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仮面ライダーZX 〜十人の光の戦士達〜

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脱出

 強化改造を受けたライダー達は目覚めると立花達のいるアミーゴへ向かった。そこには生まれ変わった相棒達が待っていた。
 「また随分と綺麗になりましたね」
 一文字が暫く振りに見た相棒を見て声を出した。
 その外見は新サイクロンと変わらない。だがマシン全体が光輝いていた。
 「何か別物みたいですね。ここまでやってくれるとは」
 本郷も思わず声を漏らした。そこには感嘆が滲み出ていた。
 「おう二人共、凄いだろう。新サイクロン改っていうんだ」
 「新サイクロン改・・・・・・」
 二人は立花が誇らしげに言ったマシンの名を自分達でも呟いてみた。
 「速度は600キロまで出せるようになった。ジャンプ力も装甲も今までとはケタ違いだぞ」
 「それは凄い」
 「性能は新サイクロンの比じゃない。思う存分に使ってくれ」
 「俺のマシンも大分変わったみたいですね」
 風見が青く輝く自身のマシンを撫でながら言った。
 「ニューハリケーンだ。出力を大幅にアップさせている。700キロまで出るぞ」
 「ニューハリケーンですか。今のハリケーンに相応しい名前ですね」
 風見はそう言うとニヤリと笑った。
 「俺のはそんなに輝いていないですね」
 結城は自分のマシンを見て一言言った。
 「外見はな。ただエンジンを大幅に強化してある。ライダーマンマシンカスタムってとこだ」
 「ライダーマンマシンカスタム・・・・・・」
 結城は生まれ変わった愛車の名を呟いた。
 「前より性能がグンと上がっている。怪人だって吹き飛ばせるぞ」
 次に神敬介の方へ顔を向けた。
 「敬介、御前のはプロペラのところを特に改造してある。これで空中や水中での移動力がかなり上がったぞ」
 「それは有り難いですね。やっぱり俺はカイゾーグですから」
 「そう言うと思ったぜ。そのマシンの名前はクルーザーDだ。よく覚えときな」
 「はい!」
 その横ではアマゾンが赤く輝くマシンに乗っている。
 「違う、今までのジャングラーと違う・・・・・・」
 アマゾンはマシンに跨りながら呟いている。その声と顔は喜びに満ちている。
 「羽根のところを改造したんだ。これで空も飛べるしスピードも段違いに上がった」
 「他には?」
 アマゾンは子供の様に目を輝かせている。
 「おう、森も今までよりずっと速く走り抜けられるぞ。名付けてジャングラーG、もう怖いもんなしだ」
 その言葉を聞きながら楽しそうにバイクに乗るアマゾンだった。
 「俺のも随分と丁寧に改造してくれたみたいですね」
 城はカブトローを見ながら言った。輝きだけでなくその雰囲気も明らかに今までのカブトローとは違っていた。
 「お前さんのは電気吸収能力を大幅に上げた。空も飛べるし雷を受けたら音速を超える速さで走れるぞ」
 立花は自信に満ちた声で言った。
 「音速をですか・・・・・・。それは凄い」
 「名付けてカブトローVだ。超電子の力にも充分釣り合うだろう」
 立花は既にライダー達の改造の結果を博士達から聞いて知っていたのだ。
 「ええ、これなら問題ありません」
 「洋、お前のスカイターボもかなり改造しといたぜ。名付けてスカイターボカスタム」80
 谷が筑波に笑顔で言った。
 「スカイターボカスタム・・・・・・」
 「そうだ。ジェット噴射を強化したらマッハ1・3まで出るようになった。普通でも400キロは出る」
 「マッハ1・3ですか・・・。また凄い速さですね」
 「それだけじゃないぜ。装甲も強化したし空中戦の能力も上がった。スカイターボカスタムの名前は伊達じゃねえぜ」
 そう言うと二台のマシンの間に来た。
 「沖、これがお前のマシンだ」
 「はい」
 沖はその二台のマシンを見た。
 「これがVジェットカスタム」
 銀色の大きなマシンをポン、と右手で叩いた。
 「そしてこっちばブルーバージョン改」
 青く輝くマシンを左手で叩いた。
 「Vジェットカスタムはレーダーとか無線機を強化しといた。スピードは特にいじくっていない。元々かなりのスピードを出せる
マシンだからな。それでいいだろ?」
 「はい。電子系を改造してくれたのが心強いです」
 沖は笑顔で頷いた。谷は更に説明を続ける。
 「ブルーバージョン改は機動力を強化させた。空中や海上も移動出来るようになった」
 「つまりこっちは戦闘用ですね」
