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自由気ままにリリカル記

作者:黒部愁矢
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九話~呪い? いいえ、闇魔法です~3月21日修正

唐突だが、俺がどうやって解呪しているか説明してみようと思う。


まず、大前提として俺は解呪する際にリンカーコアから魔力を出していない。

心臓から供給されている魔力を出しているのだ。


そして、無印――ジュエルシードがキーアイテムとなるこのアニメの一期――から始まるA’sではリンカーコアを抜き取る事件が起きる。
A‘sでは確か…………闇の書を中心とした事件が舞台となっていた気がする。
そのA’sでは敵側。確か守護騎士と言っただろうか。その者達は未完成の闇の書を完成させるために必要な魔導士のリンカーコアを求めて魔導士などに襲い掛かるのだ。
そこで、もし仮にこの世界に来る前でなくとも、俺にはリンカーコアは無いが、心臓から魔力が供給されており、万が一それが相手にリンカーコアだと判断されて抜き取られてしまったらどうなるのだろうか?


勿論冗談抜きで死ぬ。


例え俺が手足をもがれても尚、普通に戦闘出来る狂気染みた生命力を持ってしても心臓を抜き取られれば死亡確定だ。
俺のいた世界では塵一つになっても一瞬で全身を再生して、銀の武器で首を刎ね飛ばす動作と心臓を突く動作をコンマ一秒単位で同時にすることでようやく殺せる化け物がいたわけだが……まあ、そこまで化け物ではないと自負している。
しかし、やろうと思えばそうすることも出来るというのが笑えないところだ。
それはさておき、俺が殺されるかもしれないという可能性を考慮してイルマはリンカーコアをお願いをしたのだろうが、そのことに関して今はどうでもいい。



今はその心臓から供給されている魔力……リンカーコアのような名称を付けるなら魔臓とするが、魔臓から出される魔力には、その人特有の属性があることが重要なのだ。この世界で例えると属性変換資質が魔力持ちには最低一つ確実にあると言えば分ってもらえるだろうか?



そこで、昔は闇と土属性が突出していたが、現在は闇単体で飛びぬけているのだ。
この闇属性と俺の体が非常にマッチしていてかなり汎用性の高い魔法になっており、どれほど便利なのか、こういったことが出来ると言えば分かりやすいかもしれない。。


魔力でマーキングしておけば低コストで空間移動可能。しかも、ノーモーション。

半径10メートルの真っ暗な球状の空間という4次元的な場所への入り口をいつでも呼び出せてそこに入れば、気配や魔力、存在などをほぼ完全隠蔽可能。

相手の放った魔法を俺の許容量を超えない限り吸収して俺のものにすることが可能。

闇魔法という名の呪い……のようなモノを対象に掛けることが出来る。


この闇魔法の汎用性が分かってくれただろうか?


ぶっちゃけこいつら使えば楽に暗殺が出来る。



まあ暗殺についてもここは、命のやり取りに関してはそこまで殺伐とした世界じゃないので特に特筆すべきことでもない。戦闘中に使う機会がくることもあまり無いと思いたい。
人を不用意に殺してどこかの名も知らない誰かの恨みを買うような真似だけは勘弁願いたい。


今回重要なのは呪いのようなものが出来るという所だ。


これは俺が闇魔法のことをその効果から“呪い”と呼んでいるだけで、牛の刻参りのように五寸釘と藁人形のセットで呪い殺すというような事は出来ない。

出来るけど割が合わない。なんでそんな時間が掛かることをしないといかんのだ。
そんなことをするくらいならこっそりと相手の背後に近づいて暗殺する。


俺の呪いは対象と発動する効果さえ指定して、それに見合った代償……軽い呪いなら少し俺の魔力を捧げるだけで成立する。普段の解呪は俺の魔力の……大体一人当たり俺の魔力の300分の1を代償にして済ませており、以前に高町にこっそりあげた御守りも、御守りに「俺の掛ける呪い以外受けつけない呪い」が掛けれられた呪いのブツだったりする。しかし、着脱は可能。教会に行ってお金を払わなくとも問題は無い。

