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魔法戦史リリカルなのはSAGA(サーガ)

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【第一部】新世界ローゼン。アインハルト救出作戦。
【第5章】第二次調査隊の艦内生活、初日の様子。
   【第2節】ティアナが〈破壊王〉と呼ばれる理由。



 そうして、一連の紹介が終わると、エドガーは中央のテーブルの、新しく置かれた席に腰を下ろしました。四人の女性陸士は彼の話を聞くべく、同じテーブルに着き、二人の男性陸士はそのまま三人の陸曹たちと同席します。
 そこを見計らって、コニィはそれら二つのテーブルの10名に同じお茶を出しました。当然のごとく、小さなお茶菓子もついて来ます。
 フェルノッドは口直しに、早速、それをパクつきました。(笑)

 そして、コニィがまた自分の席に戻ると、中央のテーブルでは、エドガーが話を始めるよりも先に、マチュレアがいきなりこう話を切り出しました。
「あ、すいません。エドガーさん。そちらの話をお聞きする前に、ちょっとこちらの話を先にさせてもらってもいいですか?」
 エドガーは一言、『どうぞ』と答えて、悠然とお茶を飲み始めます。
 そこで、マチュレアはフォデッサとひとつ目配(めくば)せを()わしてから、もっぱらノーラに向けて話を始めました。
「そう言えば、ノーラ。さっき、向こうの部屋では話しそびれたんだけどさー。私ら、そのティアナ・ランスター執務官って人に一度、会ったコトがあるわー」
「ええっ?! 何、それ? いつ? どこで?」
 ノーラは激しく食いついて来ます。
「いや。『会ったコトがある』って言うより、ただ単に『見たコトがある』って言った方が良いのかな?」
「そうっスね。向こうさんは多分、アタシらの存在になんて気づいてもいなかったはずっスから」
 フォデッサもそう言葉を添えました。


 一方、コニィは全員にお茶を出してから自分の席に戻ると、こちらのテーブルの一同にこう尋ねていました。
「ところで、今は何の話をされていたんですか?」
「ああ。ボクたちには、(おさな)馴染みがいないって話ですヨ」
 カナタがいかにも詰まらなさそうな口調で答えると、それを元気づけようとしたのか、コニィは妙に明るい口調でこう返します。
「大丈夫ですよ、お二人とも。ウチのお嬢様だって、十代の頃からの友人なんて、本当にIMCSの関係者だけなんですから。ジークさんやチーム・ナカジマの皆さんを除くと、あとは、せいぜい、ミカヤさんとエルスさんとハリーさんと……」
「コニィ! アレは友人じゃないから!」
「でも、昨年の春でしたっけ? 彼女が結婚した時には、『これでまた独身仲間が減ってしまった』とか言って落ち込んでたじゃないですか」
「だから、そういうコトは一々(いちいち)言わなくて良いのよ!」
 ヴィクトーリアはテーブルを平手でバンバン叩きながら、少し声を(あら)らげました。
【こういうところは、ヴィクトーリアも十代の頃からあまり変わっていないようです。(笑)】


 そして、マチュレアは、いきなり隣のテーブルでヴィクトーリアが大きな音を立てたことに少しばかり驚きながらも、背後からの音を全く気にしていないノーラの「期待に満ちた視線」に()かされるようにして、こう語り出しました。
「私らの地元は、エルセア西海岸のトーネスって港湾都市から東へ30キロあまり入ったトコロにある地方(いなか)都市(まち)でさー。近場(ちかば)な上に、一本道だったから。私らは中等科の頃、学校(ガッコ)が休みで晴れてる日には、よく自転車(チャリ)に乗って二人でトーネスまで大海廊(うみ)を見に行ったりしてたのよー」
「え? 自転車で片道30キロって、結構あるでしょ。他に移動手段、無かったの?」
「うん。その一本道に沿って、レールウェイも走ってたけどさー。ほら、列車に乗ると、お金、かかるから」

「うわあ……。実家が貧乏だとは聞いてたけど、本当に小銭を惜しまなきゃいけないレベルの貧乏だったんだ?」
「うん、自慢じゃないけどねー。昼食代が出ないから、学校にも毎日、弁当を持参する生活だったよ。ほとんど主食しか入ってない、真っ白な弁当だったけどさー。(苦笑)」
「うっわ~。育ち盛りの時期に、それはキビシイな~」
 ノーラは、自分だったらとても耐えられない、と言わんばかりの口調です。
「毎日、当たり前のようにオカズを分けてくれた当時のクラスメートたちには、今でも感謝してるよ」
「まあ、あの学校には性質(タチ)の悪い男子(ヤロウ)どもも沢山(たくさん)いたっスから。アタシらは『女子生徒一同から、用心棒として()()けされてただけだった』って話もあるんスけどね。(笑)」