 「まあそうだな。元々そうだったし思いきって役割を分担させたんだ」
 「成程、今まで以上に臨機応変に使う事が必要ですね」
 「どうだ、出来るか?」
 谷のその言葉に沖は毅然として言った。
 「やるしかないでしょう」
 「そうだ、その意気だ」
 谷はその言葉を待っていた。それを聞いて満面の笑みをたたえた。
 「おやっさん達、有り難うございます」
 九人の戦士達はあらためて二人に礼を言った。だが二人はそれに対し非常に照れくさそうだった。
 「いや、わし等よりもなあ」
 立花はポリポリと頭を掻きながら恥ずかしそうに言う。
 「あいつ等の方が頑張ったし」
 谷が右の方を指差す。ガレージの奥の部屋が空いていた。そこでは滝やがんがんじい達がソファや床に転がって寝ていた。
 「滝・・・・・・」
 本郷と一文字が疲れきった顔で眠っている滝を見て言った。
 「がんがんじいも・・・・・・」
 筑波も口を開いた。
 「あいつ等がいなかったらここまで出来なかったよ。まあ散々こき使ったがな」
 「特にチョロと史郎君はな。色々と使い易かったし」
 二人は笑いながら言った。
 「そうですか、チョロも頑張ったんですね」
 沖がチョロの顔を覗きながら言った。思えば彼とも長い付き合いだ。
 「それにしてもここまでよく出来ましたね。流石ですよ」
 神がクルーザーをさすりつつ言う。顔に感謝と喜びの色がある。
 「まあ今回の改造で一番凄かったのは役君だ。何しろ全てのマシンの設計を考えてくれたのだからな」
 「えっ、彼が!?」
 ライダー達は思わず声をあげた。皆立花が設計し、改造したものだと思っていたからだ。
 「本当に彼には感謝しているよ。彼がいなかったらここまでは出来なかったな」
 そこへ役が姿を現わした。
 「大したことはありません。長野県警では白バイに乗っていた事もありましたし」
 謙遜した様子で答える。
 (だからといってここまでの改造が出来るのだろうか・・・・・・)
 風見はふと思った。だがあえて口には出さなかった。
 「それに前にも言いましたが大学では工学部でしたので。そこで学んだ知識を応用したのですよ」
 「成程」
 結城は違う、と直感したがそれを口に出さなかった。それは他のライダーも同じだった。
 「さてと、休んでる暇は無いぞ。早速今から特訓開始をはじめるぞ」
 「前に言った通りビシビシいくからな。皆楽しみにしろよ」
 「ええ、それはもう。そしてその場所は何処なんです?」
 城が尋ねた。
 「場所はあの崖だ。御前等が幾多の困難を潜り抜けてきたあの崖だ」
 「あの崖か・・・・・・」
 本郷と一文字の顔が感慨深げになる。かって彼等はショッカー、ゲルショッカーの強力な改造人間が現われる度にその崖で立花や滝と共に特訓に励みその敵を打ち破ってきた。その事が脳裏に甦ってきたのだ。
 それは他のライダーも同じであった。厳しく辛い血と汗、そしてそれ以上の懐かしさがこみ上げてきた。
 「さあ、さっさと行くぞ。早く準備を済ませろ」
 「そうだ。おい、御前等一体何時まで寝ているつもりなんだ」
 二人はそう言って眠っている滝達を叩き起こした。
 「折角これで休めると思ったのに・・・・・・」
 史郎が情無い声を出した。
 「馬鹿野郎、ショッカーが休んでいたか。ちょっとは進歩しろ」
 立花に怒られる。
 「史郎にも久々に会ったが」
 「ああ。全く変わってなくてほっとするよ」
 本郷と一文字が笑いながら言った。
 「じゃあわし等は先に行っとくからな」
 二人はそう言ってガレージの外に停めてあるジープに乗った。
 「行くぞ、奴等に勝つ為の総仕上げだ」
 「すぐに追いついて来い。御前達のマシンならすぐに追いつける筈だ」
 二人はそう言ってジープのエンジンをかけた。黒い煙を出し駆けて行く。
 「それならアマゾン達も」
 アマゾンが新しいマシンのエンジンを入れた。そして駆け出す。
 他のライダーもそれに続く。その後から滝達が自分達のバイクや車に乗り追いかけていく。

 伊藤博士は自室で椅子に座りコーヒーを飲んでいた。わりかし広い部屋である。ゼクロスのそれとは異なり装飾もある。
 ふと壁に架けられている一枚の写真を見たそこにはゼクロスと一人の女性が一緒に写っている。
 そこに写るゼクロスは笑っていた。信じられない位朗らかに笑っている。
 その横にいる女性も笑っている。その顔から二人が極めて親しい関係にある事がわかる。
 その女性は黒く長い髪をした美しい女性である。白いセーターに青いジーンズを着ている。
 「まさか君があの場所にいたなんて」
 博士の顔に悲しみが浮かぶ。
 「そしてあんな事になるとは・・・・・・。済まない、君を救えなかった」
