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自由気ままにリリカル記

作者:黒部愁矢
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八話~あなた、テクニシャンですね……~ 3月20日修正

(誰か……助けてください)

―――およ?―――

(蒼也)
(……どうした)
(確かこれが原作の始まりだったよな?)

退屈な算数の授業中に突如として頭に響いた念話。俺はこの人物の声を聞いた覚えはない。
つまり、これは無差別広域念話だ。
仮にも魔法文化が無い世界では魔法は秘匿すべきものなはずなんだが、
……虫食い状態の原作記憶によるとユーノ・スクレイアだったかな? そんな子なんとかして危険物である青い宝石を集めるための助けを求めることによって、近い内に新たな魔法少女が誕生することになっている。
つまり、ここで高町なのはが魔法に目覚めると同時に魔法の世界へと足を踏み入れる為のチケットを手に入れたわけだ。


そして、このような話をその原作キャラの一人であるアリシアが俺の中に潜んでいる状態でしていても大丈夫なのか、という問題もあるが、その事に関してはまったく問題ない。
別にアリシアが中にいるから全てが丸聞こえというわけでもない。
むしろ、制限を掛けることが出来る。
例えば、中にいる間は俺の念話に反応出来ないようにしたりすることも、俺の思考がダダ漏れにならないようにすることも出来るわけだ。
だから、アリシアが中にいようが、頭の上に張り付いていようが俺としてはどちらでも構わない。会話の内容に感づかれなければいいのだから。

(ああ。今日の内に高町なのはがイタチを見つけ、今夜、ジュエルシードの暴走体に襲われる)
(そうなのか。……よく覚えてるな)

俺なんか気合入れて思い出そうとしてもほとんど大まかな概要しか思い出せなかったというのに。
まあ、物語の終盤だけは他の記憶よりも鮮明に覚えていたのは不幸中の幸いだったが。

(……お前はどこまで知っているんだ?)
(多分、管制人格のラストまでをうろ覚えって感じだな。次にストライカーズってのがあったのは知っているけど見てねえ)
(そうか)
(そうだ。それじゃあ互いに頑張ろうな)

そこで念話を切った。

―――あ、念話終わったー?―――
おう。終わったぞ。

―――いったいどんな内緒話をしているんだよー。いい加減私に教えてくれたっていいだろー?―――

いやだね。………まあ、敢えて理由を言うとしたら……

「それじゃあこの問題を……邦介! 解いてみろ」
「はい。……15です」
「よし。正解だ」

体育会系の少し暑苦しい体格をした担任が満足気な顔をするのを見届けて、着席する。
まだ内容を聞かなくても全く問題ない。それにこの先生なら、数年先の予習を進めていてもバレることはないから暇な時間が過ごせて良い。
なんとか、中学二年生までの学力には全科目を引き上げることが出来た。
前世での反省を生かし、苦手分野を徹底的に叩き潰した上での中学二年生の学力である。
故に中二の学力とは中二までの範囲の問題は全て解けるというレベルのことなのだが、小学から中学に上がる時までには高三までの学力を完璧にしておくのが目標だ。


―――ねー。さっき言おうとしてた理由の続きはー?―――

はて? なんのことやら。









学校中で洗脳されている生徒達をこっそり解呪した後にのんびりと家に帰った。

―――その姿はまるで数多の幼女に対するストーカーをやり遂げた犯罪者のものであた―――

おい、やめろ。見方変えるとそうも見えるからやめろ。

―――あ、自覚してたんだー?―――

ひょっこりと俺の腹から頭だけを出して、頭の中に言葉を投げかけてくる。ニヤニヤとした顔をこちらに見せつけながら。
何故、顔を出しているのに声には出さずに、わざわざ思念を送ってくる理由は分からないが……
とりあえずこのいじりが少し鬱陶しい。