 二人は、そこで一口お茶を飲んでから、また話を続けました。
「そのトーネスって都市(まち)は、港湾施設と市街地が南北に少し離れてるんだけどさー。その港湾(みなと)の側を丸ごと見下ろすことができる高台に『ポートフォール・メモリアルガーデン』っていう名前の公園墓地があってね。墓地の方はほとんど局員専用なんだけど、その北側にある公園の方は一般人にも開放されてるのよー」
「で、アタシらが3年生の時だから、もう6年も前の話なんスけどね。8月の中旬、夏休みに入って間もない頃の、平日のことっス。
 その公園の南西の角地(かどち)で、墓地にも隣接した場所には休憩所なんかもあったんスけど、その時、ちょうど大型の貨物船が一隻、埠頭(ふとう)に接岸したところだったんで。アタシらはその休憩所で、その船の様子とか見ながら、水筒の麦茶とか飲みながら、雑談まじりに進路の相談とかしてたんスよ」

【時系列としては、これは、カナタとツバサが地球からミッドチルダに戻って来た直後の出来事となります。なお、ポートフォール・メモリアルガーデンに関しては、「リリカルなのはStrikerS サウンドステージ04」を御参照ください。】

 すると、ゼルフィは驚きの口調で二人にこう問いました。
「え? 中等科の3年生の8月だったら、進路はもう決まってなきゃいけないんじゃないの? て言うか、あなたたち、その段階でまだ管理局員になるかどうかも決まってなかったの?」
「いや。もちろん、私らも6歳児の集団検診で『それなりの魔力の持ち主』と解ってからは、ずっと『管理局員』は有力な選択肢の一つだったし……。だからこそ、中等科は頑張って魔法科に進学したりもしたんだけどさー」
「ぶっちゃけ、アタシらの地元じゃ、中等科を出てすぐに就職する子が大半っスからね。アタシの父親もマチュレアの父親も稼ぎの悪い(ひと)だったから、『この子も早く、何か仕事に就いて、家に(かね)を入れるようになってくれないかなあ?』って感じだったんスよ」
(うわあ……。)
 ゼルフィは普通の(それなりに裕福な)家庭で育っていたので、この話にはもうドン引きです。

「で、その時のことなんだけどさー。私らがふと気がつくと、平日なのに、墓地の方に一人だけ人がいてね。何だか結構な美人さんが、お墓の前にひとつ花束を置いたまま、呆然と立ち尽くしてたのよー」
「それを見て、アタシらは『あれって、死に別れた恋人なんスかねえ?』とかテキトーなコト言って、勝手に盛り上がってたんスけどね」
(……進路の話は、どこへ行ったのよ……。)
 そんな(あき)れ顔のゼルフィを他所(よそ)に、マチュレアとフォデッサはさらにこう話を続けました。

「そしたら、港の方で何だか急に騒ぎが起きてさー。後から聞いた話なんだけど、実は、その貨物船が密輸船でね。小型のモノばかりなんだけど、爆薬とか、実弾の銃器とか、ミッド各地の犯罪者用に相当な量を運んで来たらしいのよー」
「でも、地元の陸士隊も、その情報は事前につかんでたっスから。密輸船が接岸して、機関を完全に止めて、タラップを降ろしたトコロを見計らって。いきなり何台もの警邏(けいら)車両でその埠頭(ふとう)を取り囲んで、タラップの昇降機を破壊した上で、一斉に乗り込もうとしたんスけどね」
「一体何をトチ狂ったのか、その船の船員どもが何人か、売り物の銃器を手に甲板(かんぱん)の上からバンバン撃ち始めてさー。陸士隊の方も、実弾の銃器になんてまだ慣れていない連中が多かったのか、もう迂闊(うかつ)には近づくこともできないって感じになっちゃって」
「みんなでシールドを張ったまま、その船をただ遠巻きに取り囲んでるだけ、みたいな状況になっちまったんスよ」
「私らは高みの見物で、『陸士隊、ビビってんじゃねえよ!』とか、『とっとと突っ込めよ! お前ら、税金泥棒かよ!』とか、自分たちが今、一般市民から言われたら、いきなりキレそうなコトを平気で叫んでたんだけどさー。(笑)」
「うわ~。二人とも、性質(たち)の悪い一般市民だったんだな~。(笑)」
「当時は、アタシらもまだ世間知らずの中坊(ちゅーぼー)だったっスからね。まあ、そこんトコは大目に見てやってほしいっスよ。(笑)」

