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スーパーヒーロー戦記

作者:sibugaki
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第5話 ウルトラ作戦第一号

 宇宙は広い。私達人間の常識など及びもしない程に、宇宙は広いのだ。
 そして、その広い宇宙の何処かに、人知れず宇宙の平和を守っている者達が居る。彼らは宇宙の平和を守る為、日夜戦い続けているのだ。
 そして、今二つの光球が地球に向かって飛んできていた。
 漆黒の宇宙をひたすら逃げる青い玉とそれを追う赤い玉の二つであった。





      ***





 竜ヶ森上空をパトロールしていた小型戦闘機「ジェットビートル」を操縦する若き青年ハヤタ隊員は、地球に向かう謎の二つの球を発見する。

「ん? 何だあれは」

 不審に思ったハヤタは通信機を手に取り近づける。無線のスイッチをONにし通信が繋がるのを待つ。通信が繋がったのを確認しハヤタは言葉を放った。

「ハヤタより本部へ。ハヤタより本部へ。謎の光を発する二つの球を発見しました。直ちに追跡に入ります」
『よし分かった。引き続き追跡を続行せよ。連絡が入り次第我々も出動する』

 通信機越しから中年の男性の声が響いてきた。
 その声にハヤタは「了解」と一言告げると追跡を行いながら逐一報告をしていく事にした。あの球体が何なのか知らなければならない。もしかしたら外宇宙から来た侵略者かも知れないからだ。そして、これこそが彼の運命を変える事になろうとは、この時彼は予想などしていないのであった。




     ***




 その頃、竜ヶ森付近ではテントを張りキャンプを楽しむ甲児達の姿があった。前日にテレビで見ていた竜ヶ森湖に来ていたのだ。

「う~ん、たまにはこう言った休日も良いなぁ。日頃の特訓の疲れが吹き飛ぶ感じがするぜ」

 丸太で作られたベンチに座り甲児が背伸びをする。そんな甲児を見て皆が笑っていた。
 其処には弟のシローは勿論、さやかやなのは、それにボス達も来ていた。最初は三人だけのつもりだったのだがそれを聞きつけたさやかやボス達も行くと言い出したので結果これだけの大所帯となった次第である。

「あらあら、全然上手く出来てない割に言う事は一丁前ねぇ」
「な、何だとぉ!」
「そんな台詞を吐く位ならなのはちゃん位頑張ったらどうなの? 彼女此処数日でかなり上達したみたいよ」

 さやかがそう言って隣に座っているなのはを見る。それを聞いたなのはが少し恥ずかしそうな顔をしだした。自分を比較にされるのはちょっぴりくすぐったい気持ちになる。

「そ、そんなぁ、まだまだですよ。私だってまだ攻撃的な魔法とかは使えませんし」

 なのはの言う通りであった。
 今使えるのはジュエルシードの封印とバインドの二つである。
 ジュエルシードの封印はなのはにしか出来ない仕事である。が、ジュエルシードが単独の場合はなのはでもどうにかなるのだが、物に憑依した状態のジュエルシードでは苦戦を強いられる事となる。
 それが巨大な怪獣に憑依されたら溜まった物じゃない。その為にも今は一日でも早く攻撃魔法を覚える必要があると練習に励んでいたのだ。
 それと同じように甲児もまたマジンガーを上手く扱えるようにと操縦の特訓を行っていた。
 相変わらず下手な操縦だが持ち前の運動センスも相まってか実力を徐々にだが伸ばしつつあったのだ。
 そして、今回は休暇も兼ねて皆で竜ヶ森にキャンプに来ていたのだ。

「うっし、そんじゃ一丁俺様の美声を聞かせてやるだわさぁ!」

 テントの中からウクレレを取り出して歌う気満々のボス。
 何時持ってきたのか用意周到である。しかし、それを見た途一同の表情が硬くなりだした。明らかに余計な事と言いたそうな表情である。

「おい止せよぉボス。折角の良い雰囲気がぶち壊しじゃねぇか」
「そうだぜぇ。こんな時は森の奏でる自然の音色を聞くのが一番だっての」

 早速甲児とシローが批難の声を上げる。それを聞いたボスがげんなりしだす。このままだと一瞬にして場の雰囲気がブルーになってしまう危険性があるので即座に子分であるヌケとムチャがフォローに入る。

「ど、ドンマイですよぉボスゥ」
「そうそう、ボシュの歌の下手さは今に始まった事じゃないんでしゅからぁ」
「それ、フォローになってるの?」

 ヌケの発言にユーノが思わず問い掛ける。

「ま、甲児君やシローちゃんはちょっと言いすぎだけど、でも確かにこの音色は素敵ねぇ。都会じゃ聞けないもの。来て良かったわね。なのはちゃん」
「はい、私も凄く楽しかったです。お昼は甲児さん達釣りで盛り上がってましたもんね」

