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テイルズオブザワールド レディアントマイソロジー3 ―そして、僕の伝説―

作者:夕影
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第四十二話



「――…なん…だと…っ!?」


――自分の目前で起こった出来事に、サレは驚きを隠せない様子で口を開いた。
近くには自分が傷つけた憎き好敵手、ヴェイグがいるというのに…それよりも、目前で起こった事が理解出来ずにいた。

そう、何故なら……。


「どうして……どうして殺さない!?乾衛司っ!」



自分が、自分の命令に従うように催眠をかけ、更に理性すら奪う為に赤い煙の力を取り込ませた相手…『乾衛司』が、振り上げていた刃を目前にいる者に振り下ろす直前で、攻撃を止めたのだから。



―――――――――――――





「――っ…お前…何してんだよっ!?」

――本来、来るであっただろう攻撃に思わず目をつぶっていたスパーダであったが、いつまでたっても攻撃が来ないので目を開けると、自分の目前の出来事にそんな声を出した。
何故なら…今スパーダの前で、カノンノがスパーダを守るように両手を広げて立ち、その顔のすぐ手前で衛司の攻撃が止まっていたのだから…。

スパーダの声に、カノンノは僅かに震えながら顔だけ向けると口を開いた。


「…こうやったら、衛司も攻撃を止めてくれるって思って…。衛司…女の子には優しいから…」


「な…馬鹿な事言ってねぇで離れろ!今は確かに止まってるけど、またいつ剣を動かすか分かんねぇんだぞっ!?」

カノンノの言葉にスパーダは唖然とするが、すぐにそう声を荒げる。
だが、カノンノは首を横に振ると、キッと衛司の方に顔を向き直した。


「それは…やだよ。もし、私が離れたらきっと衛司はスパーダに攻撃すると思うから。私は…もう衛司が自分の意志じゃないのに誰かを傷つけるのも、衛司が傷つくのも見たくないから」


「カノンノ…お前…」


「…ゥゥ…ォォォォ」


両手を広げたまま衛司を真っ直ぐと見てそうカノンノが言うと、スパーダはそれに呆然とし、衛司は少しずつ剣を引き出した。


「……ねぇ、衛司。私の声…聞こえてるかな?…ううん、きっと聞こえてるよね。衛司…いつも私の話、聞いてくれたから」



「…ゥ…ゥゥゥゥ…」


衛司を真っ直ぐと見たままカノンノがそう言っていくと、衛司は話を聞いているかのように剣を離して立ち尽くす。


「何をしている、衛司っ!早くソイツを殺せと…――」


「――絶氷刃っ!」


「ぐっ!?ヴェイグゥゥウゥっ!!」


いまだに目前の者を殺そうとしない衛司にサレが声を荒げ命令しようとするが、それをヴェイグが氷を纏った大剣で妨害する。




「…ねぇ、衛司…衛司が欲しかった『力』はそんなものだったの?…ただ、目の前の物を引き裂くような力だったの…?」


「ゥゥ…グゥゥゥゥゥ…」


「違うよね…だって…今、私達が衛司を助けようとしてる『力』は…そんなものじゃないから!」


衛司を真っ直ぐと見たままカノンノはそう言うと一歩、一歩と衛司に歩み寄る。
衛司はカノンノの言葉を聞き、ただ低く声を出しながら立ち尽くしている。

そして……。


「…もう、一人で抱え込まなくてもいいんだよ。皆、いるから。…私も、いるから」


「ゥゥ…っ!」


カノンノは衛司のすぐ目前まで歩み寄ると、広げていた両手を前に伸ばして立ち尽くしていた衛司を抱きしめた。
衛司はそれに僅かに驚いたような様子を見せ、視線を自分を抱きしめるカノンノに向けて下ろす。

「だから衛司…お願いだから…元に戻ってよ。私は…そんな衛司…見たくないから…」


「ゥゥ…ゥゥゥゥゥゥ…」


「お願いだから戻ってよ、衛司っ!私は…いつも、皆と一緒に戦って、皆と一緒に笑って、…それで、私の話を聞いて、信じて一緒に居てくれる衛司が…大好きだからっ!」


「ゥゥッ…!…カノ…ン…ノ…」



衛司を抱きしめたまま、真っ直ぐと見上げるような形でカノンノが言葉を告げると、衛司の表情が崩れ、途切れながらもカノンノを呼んだ。



「……っ!メリア、今なら行けるかっ!?」


「……っ…多分いける…やってみせるっ!」


二人の様子を呆然と見ていたスパーダが衛司の様子の変化にハッとしたように気付き、近くで同じように呆然と見ていたメリアにそう声をあげる。
メリアはそれに小さく頷くとそう答え、二人の元に走り寄る。
そして……


「衛司……私も…助ける…っ!」



二人の近くまで駆け寄りメリアはそう言うと、メリアの両手から光が溢れ出す。
そして……その場を光が包み込んだ。






――――――――――――



――光が止むと、その場に居た全員が、全てが静まり返っていた。
そしてが静まり返っている中、皆の視線は一転に集中していた。

光が溢れ出した中心…そこで静かに二人を見るメリア。その視線の先で、衛司を抱き締めたままでいるカノンノ。そして…先程までの、身体の所々から生やした結晶が消え、右腕と同化していた星晶剣は赤から白へと色が変わり、一本の剣として右手に握り締めている衛司であった。


「――……衛司…?」


光が止み、姿が戻って静かになった衛司に不安を持ちながら、カノンノはゆっくりと顔を上げて衛司の顔を見る。
それに対して返ってきたのは……。



「――…ただいま、カノンノ」


そう言って微笑み、左手でカノンノの頭を撫でる…衛司の姿であった。


「……衛司…?」


「…うん」


「…元に、戻ったの…?」


「…うん」


「…わ、私の事…分かる?」


「うん、分かるよ…カノンノ」


「…良かった…良かったよぉ…う、うわぁぁぁぁんっ!」


「うん…ごめんね。本当に…ごめんね」


聞き、返ってくるいつもの優し気な声と微笑みに、カノンノは我慢していたものを止めたかのように声を出して泣き出し、衛司はそれに、申し訳無さそうな表情を浮かべた後落ち着かせようと少しカノンノの頭を撫で、カノンノをそっと抱き締め返した。


「……よくやったな、メリア」


「…私も衛司が大好きだから…戻って良かった…。…でも…カノンノがちょっと羨ましい…」


「へへ…戻っても大変そうだな、衛司のヤツ」



カノンノと衛司の様子を見ながらスパーダが二人を見守るメリアに歩み寄って言うと、メリアは二人を見ながらそう答え、スパーダは小さく笑ってそう言葉を出した。




――――――――――――




「――衛司…良かった。元に戻ったんだ」


――離れた位置で戦っていたジュードは、元に戻った様子を見て安心したように言葉を出した。


「――……優等生。俺…降参だわ」


「…アルヴィン…」


「安心しろよ。クレアも無事だし…もう裏切らねぇ。俺の目的も…叶ったからな」


ジュードの近くで、アルヴィンは『降参する』というように両手を上げてそう言うと、元に戻った衛司の姿を認識し、安心したような吐息を漏らした。
そのアルヴィンの肩には…一羽のシルフモドキが止まっていた。





 
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