「で、ふと気がついたら、例の美人さんが港の方を見ながら、どこかと通話しててさー。私らは小声で、『あれ? もしかして、あの人自身も局員なのかな?』とか、話してたんだけどねー。その人が通話を終えてから……どうだろう? ほんの三十秒後ぐらいだったかなあ?」
 マチュレアの問うような視線にうなずいて、フォデッサはこう続けました。
「彼女が不意に北の空を見上げたから、アタシらもつられて振り返ったんスけど。……アレ、何て言うんスか? 市街地の方から『サーフボードみたいなモノ』に乗った人が、モノ凄い速さでこっちに飛んで来たんスよ」
「その人が、私らの頭の上あたりを通って、回り込むようにして貨物船の方へ飛んで行ったかと思ったらさー。その時にはもう、例の美人さんはいきなりバリアジャケットに着替えてて、両手に同じ形の銃を持ってたのよー」
「アレって、ホント、一瞬の早業(はやわざ)だったっスよね」
「え? 両手に銃って。じゃ、もしかして、その人がティアナ・ランスター執務官?」
 ノーラの早口に、フォデッサは大きくうなずいて、また言葉を続けます。
「アタシらは次の日になって、ようやくその名前を知ったんスけどね」

「多分、サーフボードの人は補佐官さんで、先の通話も、まずは陸士隊の方に『今、たまたま現場のすぐ近くにいるんだけど、手を貸そうか?』みたいな話をして、『是非、お願いします!』とか言われて、当局に飛行許可を取ってから補佐官さんを呼んだ、みたいな流れだったんじゃないかと思うんだけどねー」
「そしたら、執務官さん、次の瞬間には助走も無しに、いきなりトップスピードでバンと空に飛び立って! アレ、間近に見てて、マジ、ビビったっスよ。ホント、『ええ! 人間って、あんな風にいきなり飛び立てるんだぁ?!』って感じだったっス!」
「それまで、私ら、空士隊が隊列を組んで上空を飛んで行くのを見上げたコトはあっても、目の前で空士が飛び立つトコなんて、見たコト無かったからねー」

「空士って、みんな、あんな感じなんスかね?」
 フォデッサは不意に、エドガーの側に向き直ってそんな疑問をぶつけました。
「いや。『いきなりトップスピード』というのは、普通の空士には、ちょっと厳しいだろうと思いますよ。もちろん、執務官にとっては簡単なことなんですが……私自身も『翌日の筋肉痛を覚悟すれば、何とか』といったところでしょうか。(苦笑)」
「あー。やっぱり、体に相当な負荷がかかるんですね?」
「ええ。慣性コントロールは、かなり高等な魔法ですし……執務官のような、その種の魔法を使える人でも、特に急いでいない時には、やはり『軽く飛び立ってから、空中で順番に加速してゆく』という飛び方の方が一般的だろうと思います」

「で、それから~? それから、どうなったのよ~?」
 ノーラに()かされると、マチュレアは両の(てのひら)を下に向け、ティーカップが常に両手を結んだ線の中心に来るように、両手をくるくると水平に回しながら、こう言葉を続けました。
「それから、こう……二人で船を挟み込むような形で、貨物船の周囲を右回りにぐるぐると何度か巡ったかと思ったら……その時にはもう、甲板(かんぱん)の上にいた船員たちは全員、撃ち倒されてて……」
「ホント、どちらもいつ撃ったのかゼンゼン解んないぐらいの早業(はやわざ)だったっスよ! その後も、もう『いきなり』だったっスね」
「うん。執務官さんは右舷の側から船橋(ブリッジ)の壁をブチ抜いてそのまま船橋(ブリッジ)の中に突入して、同時に、補佐官さんは左舷の側から甲板の少し下あたりをブチ抜いてそのまま船内に突入して」
「ええ~。(絶句)」
「それ、普通だったら、そのまま船内の壁とか床とかに激突して大怪我するわよね?」
「執務官は、さすがに普通じゃないっスよ。マジ、パねえっス」