 なのはが昼起こった事を思い出す。
 昼は竜ヶ森の湖で魚釣りをしていたのだ。その際に甲児とボスがどちらが多く釣れるか競争だとばかりに意気込み釣りを行ったは良いが、結局一匹も釣れず小さくなってしまった、と言うのは記憶に新しい事だったりする。
 それから楽しい時間はあっと言う間に過ぎて行き、現在は静かな夜になっている。この後は楽しく騒いだ後テントで就寝、と言う手筈になる予定だった。
 その時だった。

【マスター、湖の方に何かが落下するようです】
「え?」

 突如レイジングハートがなのはにそう告げた。
 それを聞いたなのはが湖を見る。
 其処には青い光を放つ球が湖の中にゆっくりと沈んでいく光景が見えた。

「み、皆さん! あれ、あれ見て下さい!」
「ん? 何だぁあれは!」
「おい、ムチャ! カメラ持って来い!」

 なのはに言われて皆もそれを見つけた。
 確かに異様な光景であった。
 そんな皆が見る前で青い球が湖の中に入っていき、やがて全てが沈んでしまった。

「お待たせ!…って、あれ?」
「遅ぇよこの馬鹿!」

 ムチャがカメラを持ってきたのは丁度青い球が見えなくなった後の事であった。
 折角のシャッターチャンスを逃してしまい落胆するムチャ。
 だが、その時であった。
 今度は湖の上空を一機の小型戦闘機が飛行していた。先ほど二つの球を追っていたジェットビートルである。

「ん、あれは何だ?」
「知らないの甲児君? あれは科学特捜隊が所有するジェットビートルよ」
「科学特捜隊? 何だそれ」

 どうやら甲児はその科学特捜隊を知らないようだ。
 仕方ないと思いながらもさやかは説明を行う。

「科学特捜隊ってのはねぇ。パリに本部を置く超常現象専門の特殊隊よ。国際平和連合が発足されてから人間同士の争いは無くなったけど、その代わりに宇宙からの脅威とか常識を超えた現象に対処する為に設立された組織がその科学特捜隊なの」
「成る程ねぇ。んで、その科学特捜隊が何でこの竜ヶ森に来てるんだ?」

 甲児が飛び回るジェットビートルを見ながらそう呟く。
 その時であった。ジェットビートルの目前を赤い球が迫る。




     ***




 湖に視線を落としていたハヤタは目の前に赤い球が近づいている事に気づくのに一瞬遅れてしまった。

「ん? あ、あぁ!」

 気づいた時には既に手遅れであった。
 赤い球とジェットビートルは互いに激突し、森林の中に墜落してしまった。墜落したビートルが爆発炎上し炎を上げて燃えている。その一部始終を甲児達は見ていた。

「お、おい! あれって不味いんじゃねぇのか?」
「おいヌケ! お前は早く地元警察に連絡して来い! 俺達はジェットなんちゃらの落ちた場所へ行ってみるだわよぉ!」
「ほいさぁ!」

 頷きヌケはバイクを走らせる。
 そして、残った一同はジェットビートルの落下地点へと向かった。
 其処では既に原型を留めていないジェットビートルが炎を上げて燃えている場面であった。

「こりゃ酷ぇ…」
「ねぇ、レイジングハート。操縦していた人が何処に居るか、分かる?」
【微弱ながらも生体反応があります。すぐ近くです】
「何処だ其処は!」

 レイジングハートの指し示す場所に向かった一同は、其処で倒れている青年を発見する。オレンジ色の隊員服を着た青年が倒れている。

「あ、あそこに誰か倒れてますよ!」
「本当だわ!」
「あ、兄貴! あれってやっぱり科学特捜隊の制服だよ」

 シローが倒れている青年を指差す。
 それを甲児も見つけた。すぐに助けなければ火が回り焼け死んでしまう。
 急ぎ助けようとしたその時だった。先ほどジェットビートルにぶつかった赤い球が青年の頭上に迫っていた。

「おい兜ぉ! さっきの赤い球があのあんちゃんに迫ってるぜぇ!」

 ボスが指差す。その時には青年は見えない力で持ち上げられ、やがて赤い球の中に吸い込まれてしまった。
 それと丁度同時に地元警察がやってくる。その一同が見る中、青年を取り込んだ赤い球がユラユラと空に浮かんでいた。




     ***




 ハヤタは夢遊病の様に謎の空間の中を彷徨っていた。まるで夢心地だった。浮いているのか横になっているのか全く分からない。自分が起きているのか眠っているのか理解に苦しむ空間の中にハヤタ隊員は居た。

(此処は何処だ? 僕は一体どうなってしまったんだ?)

