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FAIRYTAIL-ダークブリングの力を操りし者-

作者:joker@k
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第二話 エルザとルシアとスカーレット

 まさかこの牢屋にまだ幼い女の子が来るとは思わず、俺は呆然としていた。
てっきり、厳つい顔の野郎か気味の悪い科学者のような奴が来ると思ってたので仕方がないと自身に言い訳をしている内に、女の子がこちらに近づいてきた。よく見ると体が震えていて、俺を見る眼で怯えているのがよくわかる。

「あ、あの、今日から食事係になりました、エルザです」

「…………あ、ああ。」


 あまりの驚きでアホみたいな返事を返してしまった。
 憑依して前の世界の時と顔が変わっていなければかなり怖い眼つきのはずだ。恐がるのも仕方がないか。……ん?食事係?なんだそれ。

「なぁ、その食事係ってなんだ?」

「しょ食事係はここへ食事を運ぶことと、あ、あなたに食事を食べさせる係りのことです」

「なぁにぃぃっ!?」

 しょ、食事を食べさせる!?いや、確かにこんな状態では満足に食事なんて摂れないし、かといってこの子の目の前でDBを迂闊に使うわけにもいかない。だが、まさか食べさせられるとは。しかも、こんな少女にこんな格好で……く、屈辱だ。

「ひっ!!す、すいません!」

「い、いや、謝るな。俺も大きい声だして悪かった。すまん」

 はぁ、怯えさせちまったか。まぁ恐がられることは慣れてるが、さすがにこの少女を怯えさせるのは気の毒だ。なるべく優しく接してあげよう。それにもしかしたら目的の情報収集もできるかもしれない。

「なぁここってどこなんだ?」

「え?知らないんですか? ここは楽園の塔と呼ばれています。」

 俺がそのことを知らないことに心底不思議がるのように首を掲げながらも質問に答えてくれた。年相応の可愛さだ。俺がこのくらいの年齢のときはクソ生意気な餓鬼だった気がする。

「楽園? こんな牢屋がか?」

「詳しいことはわからないんです。ただ黒魔導士って呼ばれる人達が各地から人を拐ってきて楽園の塔っていうのを建設させられてます」

 エルザと呼ばれる少女は、暗い表情を浮かべながら淡々と話す。
 ボロボロの布の服で、満足に食事や睡眠を摂ることができてないことが容易にわかる身体。ここの奴らは奴隷を扱うかのごとく、こんな子供に労働をしいているのだろう。……前の世界の常識を持つ俺からしてみればどんな理由があるかは知らないが、そいつ等をボコボコにしてやりたい衝動に駆られる。ここにどんな建前があるにしろだ。

「なるほどねぇ、胸糞の悪い話だ。……ところで、他の奴らも俺みたいにこうやって厳重に閉じ込められてるのか?」

 今思えば、俺一人に何故こんな大きな牢屋を使っているのか疑問だ。てっきり、このぐらいの牢屋に大勢が詰め込まれてるものだと思うのだが。

「い、いえ、あなたは特別らしいです。き、聞いた話ではあなたを捕らえるために何人もの黒魔導士が亡くなったとか。本当ならこの食事も魔導士の人が持ってくるんですけど、みんな恐がって……だから私に持っていくように言われたんです。」

 え、えぇ~。俺この世界に誕生したのついさっきなんだが……どういうことだ。この身体は一から作り上げたものって言ってたから、そんなことできるわけないんだが。
 ここの連中の記憶でも改ざんしたのか。……うん、そんな感じがしてきた。いきなり俺がこの牢屋に現れても可笑しいだろうし、辻褄あわせに記憶をいじったんだろ。それ以外想像がつかないし、真の答えを得たとしてもそれ程意味はないのかもしれない。

「そうか、あんま記憶にねぇな。というより、エルザが来る前の記憶がないしな」

「え!? 本当ですか!じゃあ、自分の名前もわからないんですか」

 つい辻褄合わせるために、記憶がないってことにしたが……あれ、俺の名前ってなんだ。まったく思い出せない。ちゃんと前世の記憶は残ってる。ただ、名前だけが思い出せない。まるで穴が開いたように消え失せている。


「――俺は、だれだ?」


 言った後に気づいた、自分の声が震えていたことに。親に貰った大事な名前を、友人から家族から呼ばれていた名前を忘れてしまったショックは自身が想像していた以上に衝撃的で辛いものだった。一体いつから忘れていたんだ?一体何故自分の名前を……。
 あらゆる考えが出ては消えを繰り返し、混乱し呆然としていた俺にふわりと緋色の髪が掛かる。そしてこの世界にきて初めて感じた人肌。そこで初めてエルザに抱きしめられていることに気がついた。


「大丈夫。大丈夫だから」


 エルザは優しい声で、まるで子供をあやすかのように呟いた。
優しい子なのだろう。さっきまで恐がっていた相手に臆すことなく抱きしめてあげられるのだから。そして次第に自然と身体の震えは止まっていた。
 突然異世界に行き、罪人のように牢屋に入れられ、鎖で雁字搦めにされ一人孤独な状態に俺は自分でも気づかないうちに心が疲弊していたのだろう。DBによって与えられた安心感は一時的なものだったのかもしれない。これで前世の思い出まで忘れてたらと思うと、ぞっとする。

