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魔法戦史リリカルなのはSAGA(サーガ)

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【第一部】新世界ローゼン。アインハルト救出作戦。
【第4章】ザフィーラやヴィクトーリアたちとの会話。
   【第6節】ヴィクトーリアの個人的な問題について。



「じゃぁ、あとの二つは……陸曹の話に出てきたウベルティ家と……?」
 カナタのそんな独り言のような問いかけには、ザフィーラがすかさずこう応えました。
「もう一つは、お前たちもよく知っているだろう?」
 双子が揃って「疑問符だらけの表情」を浮かべると、ザフィーラは少しばかり、その状況を面白がっているような口調で言葉を続けます。
「お前たちも昨日まで世話になっていた、カリム総長のグラシア家だ」
「えっ? あの人って、そんなに偉い人だったの?!」
 カナタの派手な驚きように、三人の大人たちは思わず失笑を漏らしてしまいました。
「お前たち、そんなコトも知らずに世話になっていたのか。(呆れ顔)」
「血筋の話を抜きにしても、あの人は本来、一般人から見れば『雲の上の人』なのよ。何と言っても、騎士団総長。いわゆる〈聖王教会三巨頭〉の一人なんだから」

「さんきょとう?」
 そもそも用語の意味が解らない、というカナタの表情を受けて、エドガーはまた「常識レベルの話」の解説を始めました。
「聖王教会という組織は、ごく大雑把に言って、三つの部門から成り立っています。まずは、信仰と儀礼を司る司祭団。次に、教会と信徒らを守護する騎士団。そして、巡礼者や一般社会への奉仕活動を営む奉仕団。これは、修道院とか修道会とも言いますね。
 もちろん、聖職者一人一人の所属は『最初から一つの部門に固定されている』という訳ではなく、特に、末端のシスターたちの立場は流動的で、彼女らが『時と場合に応じて人手不足の部門へと駆り出される』というのも、よくあることですし、また、『修道騎士』や『騎士司祭』のように最初から二つの部門にまたがっている役職もある訳ですが……。
 ともあれ、これら三つの部門の頂点に立つ人物を、それぞれ、大司祭長、騎士団総長、大修道院長、と言い、この三人を合わせて、聖王教会の〈三巨頭〉と言います。
 聖王教会は何十もの世界に『それぞれの本部』を持つ巨大な組織ですが、その組織全体に関わるような重大な案件はすべて、通常は季節ごとに年四回、(もよお)される〈三巨頭会談〉で話し合われ、この三人だけで最終的な意思決定が下されます。……と言っても、何も重大な案件が無ければ、その会談は単なる『定例のお茶会』になるようですが」

「あ……。そう言えば、ちょうど先月の今頃、カリム総長とシスター・シャッハが丸一日、本部を留守にしてたことがあったけど、アレって、もしかして……」
「そうですね。4月の上旬ならば時期的に考えて、おそらく、三巨頭会談に出席していたのだろうと思います。まあ、一日で終わったのなら、重大な問題は……少なくとも『新たな』問題は……何も無かったということなのでしょう」
 エドガーは、ちょっと安心した、という口調です。
「しかし、その会談は『教会本部』以外の一体どこで行われているんですか?」
「ああ。皆さんが普段、教会本部と呼んでいる建物は、実際には、今では教会『騎士団』の本部なんですよ。聖王教会という組織が最初に設立された頃には、実際にあの辺りに総本部があったという話ですが、後に『司祭団』の本部や『修道会』の本部はベルカ自治領のもっとずっと奥の方へと移転しました。そのため、今では三巨頭会談も、普段は修道会本部の直営地にある『秘密の庭園』で(もよお)されているのだそうです。
 一方、騎士団は昔から、ミッド中央政府や管理局に対する『対外交渉窓口』のような役割をも(にな)って来たので、今も自治領の南端部、首都クラナガンにも近い側に居残り続けている、という形ですね」