アリシアからのいじりに対して無反応で返しつつ、家でいつもの訓練をしていると、夜に奇妙な、心臓がほんの一瞬だけ握られたような違和感がした。



『マスター。高密度の魔力……恐らくジュエルシードが暴走し始めたようです』
「ジュエルシード……そっか、この感覚がそれね」

―――ジュエルシード!?―――

『はい。……どうしますか?』
「よし、行こう。今回はルナも一緒に行こうか」
『やった! やっと私の出番が来るんですね!? 何します!? 収束砲撃魔法を使いますか? それとも砲撃魔法ですか?』
「いや、普通に様子見だからね? しかも俺一人分程度の魔力じゃ砲撃魔法とか魔力の無駄遣いだよ? せめて流れ弾の対策でプロテクションの準備でもしておいて」
『……はーい』
「私はどうしましょうか?」
「リニスにはいつも模擬戦でお世話になってるから休んでていいよ」
「いえ、それだと私は何もしてないと思うのですが……」
「それじゃあ俺たちが帰ってくるまでの間に夕食を作ってくれない? それにリニスには結構お世話になってるって」

主に、知識面で。デバイス整備の仕方を教えてくれるのは嬉しいし、命がけの模擬戦にも付き合ってくれるじゃないか。

「そうでしょうか……? ……料理ですね。分かりました」
玄関前で、18歳程の女性の姿になっているリニスの見送りを受けながらジュエルシードのある場所へと向かう。
妙に釈然としない表情をしていたのは気にしない。

―――私もいくよ!―――

……そうかい。




ジュエルシードの魔力をたよりに移動していくと、徐々に瓦礫が増えてくる。
コンクリートは何かの衝撃でめくれて、家はジュエルシードに近づくにつれて、半壊の家だったものが、全壊の家へと変わり、最早家の原型を留めていない。
その原因になったと思われる物騒な武器はあちこちに落ちており、槍、剣、矢など様々な種類の武器がある。
だがどれもみな共通して、普通の武器じゃないです、とでも主張するかのような派手な装飾が施されたり、高価な素材が使われているため、なんとなく近寄りがたいような雰囲気を醸し出している。まるで、王宮に飾られているような国宝級の武器に触れるかのような……いや、そこまではいかないが。まあそれ程のレベルの武器が道路にポロポロ落ちているという事実が分かってくれればいい。

―――むむむ……。これ、明らかに質量武器だよね……? あれ? 違うのかな……?―――

知らんがな。非殺傷設定が付けれるようなものだったら大丈夫なんだろう。
付いてなかったら……その時はその時さ。

とりあえず、依然蒼也にキラキラ転生者はニコポ、ナデポ以外に特典で何を貰ったんだろうか、という質問を投げかけたことがあり、その時に蒼也からキラキラ転生者が貰う可能性が高い特典の名前と効果を聞いたことがある。

そしてこの状況、大量の武器が落ちているということは恐らく使い捨て、且つ質の良い武器、それらが、地面になんらかの衝撃を加えてから地面に捨てられていることからこれらの武器は投擲されたと考えていいだろう。
つまり、キラキラ転生者の特典の一つはアニメ、Fateに登場する最古の王である英霊、ギルガメッシュの技。

「……王の財宝か」

王の財宝とはギルガメッシュが生前に手に入れた宝具。分かりやすく言えばレアで強い武器や便利なアイテムをいつでも空間を開いて取る事も射出することも出来る倉庫のようなものらしい。
確か、ただの質の悪い武器を投擲していたらただの王の財宝。武器の質が良ければギルガメッシュが実際に使っていた宝具も特典で手に入れた正真正銘ギルガメッシュの王の財宝だから、後者の場合、ほぼ即死に近い攻撃もあるから要注意だそうだ。