「ありがとう、エルザ」

「どういたしまして!」

 エルザの浮かべた笑顔は眩いまでに輝いて見えた。

「しかし、エルザみたいな子供に慰められるとはな」

「むぅ、あたなだって私とそんなに変わらないでしょ」

 ……あぁ、自分でもわかっていたさ。ただ自分の眼が可笑しいだけだと思い込みたかったんだが、さすがに他人から言われると事実として受け入れなければならないな。この子供のような小さな身体に。

 いや自分でも、勿論理解はしてたんだ。ただ俺は、いや言い訳だな。見苦しいから止めておこう。何が原因でこうなったかはわからないが初めから言っておいてくれればいいのに。名前といいコナン状態といい……はぁ。

 未だ心配そうに俺を見つめてくるエルザにも申し訳ないので空気を変えるため表情を緩め話しかける。

「……まぁ俺のほうが一個か二個上ぐらいか?」

「私と同じくらいだよっ! そうに決まってるっ!」

 何故そう決まっているのか定かではないが、何となく俺としてはエルザよりも年上でいたい。元々の年齢を加味すれば年上なので、自然とそう思ったのかもしれない。

「まぁ俺の年齢はエルザの2個上だとして」

「決定なの!?」

「問題は名前だな。さすがに名前がないとこれから先いろいろと面倒だ」

「そうだね。年齢の件は保留として、先に名前を決めちゃわないと」

 年齢の件は保留なのか。というか、いつの間にかエルザの敬語がとれてるな。俺としては堅苦しくなくて歓迎だ。
 しかし、名前か。いざ自分で名前を考えるとなると難しいものだ。エルザという名前からもわかるように日本人のような名前よりは外国風の名前のほうがよさそうだ。

 とするとやはり自分の特徴を挙げていき、そこから考えてみようか。自分の外見は髪の色しかわからないが、金髪でこの世界で使う力はDB、趣味は前世から一貫して戦闘……そうだな、これだけ似通ってればパクってもいいだろう。というより、これしか思い浮かばない。

 エルザを見てみると首をかしげ、う~んとばかりに唸っていた。恐らく一緒に考えてくれているのだろうが、少し微笑ましいな。もう少し見ていたい気もする。

「ルシアだ。ルシア・レアグローブ。それが今日から俺の名前だ」

「るしあ? ルシア・レアグローブだね。うん、なんかピッタリの名前だね」

 だろうな。自分でもこの名前のあまりのフィット感に驚愕してるところだ。驚愕している顔は表にはださないが。にしても、本当にピッタリな名前だ。何かこう欠けていたピースが綺麗に嵌ったかのような感覚。
 そんな考え事をしているとエルザから戸惑いがちに声をかけられた。

「私も苗字ないんだよね。もしよかったらルシアがつけてよ」

「俺が……か? いいのか?これから一生共にするんだぞ。そんな大事な苗字を俺に任せていいのか?」

「うん! 初めはルシアのこと恐かったけど、話してみると良い人だし。ネーミングセンスもさっきのとおりピッタリな名前付けてくれそうだし」

 そこまで言うなら吝かでもないが、さすがに自分の苗字を考えるときみたいに気軽にはできないしな。自分なら自身の責任でいいんだが、人のしかもエルザとなると責任重大だな。

 何かエルザを表すものがいいだろう。となれば、やはり髪の色か。赤色、緋色、スカーレットか……いやいや、さすがに安易すぎるか?もう一捻りしたほうが、いやしかし……。
 ふとエルザを見ると眼を輝かせながらまだかまだかとこちらを見ている。凄いプレッシャーだ。えぇい!シンプルイズベスト!変に捻っているよりストレートな苗字のほうがいいだろう!

「エルザの髪は綺麗だからそれにかけて、スカーレットというのはどうだ?」

「スカーレット? エルザ・スカーレット」

 かみ締めるようにエルザは自分の名前をそして苗字を繰り返し呟いた。

「うん!私に合ってると思う。やっぱりルシアはピッタリな名前付けてくれるね! ピッタリ少年だね」

 最後に言った一言はいまいち意味が分からないが、喜んでくれて何よりだ。そのあともよほど嬉しいのか、自身の名前を繰り返し呟いていた。あそこまで喜びを表現しているのを見るとこちらまで嬉しくなる。

「よし、名前も付けてもらったことだし私はもう戻るね。今日はありがとう。いろいろお話もできたし、苗字も付けてもらっちゃったし」

「気にするな。それに喜んでもらって俺も嬉しかったしな。これからよろしく」

 よろしくね!とエルザは右手を上げ、部屋から出て行った。
 ……ふぅ、異世界初日から中々濃い一日で疲れたな。でもまぁ、いろんな発見やら出会いがあったからいいか。

 心地よい疲労感だ。しかし何か大事なことを忘れているような、喉に何か突っ掛かっているようなそんな感覚。せっかくの心地よい疲労感もこのせいで台無しだ。

 ……ぐぅ、と俺のお腹がなったことで忘れていた大事なことを思い出した。


「ご飯、食べさせてもらってないぞ……俺」


 こうして異世界にきて初のDBお披露目は食事を取るために使ったのだった。

 
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