 コーヒーカップをテーブルのコーヒー皿の上に置いた。カチャリ、と陶器がぶつかり合う音がする。
 「そして彼も・・・・・・・・・」
 博士は下を俯いた。その顔に悲しさだけでなく苦しみも浮かぶ。
 その時部屋に来客を伝えるチャイムが鳴った。
 「どうぞ」
 博士は入って来るように言った。それに応えシャッターが左右に開いた。
 来たのはゼクロスだった。無言のまま部屋に入って来た。
 「来たか」
 博士はその姿を認め呟いた。
 「真実を教えてくれ」
 ゼクロスはシャッターを閉めると一言だけ言った。
 「いいだろう。ではそこに座ってくれ」
 「解かった」
 ゼクロスは博士に勧められ席に着いた。
 「まず言おう。ゼクロス、君の本当の名はゼクロスではない」 
 「そうか」
 驚きは無い。何故なら彼には感情が無いからだ。
 「君の本当の名は村雨良。日本人だ」
 「むらさめ・・・・・・りょう・・・・・・・・・」
 「そう、それが君の本当の名前、君はこの日本で生まれたんだ」
 「日本人・・・・・・」
 日本、その国名と位置等は知っている。作戦遂行の為必要だから教えられた。
 「そして君には肉親がいた」
 博士は壁に架けられているあの写真を見せた。
 「この女性が君の姉。村雨しずかだ」
 「俺の・・・姉・・・・・・」
 どういうものかは解からない。感情というものが戻ったならば解かるのだろうか。ゼクロスはそう考えた。
 「この人はかって私の知り合いだった。私の生徒の一人だった」
 「博士の・・・・・・」
 「そして君の事も私は知っていた。君はかっては陽気ないい青年だった」
 「そうだったのか」
 だからといってどういう事も無かった。ただ話を聞いて憶えるだけである。
 「彼女はもういない。死んだ、いや、殺されたのだ」
 「殺された、誰に・・・・・・」
 それを聞いて博士は非常につらそうな顔になった。えも言えぬ悲しみが彼を襲った。
 (自分の肉親の、最愛の姉の死さえもその記憶から奪い去られてしまっているのか・・・・・・)
 彼は思わず泣いた。顔には出さない。心で泣いた。
 だがその涙をすぐに拭いた。何故なら彼より悲しむべき者が今目の前にいるからだ。
 「バダンだ。君の目の前で殺された」
 「俺の目の前で・・・・・・」
 そう言われても何も解からない。彼の記憶はゼクロスとなって目覚めたその時より始まったのだから。
 「そして君は記憶と感情を奪われた。バダンの野望の為に君の記憶は不要だからな」
 「だから俺には記憶も感情も無いのか」
 しかし怒りも悲しみも湧かなかった。ただその話を受け止めるだけである。
 「バダンにとって君は世界征服の道具でしかない。君は滑稽なマリオネットなのだ」
 「マリオネット・・・・・・・・・」
 「君は操られているだけなのだ。今の君は単なる兵器だ。強力なだけのな」
 「兵器・・・・・・俺が・・・・・・」
 今までゼクロスは最強の改造人間、バダンの誇りと首領や暗闇大使に言われてきた。だからといってどうという事も無かったがそれは彼が道具として、兵器として優秀だからそう呼んだだけなのだ。
 「本当なら君はこのまま世界征服の最強の駒として使われ続けただろう。だがもうそれは出来ない」
 博士の目が光った。
 「あの九人ライダーとの闘いがおそらく君の感情を呼び起こしたのだ」
 「ライダー・・・・・・」
 彼等の事はよく憶えていた。最後の総攻撃の衝撃は忘れられない。
 「あの時のショックが君の封じられていた感情をほんの僅かだが呼び戻したのだ。本来の人間としてのな」
 「人間として・・・・・・・・・」
 「君は道具なんかじゃない、君は人間なんだ。例えその身体が機械だとしても」
 「人間・・・・・・」
 彼は教えられた。人間とは忌むべきものだと。だからこそ改造人間こそ素晴らしいのだと。
 「真実の一つはそれだ。君はどんな身体を持っていても人間なんだ」
 「真実の一つ・・・・・・・・・」
 彼の心の中に何かが宿った。だが彼はそれに気付かなかった。
 「人間として生きるんだ。そしてその力を正義の為に使うんだ」
 「正義・・・・・・」
 また新たな言葉が脳裏に刻まれる。
 「バダンは悪だ。世界を征服し全てを支配しようとする悪の軍団だ」
 「悪の軍団・・・・・・」
 その言葉もゼクロスの脳裏に焼き付いた。何故か忘れようとしても忘れられない言葉であった。
 「君の姉さんを殺し、君の心を奪い改造人間にしたバダンを倒すんだ。そして世界を救って欲しい」
 「それも真実なのか。俺がバダンと戦う事が」