ちなみにその際の代償は右手の小指と薬指の動きを一日封じるというものだ。
呪いそする際の代償は自分で決めれるが、自分にとって大事なもの、または世界的にみてレアなものを代償にするほど、より大きな呪いを発動することが可能なため、自分の○○を○○日間封じる。というようなことをすると比較的簡単に呪いが成立する。
恐らく五感のいくつかを封じればかなり大きな呪いも成立するだろうが、出来るならばしたくはない。


まあ、そんなことで今作ろうとしているのは、大きな代償が必要な呪い。使えば「あらゆる物体を人間に変える呪い」である。


呪いの効果としては、人魚が変な魔女に頼み込んで渡された薬と同じようなもんだろうと思ってる。ということは俺はこの場合だと魔女になっちまうのか。

―――うぇーい! 男なのに魔女ってオカマー!!―――

……あらあら。アリシアちゃんはやんちゃな子ねえ。私が直々に教育してあげないといけないのかしら。

―――す、すみません。……邦介。怖いよそれ―――

そうかい。偶にはノッてやろうかと思ったんだが……。

ちょっと残念な気持ちになりながら、野太くて妙に甲高い声をやめる。

おふざけは置いといても、俺の呪いの場合は人魚の最期のように泡になって消えてしまうということは無い……はずだから安心しても大丈夫だろう。


それで、この呪いを成立させるには呪いに耐えきれる媒体、物体を人間に変えるという効果、期間(死ぬまで続く)、代償(まだ不明)が必要になるだろうと推測している。


ここまで大層な呪いとなると今までやったことが無いため、どれだけの代償が必要になるか俺には想像がつかない。
以前異世界にいた頃、戦いの幅を広げるため、ナイフに意思と自立行動能力を30分間付与するだけで掛かった代償は、俺5人分の魔力と一日間の魔力断絶である。30分間付与するだけでこの有様だ。死ぬまで呪いの効果を続けるのはしんどくて、全く以て割に合わないが、あいつが勝手に自責の念で自殺しないようになるなら安いものだと思うことにしておこう。

ちなみに俺のリンカーコアの魔力ランクはルナ曰くAランクでまだ後少しだけ伸びる余地が微妙にあるらしいが、その道理でいくと魔臓の方も同じぐらいの量なのだろう。



さて、手始めに媒体は俺の魔力をしっかりと染みこませた手袋と同じ布にして、俺10人分の魔力を代償とすればどうなるのだろうか。



10日掛けて俺の魔臓から絞りだして結晶化させた、魔力ランクA相当の漆黒のビー玉10個を黒い布に包み、呪いを発動する。呪いのブツを作る場合は、何か変な色の光を出して、ゆっくりと治まれば呪いが成功となる。



ポシュン



「……やっぱ駄目か」



気の抜けた音を出してすっかり灰へと変わってしまった布とどこかに消えた漆黒のビー玉を見ながらため息を吐く。


中々苦戦しそうな課題だ。


「後、約9か月……間に合うのか……?」

―――ねえ、何してたの?―――

「あ? まあ、あれだ。人じゃない者を人に強制的に変える呪い」

そう言うと、唐突にアリシアは目を輝かせ始めた。まあ、大体何を言いたいのか想像はつくが、その言葉に応えることは出来ないだろうな。

―――もしかして……私、生き返ることが出来るの!?―――

「いや、出来ない」

―――っ! ど、どうして!?―――

「残念ながら俺の力じゃ、どうあがいても死者を生き返らせるのは死後6時間までが限界だ。……しかも、その場合に必要な代償は大体の想像はつくが、恐らく俺の命でも足りないだろうな」

