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SAO─戦士達の物語

作者:鳩麦
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SAO編
  九話 歩み始めた二人

 立ち上がり、俺はメニューウィンドウを開く。立ち上げたのはトレードウィンドウ。名前の通り、他のプレイヤーと物や金を交換する時に開くウィンドウだ。トレード目標は目の前の少女に設定し、俺はそこに次々にモンスターからドロップした中で少女が装備出来そうなものを選択し、ウィンドウにぶち込んでいく。

「あの……?」
 いきなりの事に戸惑っている少女に、俺は淡々と述べる。

「これ装備すりゃ6、7レべ位は底上げできる。後は俺が付いて行ってやっから、それで何とかなるだろ」
「えっ…………」
言いながらもアイテムを選択する手は止めない。
目の前の少女がじっと俺の事を見て来て居るのも気が付かないふりをして、操作を続ける。
腕、足、胴の装備から、ダガーとアクセサリー、後は……。

「なんで……そこまで……?」
 手が止まる。見ると、少女はこちらを真っ直ぐに見ていた。
その眼に有るのは疑問とそして怪しむ光。
まぁ当然の反応だろう。この世界で生き残るのは現実主義者やあくまでも自分本位の人間。「うまい話には裏がある」は、この世界での常識だ

 さて、返答だが、一番の理由は殆ど個人的な好き嫌いみたいなものであって、あまりまともな理由は無い。しかしそれでこの子が俺を信用するとは到底思えない。
しかし、流石に俺もそれだけで此処までしてやれるほど、親切心の爆発した人間ではないのできちんとした理由もある。

「一つ、その竜が死んだ責任の一端が俺に有るとも言えなくもないから」
「二つ、俺もその竜に興味がある」
「三つ、俺の個人的な感情だな」
「四つ、これはあんまり言いたくないんだけど、その……俺は泣き顔が大っ嫌いでな、それで」

「へ?」
以外そうと言うか、何とも形容しがたい顔になる目の前の少女。

「泣き顔……ですか?」
「ん、いかにも」
「それって……?」
「……なんだよ。他人が泣いてるとお前だって嫌な気分になんだろ?」
俺は目をそらす。あんまり言いたくなかったんだよな……

「え、でも……?」
「うるせぇな、笑いたきゃ笑えよ。クサいのは分かってんだからよ」
「…………ぷっ」
「あ、てめ、本当に笑いやがったな!?」
「ご、ごめんなさ……くすくす……」
「な…………はぁ。」
 少女は耐えきれなくなったのか遠慮気味とはいえ笑い出してしまった。
正直俺自身、理由としてベタ過ぎると言うか、俺だって真剣な顔して「泣いてるやつをほっとけない」なんて一昔前の小説じみた事言われたら笑ってしまうだろうけど。
やっぱり事実とはいえ言うんじゃ無かったよ、畜生め!

だが……やっぱ女ってのは笑ってた方がいい。
うん、良い顔だ。

「そ、その、よろしく、お願いします。助けてもらったのに、その上こんなことまで……ふふ……」
「半笑いで言うな」
 いまだに片足を笑いのつぼに突っ込んだまま彼女は、申し訳なさそうにしながら自分のトレードウィンドウに何かを入力し始める。

「あの……これだけじゃ全然足らないと思うんですけど」
見ると、ウィンドウの少女の側のアイテム欄に、結構な額の金が入力されていた。
恐らく桁が半端な所を見ると、彼女の持つ全財産だと思うが確かにこれだけではこのアイテムの相場とは到底釣り合わない。が、

「金はいい、さっき言った通り、俺が勝手にやることだし、それに、君にあげる物は全部余ってたもんだし、つーか、小学生から金もらうとか半分カツアゲじゃねぇか」
「しょ、小学……で、でも……」
「はいはい、年長者の意見には素直に従うもんだぞ?」
「う……、分かりました」
「よろしい」
子供は素直が一番。……まぁ俺も未成年だが。

「でも、ほんとに何からなにまで……。あの、あたしはシリカです!改めて、宜しくお願いします!」
ああ、そう言えば名乗って無かったな。忘れてた。
?、残念そうにしてあわてて首を振って、何をしてるんだ?この子は。

「俺はリョウコウだ。リョウって呼んでくれ。こちらこそよろしくな、シリカ」
手を差し出すと、シリカも俺より一回り小さな手を重ね、しっかりと握手を交わした

「さて、んじゃ先ずはこのうっとうしい森から抜け出すとしますか」
「あ、地図お持ちなんですね」
「……むしろ、持たないでこんなとこに入る方がどうかしてると思うがな?お前、もう二度とやんなよ?」
「う……はい……」
自身の失敗を指摘され言い返せないのか、言葉に詰まりうつむくシリカに俺はため息をつくと、