 「そうだ、真実だ。君はバダンと戦わなくてはならない。仮面ライダー達と同じ様に」
 「仮面ライダーと同じ様に・・・・・・」
 その言葉を反芻した。
 博士はゼクロスの変身した後の姿に思いを巡らす。そう言えばその姿は仮面ライダー達に実によく似ている。
 (それも当然か。仮面ライダーを研究して開発、改造されたのだからな)
 「そう、君は仮面ライダー達と共に戦うべき人間なのかも知れない」
 「俺がライダーと・・・・・・。敵であるライダー達と・・・・・・」
 「そうだ。さしずめ君は十人目のライダーか。仮面ライダーゼクロスだ」
 「仮面ライダーゼクロス・・・・・・」
 「そう、君は今から仮面ライダーゼクロスだ。正義の為に戦う十番目の光なのだ」
 「光・・・・・・。俺が・・・・・・」
 感情も記憶も無い。その心は深い闇の中に囚われている。その彼が光なのだ。
 (希望は様々な災厄の中に埋もれているもの。彼はバダンという災厄の中に埋もれていた希望なのだ)
 今その希望が放たれた。彼は確信した。
 「ゼクロス、いや村雨君、すぐにバダンを出るんだ。そしてバダンと戦え」
 博士は意を決して言った。これこそ彼が最も言いたかった事であった。
 「・・・・・・博士はどうする?」
 「私?私は・・・・・・」
 自分は罪を犯し過ぎた。最早生きてはいられないと考えていた。その罪を自らで決するつもりだった。
 「博士も来てくれ。悪と戦うには多くの力が必要なのだろう」
 その言葉は何気無い戦力分析から出る言葉であった。だがそれが博士の、そして世界の命運を大きく左右する言葉になったのである。
 「しかし私は・・・・・・」 
 「俺に過去は無い。これから思い出す過去がどんなものか俺は知らない。それも教えて欲しい。俺には博士の力が必要だ」
 「村雨君・・・・・・・・・」
 彼は思い出していた。親友の志度博士もネオショッカーに囚われていた。そして彼を救った青年筑波洋の命を助ける為彼を改造人間、スカイライダーにした。そして彼に救われネオショッカーを脱出した。それ以後はスカイライダーと共にネオショッカーと戦い続けた。
 (罪は償わなくてはならない、そう言っていたか)
 友の言葉を思い出す。そして今は自分が償う時だと思った。
 「解かった。行こう。私も君と共に行こう。そしてバダンと戦おう」
 「よし」
 二人は頷き合った。そして席を立つ。
 「まずはこの基地を脱出するんだ。道は私が教えよう」
 二人は歩きはじめた。
 「そしてどうやって脱出するのだ」
 ゼクロス、いや村雨は横にいる博士を見下ろして言った。
 「格納庫に君の愛車を置いてある。ヘルダイバー、これから君を乗せ戦場を駆け巡る君の心強い相棒だ」
 「俺の相棒・・・・・・・・・」
 それがどういうものなのか彼には解からない。ただ彼は一人でない事だけがわかった。
 「それでこの基地を出る。それからでないと全ては始まらない」
 「全てが・・・・・・・・・」
 そう、全ての運命の歯車が回り始めていた。
 「行こう、村雨君。君の心と記憶を取り戻す為に。そして悪を討ち滅ぼす為に」
 「ああ」
 二人はシャッターを開いた。それが新たな戦いの幕開けであった。

 「どうした、そんな事でバダンの奴等に勝てるとでも思っているのか!」
 立花藤兵衛の罵声が木霊する。ここは特訓場に使われている崖であった。
 「もう一度だ、一度出来たからといって慢心するな!」
 ダブルライダーが崖を全速力で駆け登って行く。そして頂上から飛び降り蹴りを繰り出す。
 「相変わらず厳しいな、おやっさんは」
 ライダーマンと組み手をしつつ滝が呟いた。
 「ああでなくちゃ今までの悪の組織とは戦えませんよ。流石はおやっさんです」
 ライダーマンが相槌を打つ。その間にも二人は激しい打ち合いをしている。
 「早く、もっと早くだ!」
 谷がスーパー1を叱咤する。ファイブハンドのチェンジを素早くさせているのだ。
 「いくら能力が上がったからといって使う者が駄目では話にならん、もっと使いこなせ!」
 「はい!」
 スーパー1は必死に五つの腕の換装を急いでいる。それと共に赤心少林拳の切れも磨いている。
 「スカイライダー、御前はまだ空に飲まれている!まだ自由に空を飛んではいないぞ!」
 谷は上空を飛ぶスカイライダーに眼をやる。そして怒号を飛ばす。
 「陸にいる時と同じ様に自由自在に動けるようになれ、さもないと死ぬのは御前だ!」
 「は、はいっ!」
 スカイライダーも懸命に空を飛ぶ。彼も必死である。がんがんじいがそれを見守る。
 「ぐ、ぐうううううう・・・・・・」
 ストロンガーがチャージアップする。そして長時間の戦闘訓練をする。よこにはチョロや史郎がいる。