 ここで、ヴィクトーリアが再び会話に加わりました。
「ちなみに、グラシア家は、ベルカ世界が滅亡してからは代々、ベルカ自治領の管理や運営などを担って来た一族で、今の当主はカリム総長のハトコに当たる人物なのよ」
「ハトコってことは……総長自身は、本家の人間じゃないってこと?」
 カナタのそんな疑問には、ヴィクトーリアに代わって、ザフィーラがこう答えます。
「もちろんだ。もしも本家の人間だったら、いくらレアスキルの持ち主でも、全く血のつながりが無いヴェロッサを、いきなり『弟』として家に迎え入れることなど、できはしないからな」
「え……?」
「格の高い家ほど、血のつながりを重んじますからね。相続の問題もありますから、名家の本家が養子を取るとなると、どうしても『同じ一族の分家の中から』ということになります」
 カナタの疑問の表情が解けないのを見て、エドガーもそう言葉を添えたのですが、実のところ、カナタの「新たな疑問」は、それとは全く別のモノでした。
《ごめん、ツバサ。ヴェロッサって、誰だったっけ?》
《ほら。クロノ伯父様の親友で、本局で上級査察官をやっている人ですよ。私たちも、無限書庫で一度、エルスさんと二人でいらっしゃった時に、お会いしているはずですが。》
《……ああ! あの、ちょっと御茶目なオジサンか!》
 ツバサにそう指摘されて、カナタもようやく思い出したのでした。


 そこで、また一拍おいてから、ツバサはようやく「本題」を切り出しました。
「ところで……実を言うと、私は元々『これ』を訊こうとして、フランカルディ家についてお尋ねしたのですが……」
「え? 待って。じゃあ、今までの話って、全部、ただの『前振り』だったの?」
 ヴィクトーリアは思わず、愕然とした声を上げました。
「ええ、すみません。……いえ。もちろん、いろいろな話を聞かせていただき、大変に勉強になったのですが……私が元々、ヴィクターさんにお訊きしたかったのは、何と言うか……もっと、ずっと些細(ささい)な問題でして……」
 ツバサはやや言い訳めいた口調でそう前置きをしてから、ヴィクトーリアの視線に(うなが)されるようにして、ようやく「本来の質問」をします。
「先程、フェルノッド陸曹が自分は分家筋の出身だと答えた時に、ヴィクターさんは何やらとても安心した表情を浮かべていたように見えたのですが……もし、フェルノッド陸曹がウベルティ本家の出身だったら、何か問題でもあったのでしょうか?」
「……細かいトコロまで、よく見てるわねえ……」
 ヴィクトーリアは思わず、感心したような、少し呆れたような、何やら痛いところを突かれて困ったような、微妙な表情を浮かべました。

 そして、一つ長々と溜め息をついてから、彼女はようやくこう語り始めます。
「さっき、私はバラム陸曹に『当家(うち)の当主は、代々おおむねミッド人の女性を妻に迎えて来た』と言ったけれど……わざわざ『おおむね』と断わったからには、当然に例外もある訳で……実は、私の曽祖父テオドールは、当時のウベルティ本家の当主の娘を、嫡子の姉に当たる女性を妻に迎えたのよ。だから、今のウベルティ本家の当主は、私の父のハトコに当たる人物なの。それで……何と言うか、向こうの当主の息子は、当然に私のマタハトコに当たる人物なのだけれど……」
《マタハトコなんて、もう他人じゃん! そんなコト、気にしてたの?!》
《名門の家柄だと、マタハトコは、まだ「親戚」の(うち)なんですかねえ?》
 双子は念話で、互いにそんな感想を漏らし合いました。

 しかし、ヴィクトーリアにとっては、よほど言いづらい話なのでしょうか。彼女はそこでふと口を閉ざしてしまいました。その様子を見て、エドガーはやや苦笑を浮かべながらも、主人(あるじ)に配慮して少し声を(ひそ)め、こう言葉をつなげます。
「実は、もうかれこれ9年も前のことになるのですが、ウチのお嬢様と、お嬢様のマタハトコに当たる『ウベルティ本家当主の御子息ミルコ様』との間に、縁談が持ち上がったことがあったんですよ」
「えんだん……って、結婚の話?」
「この話、あまり他人(ひと)には言わないでね。恥ずかしいから」
「で? それ、振っちゃったの? (ちょ~)優良物件なのに!」
《男性のことを『物件』とか。カナタ、その表現は少々はしたないですよ。》
 ツバサは心の中で苦笑しながらも、軽くたしなめるような口調で念話を送りました。
 それでも、ヴィクトーリアはその表現を気にする様子も無く、途切れ途切れにこう言葉を続けます。
「いや。別に、どちらからどうしたという訳でもないんだけど……お互い親に言われて、一応は『お見合い』のような形で、二人だけで食事とかもしてみたんだけど……。何て言えば良いのかしら? 『一目見て、ピンと来るモノが何も無かった』と言うか……。まあ、後から聞いた話だと、それも『お互い様』だったみたいなんだけど……」