「ほれ行くぞ。過去から学び、未来を見つつ今を行け……だ。幸いお前には過去の失敗を取り戻せるだけの可能性も残ってるわけだし」
「は、はいっ!」
「よろしい」
そうして俺とシリカは街へ向って歩き出す。
ちなみにさっきの言葉は何となくなので深い意味は無い。

さーて、ピナ救出チーム始動だ。

────

シリカと行動し始めてから三十分ほどが経った頃

 正直あれだけ走り回った(シリカはリアル迷子になった)森がたった三十分で抜けられた事に複雑な気分になりつつ、地図の偉大さを再確認しつつ、俺達は第三十五層の主街区へ辿り着いた。

 この街は白壁に赤い屋根と言う、どこかの牧場にでもありそうなタイプの建築物が多く、牧歌的な雰囲気ののんびりとした街だが、現在は中層プレイヤーたちの主戦場である迷いの森等が近いせいか人通りが多く、なかなかの賑わいっぷりだ。

 さて、街に入った俺達は取りあえず今日の宿へと向かおうと歩き出す。
大通りを通り、転移門のある町の広場を抜けて……と、数名のプレイヤーが声をかけて来た。
俺にでは無い。その全員の目線はシリカに向いていた。
話を聞く限り、どうやらシリカをパーティに誘っているようだ。にしても……

『ずいぶんと熱烈なこったなぁ。』
 流石は中層プレイヤーのアイドルとでも言おうか。
迷いの森に一人で入った時のセリフは、正直な所調子に乗り過ぎではないかとも思えたが……
成程、これでは確かに、この年の子では少々自惚れてしまうのも頷ける。

「あ、あの……お話はありがたいんですけど……」
シリカも断るのに必死だ。
「……しばらくこの人とパーティを組むことになったので……」
あ、そこで俺に話が回って来る訳か。
まぁ、そりゃそーか。原因は俺だし。

 シリカの取り巻きと化していたプレイヤーたちは、ひとしきり愚痴を言った後、俺に視線を向ける。
その眼に有るのは嫉妬、疑問、興味も交じってんな。
いずれにせよ、好意的な感情は皆無。まぁ慣れっこだしどうって事も無いが。

「おい、あんた」
両手剣を背中に背負った青年が結構高圧的な態度で話しかけてくる。

「いきなり出て来て、抜け駆けはやめてもらいたいんだがな。俺らはずっと前からこの子に声かけてるんだ。順序って物があるだろう」
「あー……つっても流れだったから……俺にもどうにも。」
 順序って、行列の出るラーメン屋じゃあるまいし……っつーか、パーティ勧誘ってのは誘われた側に選ぶ権利が有るから俺に文句を言うのは道理が違うってもんなんだが、こいつの言いたい事も分からんでも無いと言うか……下手な事言いづらいぞ。

「あ、あの、あたしの方から頼んだんです、すみません!」
「おっ!?シリカさん、ちょ……」
 袖をつかんで足早にその場を立ち去ろうとするシリカに引っ張られる形で、俺はそこから離れた。
北の通りに入り、プレイヤーたちの姿が見えなくなった所でやっとシリカは息を付きこちらに向き直る。

「すみません、迷惑を……」
「ああ、気にすんな気にすんな。特に何とも思ってねぇし。むしろお前の人気っぷりに驚いてる所だよ。」
「そんな事……あんなの、ただのマスコットみたいなもので誘われてるんです。なのに、良い気になって、自分が強くなったと勘違いして、調子に乗って一人で森に入って、それで……」
 げ、また泣きそうになってるし、今のこいつにあの使い魔の事は禁句だなこりゃ。
まぁ、落ち込まれ続けられても困るしなぁ。

「んな顔するな。さっきも言っただろ?過去から学び──」
「未来を見つつ今を、ですね。分かっては、居るんですけど……」
 そう言ってまたうつむく。今は見えないが、目を見なくても不安なのは様子で分かる。

……ったく、見くびられたもんだ。

「心配しすぎだっての」
「あ……」
無意識に、シリカの頭に手を置いていた。

──その手の動きが、現実にいたころキリトとキリトの妹が一度大喧嘩した時に、妹の方を慰めるのにやった動作とそっくりだった事には、後で気が付いた。

「俺だって協力するんだ、必ず生き返らせられる。これでも、腕っ節には自信あるんだぜ?」
「リョウさん…………はいっ!」
「よろしい。」
涙をぬぐって微笑むシリカに、俺もいつの間にか笑顔を向けていた

 しばらく歩くと、右側に大きな宿が見えて来た。恐らくシリカの泊まる宿だろう。「風見鶏亭」か。
すると、シリカがふと気がついたように。
「そういえばリョウさん、今日はどちらに?」
「ん?ああ、いちいち家帰んの面倒だし、この階層に泊まろうと思ってるが?」
「そうですか!」
何故にこんなうれしそうなのかね?この子は。
まあ、笑ってるからいいけど。

「ここのチーズケーキが結構いけるんですよ」
……ほほう?