 今まで見た事のない世界であった。何故自分がこの空間の中に入ってしまったのか。
 原因と思えるのは先ほどの赤い球との激突だ。あの時一瞬目を逸らしてしまった為に同じように湖の上を飛行していた赤い球と激突してしまったのだ。
 その為、ハヤタの乗っていたビートルは大破してしまい、ハヤタはビートルの外に投げ出されてしまった。
 それからの記憶は全く無い。体は一向に動かず、意識も朦朧とした状態のままこの先の見えない空間の中を泳いでいたのだ。
 このまま一生この何もない空間を彷徨い続けるのでは。そう思っていた時であった。突如ハヤタの頭上に銀色の肌を持つ巨人が現れた。

(君は…君は一体何者なんだ?)
【私は、この地球から遠く離れたM78星雲からやってきた宇宙人だ】

 ハヤタを見下ろすように宇宙人は名乗った。
 その姿は人間となんら変わりない姿をしているが明らかに地球人ではないと言う事は分かった。

【私は、怪獣墓場から逃げ出したベムラーを追って、この星までやってきたのだ】
(ベムラー。ベムラーとは一体なんだ?)
【宇宙の平和を乱す悪魔の様な怪獣だ。そのベムラーがこの星に逃げ出したのでそれを追ってやってきたのだが、申し訳ない事をしてしまった。ハヤタ隊員】

 宇宙人が素直にハヤタに対し謝罪した。
 だが、幾ら謝罪した所でハヤタが生き返る事など有りはしないのだ。ハヤタは内心諦めていた。

【その代わりにだが、私の命を君にあげよう】
(なんだって! そんな事をしたら君はどうなるんだ?)

 最もな疑問をハヤタは投げ掛ける。人の命は基本一つしかない。
 その大事な命を他人に上げる事など出来るのだろうか?すると銀色の巨人は心配ないとばかりの顔をした。

【心配ない。私の命と共に、私は君と一心同体になる。そうして、私はこの星の為に働きたいのだ】
(この星の為? 一体どうして)

 ハヤタは問うた。だが、それに対し、銀色の巨人は答える事はなく、ハヤタの体の上に一本の奇妙な棒状の物を落とした。

(これは?)
【ベータカプセル。困った時にそれを使うと良い】
(するとどうなるんだ?)
【フッフッフッフッ―――】

 ハヤタの問いに銀色の巨人は答える事なく奇妙な笑みを浮かべながら消え去ってしまった。




     ***




「一体、中でどうなってるんだ?」

 甲児は呟いた。
 外ではハヤタを取り込んだ赤い球が未だに空に浮かんでいたのだ。どうにか助けたいと思ってはいるのだが、あれだけの高さからではどうしようもない。

「甲児さん、私が飛んで助けてみますか?」
「だったら、俺もパイルダーに乗って助けに行くぜ」

 なのはがそう言ってレイジングハートを取り出し、甲児がパイルダーを取りに行こうとした正にその時であった。
 上空に浮かんでいた赤い玉が突如爆発を起こしたのだ。
 凄まじい音と衝撃が伝わってきた。その為近くに居たさやか達が思わず倒れこんでしまった。

「い、いきなり爆発しちまいやがった」
「な、何が一体どうなってんだぁ?」

 彼等には全く予想だにできない出来事であった。
 常識では全く考えられない現象がこうして起こっていたのだから。まるでSF映画のワンシーンのようである。

「こ、こりゃぁ、すぐに科学特捜隊に連絡を入れた方が良さそうだな」





     ***




 その頃、科学特捜隊では大騒ぎとなっていた。
 ビートルでパトロールを行っていたハヤタの消息が不明となってしまい、皆が心配になっていたのだ。
 そんな時、地元警察から奇妙な現象が起こったとの通報が入ったのだ。

「もしやハヤタの消息不明と何ら関係があるかも知れん。いずれにしても放ってはおけん。すぐに出動だ!」

 ムラマツキャップが言い、アラシ隊員とイデ隊員が頷きヘルメットを脇に抱えて駆け出す。

「フジ隊員は引き続きハヤタから連絡があるかもしれんから待機だ」
「キャップ。お願いです! きっとハヤタさんを見つけて下さいね」
「勿論だ!」

 フジ・アキコ隊員の言葉にムラマツキャップは強く頷きヘルメットを抱えて部屋を出る。





     ***





 連絡を受けてから数分した後に、ムラマツ率いる科学特捜隊の三名が現場に辿り着いていた。

「お待たせしました。科学特捜隊です」
「ん? あんた…もしかして立花籐兵衛さんか?」

 ムラマツキャップを見るなりそんな事を言い出す甲児。皆もいきなりな発言だったので唖然となっている。特にムラマツキャップなどどう対応したら良いのか困った顔をしてしまう始末であった。

「立花? 誰なんですか甲児さん」
「立花籐兵衛と言ったら俺達バイク乗りで知らない奴は居ねぇよ。喫茶店アミーゴのオーナーなんだけどよぉ、バイクの名コーチって言われてる人なんだぜ」
「へぇ~」

 甲児の説明になのはが納得する。
 普段勉強は出来ない割りにそう言う事には鋭いようだ。

「盛り上がりの所すまないが、残念ながら人違いだよ。私は立花籐兵衛ではない、ムラマツと言う。この科学特捜隊のキャップをしているんだ」
「あり? そうなのか。でも凄い似てるなぁ」