 「か、身体が砕けそうだ・・・・・・」
 超電子ダイナモはその絶大な力により身体にも多大な負担を与える。変身し、戦う時には全身を引き千切る様な痛みが走る。それに耐える事だけでも苦しいのだ。
 だが今彼はそれに耐え特訓を続けている。改造により超電子の力が望む間だけ使えるようになった。それならばこの力に完全に適応しなくてはならない。
 「ストロンガーも辛そうだな。今までここぞという時だけ使っていただけだったからな」
 「ああ。だが今はそんな悠長な事を言っている場合じゃない。あのバダンには超電子の力を常に使ってようやく五分と五分、といったところだからな」
 V3は日本に来た佐久間ケンを相手に特訓を受けている。佐久間は上から巨大な岩を落そうとしている。
 「先輩、いいですかあ?」
 V3はそのしたにいる。岩は今にも落ちて来そうである。
 「ああ、何時でもいいぞ」
 テコを使い岩を落とす。それは轟音をあげV3の頭上に落下して来る。
 「逆ダブルタイフーーン!!」
 V3の腰のダブルタイフーンが唸り声をあげる。そして激しい風を巻き起こし岩を砕いた。
 「次だ!」
 続いて岩が落ちて来る。V3はそれに対して身構えた。 
 「ぐおっ!」
 拳で打ち砕こうとした。だが力が足りない。咄嗟に両手で受け止め横に投げ落とす。
 「まだだ、まだこんなものでは駄目だ・・・・・・」
 逆ダブルタイフーンの後は急激に力を消耗している。その時に生じる隙をなくす事が課題であった。
 深い木々の中を走る獣の様な影。アマゾンであった。
 「ケケーーーーーッ!!」
 雄叫びをあげ走る。そこに弓矢が襲い掛かる。
 「ケーーーーッ!」
 それを両手の鰭で叩き落す。そして木の上から降下してくるトラップをかわす。
 地に降り立つ。だがそこはブービートラップだった。中には竹槍が立っている。そこへ頭から落ちていく。
 だが片手で竹槍の先を咄嗟に掴んだ。そしてその力だけで飛び上がり死地を脱する。
 「流石だな。 ガガの腕輪の力も完全に取り入れている」
 役が木の陰からその様子を見守っている。彼がアマゾンの特訓の相手だった。
 「だがまだまだ。この程度ではバダンには勝てない」
 拳銃を放つ。だがアマゾンはそれを驚異的な反射神経でかわす。
 崖の側には湖がある。その中にⅩライダーはいた。
 「ムウッ!」
 上から銛が放たれる。水中銃によるものだ。
 Ⅹライダーはそれをライドルで全て落とした。前から巨大な生物が来る。何とそれは首長竜だ。
 「しかし海堂君、いくら何でも機械竜を特訓に使うとは」
 志度博士は船の上からⅩライダーとその竜の戦いを見ながら傍らにいる海堂博士に言った。
 「出来る限りのことはしなくてはね。相手はバダンだ、おそらくこの程度ではない」
 彼は表情を変えずに言った。
 「しかし・・・そうか、そうだったな」
 彼等の怖ろしさは志度博士自身も嫌になる程知っていた。だから納得した。
 ライダー達の命懸けの特訓は続いていた。それは将に命を賭けた戦いそのものであった。
 真夜中まで特訓は続いた。食べる時以外は休む事もない。眠り、起きて再び特訓を開始する。そんな日々が続いた。
 だがその特訓がライダー達を鍛えていった。何時しか見違えるまでになっていた。
 

 村雨と博士は格納庫にいた。目の前に戦闘機の様な姿の白いマシンがある。
 「これが・・・・・・」
 「そうだ、これが君の乗るマシン、ヘルダイバーだ」
 博士は言った。村雨は既にゼクロスの姿に変身している。
 「これに乗り行こう。そしてこの基地を脱出するんだ」
 「わかった」
 ゼクロスは膝の爆弾を取り外した。そして格納庫のシャッターへ向けて投げ付ける。
 爆発がした。そしてシャッターは壊れた。そのから青い空と白い光が見える。10
 「光か、太陽の光・・・・・・」
 博士はそれを眩しそうに見た。
 「久し振りに見た。若しかしたら永劫に見られないのでは、と考えた事もあったが」
 心がその光を欲していた。その光を今すぐにでも浴びたかった。
 だがそれを急いではならない。今は傍らにいるこの若者と共に出るのだ。悪の巣から。
 「博士、ヘルダイバーのエンジンはどうして入れるのだ」
 ゼクロスが尋ねる。既にマシンに乗っている。
 「そうか、それは・・・・・・」
 足のギアを教える。ゼクロスは躊躇無くそのギアを踏んだ。
 エンジンがかかった。博士はゼクロスの後ろに乗った。
 「さあ行こう、光の世界が君を待っているぞ」
 ヘルダイバーは二人を乗せて走りはじめた。爆音が格納庫に響きそれはすぐに光の中へ入っていった。
 