俺がするのはあくまでも死者を生き返らせることじゃない。人間じゃないものを人間に変えることなんだ。

―――……ごめん。ちょっと気が動転してたみたい。―――

「……そうかい」

―――だからってただ、幽霊としてふらふら彷徨うと決めたわけじゃないよ―――

アリシアが不意に見せた、何か覚悟を決めた表情とルビーのように綺麗な赤い目に思わず見惚れた俺は、ただ無言で頷くことしか出来なかった。

こうしてこの日の自室での呪いの実験は失敗に終わった。






「温泉?」
「うん。良かったら一緒に来ない?」

朝早く誰もいない教室にて、のんびり読書にいそしんでいると紫髪に白いカチューシャを着けた少女……つまり月村のことだが、その彼女が扉を開けて俺の元にズカズカやってきて言った言葉が


「明後日友達と温泉に行くんだけど……行くよね?」


である。月村、あんた拒否させる気皆無だろう。

―――怖いよね。偶に直感で私の位置を特定するから……本当にこの子人間?―――

さあね。……確かに言われてみれば、妙に血の匂いがする。明らかに子供が出せる力を越えている。気のせいか血を見る目が危ない……みたいにね。

……あれ? 吸血鬼?

うっわ。吸血鬼だったらまじやばいんだけど。俺瞬殺されちゃうんだけど。
だってあれだろ? 吸血鬼ってあの握力は1トン以上、脚力はステップで音速に辿り着く程。更に弱点を突かなければ瞬時に再生する……あの馬鹿げた身体能力を持つ吸血鬼か?

―――え。なに? そんなに恐いの、吸血鬼って?―――

月村がそうとは思いたくないなあ。俺が出会った吸血鬼って本納のたがが外れないために吸血行動をしていたが、月村が急に襲い掛かってくるのは……本気出せば勝てるかな?

―――うわあ……そんなにすごいんだ。吸血鬼って―――

とりあえず、今はアリシアとの会話よりも、正体不明の月村との会話に集中するのが先決だ。

「良かったら、とか言いながら強制で行く気バリバリだよな? だが断る」
「……あれ? おかしいなあ。誘ったらきっとすぐに来るって言ってたんだけど」
「ちょっと待て。それを言ったのは誰だ」
「東雲君。毎日昼休み教室に来てるんだから仲良いよね?」
「……あのやろう」
「門音君、来ないの? きっと楽しいと思うんだけど。ほら、メンバーだってなのはちゃん、アリサちゃん、仄夏ちゃん、東雲君、お姉ちゃんにファリンとノエル、恭也さんに美由希さんに士郎に桃子さん……いっぱいいて賑やかになると思うよ?」
「……他のメンバーは?」
「え? これで全員だけど」
「知ってるか、月村。お前嘘吐く時に必ずする癖があるんだぜ?」
「ええ!? どこ?」
「手を後ろに回して組んでから目線を上に上げる。更に右足で地面を小突いたら確定だな」
「……よく分かったね」
「俺に嘘など通用せんよ」
「私、門音君に丸裸にされちゃった……キャー!」


紅潮した頬に両手を当ててキャーと言う月村。
その少女に軽くチョップをする。
冗談でもそんなことは止めなさい。一体どこからこんな性格になったのか……。
羞恥心が強いことに変わりは無いのだが、妙に冗談を言う傾向が強くなったというか……なんだろう。少し小悪魔女子になりそうな兆候が見られる……ことはないと祈りたい。

一年の頃は弄り甲斐があって中々に楽しかったんだけどなあ。

「そんなことより早くほかのメンバーを教えなさい」
「……津神君、神白君、佛坂君」
「丁重にお断りしよう」
「……うん」
「まあ、そんなに暗い顔すんなよ。実際に用事があるからどっちにしろ断ってたさ」
「じゃあ! こ……今度は絶対に一緒に行こうね?」
「ああ。約束する」


最後には結局笑顔で走り去って行った月村の後ろ姿を眺めつつ思う。


蒼也……もう、あいつらの友達になっていたんだな。

「だからあれ程、関わらないことなんか無理だと言っていたのに……」




その日の帰り、蒼也の口から溢れ出る愚痴を聞きながら道端に落ちているジュエルシードを発見し、俺専用空間に収納した。

―――ジュエルシード! ゲットだぜ! お母さん! 待ってろよ!―――

ジュエルシードの前で片腕を上げて高らかに叫ぶ金髪幼女がいたとかいう。

 
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