 甲児がマジマジとムラマツを見る。どうやらそれ程までに似ているのだろう。

「ところで、君達が見たと言う異常現象とは一体何なんだい?」

 話を戻すように太い体つきのアラシ隊員が尋ねる。

「は、はい。それが上空に赤い球が現れて、その中に男の人が吸い込まれていって、それで…赤い球が爆発してしまったんです」

 さやかが説明をする。
 だが、その話を聞いた途端ムラマツ達は微妙な顔をしだした。

「君ぃ、まさかそんな非科学的な事が起こったって言うのかい? 幾ら休日シーズンと言ったって大人をからかうもんじゃないよ」

 細身のイデ隊員が鼻で笑ったように言う。

「バーロィ! 嘘だったらもっと面白い嘘言うってんだよコンニャロウ!」
「わわっ、暴力反対!」

 さやかを馬鹿にされたと思いボスがイデ隊員に睨み付ける。
 するとイデ隊員がアラシ隊員の背後に隠れだす。

「何だ何だ? 弱っちい奴だなぁ」
「あのねぇ、僕は頭脳専門なの。戦闘はあんまり得意じゃないんですよ僕は」
「あ、それなら納得」

 何故か納得してしまったボス。本当にそんなんで良いのだろうか?
 甚だ疑問に思えるがこの際どうでも良かろう。

「そう言えば、君の顔見覚えがあるな。確か…例のマジンガーZの操縦者だったような」
「へぇ、俺の事知ってるんですか? 光栄だなぁ。俺は兜甲児。そんでこっちの子が高町なのはって言ってさぁ、こんな小さいけど実は結構強いんだぜぇ」
「そ、そんな事ないですよぉ甲児さん」

 自分の事を言われた為か少し恥ずかしくなるなのは。だが、それを側から聞いていた殆どの者が笑いだしていた。

「へぇ、こんなにちっちゃい子がそんなに強いのかい? 最近の子は怖いなぁ」

 アラシに至っては全く信じていない。まぁ、それも当然と言えば当然なのだが。

「それよりキャップ。ハヤタのビートルを探しましょうよ」
「ハヤタ? それってさっき赤い球に吸い込まれたあんちゃんの事か? それならあっちで燃えてるぞ」

 甲児が指差す方では今でも炎上したビートルが炎を上げていた。
 それを見たイデ隊員が残念そうな顔をしだした。

「こりゃぁ、駄目だろうなぁ」
「まだそうと決まった訳ではあるまい。皆さんも捜索にご協力して下さい」

 ムラマツの言葉に頷き皆が竜ヶ森の中を探索に歩き回った。
 皆がハヤタ隊員の名を叫びながら森の中を探し回った。だが、結局夜が明けて日が出てきた時でも、ハヤタを見つける事は結局出来ず仕舞いであった。

「キャップ、こうまで探して駄目だったんじゃ。もうハヤタの奴今頃…」
「イデ、ハヤタの様な奴を神様が見捨てる筈がないんだ。諦めず捜索するんだ」
「ムラマツさん、それでしたら私が空から探してみましょうか?」
「なのはちゃんが、しかし一体どうやって?」
「俺がパイルダーで一緒に上空から探してみますよ。行こうぜ、なのはちゃん」
「はい!」

 甲児となのはの二人がパイルダーに飛び乗り上空から散策する事にした。
 それでも竜ヶ森は広い。安易に探し出せる場所じゃないのは確かだ。自然の風景が巧妙なカムフラージュとなっており上空からでは見つけ辛い。

「甲児さん、私別方向から探してみますね」
「あぁ、頼む」

頷くとなのははレイジングハートを頭上に掲げてバリアジャケットを纏う。

「それじゃ甲児さん、行って来ますね」
「気をつけろよ」

 そう言ってなのははパイルダーの中から飛び出て同じように空を飛びハヤタの捜索を行う事にした。単独でならば低空で飛行も出来る。その方が探しやすいと言うのもあった。

「ハヤタさ~ん、何処に居るんですかぁ!?」

 上空から彼の名を呼びながら飛び回る。
 そんな時だった。突如湖が激しい気泡を放ちだす。何かと思いその気泡をじっと見ていた。すると、その気泡の中から巨大な怪獣が姿を現したのだ。全身に棘の様な甲殻を持ちギョロリとした目を向けて鋭い牙を生やした不気味な姿の巨大な怪物が目の前に現れたのだ。

「か、怪獣!?」

 それを見つけたなのはは驚愕する。

「なのは!」
「甲児さん! あの怪獣は一体?」
「分からねぇ。とにかく迎撃するしかねぇ!」

 甲児はそう言って怪獣の回りをパイルダーで飛び回る。なのはも同様に怪獣の周囲を飛んでいた。初めての遭遇だ。今まで機械獣やロストロギアと言った類とは戦った事があるが怪獣と出くわしたのはこれが人生初である。

「ニャロウ! 人のキャンプを台無しにしやがって! 俺の怒りのミサイルを食らいやがれ!」

 パイルダーから数発のミサイルが放たれ、怪獣に当たる。
 だが、怪獣は対して聞いた様な素振りを見せず雄叫びを挙げている。

「畜生、パイルダーのミサイルを食らってもビクともしないなんて、何て奴だ!」
「甲児さん! レイジングハート。何か攻撃出来る方法はないの?」
【それでしたら以前マスターが練習を行っていたアクセルシューターが適任です。それでなら魔力でダメージを与える事が可能です】
「うん、分かった!」

