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木の葉芽吹きて大樹為す

作者:半月
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双葉時代・発足編<中編>

 
前書き
感想ありがとうございます。
この話はいずれ改稿版を書こうと思っているので、その際には皆様の感想がとても参考になります。 

 
「――と、言う事をこの間思いついたんですけど、如何でしょう?」

 連合の忍び一族の各頭領を集めての空区での談義の際に、この間猿飛殿と話し合った事を議題に挙げてみる。
 するとそれぞれの一族の方々は十人十色の言葉通り、皆異なる表情を浮かべてくれた。

「これはまた……。型に捕われない柱間殿らしい考え方だな」

 やや苦笑しながら口を開いたのは、この間連合に入ったばかりの奈良の頭領。
 彼が軽く頭を振って肩を竦めると、その隣の山中家の頭領は額に手を当てて嘆息した。

「面白い考えとは思うが……反発も大きいだろうな」
「当然だ。何故なら我々は一度は戦場で敵として相見えた者同士。簡単に背を預ける事に抵抗がある者も多いだろう」
「そうなるよねぇ」

 山中の頭領に続いて、油女の若頭は深々と頷く。
 柔和な表情を浮かべたまま、秋道の当主もおっとりと同意した。

 逆に、やや面白そうに笑ったのは、猿飛一族とも付き合いの深い志村の頭だった。

「なに、柱間殿の事だ。勿論その問題を解決する策もあるのだろうて」

 試す様に細められた両眼で見つめてくる志村の頭に、私は深々と頷いてみせた。
 他の一族の頭領達と違って、志村の頭はよくこうして私を試す様な言動を取る事が多い。まあ、この面子の中で最年長である彼からしてみれば、私の若さに頼った様な言動には素直には頷き難い事も多いのだろうから、それは当たり前なんだけどね。

「当然です。ただし、これには皆さんの協力が条件となりますが」

 わざと芝居がかった仕草でおどけてみせれば、けけけ、と笑う声がする。

「なんだよ、千手の! 勿体振ってないでさっさと教えろよ!」
「では、催促が来ましたので」

 犬塚一族の頭領の野次を受け、私はにやりと笑う。
 視界の端で、黙って話を見守っていた猿飛殿が嫌な予感を覚えた様に戦いたのが見えた。
 ……そんなにあくどい顔をしていたのかね、自分。

「物は試しです。ひとまず我々だけで組んでみませんか? 連合の頭同士で小隊を」

 やっぱこういうのはトップが先立ってするものだよね。
 一族で一番偉い相手がそうすれば、下についている者達も従うだろうし。

 そう思って笑顔で提案してみたのだけれども、先程の一言よりも彼らが受けた衝撃は大きかった様だ。
 皆、硬直している。
 ……一番近くに居た志村殿の目の前で手を振ってみたのだが、返事は無い。
 いつも冷静沈着な志村殿のこんな姿滅多に見れるもんじゃないよね。

「けけけっ! やっぱりテメェはおもしれーや! 良いぜ、その話乗ってやらぁ!」
「君ならそう言ってくれると思ったよ、犬塚の!!」

 一番に硬直を解いたのは犬塚殿だった。
 嬉しくて犬塚の頭領の手を握って振り回せば「いいって事よ」と、何とも男前な返事が返って来た。
 格好いいぜ、犬塚殿! それだから好きさ!!

「丁度いい具合に、とっても難しい任務が入っているんです。まず間違いなく、油女の索敵感知に犬塚の探査能力、奈良家の捕縛術に山中の尋問技術。そうして得られた情報を纏めるだけの志村殿の経験に、敵を圧倒させる秋道殿の倍化の術。最後に特攻頭のオレと猿飛殿を必要とする様な任務がね」

 やってみませんか?
 そう言って今回の任務内容について記された巻物を振ってみせれば、それぞれの表情を浮かべながらも、皆さんは書類を受け取ってくれた。

 猿飛殿は大きな溜め息を吐きながら。
 秋道殿は穏やかに微笑みながら。 
 油女殿は普段通りの無表情で。
 志村殿は呆れ返りながら。
 奈良殿は面倒臭そうに。
 犬塚殿は愉快そうに。
 山中殿は慎重に。

 ――後は彼らがこの試行を受け入れてくれるかどうかだ。 



 私は非常に良い気持ちで帰り道を歩いていた。
 様々な物議を醸したものの、私の提案は結局の所受け入れてもらえたのだ。
 それぞれの準備を整えた三日後に、私達各一族の頭領達は今後の見本とするための合同任務に携わる事となった。