「言っとくが、俺は甘いものにはちょーっとうるさいそ?」
「……へ?甘いものがお好きなんですか?」
「うむ、……意外か?」
「い、いえ、そうじゃないですけど……」
「無理すんな、顔に出てるぞ。」
「……すみません、意外でした。」
「よく言われるから気にするな……」
 実際、俺がスイーツ好きだと知られると殆ど毎回意外そうな顔されるんだよな。

 良いじゃないか、好きな物は好きなんだよ。甘いものは男女平等に与えられるべきだと俺は思うのさ!

「でも、此処のは本当に美味しいんですよ?」
「自信満々だな。よし、もし俺の舌を満足させられるものが出てきたら、褒美にアインクラッドの旨い菓子屋を紹介してあげよう。ついでに奢ってやってもいい。」
「本当ですか!?」
「俺は必要ない嘘はつかないぞ?ま、あくまで満足させられたら、だがな?」
「むむ……頑張ります!!」
ケーキは規定の物が出てくるはずだからお前が何かを頑張れるわけではないんだがな、まあいいか。


────

 ケーキの話題で盛り上がりながらシリカが俺を引っ張る様な形で宿に近づくと、宿の隣にある道具屋から、五、六人の集団がぞろぞろと出て来た。今日、シリカと行動を共にしていたパーティだ。
 殆どのメンバーはこちらには気が付かなかったようで、何事も無く通り過ぎたが、唯一最後尾にいた槍使いの女。ロザリアがこちらをちらりと見、とたんにシリカが顔を伏せた。
が、気が付かれたようで目敏く寄って来た。
俺を引っ張り、無視してシリカは宿に入ろうとするが……

「あらぁ?シリカじゃない」
 声をかけられると、立ち止った。
何か言うべきか迷った。が、まだロザリアと俺には接点が無いし、此処で話に割り込むのは不自然だろうと思い、自重する。

「……どうも」
「へぇーえ、森から脱出できたんだ。よかったわね」
そう言ってロザリアは口の端を歪める様な、嫌な笑い方をする。
この言い回しから察するに、シリカが追いつめられるのは分かっていたのではあるまいか……

「でも今更帰ってきても遅いわよ。ついさっきアイテムの分配は終わっちゃったから」
「要らないって言ったはずです!──急ぐので」
シリカは早くこの女から離れたいのだろう。俺の事を引っ張って宿に入ろうとするが……

「あら?あのトカゲ、どうしちゃったのかしら?」
「……っ」
 トカゲとはピナの事だろう。
使い魔はゲームの使用上、主人の傍から離れることは無いから、その姿が見えない以上理由は一つしかない。
ロザリアの瞳に宿っているのは明らかな悪意。それにこいつ、楽しんでやがるな……

「あらら?あぁ!もしかしてぇ……?」
 先ほどよりも更に嫌な笑いを口元に浮かべながらロザリアは畳みかけようとする。
しかし、何か言われる前に今度はシリカの方から口を開いた。

「死にました……。でも!」
 シリカの目が鋭くなり、ロザリアを睨みつける。

「ピナは、絶対に生き返らせます!」
「ヒュウ」
断言したシリカにロザリアは少し驚いたように目を見開き、小さく口笛を吹く。そして俺は、小さく笑っていた。
正直、この子が精神的に大丈夫か不安だったが、これなら大丈夫だ。それに、本人が成功を疑っているようでは、上手く行くものも行かなくなるだろうからな。

「へぇ、てことは《思い出の丘》に行く気なのね。でも、あんたのレベルで攻略できるかしらね?」
 その質問で言葉に詰まるシリカ。
っと、俺の出番かな。

「まぁ、一応此処に手伝い役がいるんで。」
頭を掻きつつ、シリカの前に出ながらそう言う。

「それに、あそこ大したダンジョンじゃないし。」
見ると、ロザリアは俺の事を値踏みするように見ている。そして結論を出したらしいロザリアは、鼻で笑った。
あー、こりゃ見くびられたな、俺。

「あんたもその子にたらしこまれた口?それとも騎士(ナイト)気取りのお調子者かしら?まぁ、見たとこ騎士って程強そうには見えないけど」
「俺の評価についてはご自由に。どれ、行こうか。」
またしても泣きそうになっているシリカを促し、俺は宿歩き出した。
うつむいていてよく見えないが、今のシリカは屈辱で顔をゆがませているのだろう。

「ま、せいぜい頑張ってね」
 馬鹿にしたように言うロザリアに、シリカは振り向きもしなかったが。
俺は最後の言葉を発する瞬間、ロザリアの瞳に少しの歓喜と、強い欲望が宿ったのを、見逃さなかった。

シリカには少しだけ怖い思いをさせるかもしれないが、これは思いの外一石二鳥になりうるかもな……
 
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