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髑髏天使

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第二話 天使その十四


「そう簡単に敗れはせんよ」
「けれど彼自身はどうなの?」
「そうそう、彼は」
 また話は牧村自身についてのことになるのであった。
「戦えるの?」
「何かしてるの?」
「いや、格闘技の類はしておらん」
 しかし博士の返答はこうであった。
「そういったものはな。一切な」
「じゃあ駄目じゃない」
「相手はそれこそ何をしてくるのかわからないのに」
「しかし運動神経は見事じゃよ」
 これについては保障してみせた。
「伊達にサイドカーを乗り回しているわけではないしな。反射神経もよいし体力もある」
「そうなんだ」
「筋肉も発達しておるしな。あれでよく動けるのじゃ」
「じゃあまあ大丈夫かな」
「戦いにかけては」
「とりあえずは大丈夫じゃ」
 こう結論付けた博士だった。
「しかし。これからは」
「これからは?」
「わからないっていうの?」
「正直髑髏天使についてわかっておるのはまだ僅かじゃ」
 目が少し困ったようなものになった。
「これから何がわかるかじゃが」
「そういえば僕達も髑髏天使のこと知らないね」
「ああ、確かに」
「っていうかさ」
 妖怪達も博士の言葉を聞いたうえでそれぞれ話し合うのだった。
「そもそも髑髏天使って悪い奴を倒すんだよね」
「魔物をね」
 彼等は自分達を妖怪と言い悪い自分達の同胞を魔物と呼んでいた。ここに大きな認識があると言えた。妖怪と魔物という違いが。
「だから僕達妖怪が知らないのも当然だよね」
「大体日本に出るのってはじめてだっけ」
「そうじゃないの?」
「それについても調べていくとするか」
 博士はまた考える顔になってから述べた。
「そういうところもな」
「じゃあそのルドルフ一世やアレクサンドリアっていう場所だけじゃ済まないね」
「そうだよね、他にも一杯」
「中国も漁ってみるか」
 考える目でまた述べた博士だった。
「あの国はやはり歴史が深いからのう」
「中国もなんだ」
「うむ。あとはエジプト」
 もう一つ歴史の深い国の名前が出た。
「象形文字が読めることが役に立つのう」
「博士って何でもできるんだね」
「語学は得意じゃ」
 これについても絶対の自信があるようであった。
「あとはインドじゃな」
「その国もなんだ」
「資料を持っているという点では」
 さらに考えを巡らせていく。そのうえでもう一つ国の名前が出て来た。
「あとはアメリカじゃな」
「アメリカは歴史が浅いんじゃないの?」
「できてまだ二百年ちょっとじゃなかったっけ」
「アメリカという国の歴史はまだ若いがな」
 博士もそれは認める。
「しかし横にかなり広くまた多くのものが集まっておる」
「だからいいんだ」
「うむ。それにあの国は移民の国じゃ」
 このことも考慮に入れる博士であった。アメリカといえばやはり移民である。移民達によって作られた国であるからだ。それこそ様々な国から来ているのだ。
「多くの話があるからのう」
「じゃああの国もね」
「ネイティブのことも調べておきたいしのう」
 彼等の歴史は古い。そのうえ多くの伝承がある。そこも注目している博士なのだ。
「あの国にも髑髏天使に関する話があるかものう」
「だからアメリカもなんだ」
「ついでに大英図書館も漁ろうとするか」
 言わずと知れた世界屈指の大図書館である。
「調べることが実に多くなりそうじゃ」
「これで論文も書けそうだね」
「無論そっちも書くぞ」
 自分の仕事も忘れない博士であった。
「ちゃんとな」
「そっとも忘れないんだね」
「論文を書け。さもなくば滅びよ」
 随分と厳格な響きを持っている言葉であった。
「学者の鉄則ではないのか?」
「最近それ守ってる人少ないんじゃないの?」
「少ないっていうかさ」
 また妖怪達が口々に言う。
「博士もういい歳だし」
「名誉教授だったけ」
「大学に長くおれば誰でもそうなるぞ」
 平然として妖怪達に答えるがこれには根拠があった。大学に三十年いればそれで名誉教授となるのだ。だから博士はこう答えたのである。
「それこそな」
「まあそうだけれどね」
「それでもまだ書くなんて」
「人生ずっと勉強じゃ」
 かなり求道的な言葉であった。
「ずっとな」
「だから書くんだ」
「左様。論文なぞ一日もあればそれで一つ書ける」
 常識外れの速筆である。少なくとも博士の歳では考えられない程だ。 
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