「――――お願いです! お花を買って下さい!!」

 上機嫌で道を闊歩していた私の耳に、切実な響きを宿した幼い子供の声が届く。

 声の聞こえた先へと視線を移してみれば、背の高い黒髪の青年に向かって、縋る様に花を差し出している少女の姿があった。
 青年の方は邪険に扱っているが、それもそうだろう。彼女が差し出している花は確かに見事なものであるが、男性で花を買う者は少ないだろうしね。

 ――……言い換えればそれは、それだけその少女が切羽詰まっていると言う証拠でもある。

「お願いです、どうか……!」
「――……不要だと言ったのが聞こえなかったのか?」

 取りつく島も無いとはこういう事か。
 そう思わせる冷たい声が響いたと共に、青年の手が少女を払いのける。
 あー、もう。

「……大丈夫か?」

 振り払われてよろめいた少女の肩を支えて、上から少女を覗き込む。
 少女の目が驚きで丸くなる。次いで、少女の頬が真っ赤に染まった。

「だ、大丈夫です! すみません!!」

 花を持ったままぺこぺこと頭を下げる少女。いや、髪を振り乱すほど謝られてもね……。

「あのね、君が結構切羽詰まっているのはわかるんだけどね、いくらなんでも押し売りはいけないと思うよ」
「わかってます……! でも、今日までにお花を買ってもらわないと……!」

 噛み締められた唇。
 その唇にそっと指先を当てると、驚いたように少女が私を見上げた。

「そんなわけだから御嬢さん。是非ともオレに君の一押しのお花を紹介してくれないだろうか? 妹のご機嫌伺いに欲しいんだが」

 ついでにウインクをしてみれば、少女の表情が一変する。

「あの!」
「うんうん」
「この花はですね、薔薇と言って普段は山奥に小さな物しか生えていないのですが、わたしの父さんが改良を重ねてこんなに綺麗な花になったんです!」

 やっぱり。この辺りでは見かけた事のない花だったから不思議に思っていたのだが、最近出てくるようになった花だったらしい。
 それにしてもこの花、前世の記憶に出てくる薔薇とそっくりだ。
 なんだか懐かしいな。他では見た事はないから余計にね。

「今のところ、赤と白しかなくて……。でも、とっても綺麗でしょう!?」
「うん、綺麗だよね。それに香りもいい。君のお父さんは腕がいいんだ」
「本当ですか!?」

 手にしていた薔薇を一本借りて、そっと匂いを吸い込む。
 馥郁たる甘い香りが鼻孔をくすぐった。

「それじゃあ、ここにある中で白い薔薇を半分もらえないだろうか?」
「白い薔薇、だけですか?」

 ちょっと不満そうな少女に、ふふふと笑う。
 少女の乱れた髪をそっと指で梳けば、少女がまたまた顔を赤く染めた。

「そ! 今日のところは白い薔薇を君が持ってきた分の半分。それと、赤い薔薇も一本貰おうかな?」

 振り乱された髪を手櫛で大雑把に梳いて、見苦しくない程度に整えてやる。
 そうしてから少女の手の中から取り上げた赤い薔薇に軽く手を加えて、そっとその耳元にさしてやった。
 うん、我ながらいい出来だ!

「あ、あの……! こ、こんなことしてもらっても」
「大丈夫だよ。暫くその格好で声掛けをしていなさい。お客さんの方から君の方へと寄ってくるからね」
「へ? ど、どういう意味ですか?」

 曖昧に笑って、少女の手に薔薇の代金を落とす。
 今は私が傍にいるせいで誰も寄ってこないが、君の周囲のお姉さん方が目の色を変えて、君の手の薔薇の花を見つめているんだぞ。

「お花ありがとう。また今度買いに来てもいいかい?」
「よ、喜んで!」

 白薔薇の花束を抱えたまま、踵を返す。
 そうして振り向いた先の人影を見て、目を見開く。
 それまで上機嫌だったのに、それが一気に下降するような気分に襲われた。

「――……相変わらずのようだな、千手の木遁使い」

 腕を組み、不機嫌そうに赤い目で私を睨んでくる黒髪の青年の姿に、昔の記憶が甦る。
 森の中で不可解だといわんばかりに私を睨む赤い目が、目の前の青年の物と一致した。
 
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