 二人の脱走を知った基地は大騒ぎとなった。戦闘員達が武器を手に走り回り警報音が鳴り響く。
 「二人は今何処にいる」
 暗闇大使は指令室で戦闘員の報告を受けていた。
 「はっ、基地を脱出後富士の山麓にいる様です」
 戦闘員の一人が敬礼して報告する。
 「そうか、すぐに追っ手を差し向けろ。何としてもあの二人を連れ戻せ」
 「伊藤博士もですか?」
 戦闘員は尋ねた。必要なのはゼクロスだけだと思っていたからだ。
 「そうだ。博士の頭脳は我がバダンにとって必要なのだ。何としても生かして連れて来い」
 「はっ、了解致しました」
 戦闘員はその命を受領して退室した。
 「博士の頭脳が無ければあれを完成させるのは困難だ。あれのな・・・・・・」
 暗闇大使は呟いた。ふと横の壁を見る。そこには何やら巨大な兵器の建造計画が描かれていた。
 「暗闇大使、及びですか」
 戦闘員と入れ替わりに声が聞こえてきた。彼の後ろに影が現われた。
 「御前達か」
 暗闇大使は振り向かずその声を聞いて答えた。
 見れば影は一つだけではない。十人以上の影がある。
 だがその影は人のものではなかった。異形の怪物のものであった。
 「ゼクロスがこの基地を脱走した。博士も一緒だ」
 「何と・・・・・・」
 影の一つが呻く様に言った。
 「追撃しろ。そして連れ戻すのだ。博士共々生きた状態でな」
 「はい」
 影達は答えた。
 「行くがいい。朗報を期待しているぞ」
 「解かりました。是非楽しみにしておいて下さい」
 影達は一斉に消えた。その後には気配一つ残っていない。
 いや、一つだけ残っていた。違った。残っていたのではない。彼等が部屋を去ると同時に現われたのだ。
 「御前は行かぬのか」
 見れば男の姿である。口に何か咥えている。煙草であろうか。煙を出している。
 「奴が・・・逃げたか」
 男はこちらを振り向く事なく言った。低くドスの効いた声である。
 「組織を・・・・・・バダンを裏切って・・・・・・」
 煙草を噛んだ。ブチッ、と音がして煙草が噛み千切られる。
 床に落ちた煙草を足で踏み付けて消す。黒い皮の靴だ。
 「どうした、許せぬか」
 暗闇大使はいわくありげに男に言った。横目で彼を見つつ口の端で笑う。
 「・・・・・・・・・」
 男は答えない。暗闇大使の方も振り向かない。ただ立っているだけである。
 「行くがいい。そしてその憤りを晴らすがいい」
 男は無言で部屋を立ち去った。暗闇大使はそれを口の端だけで笑いながら送った。

 ゼクロスと博士は富士の山麓を進んでいた。周りは樹海である。
 富士の樹海は一度入ると出られない事で知られている。自殺の名所でもありその土の中には多くの骨が埋もれていると言われている。
 「博士、行き先はこれでいいか」
 「うむ、そのまま進んでくれ」
 その中を二人は進んでいる。ヘルダイバーは樹海をものともせず進んでいる。
 「私はかって自衛隊の隊員と共にこの樹海へ来た事がある。その時に道は調べておいた。どんな場所でも必ず道はある。だから任せてくれ。絶対に抜けられる」
 「解かった」
 ゼクロスは博士の言葉に従った。
 その上で何かが煌いた。そして数本のナイフが飛んで来た。
 「ムッ!」
 ゼクロスは肘から十字手裏剣を取り出した。そしてナイフが飛んで来た方へ向けて投げる。
 重い物が落ちる音がした。戦闘員達だった。
 「追っ手か・・・・・・」
 博士は喉に手裏剣を受け倒れる戦闘員達を見て言った。
 「おそらくこれからも次々と来るだろう。用心してくれ」
 「解かった」
 ゼクロスは振り向かずに言った。そしてただひたすら進んで行く。
 多くの戦闘員達が襲い掛かって来た。だがゼクロスはそれを何事も無い様に次々と倒していく。
 (何という強さだ)
 博士はそれを見ながら思った。
 (この力、これさえあればバダンの野望も・・・・・・)
 博士は微笑んだ。ゼクロスの圧倒的な強さに希望を見出していた。
 樹海を出た。周りは岩山となっていた。
 「ここを超えれば東京まですぐだ。そして城南大学の海堂という人物のところまで行こう」
 「海堂・・・・・・。誰だそれは」
 「私の古くからの友人だ。彼ならばきっと我々の力になってくれる」
 「そうか」
 そのまま進む二人。だがゼクロスが急にそのマシンを止めた。
 「?どうした?」
 ゼクロスは右上の山の方を見ている。そこに何かを感じているのだろうか。
 ゼクロスはマシンを降りた。そしてその場所へ身体を向けて立った。
 「ふふふふふ、流石はバダン最強の改造人間。やはり我々の気配を察しましたか」