「それで、縁談の話はそのまま立ち消えになってしまった訳ですが……このお話は元々、『向こうの御当主』の、単なる思いつきだったと言うか……。85年の、いわゆる〈ゲドルザン事件〉でお嬢様の名前がそれなりに有名になった結果、『そう言えば、ダールグリュン家のハトコにも、ウチの息子と似たような(とし)の娘がいたなあ』ということを、ただ思い出しただけだったと言うか……」
「まあ、私も彼も最初にそれを聞いていたから、お互い、割と気軽にお断りすることができたのだけれど……確か、彼には、あの時点で15歳になる弟さんがいたはずなのよ。
 だから、フェルノッド陸曹が『24歳』と名乗った時、私はとっさに『もしも、この人がミルコの弟さん本人だったら、モノすごく気まずいなあ』とか考えちゃったの」
「ああ~。それは、確かに気まずいかな~」
「なるほど。それで、全く違うと解って、安心されたんですね」
 これで、ツバサの「些細な」疑問は、ようやく解消されたようです。

「まあ、冷静に考えたら、ウベルティ本家の人間がわざわざ一介(いっかい)の陸曹なんかをやってるはずが無いんだけどね」
 ヴィクトーリアは自分の「早とちり」を反省しつつ、そう続けました。
 確かに、「それほどの名家の御子息」ならば、たとえ局の武装隊に入るにしても、最初から士官学校を卒業して、普通なら三尉から、最低でも准尉から、そのキャリアを始めているはずです。間違っても、一般の陸士から始めて、叩き上げで陸曹になったりはしないでしょう。

 一方、エドガーは少し芝居がかった表情で、ひとつ大きく溜め息をついてから、「やれやれ」と言わんばかりの口調で唐突に話題を変えました。
「しかし、あの時点では、(わたくし)どもも、よもやウチのお嬢様がこれほど(えん)(どお)くなられるとは、考えてもおりませんでした。……ダールグリュン家ほどの名家ともなると、『家格』の釣り合う相手を探すだけでも一苦労だと言うのに……まったく、ウチのお嬢様と来たら……」
「ああ。ずっと独身でいるということは、やはり、夫となる男性にはいろいろと厳しい条件をつけている、ということですか?」
 ツバサがさも「当たり前のコト」のような口調で言うと、ヴィクトーリアはとっさにこう反発します。
「いや! 別に、そんな高望みをしているつもりは無いのよ! 私はただ、『私と普通に魔法戦をして、簡単に負けてしまうような軟弱者では困る』と言っているだけで!」
《うわあ……。それ、ハードル、高すぎ……。》
《あのアインハルト兄様ですら、新暦80年の都市本戦では勝てなかった、という話ですからねえ……。》
 今から15年前、二人は都市本戦の5位決定戦で戦い、アインハルトは6位に終わっています。本人にその気は無くても、カナタやツバサから見れば、それは充分に「高望み」の(たぐい)でした。


 また、ヴィクトーリアは、エドガーの視線から何か「無言の圧力」でも感じ取ったのか、ふと視線だけを執事の側に向けて、横目でこう反発を続けます。
「それに……私は、下手な男と一緒になるぐらいなら、生涯独身でいた方が良いのよ。家名なら、兄がもう立派に継いでくれてるんだし……。〈継承者〉だって、『先代の〈継承者〉の直系の子孫にしか現われない』という訳じゃないんでしょ?」
「それは、そうですが……」
「え? その〈継承者〉っていうのは?」
 カナタはその単語に反応して、二人の会話にいきなり割り込みをかけました。アインハルトが覇王クラウスの〈記憶継承者〉なので、やはり、その種の単語にはどうしても敏感になってしまうのでしょう。
 もちろん、それはかなり不作法な行為だったのですが、ヴィクトーリアはそれを気にする様子も無く、むしろ「これ(さいわ)い」とばかりにエドガーとの会話を一方的に打ち切り、説明を始めます。
「私も先程、自分には『一族の血に由来する、強い魔力』があったから、という話をしたけれど、当家には昔から、そうした〈雷帝の力〉を強く受け継ぐ者が、必ず隔世遺伝で、おおむね三世代に一人ぐらいの割合で現れるの。それで、当家では独自に、そうした人物のことを〈継承者〉と呼んでいるのよ」