そして、今回の場合はその後者の場合に当てはまっていると見ていいだろう。
……しかし、ここまでの被害を出していて大丈夫なのだろうか。
いや、駄目だろう。

「……なあ。ちょっと手遅れな状況になっていると思うのは俺の気のせいか?」
『……奇遇ですね。と言いたいところですが、一応結界が張ってあるため大丈夫なようですね』

言われて気づく。そういえば夜中とは言え、ここまで人気が無いのは妙だと思っていた。


「そっか。動顚してみたいだね。気づかなかったよ。それじゃあ、俺が結界内に入ったことは魔導士の誰かにばれている可能性が高いな……魔力大分食って変体するのは嫌だし……自力で気配消していくか」
『そうですねあまりマスターの魔力量は並外れて多いというわけではありませんし……って、ええ!? 変態するんですか!? 変態なマスターのデバイスなんてしたくありませんよ!?』

―――へ、変態ダーーーー!!―――

アリシアもうるせえ。

アリシアがいる方へ向かって少しジト目を送るが、そのアリシアの顔は冗談を言っているにも拘らず真剣な眼差しをジュエルシードのあるであろう方角へ向けている。
一体どうしたのだろうか。普段とは全く違うじゃないか。


「……何を勘違いしてるか分からないけど、変態じゃなくて変体だからね? 体を変えるって意味の変体だからそこの所間違えるなよ?」
『……あ、そうですよね。それでも変体って変身魔法のことですよね?』
「若干違うね。俺のは変体だから体の構造そのものを変えるんだよ。だから変体してもそれは俺の意思じゃない限り解けることはない」
『……なんですかそれ。地味に凄くありません?』
「まあそうだな。……っと、見つけた」



普段と様子が違うアリシアに若干戸惑いつつも、ようやくジュエルシードの居場所を特定すると、そこには5人の人影があった。
念の為に魔法を使わず気配を消して様子を確認する。
コンクリート上を走り回る毛むくじゃらの黒い塊に対してキラキラ転生者の金髪津神、銀髪神白、金髪オッドアイ佛坂の三人が争うように、乱雑な攻撃方法で退治しようとしており、それを遠巻きに高町と、小動物、後は……どこか見たことのある女子が見ていた。
どうやら、津神の背後から次々と武器が射出されていることから王の財宝は津神が所有している特典だと考えていいが、高町に良い所でも見せようとしようとしているのか、時折黒い塊にぶつけると見せかけて他のキラキラ転生者に攻撃していることがある。腹黒い奴め。
そして、神白と佛坂の特典はよく分からない。神白は少し装飾が施されてある剣型のデバイスに蒼に白色の線が入ったコート。佛坂は槍を……振り回している。ただただ振り回している。まるで、腰抜けの素人がなんとなく勘で振り回しているようにしか見えない。あんな攻撃では誰も倒せやしない。


まあそれはともかく、全員が結界内にいるということは大なり小なり魔力の保有量は違うだろうが全員魔導師なのだろう。

この後に、ジュエルシード集めを手伝って欲しい。とそこの小動物……ユーノから頼み込まれて快く承諾することで、高町の魔法少女としての人生がスタート、ということか。大変だね。
そういった意味を視線に込めて高町を見ると、不意に何の前触れも無く高町の隣にいた少女がこちらに振り向いた。

何故小学生が気づけた?
思わずそんな疑問が浮かび上がって来るも、体はほぼ脊髄反射で建物の陰に隠れるように素早く動いた。

あの少女は………要注意だな。
だが、恐らく彼女は見覚えがあることから聖祥に通っていることは、ほぼ間違いない。一旦学校の女子は全学年全て見たのだ。間違えるはずがない。
だから、調べる時間はいくらでもあるさ。
そこであいつが、危険かどうか調べてやるよ。

「……さて、帰ろうか。ルナ」
『え!? 助けないんですかマスター?』

―――えー!? もう帰るのー!? ジュエルシード持って帰ろうよー―――

今は駄目だろう。見つかってしまうしね。今度別のジュエルシードを見つけたら拾ってやるから。

―――むー……―――

「高町はただ困惑しているだけだから問題なし」
『……りょーかいでーす』
「ふむ……今度高町に精神安定でも御守りに付与しておくかな? いつか高町が胃痛持ちになりそうで怖い」
『ナイスですマスター』