「それから、ほんの2~3分だったかなあ。二人は普通に歩いて甲板の上に姿を現わして、タラップの下で待機してた陸士らに『あとは任せた』とばかりに挨拶だけして、そこからは直接に市街地の方へ飛んで帰っちゃったんだけどねー」
「陸士らはそれを敬礼で見送ってから、一斉に船内に突入したんスけど……しばらくしたら、またみんな船内から大慌てで逃げ出して来て……」
「私らも『あ。これ、何かヤバいヤツだ!』と思って、とっさにしゃがみ込んでシールドを張ったんだけどねー。間一髪で、大爆発だったわー」
「え~。なんで~?」
「それが、船倉に結構な量の爆薬とか、積んでたみたいでねー。事故だったのか、自爆だったのかは、よく解らないんだけど、とにかく、船体が真ん中からポッキリと二つに折れちゃってさー」
「割れた船底(ふなぞこ)の鋼板が海底に突き刺さりでもしたのか、ただ単に何かに引っかかったのか。その辺は、よく解んないんスけどね。船体がVの字型に折れ曲がったまま、船首も船尾も水面よりもかなり高く突き出したような形で、固まっちまって……。
 いや。アタシらのところまでは、何かの破片とか、飛んで来たりはしなかったんスけどね。それでも、念のためにシールドも張っといて正解だったっスよ。結構な強さの爆風が届いたっス」

「陸士たちはみんなブッ倒れてるし、埠頭(ふとう)ももう使い物にならなくなったような形で炎上してるし、かなりヒドい状況だったんだけどねー」
「このままここにいたら、何か厄介事に巻き込まれるんじゃないかと不安に駆られて、アタシらは大急ぎで自転車(チャリ)に乗って逃げたっスよ」
「それはヒドい!」
 ゼルフィは思わず、笑いながらも素直な感想を口にしてしまいました。
「いやー。後から報道を見た限りでは、陸士隊の側は負傷者だけで、死者は一人も出てなかったみたいで、安心したんだけどねー。ただし、その報道では、船体がVの字のまま固まってる貨物船の映像が大写しにされて、その記事のタイトルが何故か、『破壊王ティアナ・ランスター、またもや大破壊!』だったのよー」
「え~。その爆発は、ティアナさんとは関係ないんじゃないの~?」
 ノーラの抗議の声に、マチュレアとフォデッサは大きくうなずきました。
「うん。現実には、そのとおりなんだけどねー」
「アタシら、報道が捏造(ねつぞう)される現場を目撃してしまったっスよ。(笑)」
「正直な話、私らはあの一件以来、一般のメディアはあんまり信用しないことにしてるわー」

 マチュレアは続けてこう語ります。
「それで、十日ほどして、そろそろ『ほとぼり』も冷めただろうと思って、8月の末にもう一度、同じ場所に行ってみたんだけどねー。密輸船の撤去作業なんかはようやく終わったところだったけど、埠頭(ふとう)はまだ修理中みたいな感じでさー」
「それと、十日前にはティアナさんが花束を置いていたはずのお墓が無くなって、更地に戻ってたんスよ。アレって、もしかして、祀り上げだったんスかねえ?」
 エドガーはしばらく聞き役に徹していましたが、そこで不意に『ああ』と何かを思い出したような声を上げて、四人の視線が自分の側に向いてから、こう言葉を続けました。
「89年の8月でしたら、ティアナさんのお兄さんの祀り上げだと思います。確か、以前、『兄ティーダは自分が10歳の時に21歳で亡くなったが、〈メイラウネ事件〉の直後にその祀り上げを1年、前倒しで行なった』とか言っておられましたから」
 ノーラはそれを聞きながら、いきなり手帳にメモを取りました。(笑)


 こうして、ようやく「エドガーが〈ゲドルザン事件〉についてノーラたちに語る順番」が巡って来ました。
 今からちょうど10年前、デヴォルザムの第三大陸「カロエスマール」の第二州都ウルバースでの、もっぱら旧市街を舞台とした事件です。
【この事件の概要に関しては、「プロローグ 第7章 第1節」を御参照ください。ここでは繰り返しません。】

 それから2(ハウル)ほどして、エドガーがひととおりのことを語り終えると、四人の女性陸士はどっと息をついて、口々にこんな感想を漏らしました。

 ノーラ「なるほど~。それで、ティアナさんは『破壊王』なんて呼ばれるようになっちゃったんですね~」
 マチュレア「噂には聞いてたけど、ブレイカーって、本当にとんでもないスキルなんですねー」
 フォデッサ「イッパツで表通りの両脇の街並みが丸ごと吹っ飛ぶとか、もう人間のするコトじゃないっスよ。(ガクブル)」
 エドガー「まあ、相手が全力でシールドを張って『無駄な抵抗』をしたのも、良くなかったんでしょうねえ。最初から随分と古びた石造りの……それこそ、大きな地震でも来たら一気に倒壊しそうな街並みでしたから。(苦笑)」
 ゼルフィ「でも……その歴史ある街並みって、その後、ちゃんと再建されたりしたんですか?」

