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『もしも門が1941年の大日本帝国に開いたら……』

作者:零戦
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第七話






「ロ、ロゥリィ・マーキュリーッ!!」

「し、知っている人かヒルダ?」

「知っているとも。ロゥリィ・マーキュリーは死と断罪の神エムロイに仕える亜神だ。亜神とは人の肉体を持ったまま、神としての力を得た存在の事だ」

 ヒルダが驚いたのを聞く樹でヒルダは驚きながらも説明をする。

「私も急いだんだけどぉ、間に合わないかと思ったわぁ。でもぉ……」

 ロゥリィはそう言って樹に視線を向けた。

「ん?」

 ロゥリィが視線を向けた事に完全に予想外だったらしい樹が首を傾げる。

「貴方達のおかげねぇ」

 ロゥリィはそう言った。

「摂津中尉、どうしますか?」

 水野が聞いてきた。

「どうするって……」

 樹は保護した妻と娘、そしてロゥリィを見る。

「……自分達はこれからコダ村から避難してくる難民と合流しますが一緒に行きますか?」

「はい。どのみちそれしか無いと思いますので」

 樹の言葉に妻は頷いた。

「いいわぁ。貴方達に少し興味があるしぃ」

 ロゥリィは樹の服装を見ながらそう言った。

「それじゃあ行くか」

 樹はそう言って九四式六輪自動貨車に乗り込む。

「奥さんと娘さんは荷台に乗せた方が良いですね」

「あぁ。少々狭いけど我慢するしか無いよな」

 水野兵曹長の言葉に樹は頷く。

「もう少し多めで来ればよかったなぁ」

 片瀬一等兵曹が呟く。

「仕方ない」

 樹は苦笑する。水野兵曹長は妻と娘を後ろに乗せている。

 二人は水野兵曹長に「これは動くの?」と訊ねていて水野兵曹長も「動きます」と教えている。

「ロゥリィさんの武器は立てとくしかないな」

 ロゥリィのハルバートは荷台から突き出すように固定された。

「ありがとうぉ」

「んでロゥリィさんの席は……」

 樹は車内を見る。運転席になどもってのほかである。

「いい場所があるじゃなぁい」

「え? おわッ!?」

 ロゥリィは何か思い付いたように言って樹を助手席に座らせて、ロゥリィ自身は樹の膝にちょこんと座ったのである。

「さ、流石にそれは教育上の問題が……(ロゥリィ……)」

 樹は内心喜んでいたが自制心を動かして席を半分ずつ座らせるのであった。




「失礼します。司令官殿、内地から電文です」

「御苦労だ柳田大尉」

 今村中将は柳田大尉から電文を受け取って文面を見た。

「内地からは何と?」

「ヒルデガルド王女の事だ。王女には時期を見てから内地に来て陛下に謁見してもらう」

 ヒルダは小国ながらでも王女であるので、内地にどうするか電文を送ったら王女であるので陛下と謁見する事になった。

「その後は王女の意思に委ねるそうだ。国に戻るか、日本……特地で暮らすか」

 正直に言えば日本で暮らせば各国のスパイがヒルダを誘拐しようとするなど企む事は明白である。なので政府は日本に保護を求めるなら出来るだけ特地で暮らしてと思ったのだ。

「まぁそれは彼女の判断だろう。我々は帝国とは交渉はするが決裂すれば侵攻するのは決定している。準備は怠るな」

「分かりました」

 今村中将はそう言ったのであった。




「中尉、人だかりが見えます。恐らくはコダ村からの避難民かと思います」

 夜が開けてから朝食をとって出発すると前方から人の集団が見えてきたらしい。

「伊丹大尉達は確認出来るか?」

 樹は鉄帽をかぶり直す。実は少し仮眠していた。

「確認しました。避難民の前方に九四式六輪自動貨車がトロトロとですが走っています」

「……確かにな」

 樹も確認する。多分、あれには伊丹少佐も乗っているのだろう。

「水野、手を振ってろ」

「了解です」

 水野が荷台で手を振る。

「向こうも気付いたみたいです」

「やれやれ……一先ずは合流成功やな」

 樹はそう呟いた。



「伊丹大尉、摂津以下応援部隊として合流しました」

「おぅありがとう……九四式六輪自動貨車がもう数台なら嬉しいんだが……」

「仕方ないですよ伊丹大尉」