 声がした。するとその山の上から一斉に影が現われた。
 「な、御前達は!」
 博士も思わず声をあげた。そこには博士も良く知る者達がいた。
 男もいれば女もいる。容姿も服装もその歳もまちまちだ。若い者もいれば年をとった者もいる。だが一つだけ共通するものがあった。彼等が発する気である。それは異様な殺気だった。
 「お久し振りです、伊藤博士」
 中央にいる男が微笑んで言った。黒い服を着た中年の白人である。
 「き、貴様は・・・・・・・・・」
 彼の姿を認め博士の顔が蒼ざめていく。
 「我々と共にバダンへ帰りましょう。貴方方の素晴らしい力は我等の為に使われるべきなのです」
 「言うな、最早貴様等の悪しき野望の力になぞならん!」
 博士は激昂して言った。その言葉には怒りが滲み出ている。 
 「困りましたね。それでは無理にでも帰って頂かなくてはなりませんが」
 男が手を上げた。すると無数の巨大な棘が地面から飛び出て二人の周りを取り囲んだ。
 「これは警告です。もう一度お聞きします。我等と共に大人しくバダンへ帰って頂きますか?」
 「断る?」
 「そうですか。ではゼクロス、貴方は?」
 「・・・・・・俺か」
 「ほう、どういう事かわかりませんが喋れる様になったのですね」
 ゼクロスはゆっくりと言葉を発しはじめた。
 「俺は真実を知る為、そして感情と記憶を取り戻す為に行く。そして正義の為に貴様等と戦う」
 「フフフ、正義ですか」
 男はその言葉を聞き笑った。
 「愚かな事を。バダンこそが正義であり真実であるというのに」
 「嘘を言え、貴様等が正義の筈が無いだろう!」
 博士は声をあげた。その顔が怒りで朱に染まっている。
 「貴様等は彼に何をした、彼の姉を殺し、彼の記憶を心を奪い去ったではないか!」
 更に言葉を続ける。
 「あまつさえ彼を機械の身体にしその野望の為の道具にしようとした・・・・・・。貴様等はそれでも自分達を正義と戯言を言い続けるのか!」
 「フ、フフフフフ」
 その男だけではない。後ろにいる者達も笑った。
 「博士、もう少し落ち着かれたらいかがです?あまり腹を立てられるとお身体に障りますよ」
 「なっ・・・・・・!」
 そのあまりにも侮蔑と嘲笑のこもった言葉に博士は絶句した。
 「考えの、視点の相違というものですな。我等の素晴らしい理想をまだ御理解して頂けていないとは」
 「理想だと、自分達に従わない者は全て抹殺する事が理想か!」
 「そうです。この世界には選ばれた者、優れた者だけがいれば良いのです。それ以外のゴミは除去しなくてどうするのですか」
 「ゴミだと・・・・・・。平和に慎ましく生きている人達がゴミか!」
 博士の怒りは収まらない。尚も言葉を叩き付ける。
 「そうです。この世界は戦いにより育てられるもの。それを嫌いただ生きている者などゴミでなくて何だというのです」
 男達は笑った。その口が三日月の様に禍々しい形になる。
 「我がバダンは戦いと流血により全てを生み出します。ゴミ達も我等の糧となり満足して死ねるでしょう。そう、そこにいるゼクロスの姉の様にね」
 「き、貴様が殺したというのに・・・・・・・・・。貴様はそれでも人間か!」
 「人間!?何ですかその貧弱で愚かな生物は」
 男が手を動かした。その手の影が映る。それは人のものではなかった。
 「我等は選ばれし人を超えた存在。二度とその様な下等生物などと一緒にしないで欲しいですね」
 その右手から槍を浮かび上がらせた。それを博士の足下へ投げる。
 「くっ・・・・・・!」
 博士は男を睨み付けた。だが男はそれに怯んだり悪びれる様子もない。ただ侮蔑と嘲笑をたたえた笑みで見下ろしているだけである。それが人を超えた者の余裕であろうか。
 「最後にもう一度だけお聞きします。我等と一緒にバダンへ帰って頂きますか?」
 後ろの者達が降り立った。そしてゼクロスと博士の周りを取り囲む。
 「・・・・・・何度聞いても無駄だ。断る!」
 「俺は貴様等の言いなりにはならん」
 二人は言った。博士は怒りで身体を震わせつつ、ゼクロスは感情の無い声で。
 「・・・・・・それでは仕方がありませんね」
 男は笑った。その気が異様に高まっていく。
 「無理にでも連れて帰らせて頂きますか」
 男の姿が徐々に人でないものに変わっていく。他の者も同じだ。
 「待ってくれ」
 その時声がした。左手の岩山の上からだ。
 「むっ!?」
 男達が変身を止めた。そして左の方を見上げる。
 「三影・・・・・・・・・」
 そこには一人の長身の男がいた。皮の黒いジャンパーと黒いズボンを身に着けた黒ずくめの男である。髪はリーゼントにしサングラスをかけている。