 頷いたなのははデバイスの先端を怪獣に向けて引き金を引く。すると先端から数発の魔力エネルギーの弾丸が放たれる。
 放たれた魔力弾は怪獣の眉間に命中し火花を散らせる。
 それでも怪獣は怯む事なく湖の中で暴れ狂っていた。
 すると、森の方で電撃に似たビームが放たれた。それは科学特捜隊の隊員達が撃っているスーパーガンであった。
 同様に怪獣に命中している。それでも怪獣は暴れ狂いその牙をむき出しにしている。

「ちっ、このままじゃ埒が明かねぇ。こうなったらマジンガーで叩き潰してやる!」
「行って下さい甲児さん。その間何とか頑張ってみます」
「頼む!」

 甲児は急ぎZの置いてある地点に急いだ。
 この時甲児は、正直竜ヶ森へマジンガーでやってきた事を幸運と思えていた。

「待ってろよ怪獣野郎! 無敵のマジンガーZでてめぇを叩きのめしてやるからなぁ!」




     ***




 甲児がマジンガーを取りに行っている間、なのはは覚えたてのアクセルシューターで怪獣に対抗していた。
 しかし覚えたての技術の為か威力がない。苦戦は必死であった。

「強い、こんなのが地球に居るなんて!」

 なのはの前には常識を超えた怪獣が現れていた。その存在になのはは恐怖しだした。
 その時だった、怪獣の口から青色の熱線が放たれたのだ。熱線の向かう先は空を飛んでいるなのはであった。

「あ! レイジングハート!」
【プロテクション】

 自身を守る為に回りに魔力の結界を張る。
 だが、熱線の威力は凄まじかった。忽ち結界は弾かれてしまいその余りの威力により小さなその体はまるで木の葉の様に吹き飛ばされてしまった。

「きゃああぁぁぁ!」

 キリキリと回転しながら森の中へと落下していくなのは。
 それを見ると怪獣は再び湖の底の方に沈んでいってしまった。それきり姿が見えなくなってしまった。邪魔者が居なくなったと安心したのだろう。
 それからすぐに甲児がマジンガーZに乗ってやってきたのだが、その時には既に怪獣の姿は何処にもなかった。

「なんでぇ、俺とマジンガーに恐れをなして逃げやがったのかぁ? それよりも、なのはちゃんは一体何処に行ったんだ?」

 辺りを見回してなのはを探す甲児だが、その姿は見られなかった。
 ハヤタ隊員に続いてなのはまでもがその姿を消してしまったのだ。




     ***




「う、う~ん」



 目を覚ますと其処は湖のすぐ側の森であった。

 どうやら木々がクッションとなってくれたお陰で大した怪我はしなかったようだ。体を動かしてみたが体の何処にも痛みは感じない。運が良かったと言える。バリアジャケットを纏っていたとしてもあれだけの熱線を直撃しよう物なら命の保障はない。



