつつ、リリーにひかれていくなのはとすずか。


「ん…、じゃあ、行こう?」
「あんたたち、絶対男と女の立場逆だと思うの」
 後に残ったのは、まだ頬を赤くした純吾と、額に手を当てて、やれやれと首を振るアリサだけだった。





 てくてくと、2人が海鳴市の郊外——神社や森がある方へ歩いている。

「ねぇ」

「ん…。何、アサリン」

「ま、またアサリンって。はぁ、まぁ良いわ。
ねぇ純吾。私、迷惑じゃないかしら?」

 前を歩いていた純吾は歩みを止め、首をくるりと後ろに回してアリサを見た。

「どうして?」

「どうしてって…、私、なのはや純吾みたいにどうにかする力はないし、すずかみたいに迷惑をかけないくらいに運動ができるわけじゃないし……。だから、あんたに迷惑かけてるんじゃないかって思って」

 後、さっきもリリーさんも渋ってたし、と別チームが向かった方をアリサは見やった。

 強引に割り込んできた彼女だが、自分が言った通りの事に対して実のところ不安に思っていたのだ。
 昼休みの話を聞く限りでは、ジュエルシードの捜索は命の危険があるかも知れない事である。そのくらいの事は、感情的になっていたあの時でもしっかりと理解している。

 そんな事に、何の特別な力もない自分が参加して本当に良かったのだろうか? と思っていたのだ。

 それなら初めから関わらなければいい、と思うかもしれないが、彼女は友人がそんな命をかけているのを、傍から見ているだけ、という事は絶対にしたくなかった。

 そして何より、自分だけ仲間外れにされるのが嫌だったのだ。

 命の危険が十分にありうる、そう分かっていながら子供じみた理由だが、彼女にとってはとても大切なことだ。いっぱい人と仲良くなりたい、けど、どうしたらいいか分からない。
 そんなジレンマを持つ彼女にとって、一度掴んだ友達、それも親友と言っていいなのは達の事は、命を賭けるに値する貴重な存在だった。

 そんなアリサの心の内を知ってか知らずか、ふむ、と純吾は目を細めて考える。
 内心そわそわしながら、その様子をじっと見ていたアリサだが、やがて彼が口を開き

「ん…。アサリンは、すごいよ?」

「えっ?」

はっきり言って予想外な返答をしてきた純吾の言葉に、アリサは驚きの表情を作った。

「ど、どうしてよ? 私、言っちゃなんだけど本当に何もできないわよ。本当に、迷惑って思ってないの?」

「迷惑じゃないよ? ジュンゴ、アサリンと一緒で嬉しい」

 ポンッ、とその言葉を聞いてアリサの顔がトマトみたいに真っ赤になった。手足を震わせ、明らかに動揺した様子で純吾に聞き返す。

「わ、わわわ私と一緒で、う、う、嬉しいって」

「だってアサリン、危ないって分かってるのに、こうやってついて来てくれてる。ジュンゴ、ホントは少し不安だった。だから、アサリンと一緒で嬉しい」

 ふにゃっと表情はあまり変えないのに、雰囲気だけを崩すいつもの微笑みでその質問に純吾は答える。

「そ、そうなの。けど、本当に大丈夫なの? あんたが戦ってる時、私、邪魔になるかも知れないし、足引っ張るかも……」

「ん…、だいじょうぶ。ジュンゴ、鍛えてる。それに、たくさん仲魔もいる。
 それに、アサリンは友達。ここに来て初めてできた、ジュンゴの大切な友達。
 だから――」


――アサリンは、ジュンゴが絶対に守るよ。


 そう小さく笑みを浮かべた顔から、真剣な、本当に真剣な顔で言う純吾を直視できずに、アリサは真っ赤なままの顔を俯かせる。
 しかし何かを決意したのか、ゆっくりと顔をあげ、その決意を伝えようと口を開いた瞬間

「きゃぁぁぁぁぁぁあああ!!」

 絹を裂いたかのような甲高い女性の悲鳴が、2人の遥か上方、神社の方から聞えて来たのだった。





 階段を駆け上り、まず目に飛び込んできたのは巨大な犬だった。
 小型のトラックほどはあろうか? 先日のモンスターのような、タールのようにどす黒い毛並みを持ち、異常なまでに発達した鋭い爪を持つ四脚。そして、顔には4つの目を持つ獣がそこにいた。
 顔にある4つの目はギョロギョロと様々な方向を向いていたが、純吾達に気がついたのか、一斉に鳥居の方を向け、その大地の裂け目の様な口からグルル……と、地の底から響いてくるような低いうなり声をあげた始めた。

「じゅ、純吾。あれが……?」

「ん…。多分、間違いない」

 獣の鋭く、不気味な眼光に耐えきれずアリサは純吾の後ろに隠れて問う。純吾は、利き手でアリサをかばいながら、もう片方の手で携帯を前に構える。そして

「召喚、……邪神オーカス」

 言葉と同時に、純吾とアリサの横にブラックホールのような漆黒の渦が生じる。
 そこから、黄色い肌を持った竜と豚の顔を併せたような体を持ち、緋色のマントに王冠に王笏を身に付けた、これまた巨大な一匹の悪魔がヌッと姿を現した。

「ヴォーノ! ヴォーーーノ!! 我を呼んだかサマナーよ!?」

 目の前の犬のモンスターとも張り合えるほど大きい邪神、オーカスが盛大な雄たけびを上げ、純吾に問いかけてきた。

「ん…。目の前のあれと、戦う。力を貸して、オーカス」

センツァルトロ(もちろん)! ブッフフフ、久しぶりに美味そうな獲物ではないか」

 純吾のその答えに、オーカスは不敵に鼻を鳴らして答える。それを確認した純吾は、後ろを顧みずアリサに言う。

「アリサ……、なのはたちに連絡、お願い」

「えっ、あんた今ちゃんと」

「はやく!」

 強い語気に一瞬ビクッとなるアリサだったが、一つ頷いて階段を駆け下りていった。



 タタタ、と軽快に階段を駆け下りていく音を後ろに聞きながら、オーカスと純吾は目の前の犬型モンスターと対峙をした。

「中々よきバンビーナ(少女)ではないか、サマナー」

 巨大な赤い目をギョロリと動かして、純吾に向けオーカスは言った。

「ん…、アリサは、ジュンゴの大事な友達」

「ほぅ、大事な友達のぅ。……まぁよい。
 ところで、目の前のバカでかいカーネ()は、どんな攻撃を仕掛けてくるのだ?」

 少女の事を知れて、オーカスは満足をしたかのように巨体を揺する。そして、目の前の敵の事について尋ねるのだが

「………」

「おいサマナー、まさか」

「ん…。ジュンゴもあれ、さっき見つけたばっかり」

ポルカ ミゼーリア(ちくしょう)! そう言う事は、ちゃんと調べてから我を呼べ!!」
 
 

 
後書き
〜仲魔紹介〜

【邪神】オーカス
ギリシャ、ローマを起源とする死神。
中世ごろから、豚の頭を持ち死体をむさぼる悪魔とされた。
豚の頭を持つのは、生贄に豚を供えたからとされ、オークの王だともされる。
 
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