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『もしも門が1941年の大日本帝国に開いたら……』

作者:零戦
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第八話






『ーーーッ!!!』

 四一式山砲の九五式破甲榴弾が見えなくなっていた左目に突き刺さって爆発した途端、炎龍が苦痛の叫びをする。

「次弾装填急げェッ!!」

「了解ッ!!」

 樹が叫び、砲兵隊は急ぎ次弾の九五式破甲榴弾を装填する。

 しかし山砲が発射される前に炎龍は第三偵察隊を睨みながら上昇を始めて戦場を離脱したのである。

「……終わったのか?」

「……終わったんだろ」

 今まで出番が無かったヒルダの言葉に樹はそう呟いた。

 その後、炎龍を撃退する事に成功した第三偵察隊と応援隊はコダ村の犠牲者を近くの丘で葬り、犠牲者に黙祷を捧げた。

「伊丹大尉。村長から聞きましたが生存者の大半は近隣の身内の所へ行くか何処かの街か村に避難するそうです」

 ヒルダと共に聞いてきた樹は伊丹に報告する。

「でも街ったって知り合いとかいないんでしょ? これからの生活は大丈夫かなぁ」

 報告を聞いた伊丹はそう呟いた。

「残りは身内が亡くなった子どもとお年寄りに怪我人……か」

「それと何か違う理由で残ったのが数人で合わせて二七人です。どうしますか?」

「ん~、村長に聞いてみようか」

 伊丹はそう言って、樹とヒルダを連れて村長の所へと向かうが村長から返ってきた言葉は非情だった。

「へ? 神に委ねる?」

「薄情と思うかも知れんが儂らも自分らの世話で精一杯なんじゃ。理解してくれ、救ってくれたことにはとても感謝している」

 ヒルダが片言ながら訳した言葉に伊丹と樹はどうにも言えなかった。

 そしてコダ村からの避難民は二手に分かれて旅立っていった。

「さて、伊丹大尉。あの人達はどうしますか?」

 樹は集まっている残りの避難民をどうするのか伊丹に聞いた。

「……ま、いっか。だぁ~いじょ~ぶ、ま~かせてッ!!」

 伊丹は避難民達にそう言って笑うと避難民達も喜んだ。

「檜垣中佐への対応は自分も同行しますよ」

「お、悪いね摂津」

 樹の言葉に伊丹は喜ぶ。

「よし、全員乗車ッ!! アルヌスに帰投するッ!!」

『了解ッ!!』

 伊丹の言葉に第三偵察隊員達は敬礼をした。

「伊丹大尉、ついでにあの龍が落としていった鱗とか持って帰りましょうや。何かの役に立つかもしれませんし」

「それもそうだな。勝本、古田。龍が落とした鱗を皆で拾ってくれ」

 兵士達は炎龍が落とした鱗等を拾い、準備が完了してからアルヌスへと帰還するのであった。

「良かったんですかエルザさん? 此方に残って?」

 アルヌスへ帰投中、樹は後ろの荷台に座っているエルザに聞いた。

「はい。早く街か他の村に逃げたかっただけなので。それに貴方達といる方が安全だと思うので……」

「ハハハ、素直ですね」

 エルザの言葉に水野が笑う。

「そんなミズノさんったら……」

 水野の言葉にエルザは顔を赤く染める。

「……なぁ片瀬、あれはあれか?」

「どうですかねぇ」

 樹の言葉に運転している片瀬は頬を引きつかせる。

「あれって何かしらぁ?」

 隣にいたロゥリィが樹に聞いた。

「いや何でもないから……」

 流石にロゥリィには教える事はしない樹だった。

「しかしあの武器は凄いものだったな……」

 ヒルダは隣の四一式山砲を載せた九四式六輪自動貨車を見ながら呟いた。

「次にあの龍が出たら安全面を考慮して三八式野砲や九七式中戦車を出さないと無理だな」

 樹はそう呟いた。そして翌日、第三偵察隊と応援隊はアルヌスへと到着した。