「怪我はないかい?」

「え?」



 声がした。
声がした方を向くと其処には一人の青年が居た。昨夜赤い球と一緒に姿を消した青年であった。間違いない、この人がハヤタ隊員なのだろう。



「も、もしかして…ハヤタさん?」

「僕の事を知っているのかい?」

「はい、皆さんが必死に貴方の事を探してましたよ」

「そうか、こりゃ皆に後で怒られるかもな」



 バツの悪い顔でハヤタはそう言う。どうやら彼も長い間連絡をしなかった事を悪いと思っているのだろう。しかし、今はそんな悠長な事を言っている場合じゃない。



「あの、それよりあの怪獣を何とかしないと!」

「その通りだ。ベムラーを倒さなければ地球が大変な事になってしまう」

「ベムラー? それがあの怪獣の名前なんですか?」

「そうだ、なのはちゃん。君はさっき空を飛んで怪獣と戦ってたね?」



 ギクリ! 思わずなのはは体を震わせた。

 どうやら見られていたようだ。
だが、別に隠し通す必要もないので素直に頷いた。

 それを見たハヤタはなる程なと軽く頷く。



「実は、君の力を借りたいんだ。あのベムラーを倒すには、皆の力を合わせて立ち向かわなければならないんだ」

「皆の力を…ですか?」

「そうだ、君や科特隊、それに僕やマジンガーZの力が必要だ」

「で、でも…具体的にどうするんですか?」

「僕が湖の底から潜って、旅の疲れで眠りこけている奴を刺激する。それに驚いて外に顔を出した所を君達で攻撃するんだ」



 そう言うとハヤタは制服の胸に装着された通信用バッジのアンテナを伸ばし交信を始めた。どうやらあれが通信端末なのだろう。



【はい、こちら科学特捜隊】

「元気かね? アキコ隊員」

【は、ハヤタさん!】



 通信機越しからアキコ隊員の驚きの声が聞こえてきた。

 脳内に彼女の慌てる顔が浮かんだのか、ハヤタの顔が思わずにやける。が、すぐに元の表情に戻った。今は時間が惜しいのだ。



【昨夜は一体何処に居たの? 皆貴方の事を探していたのよ!】

「そんな事はどうでも良い。それよりも潜水艇S-16号を竜ヶ森湖のYマークの地点に運んでくれ。大至急にだ」

【分かったわ、Yマークね】



 そういい終えると通信を切り、再びなのはの方を見た。



「僕はこれからS-16号に乗って湖の中に潜んでいるベムラーを叩き起こす。君は顔を出した奴を迎撃してくれ」

「分かりました。ハヤタさんも気をつけて下さいね」

「大丈夫だよ。僕は不死身だからね」



 笑いながらハヤタはボートの止めてある湖の先端へと向かった。
なのはもまた甲児達に合流すべく再び空へと舞い上がったのだ。









     ***








「怪獣の奴、出てきませんねぇ?」
「寝ちまったんじゃないんですかぁ?」
「どの道湖の中に居ては我々では手出しが出来ん」

 怪獣が姿を消してしまい、今度はなのはまでもが行方不明となってしまった為に科学特捜隊のメンバー達は参った感じになっていた。
 それは彼等の後ろに待機しているマジンガーZも同じ事でもある。

「あ~あ、折角噂のマジンガーZの強さを拝めると期待してたのになぁ」
「こんな時に呑気だなぁイデ」

 マジンガーを見ながら呟くイデ隊員にアラシ隊員が呆れた顔でそう言ってきた。そんな時、竜ヶ森湖上空に一機のビートルが降り立ってきた。
 その腹部分には潜航艇S-16号が取り付けられている。

「ん? あれは潜航艇S-16号じゃないか。何故あれが此処に?」

 ムラマツが疑問を感じていた時、彼等の前に先ほど行方不明となっていたなのはが降り立ってきた。

「皆さん、聞いて下さい」
「な、なのはちゃん!? さっき君空から降りて来なかったかい?」
「あ、あのぉ…驚くのは後で良いですんで、まずは話を聞いて下さい。あの潜航艇S-16号はハヤタさんが呼んだんです」
「何、ハヤタがぁ!」

 なのはのその言葉に皆は驚く。

「なのはちゃん、もしかしてハヤタの奴幽霊じゃなかった?」
「いいえ、ちゃんと足も生えてましたし実態もしてましたよ」

 茶化すイデ隊員になのはが自信を持ってそう言う。
 すると、着水したs-16号に向かいボートが向かっていった。

「キャップ、あれはハヤタですよ!」
「何!?」

 驚くムラマツキャップがアラシ隊員から双眼鏡を受け取り覗く。
 ボートを操っていたのは間違いなくハヤタ隊員であった。

「ムラマツよりハヤタへ、昨夜は何処に居たんだ? 我々は夜通しで君を探していたんだぞ! 一体どうやってあの大惨事から生還できたんだ?」
【大切なビートルを壊してしまって申し訳ありません。詳しい事情は後で話しますので、今は湖の底に居るベムラーを倒しましょう】
「ベムラー?」
【詳しい事情は彼女の話してあります】

 それを聞いたムラマツキャップが今度はなのはを見る。
 どうやら彼女の言ってる事は嘘ではないようだ。

「なのはちゃん、教えてくれ。そのベムラーや、ハヤタの言っている事を」
「分かりました。説明しますね」

 なのははハヤタから告げられた事を全てムラマツキャップ達に話した。
 ベムラーが宇宙からやってきた怪獣で、今は湖の底で旅の疲れを癒している事。それをハヤタが潜航艇Sー16号に乗り奇襲を掛け、出てきた所を一斉攻撃するとの事。そして、ベムラーを倒さなければ人類は危機的状況に追い込まれると言う事。
 それらの全てを説明した。

「よし分かった。我々はビートルに搭乗して上空から迎撃する。なのはちゃんと甲児君は地上付近から奴を迎撃してくれ」
「分かりました」
「よし来たぁ!」

 なのはは頷き、甲児はパイルダー内でガッツポーズを決めていた。
 そうして、怪獣ベムラーを倒す為の作戦。その名も「ウルトラ作戦第一号」が開始されるのであった。




     ***




 潜航艇S-16号で湖の中を探索していたハヤタは目を光らせていた。
 ベムラーはこの湖の何処かに居る。奴が完全に力を取り戻す前に何としても倒さなければならない。力を取り戻してからでは遅いのだ。

【まだベムラーは見つからないか? こちらは準備完了】
【こっちも準備完了だぜ!】

 通信機からはイデ隊員と少年の声が聞こえてきた。
 急がなければならない。そんな焦りが募っていた頃だった。岩陰でひっそりと身を潜めて寝息を立てるベムラーが居た。

「居た! 奴だ」

 確信したハヤタは通信機のスイッチを入れる。

「こちらハヤタ。ベムラーを発見しました」
【よし、ウルトラ作戦第一号開始だ!】

 ムラマツキャップの言葉を皮切りに攻撃が開始された。
 まず潜航艇S-16号でベムラーに奇襲を仕掛ける。驚いたベムラーが湖の中から顔を出して来た。

「今だ! 一斉攻撃開始!」
「食らいやがれ、光子力ビーム!」
「シュート!」

 ビートルからミサイル攻撃。
 マジンガーから光子力ビーム。
 なのはのアクセルシューター。
 それらが一斉にベムラーに向けて放たれた。一斉攻撃を受けたベムラーは溜まらず湖の底へと引き返す。すると再びS-16号がベムラーに向かい奇襲を仕掛ける。
 それに驚いたベムラーが再び顔を出した。其処へまたしても一斉攻撃である。これには溜まらずまたしてもベムラーは湖の底へと退散していく。

(よし、行けるぞ。これならベムラーを倒せる!)

