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SAO─戦士達の物語

作者:鳩麦
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SAO編
  十四話 とある日の決闘の話

 その日はとあるフロアのフィールド・ボス攻略会議の日だった。……のだが。

「いかんいかんいかん!!!遅刻だー!!」
 その日、その会議の会場となった広場に向かって俺は全力疾走で走っていた。
まぁ何故こんなことになったかと言うと、本日はとある層のとある店で、食材系アイテムがバーゲン並みの安売りだったのだ。
俺自身はその手のアイテムは使用用途が無いのだが、知り合いにお使いを頼まれ、色々と選んで買い、届けていると時計を見るのを忘れ、結果、今に至る。

 まぁ別に遅刻自体は実際の所大したことではないのだが……問題は。

「あの、騎士姫さんまたキレるぞこりゃあ……」
 段々走りながらげんなりとしてくる。
そう、遅刻が嫌な理由と言うのは、現攻略組の指揮官的な女性がこういう事にやけに厳しい風紀委員の様な性格で、その説教がまたなかなか面倒なのだ。主に長くて論理的だと言う意味で。
なまじ顔はこの世界でもトップクラスによいため、ギャップのある性格がきつすぎる。

「見えたぁ!……って、ん?」
 取りあえず全力で頭下げて間髪いれずに引っ込むかな。と思いつつ広場に到達、したのだが様子がおかしい。何やら人の視線がちょうどデュエル(プレイヤー同士のゲーム上の決闘)を観戦する時のように中心に向き、その中心では数人のプレイヤー達が言い争いの様な事をしているようだ。
双方の主張者達の先頭に立つのは、先程言った騎士姫さんと、我が義弟であるキリト。

 ……勇者だなあいつ。

とり合えず、俺は後ろの方に見えた見知った赤髪バンダナの野武士面に話しかける。

「よ、クライン」
「おっ、リョウじゃねぇか。随分と遅かったなおめえ」
「ちょーっと色々あってな。で、なんだこれ?」
「あぁ、実は──」
 クラインの話によると。攻略の戦闘方針について、騎士姫さん達攻略優先派ギルドと、キリト達ソロプレイヤー達の意見が対立しているらしい。


 今回攻略するボスモンスターは、偵察の結果、攻撃力が平均的なボスと比べ高く、対し体力面では劣る、いわゆるパワー型ボスであることが判明。
それに対し対立するグループは、二つの全く真逆の案を提案した。

ギルド側
・一定のローテーションのもと一人一人が少しづつスイッチをこなして行き、一定のダメージを与えて。多少時間がかかっても堅実さを重視して最終的な撃破を目指してゆくべきである。

ソロ側
・幾人かの実力の高いプレイヤーが耐えたれるだけ耐え、短時間におけるダメージ効率を優先し、短期決戦的に撃破すべきである。

 と、主張だけ見るとどちらも正しいように見え、そこまでいがみ合わずともどちらかが妥協すれないいように見えるのだが、これには実はお互い譲りたく無い訳がある。
SAOと言うゲームは、戦闘終了後に割り振られる経験値に置いて、撃破対象に対しより多くダメージを与える程、取得経験値が多くなると言うシステムになっている。これを踏まえると、彼らの主張にこのような裏が見えて来る。

ギルド側
・ギルドは複数のプレイヤーから成る組織であり、ある程度レベルを同一に維持しなければ、「同じ狩場に行けない」「一人だけ与えるダメージ量が高く、取得経験値が高くなる」等のデメリットが発生。結果的に、ある程度のローテーションを組んで平等に攻撃しなければ、レベル的に引き離される者が出る可能性が有り不都合。

ソロ側
・通常時のボス戦だと、大人数であるギルド側のローテーション型に阻まれ優先的な経験値が得られない。今回は、敵も短期決戦型のためこちらもその方がダメージ効率がいいと言う大義名分が発生。上記の自分達の主張であれば、圧倒的に強者が多いソロ側が優先的に経験値を得られる可能性が高く、都合がよい。

 と、こんな感じだ。これが通常のモンスターなら此処まで言い争う事は無いだろうが、ボスモンスターと言う、大量の経験値とアイテムをもたらす相手となると話は別なのだ。

 ちなみに、死亡確率におけるリスクは互いに同等である。
ギルド側の主張だと、攻撃にさらされた攻略組でもレベルの低いプレイヤーが死亡する確率はあるし、ソロ側にしても万が一にも長時間攻撃にさらされたプレイヤーが死亡する可能性はある。
まあ、この人数ならどちらの確率もかなり低いが。

 そうこう分析している間にも言い合いは続くが、どうにも平行線の様だ。
と、ギルド側のリーダー格である騎士姫さんが大きく声を上げた。

「解りました、」
 一際大きく、凛とした声上がり、全員の視線が声を上げた騎士姫さんに集中する。

「このまま言い争っても時間の無駄ですから。双方の代表者による決闘《デュエル》で決めるって事でどうですか?此方は私が出ます。そちら側はどうぞ。ご自由に」
 突然の提案にソロ側もギルド側も少々驚いたようだったが、ギルド側は彼女なら負けないと踏んだのだろう。構わないと言うように一歩下がる。

 対しソロ側は、彼女の強さを知っているが故か少々たじろいだように見えた。
が、先頭に居た黒衣の剣士。……まぁ言うまでも無くキリトだが、彼奴だけは違った。
前に出て、騎士姫さんことアスナと真っ向から対峙する。

「いいぜ。こっちにとっちゃ思いがけず好条件だしな」
『言いやがった此奴。』
 キリトの自信満々な言葉に俺は軽く呆れ気味になる。
アスナはこの浮遊城アインクラッドでも最強と言われるギルド[血盟騎士団](通称KoBと言い、おれは「コーブ」と呼んでる)に置いて、副団長に上り詰める程の実力者である。