「きっきっ君は……だっ誰が連れて来ていいと言ったッ!?」

「あれ? 連れて来ちゃ不味かったですか檜垣中佐?」

 檜垣中佐の叫びに伊丹はそう返事をした。

「~~~~~」

 檜垣中佐は顔を手で覆って溜め息を吐いた。

「失礼ですが檜垣中佐、これは良い機会なのは間違いありません」

「何?」

 横から樹が伊丹の援護射撃をする。

「今まで此方の人間は良く分からなかったので避難民を受け入れると釈明して保護すればいいと思います」

「それは分かっている。装備を解いて待っていたまえ。今村司令官殿に報告してくる」

 檜垣中佐は再び溜め息を吐いたのであった。十分後、檜垣三佐は戻り報告した。

「というわけで人道上の観点から避難民の保護を許可する。伊丹大尉と摂津中尉は避難民の保護及び観察を行うように」

 檜垣中佐は怒りたい気持ちを押さえてそう命令する。

「それと、摂津中尉、水野兵曹長、片瀬一等兵曹及び数名の陸戦隊隊員は第三偵察隊に編入する。摂津中尉は第三偵察隊の副隊長とする。これには海軍側も了承している」

「(要は自分らで面倒を見ろと……)分かりました」

 伊丹と樹は檜垣中佐に敬礼をして退出した。

「書類は伊丹大尉にあげますね」

「ちょ、おまッ!?」

 樹の言葉に伊丹は驚く。

「なんせ伊丹大尉は隊長ですから」

「ぐ……」

 樹の言葉に伊丹はぐうの音も出ない。その時、喫煙所にいた柳田大尉が声をかけてきた。

「お前さんら……わざとだろ?」

「何がです?」

「とぼけるなって。定時連絡を欠かさなかったお前が龍撃退後に突然の通信不良……避難民を放り出せとでも言われると思ったんだろう?」

 柳田はニヤリと笑う。

「いや異世界だし機械も故障しやすかったんじゃないですか?」

「ふん、韜晦しやがって。参謀の身にもなってみろ」

「いずれ精神的にお返ししますよ」

「大いに足りんね。ちょっと河岸かえようか。摂津も来い」

 そして柳田は二人を連れ出して屋上へと向かった。

「いいか伊丹に摂津。この世界――特地は宝の山だ」

 柳田はそう言って再び煙草に火を付ける。

「汚れのない手つかずの自然、そして何より世界経済をひっくり返しかねない膨大な地下資源、文明格差は中世と現代並、そんな世界との唯一の接点が日本に開いた。……なぁ伊丹、摂津。三宅坂や海軍省の連中は知りたがっているんだ。アメリカは兎も角、中露……世界の半分を敵に回す価値が特地(此処)にあるのかをな……」

「その価値があったら?」

「分かるだろ? 世界では持っている者が勝者だ」

「……柳田さん、あんたが愛国者だってのは分かった。俺も軍人だから全力は尽くす。だけどピンと来ないんだよ。連れてきた子どもと世界情勢の関わりが」

 伊丹は柳田にそう言った。

「お前らは連中と信頼関係を築いてきた」

「ハ?」

 柳田の言葉に伊丹は驚く。

「まさか子どもに聞けっての? 金銀財宝がどこにあるかって?」

「知ってる人間を探して情報を得られるだろう? 特に摂津、お前はヒルデガルドさんと仲良く話している」

「コミュニケーションの一環ですよ」

「まぁあんな出逢いじゃあな」

 柳田と伊丹は笑う。樹はまたかと思う。

「伊丹、あんたには近日中に大幅な自由行動が許可される。勿論それはお前の第三偵察隊だ。行動するのはいい、だがな最終目的は一つだ、それを覚えておけよ」

「たまらんね。柳田さん、あんたはセコいよ」

 伊丹はそう反論するが柳田は笑う。

「そういう仕事だ。今までのんびりしてた分は働いてもらうぜ」

 柳田はそう言って屋上を後にした。

「……ま、今は避難民の飯と寝床ですな」

「そうだねぇ」

 伊丹はそう呟いた。




 
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