 ブツブツと文句を言う伊丹に樹はそう言った。

「ま、それはそうと隊列に加わってくれ」

「了解です」

 そして樹達も隊列に加わり、コダ村から避難する住民の手伝いにはいった。

「……暑いですね中尉」

「文句を言うな水野」

 つい先日に雨が降ったので舗装していない道(当たり前だ)はぬかるんでいる。

 九四式六輪自動貨車なら多分大丈夫だが、馬で引く馬車だと泥濘に嵌まりやすい。

 今も第三偵察隊が泥濘に嵌まった馬車を押して泥濘から脱出させている。

「エルザさん達の体調は?」

「今のところは問題ないです」

 樹達が助けた妻と娘――エルザとエミリアは後ろの荷台で休憩している。

「水野、荷台から後ろも偵察しておけ。もしかするともしかするもな」

「……怖い事言わないで下さいよ中尉」

「可能性は高い。今の状態は炎龍というやつか、それから見たら絶好の獲物だからな」

 樹は水野にそう説明する。水野は顔を青ざめながら荷台から顔を出して後方を警戒する。

 それから二時間が経過した。

「中尉、ドラゴンのドの字も出ないですよ」

「馬鹿やろう。そこは龍だと言っただろ」

 水野は安心するように言う。なんだかんだ水野も実は恐かったりしている。

「……杞憂だといいけどな」

 樹はそう呟く。だが樹自身は何か嫌な予感がしていたのだ。

 そしてそれは直ぐに起こった。

「ちゅ、中尉ッ!!」

「どうした?」

 樹が振り返ると水野は顔を青ざめていた。最初は不審に思った樹だったが、今さっき話していた事を思い出した。

「出たのかッ!?」

「は、はいッ!! 後方から龍が接近中ですッ!!」

 樹が後ろを振り返る。後方の空から大きな物体があった。

「伊丹大尉ッ!! 後方から龍が接近してきますッ!! 合戦準備願いますッ!!」

 樹は無線で伊丹に叫ぶ。

『分かったッ!! 全員戦闘用意ッ!!』

 伊丹少佐の言葉に第三偵察隊員達は戦闘準備をする。樹もMP28短機関銃(ベ式機関短銃)

『攻撃開始ッ!!』

 九四式六輪自動貨車は一斉に方向を変えて龍――炎龍の元へと向かう。

 コダ村の避難民が炎龍から逃げていく。しかし炎龍が降り立った場所にいたコダ村の避難民は炎龍に捕まり、捕食されていく。

「急げ急げェッ!!」

「分かってますよッ!!」

 樹の叫びに片瀬は叫びながらアクセルを踏む。

「射撃開始ッ!!」

 隣の自動貨車に乗る伊丹大尉の叫びと共に樹はMP28短機関銃の引き金を引く。

 MP28短機関銃の9mmパラベラム弾が大量に発射されて炎龍の身体に当たるが厚い鱗に阻まれて貫く事が出来ない。

「二十ミリで牽制しろッ!! 四一式は準備て奴に砲弾を叩き込めッ!!」

『了解ッ!!』

 伊丹の命令に他の九四式六輪自動貨車の荷台に乗る九八式二十ミリ高射機関砲が発射される。その間に四一式山砲の砲兵分隊が急ぎ九五式破甲榴弾の準備をする。

 しかしこの九八式二十ミリ高射機関砲であっても炎龍の厚い鱗を貫く事はなかった。

「全く効いてないな……」

「ヤバいですね~」

 樹の呟きに運転している片瀬はそう言った。

「伊丹大尉ッ!! 目を狙って下さいッ!! どんな強敵でも目は弱いはずですッ!!」

 樹はただ当てるだけじゃない事を言う。

「分かったッ!! 目を狙えッ!!」

 伊丹の叫びに九九式短小銃、九九式軽機関銃、九八式二十ミリ高射機関砲が命令を実行する。

 弾丸が目の付近に命中している炎龍は流石に動きを止めた。

「山砲発射用意ッ!! ロゥリィさん、貴女の武器でドラゴンを足止めしてくれませんか?」

「了解ッ!!」

「いいよぉ」

 ロゥリィが助手席から軽快な動きをして荷台に向かい置いていたハルバートを持つ。そしてを山砲隊は炎龍に照準をする。

「片瀬止めろッ!! ロゥリィさん、頼む。山砲隊撃ェッ!!」

「了解ッ!!」

 山砲隊の砲撃に気付いた炎龍は逃げようと翼を広げて後ずさろうとするが突然脚をもつれさせて倒れ込む。

 炎龍の足下の地面にハルバートが突き刺さっていた。勿論ロゥリィが投げたからだ。

 四一式山砲が発射した九五式破甲榴弾が倒れ込んだ炎龍の負傷していた左目に突き刺さって爆発した。





 
 

 
後書き
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