(……とまあ、昨夜はこんな感じだったかな?)
(かなり面倒くさいことになってるな)
(これってさ……フェイト・テスタロッサに勝ち目はあると思う?)
(あるわけがない)
(ですよねー)
(それでお前が知らない女子のことだが、多分、というかほぼ間違いなく俺のクラスの秋山仄夏(あきやま ほのか)だろうな)
(秋山さん、秋山さん……あ、そういえば唯一自力で解呪してた奴がいたな。そいつかもしれない。しかも偶にこちらに向けて妙に冷めた視線を送って来るから一応名前覚えてたんだった)
(後、百合の可能性が若干だがある)
(……まじで?)
(ああ。女子全般に対して触り方が妙にセクハラっぽいからな)

なんだ、変態だったのか。

(そうか。とりあえず今の所はよく分からないから保留。いざとなったら敵対されないように事情でも説明しとこう)
(ああ。そのあたりが妥当だろうだな)
(よし、これで今後の予定は決まったとして……なあ。蒼也)
(なんだ)
(買い物手伝ってくれ)
(面倒だ)
(……即答すんなよ。寂しいだろ)
(実を言うと今日は嫌な予感がするから家で修行でもするつもりなんだ)
(なら仕方ないか。すまないね。無理言って)
(いや、俺の方こそすまない)

「チェックメイトだ」
「……おうふ」
チェスに負けてしまった。それなりにチェスは出来ると思っていたんだが……。
蒼也の実力がメキメキ上達してくようでいつかは完敗しそうだ。
そんな少しブルーになった今日も高町達は屋上でお弁当である。
蒼也にとっては三人組に。俺にとってはキラキラ転生者に会わないように心がけているため
屋上で食べる日というのは非常にリラックス出来る日だ。

「それじゃな」
「ああ」





さて、家に食材はどのくらい残っていただろうか?

「牛肉、魚、キャベツ、卵……後は牛乳くらいか? ああ、バターも必要だったな」
これで、粗方必要なものは集め終えたはず……だろう。
どうにもまだまだ、料理は練習中なわけで作りすぎたり食材を無駄にしてしまうことが多いのだ。
そういったことが続くといつの間にか今月分の残金が大変なことになっているため勘弁してほしい。

―――っあ!!―――

ん?

そして会計を済ませ、外に出るとそこには青い菱形の綺麗な石が置いてある。
……十中八九ジュエルシードだろうな。―――拾おうよ!―――この大量に保有された魔力を少しずつ抜き取って俺の体内で循環する魔力に変えることは出来ないのだろうか? ―――ねえ! 拾ってー!―――それが出来たらかなり負担が減って楽になるんだが……。

―――拾ってくれないと呪うよ……?―――

そんなことを考えていると聞こえてくる幼女の声。ただし、現在俺に向かって涙目上目遣いで話しかけてくる幼女の声は除く。

「……その青い石を渡してください」
「ちょっと待ってくれ。これはあんたのか?」
「しらばっくれんじゃないよ! 何なのかあんたは知っているんだろう!?」
「渡してくれなければ力尽くでも……」
「はあ……分かった。これが何なのかは分からないがお前らに渡そう」
「本当ですか!?」
「ただし! 俺が出す三つの条件に従ってくれたらの話だ」
「……ええい! まだるっこしい! そんなこと言ってあたし達を騙そうってつもりだろ!?」
「待って、アルフ。……何ですか、その条件は?」
「一つ、これは強制というわけじゃあないが、出来たらこの石が何なのかとこれを集める理由を教えてくれ。二つ、自己紹介をしよう。三つ、うちで飯を食え。そこの金髪のあんた……。見た感じ栄養不足っぽいぞ?」
「……え? そ、そんなことでいいんですか?」
「ああ。ということで、行くぞ」
「え? あ、あれ?」





……ということが、50メートル先で起きていたんだ。

―――い、妹があ!? 私の妹が知らない男にホイホイ着いていっちゃってるう!?―――

……ご愁傷様

―――そんな……ばかなっ!?―――

 
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