 ゼルフィのそんな素朴な疑問に、エドガーは大きく肩をすくめてみせました。
「それなんですけどねえ。この事件には、少々不愉快な後日譚がありまして。実は、その一帯は、もう随分と前から再開発計画の持ち上がっていた区域だったんですが……もう少し具体的に言うと、州議会の方は経済効果を理由にその一帯の再開発を推し進めようとしていたんですが……拒否権を持った州知事が歴史遺産保護という名目で、ずっとそれを押し(とど)めていたのです。
 ところが、実際に〈ゲドルザン・ファミリー〉を潰した後で解ったのは、その州知事が彼等から定期的に賄賂(わいろ)を受け取っていた、という事実でした。要するに、州知事はファミリーに居場所を与える代わりに、いわゆる『ショバ代』を巻き上げ続けていた、という訳です」
「うわあ。それ、絶対ダメなヤツじゃん……」
「まあ、その辺りは現地陸士隊の仕事で、ティアナさんや私たちはもう関与していないんですけどね。その贈収賄が発覚して州知事が更迭(こうてつ)された後に、旧市街の再開発計画が一気に進んだ結果、その一帯も、今ではもう『歴史的な面影など欠片(かけら)も無い』()新しい街並みに変貌してしまったのだそうです」
「あちゃ~」

「聞くところによると、多くの議員たちが『立場上、公言はできないが、内心ではティアナさんに随分と感謝をしている』という話なのですが……。一方、その一帯から『立ち退()き』を()いられた貧しい人々は、今でも彼女のことを随分と怨みに思っているのだそうです」
「ええ……。でも、それは全然、ティアナさんのせいじゃありませんよね?」
「そうですね。元を正せば、州当局の都市計画や貧民対策の杜撰(ずさん)さが問題だった訳で……。実のところ、今にして思えば、あの一帯は『歴史遺産』とは名ばかりの街並みでした。小綺麗(こぎれい)なのは表通りだけで、一歩(いっぽ)裏に入れば、事実上の貧民窟だったのです。
 当時、ゲドルザン・ファミリーは、そうした人々に曲がりなりにも『仕事や食事』を与えていたので、地域住民はおおむねファミリーを支持していました。とは言っても、現実には、ファミリーの側も決して善意で奉仕活動をしていた訳では無く、『必要に応じて自由に使える手駒を、普段から計画的に養っておこう』という打算で、そうしていただけだったのですが……。それでも、やはり、日々の食事にも困っていた人々にとっては、ファミリーが自分たちの恩人のように見えてしまっていたのでしょう」

「ちなみに、その『自由に使える』というのは、具体的には、どういう使い方だったんですか?」
「私が実際に見た範囲では……貧民に一般市民の服装をさせて新市街へと連れ出し、プラカードを持たせてデモ行進をさせる、とか。再開発計画を進めている有力議員にハニートラップを仕掛けに行かせる、とか。地元のメディアに採用させて偏向した記事を書かせ、自分たちにとって都合の良い方向へ世論(よろん)を誘導しようと(たくら)む、とか……」
「うっわぁ~。(嫌悪感)」
「最終的には、私たちの行動を阻止するための『人間の盾』としても利用されていましたね」
「ええ……。(絶句)」
「ですが、それでもなお、ティアナさんは『非殺傷設定が組んであるから大丈夫!』と言って、そのまま躊躇(ちゅうちょ)無くブレイカーを撃ちました。あの強靭なメンタルは、是非とも見習いたいものです」

 ティアナにとっては、ただ単に『カルナージでの合同訓練などによって、「そこに人間がいても撃つこと」にもう慣れていた』というだけのことだったのですが……エドガーが真剣な顔でそう言うと、四人の女性陸士たちは思わず引いてしまいました。

 ノーラ《え~。それは、さすがに見習っちゃダメなヤツなんじゃないのかな~?》
 ゼルフィ《いくら死ななくても、それ、ゼッタイ「無事」では済んでないわよね?》
 マチュレア《て言うか、仮にも「一般人」をまとめて撃っちゃうって、倫理的にどうなのよ?》
 フォデッサ《執務官、ヤバいっス。補佐官も含めて、マジ、ヤバいっス。(ガクブル)》
 ゼルフィ《まあ、取りあえず、逆らっちゃダメな人たちなんだということだけは、よく解ったわ。》
 ノーラ《やっぱり、「破壊王」の二つ名は伊達(だて)じゃないってことなのね~。》

 四人は無言のまま、念話でそう語り合ったのでした。


 
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