 口には煙草を咥えている。それを指で投げ捨てると黒の革靴で踏んで消した。
 一見すると昔のロックンローラーの様だが雰囲気が違う。まるで獣、それも巨大な虎や豹の様な殺気を全身から出している。
 「悪いがここは俺に任せてくれ。元々俺はこいつと共に行動する予定だったしな」
 「むうう・・・・・・」
 男は表情を曇らせた。何か不満があるらしい。
 「わかりました」
 男は納得した。そしてその殺気を収めた。
 「ゼクロスと博士の事は貴方にお任せしましょう。是非とも連れて帰るように」
 そう言うと右手を上げた。その足下から姿が消えていく。
 他の者達も同じだった。そしてその姿を完全に消した。
 「帰ったか。これで邪魔者はいなくなった」
 先程三影と呼ばれた男はゼクロスと博士に向き直った。
 「ゼクロス、いや村雨よ久し振りだな」
 「お前は・・・・・・・・・」
 ゼクロスは尋ねた。
 「憶えていないか。記憶を消去されているからな」
 三影はそう言うとサングラスを取った。細く鋭い眼が現われた。
 ただしそれは左だけである。右目は義眼であった。黒い中に白い球がある。
 否、それは義眼ではなかった。普通の眼と同じ様に動いている。どうやら機械の眼らしい。
 「あの時御前を助けた時に失くしたこの右目の事も忘れたのか」
 「右目・・・・・・・・・」
 ゼクロスはその冷たい光を放つ眼を見て呟いた。
 「仕方が無いか。御前は最早人ではなく完全な機械なのだからな」
 「機械・・・・・・俺が・・・・・・・・・」
 その言葉にゼクロスは微妙に反応した。
 「馬鹿を言え!彼は人間だ!」
 博士が反論する。だがそれは三影の言葉により打ち消された。
 「脳だけはな。だが心の無いこいつの何処が人間だというのだ」
 「何っ・・・・・・」
 博士は言い返そうとする。だがそれより前にゼクロスは言った。
 「違う。俺は人間だ。博士の言う通り俺は人間だ」
 「何っ!?」
 その言葉に三影の左眉がピクリ、と動いた。
 「人間だというのか。御前は自分をあの弱くて愚かな人間だと」
 左眼に冷たい光が宿る。白く冷たい息を吐いた。
 「そうだ。弱くて愚かかどうかは知らないが俺は人間だ」
 ゼクロスは更に言った。その言葉に三影は顔を伏せた。そして再びサングラスをかけた。
 「伊藤博士、余計な事を吹き込んでくれたな。そもそも感情を一切持たぬこいつが言葉を話すこと事態おかしいとは思っていたのだが」
 後ろに跳んだ。そして間合いを取った。
 「再び改造しなくてはならないな。それも徹底的に感情を消して」
 全身を白い瘴気が包む。彼もまた人にあらざる者に変わろうとしている。
 その彼を一発の銃弾が襲った。散弾銃だ。流石に変身中では耐えられず後ろに吹き飛ばされる。
 「ぐふぅっ・・・・・・・・・」
 それでも起き上がった。だが口から血を吐く。どうやら肋骨が数本折れているようだ。
 「おのれっ、誰だ」
 上の方を見回す。サングラスを外し右の機械の眼で見回す。
 だが誰もいなかった。それを確認し三影は舌打ちした。
 「・・・・・・ライダーではないようだな。だとすれば一体誰だ、この俺に直撃を浴びせてくれるとは」
 胸を押さえつつ起き上がった。そしてゼクロスの方を見る。
 「ゼクロス、いや村雨良。今は行かせてやる」
 胸を鈍い激痛が襲う。それにより身を屈めるが気力で上体を起こした。
 「だが忘れるな。貴様はバダンに帰る宿命なのだ。それが貴様の定められた運命だ」
 三影はそう言い残すと姿を消した。
 「運命・・・・・・・・・」
 ゼクロスは三影が言ったその言葉を反芻した。
 「気にするな。運命は自分で切り開くものだ」
 博士はゼクロスに対し首を横に振りつつ言った。
 「自分で切り開く・・・・・・」
 「そうだ。それが人がするべき事なんだ。自分の道は自分で選んで切り開いていく事が」
 「そうか・・・・・・」
 「それが今君が進んでいる道だ。さあまたその道を進んでいこう」
 「ああ」
 ゼクロスは棘を打ち払い再びヘルダイバーに乗った。博士がその後ろに乗る。
 マシンが再び走り出す。それはすぐに見えなくなった。
 それを遠くから見る影が一つあった。役である。
 「これで良し」
 見えなくなったヘルダイバーを見送りながら彼は言った。
 「全ては予定通りだ」
 一言そう呟くとほくそ笑んだ。その顔はまるで何かを知っているようだった。

 脱出  完



                 2003・11・26 
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