 内心ハヤタがそう思っていた。その時であった、背後を回ったつもりが今度はベムラーが正面を向いて立っていたのだ。

「しまった! うわっ!!」

 気づいた時には手遅れであった。ベムラーの口に咥えられるようにS-16号が湖の中から現れる。

「キャップ、ハヤタが!」
「いかん!」

 アラシ隊員が指差したのを見てムラマツキャップの顔色が焦りの色に変わる。今のままでは攻撃が出来ない。下手に攻撃してS-16号に当たってしまったらそれこそハヤタの命が危ないのだ。

「この野郎! それを返しやがれ!」

 其処へマジンガーZが駆けて来る。咥えていたS-16号を奪い返す為だ。しかし、近づいてみるとベムラーは予想以上に巨大であった。

(で、でかい! マジンガーの二倍はありやがる)

 40メートル級の巨体に一瞬怯む甲児だったがすぐに元に戻りベムラーに格闘を挑んだ。
 どてっ腹に拳を叩き込む。
 だが、柔らかそうな外見とは裏腹に以外と頑強でZの拳を受け付けないのだ。

「ちっ、こいつ何て硬さだ。Zのパンチが効かないなんて」

 舌打ちする甲児。そんなZに向かいベムラーがキックを放ってきた。
 それはZの胴体に命中し逆にZが倒れてしまう。想像以上のパワーであった。

「甲児さん! 今助けます」

 そう言ってなのはがベムラーにバインドを仕掛けた。ベムラーの体を桜色のバインドが縛りつける。
 だが、そのバインドをベムラーは苦もなく解いてしまった。

「あうっ! 駄目だ。怪獣が相手じゃ力が足りないんだ」

 目の前で軽くバインドを破ったベムラーを見て悔しそうに歯噛みする。
 そんななのはを尻目にベムラーが倒れたZに向かっていく。

「にゃろう! それならこれを食らいやがれ!」

 腹が駄目なら直接叩くまで。今度はベムラーの顔面に向かいロケットパンチを放った。
 それを食らったベムラーも溜まらず後ずさりする。その際に咥えていたS-16号を放り出してしまう。その隙にZは立ち上がった。

「よくも蹴り飛ばしてくれたなぁ。ぼろ雑巾にしてやらぁ。ルストハリケーン!」

 Zの口から猛烈な酸を含んだ風が放たれた。
 その風はベムラーの体に吹き付けられる。だが、その体が腐食する事はなかった。機械獣の体すら一瞬で腐食させてしまう風も怪獣ベムラーには通用しなかったのだ。

「ルストハリケーンが効かない!」
「何て化け物だよ!」

 一同の前でベムラーは雄叫びを挙げた。その雄叫びを聞いた一同の胸に戦慄が過ぎった。




     ***




 投げ捨てられたS-16号の中でハヤタは目を覚ました。
 額から血を流しているがそんな事気にしている場合じゃない。

「そうだ、ベムラーは!」

 急ぎ潜航艇の中から外へと飛び出すハヤタ。外ではマジンガーZがベムラーを相手に苦戦を強いられていた。
 強い。とても強い。
 鉄の城を苦戦させる存在。あれが怪獣なのだろう。

「くそっ、一体どうしたら…そうだ!」

 ふと、ハヤタはポケットの中を探った。その中から取り出したのはあのベータカプセルであった。

【困った時はそれを使うと良い】
「そうは言っていたが、一体どうなるって言うんだ? ええぃ、気にしてられるか! こうなったらままだ!」

 覚悟を決め、ハヤタは天に向かいベータカプセルを翳し、スイッチを押した。すると激しいフラッシュが起こり、瞬く間にハヤタの体が あの時の銀色の宇宙人に代わったのだ。身長約40m。マッハ5で空を飛び。多数の技を使い怪獣に戦いを挑む不死身の超人となったのだ。

「な、何だ? あの巨人は?」
「銀色の巨人?」

 甲児となのはも突如現れた銀色の巨人に驚きの顔をする。
 そんな二人を無視して巨人は真っ先にベムラーに戦いを挑んだ。

「何だ? あの巨人は敵じゃないのか?」
「そうみたいですね」

 突如現れた銀色の巨人。
 それが敵か味方なのか今の所は全く不明であった。だが、少なくともこちらに敵意はないようだ。それはそれで好都合と言えた。
 そんな彼等の目の前で銀色の巨人がベムラーを相手に健闘している。