 戦闘タイプは細剣使い《フェンサー》で、その常軌を逸したスピードの細剣《レイピア》裁きから、ついた異名が「閃光」のアスナ。
言う度簡単には行かないだろうし、それはキリトにも分かっているはずだ。

 だがまぁ、話し合いにも参加しない中立の俺達からずればそんなことは関係ない訳で、むしろ。

《閃光》VS《黒の剣士》

 と言う滅多に見れないであろう好カードの試合が見れるのだ。正直、この場に居てちょっと時した気分である。

 ちなみに、黒の剣士と言うのはキリトの異名で、何時も黒いロングコートと同じく黒い剣を使っていることから付いた名だ。前に恰好を変えたらどうかと聞いたことがあるが、何故か頑なに拒否された。

 さて、ギャラリーが大きく広がり、中心に直径20メートル程の円形スペースを造る。中心にはアスナとキリトが5メートル程間を開けてと立ち、ルールを設定した後互いに剣を抜き、構える。

 キリトは、力を抜くように、腰を落として剣先を地面にギリギリ付かない程度の高さで低く。
 アスナは地面と右手を身体側に引きつけ、細剣《レイピア》を胸の位置で地面と水平に。

 後で聞いた話だが、ルールは《初撃決着モード》(強攻撃を一発でもヒットさせる。又は、相手のHPを半損させた方の勝利)だったらしい。
六十秒のカウントが始まる。

 二人の眼を見ると、アスナの眼には決意と何故か期待が宿り、キリトは、期待と……何で歓喜してんだあいつ。
と、二人の口が動いている事に気が付く。
何か話しているようだが聴こえないので聞き耳のスキルを使ってみた。曰く

『──最強ギルドの副団長さんの実力、期待してるよ』
『──私の方はなんの期待もしてませんが』
『少しは「お互い健闘しよう」とか無いのかよ……』
『先に挑発したのはあなたじゃない』
 等々。

 何か何気に仲良くねぇか?あいつ等

 そしてカウントが終わり……

 地を蹴る音と共に双方はほぼ同時に走りだす。互いに敏捷値を中心に上げているタイプのプレイヤーなので、初めの隙間などもはや初めから無かったかのような速度で距離が詰められていく。
先制したのはアスナだ、全プレイヤー中最高レベルの敏捷値を誇る彼女の突きがその点では少々劣るキリトの斬撃よりも早く放たれる。

 が、キリトもむざむざそれを喰らってやるほど馬鹿では無い、あいつの敏捷値も相当な物があり、一足遅く(とは言え十分速いが)繰り出された横一線の斬撃は容易に腕力値で劣るアスナの刺突を弾く……かと思ったが単純な突きかと思われたアスナの攻撃はそうでは無く、手が急激に引き戻され、レイピアが振られたキリトの斬撃を回避した。

「……うお、」
 思わすまぬけな声を出してしまった。

「はっ!!」
気合一線
 間髪入れずに再び突き込まれたアスナの細剣は殆ど白に近い緑色のライトエフェクトを帯びる、ソードスキル……

「ふっ!」
 が、それを殆ど反射で剣を切り返し、キリトは弾く。その剣には濃い水色のライトエフェクト

 アスナの両肩と上下に十字を掻くような四連撃、《ラファル・クロワ》に対し、キリトは水平四連撃、《ホリゾンタル・スクエア》

 互いの連撃が甲高い音を響かせながらぶつかり合い、二人とも少しノックバックしたことにより生まれた隙間から表情が見える。
アスナは自分のフェイントに対応しきったキリトに驚いているようだったが、キリトの方は案外と楽しそうだ。……まぁアイツ意外とこう言うのでは楽しむタイプだからな。

 そうして、決闘は十分間近く続く。互いに打ち合う内、徐々にキリトだけでなく、アスナの方にも少しずつ楽しそうな表情が見えてゆくのが印象的だった。

 が、そんな決闘にも終わりは訪れる。結構、意外な形で。
 俺がそれに気が付いたのは全くの偶然だ。ただ不意に、キリトのそれまで重心移動以外に使われていなかった左手が、ピクリ。と動いたのが、確かに見えた。

「あ、」
 俺が短い声を上げた直後、攻撃動作に入ろうとしていたアスナにタイミングを会わせるがごとく、キリトの左手が稲妻の様な速度で跳ね上がった。
それはちょうど、左手にある剣でカウンターをするかのように。

 勿論、実際には左手に剣など握られてはいない。と言うか、両手で剣を使う《二刀流》の剣士など、この世界にはそもそも存在しないのだ。
しかし、アスナはそれに迎撃しようと動いてしまった。
まぁ仕方ないと思う。理性では分かっていても、身体が反射的に対応してしまうほどに、キリトの動作は真に迫るものだったから。

 結果的に、存在しない左手の刃を迎撃しようと剣を振ったアスナには決定的な隙が生まれてしまい、それを見逃すはずもなく繰り出したキリトの攻撃がクリーンヒット。決闘はキリトの勝利に終わった。


 ちなみに、後日行われたボス討伐は案外と楽に終わった。戦闘終了後にキリトに、「兄貴一人で大立ち回り過ぎだ!」と怒られたが割合する。

 そうそう。
決闘終了後のアスナがキリトを見る目に、何処か熱っぽい物を見た気がした。
その日の帰り道、俺はその顔の意味を考えて、一人微笑する。

「いやいや、もう三月だし、春はすぐそこだねぇ」
 そんな事を言いつつ、上機嫌で俺は家への道を歩く。
うん、暖かくなってきたな。
 
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