「良いぞ! 底だぁ! 畳んじまえぇ!」
「甲児さん、すっかり見入ってますね」

 横では既に甲児がすっかり見入っているのか傍観モードに移行しておりワンツーモーションを行っている次第であった。
 だが、その時銀色の巨人に異変が起こった。先ほどまで巨人の胸に青々と輝いていたランプが突如赤く点滅しだしたのだ。

「何だ? 色が突然変わりだしたぞ?」
「もしかして、何かの危険信号なんじゃないんですか?」
「マジか! だとしたら相当不味いんじゃねぇのか?」

 甲児もそれを聞いて慌てだす。このままでは巨人が負けてしまう。
 何とかしなければ。しかしどうすれば良い。必死に頭をフル回転させて考え込む。
 そうして、ふと頭にあるビジョンが浮かんできた。それは先ほど甲児がベムラーの眉間に拳を叩き付けた瞬間だ。あの時一瞬だがベムラーは怯んだ。
 間違いない。奴の弱点は眉間なのだ。

「甲児さん、眉間です! あの怪獣の弱点はきっと眉間なんですよ」
「鳴る程、よっしゃぁ! そうと決まったら奴の眉間に俺の鉄拳を叩き込んでやるぜぃ!」

 拳を硬く握り締めながら甲児が言う。
 だが、接近戦は恐らく無理だろう。ならば巨人が離れた隙をついて ビーム攻撃で眉間を攻撃するのが一番のセオリーな手段とも言えた。

「よし、タイミングを会わせるぞ!」
「はい!」

 なのはが頷きレイジングハートの先端をベムラーに向ける。
 後ろの気配を察したのか巨人がベムラーを蹴り飛ばし自身も一旦後ろに下がった。

「今だ! 光子力ビーム!」
「シュート!」

 ベムラーの眉間に光子力ビームとアクセルシューターが放たれた。
 それを浴びたベムラーはヨレヨレした動きをしながら湖の底へと沈んでいった。激しい水泡が放たれていく。かと思うと、今度は水泡の中から例の青い球体が姿を現したのだ。
 どうやらそのまま宇宙へ逃げるようだ。

「野郎! そうは問屋が卸すか! こうなったらブレストファイヤーで…」
「待って下さい。あの巨人が何かする気ですよ!」

 なのはが巨人を指差す。
 そこでは巨人が腕を十字にクロスしだした。
 するとその手から光り輝く光線が発射された。その光線を受けた青い球体は空中で爆発し、粉々に吹き飛んでしまった。

「いやったぜぃ!」
「す、凄い! あれがあの巨人の力なんだ」

 甲児となのはは巨人の強さを身を持って知った。
 その巨人はと言うと、ベムラーを倒し終えるとそのまま空の彼方へと飛び去ってしまった。

「行っちまった。結局あの巨人は何者だったんだ?」
「さぁ? あ、それより甲児さん、あれ!」

 なのはが下の方を指差す。
 すると其処には一人の青年がこちらに向けて駆けて来るのが見えた。

「あれ、ハヤタさんですよ! 無事だったんだ」
「へぇ、偉く悪運の強い奴じゃねぇか」

 甲児もハヤタと言う青年の事が気になったのかパイルダーを地上に降ろして彼を出迎える。丁度其処にビートルも着陸し隊員全員がハヤタを迎えて来た。

「ハヤタ。本当に君はハヤタなのかい?」
「本当も何もないだろうイデ隊員。実物はこの世にたった一人なんだから」
「でも、無事でよかったですよ」
「前にも言っただろうなのはちゃん。僕は不死身なんだよ。それよりも、ベムラーはどうなりました?」
「ベムラーなら先ほど銀色の巨人が現れてやっつけてくれたよ」
「やっぱり現れてくれたか。実は僕を助けてくれたのも彼だったんですよ」

 安堵した表情でハヤタは言う。
 どうやらハヤタがあの大惨事の中無事で居られたのはあの巨人の助けがあったからの様だ。

「なぁ、それでその彼ってのは一体誰なんだ?」
「名前なんてないさ」
「おいおい、冗談キツイぜ。名無しの権兵衛じゃねぇんだぜ」

 甲児が肩を上げて笑う。
 するとハヤタが少し顎に手を当てて考え込む。そして再びこちらを見た。

「それじゃ、ウルトラマンってのはどうだい?」
「ウルトラマンかぁ、カッコいいじゃん。気に入ったぜ」
「そっかぁ、ウルトラマンって言うんだ。また会えるかなぁ?」
「きっと会えるさ。彼はこの星が大好きなんだ。だからこの星を壊させない為に戦うと言っていたからね」

 ハヤタがそう言う。そして青く聳える空を見上げた。巨人が飛んでいった空。
 嫌、今は巨人ではない。人類を守る新たな戦士。光の力をその身に宿し、迫り来る驚異的な怪獣に敢然と戦いを挑む我等が新たなヒーロー。
 その名は『ウルトラマン』。彼こそ、新たな仲間なのであった。




     つづく 
 

 
後書き
  次回予告

青年は戦う力を手にした。
だが、星の海から舞い降りてくるのは友好的な者だけでは無かった。

次回「異星人来襲」

お楽しみに 
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