 そこで、エドガーも仕方なく(?)主人(あるじ)への追及を諦め、また解説をする側に回りました。
「先代の〈継承者〉は、先の話にも出て来た、お嬢様の曽祖父に当たるテオドール様です。職業もお嬢様と同じ執務官で、魔法の資質もお嬢様と非常によく似たタイプで……お嬢様のデバイスも最終的に、基礎フレームなどはテオドール様のデバイスを参考にして造られました」
「曽祖父は、私が6歳の時に、81歳で亡くなってしまったのだけれど……当家では、曽祖父に二人目の妹が生まれて以降、60年以上もの間、女の子が生まれていなかったせいかしら。私は生まれた時から、曽祖父には随分と可愛がられて……。私のヴィクトーリアという名前も、その曽祖父がつけてくれたものなのよ」
「身内自慢になってしまい、恐縮ですが、往年のテオドール様は、局全体の中でも指折り数えるほどの優秀な執務官でした。元〈三元老〉のミゼット・クローベル提督がまだ現役で活躍しておられた頃、特に新暦10年代から20年代にかけては、何か問題が起きた世界へと赴く提督の御座艦(ござぶね)に、よく指名を受けて同乗しておられたそうです」
 それは、ヴィクトーリア執務官が今、八神はやて提督からの指名を受けて、この〈スキドブラドニール〉に同乗しているのと似たような感じだったのでしょうか。

 そこで、カナタはふと、感嘆の声を上げました。
「いやぁ。それにしても……三世代も前の人の話がスラスラと出てくるあたり、さすがは名家って感じですネ」
「そこへ行くと、高町家は普通の家庭ですからねえ。私たちは、自分の曽祖父母なんて、名前すら出て来ませんよ。(苦笑)」
「て言うか、ボクらはそもそも、士郎お祖父(じい)様からも、桃子お祖母(ばあ)様からも、親の話なんて聞いたコト無いよネ?」
 ツバサはそんなカナタの言葉に、すかさず『ええ』とうなずいてしまってから……ふと何かを思い出しました。
「あ! でも、リンディお祖母様からは何か聞いたことがありませんでしたか? 確か……父親が早くに亡くなったから、自分は長らく母親と二人きりの母子家庭で育った、とか。その母親も、自分がクライドさんと結婚した直後に亡くなってしまったから、結局、孫の顔を見せてあげることはできなかった、とか……」
 それを聞くと、カナタはしばらく考え込んでから、不意にポンと手を打ちました。
「ああ。そうそう、思い出した! 母親の名前が……確か、ディサ・キャネリア。父親の名前が……ちょっと珍しい名前だけど、確か、ヴェラルドだ!」

「おいおい。ヴェラルドなら、別に珍しくも何ともないだろう」
 ザフィーラは「昔の知識」に基づいて、思わずカナタの言葉にそうツッコミを入れてしまいました。
「え? そうなの?」
「私たちとしては、ミッドに来てから一度も聞いたことが無い名前なのですが……」
 これには、エドガーがまたこんな解説を加えます。
「ああ。ヴェラルドは、確かに、今ではもう滅多に見られない名前ですね。……しかし、人の名前にも、やはり『流行(はや)(すた)れ』というものがありまして。旧暦の400年代半ばから新暦の初め頃までは、男子のヴェラルドは、女子のミゼットと並んで、とてもよくある名前でした。
 特に……リンディ元提督のお父上ならば、おそらく、生まれはちょうど改暦の頃かと思われますが……百年ほど前のミッドでは、男子のおおよそ七人に一人がヴェラルドと、女子はおおよそ六人に一人がミゼットと、名付けられていたのだそうです」

「へ~。じゃあ、当時としては、『一番多い』ぐらいの名前だったんだ!(吃驚)」
「そうですね。今でも80歳以上の高齢者の中には、時おり見受けられる名前ですよ」
「え? でも、リンディお祖母様は、ファストラウムの生まれなんですが……それは、あの世界でも同様だったのですか?」
 これには、さしものエドガーも少し言葉に詰まってしまいました。
「……いや。私もさすがに、百年前のファストラウムの事情まではよく解りませんが……。あるいは、そのヴェラルドさんは、ミッドで生まれて早くにファストラウムへと移り住んだ(かた)だったのかも知れませんね」
「その辺りの話も、また機会があったら、リンディお祖母様に訊いてみたいですねえ」
「うん。できたら、高町家の系図とかも、一度きちんと書いてみてほしいよね。……あ~。何だか、だんだん気になって来た~」
「やはり、ある程度の年(とし)になると、誰しも自分のルーツは気になるものですよねえ」
 エドガーはにこやかにそう言って、一連の会話を締めくくったのでした。


 すると、ちょうどそこへ、コニィがまた四つの茶碗を乗せた大きなお盆を手に、ミニキッチンの方へと戻って来ました。
 ツバサはふと、小声でそれを呼び止めます。
「あ、コニィさん。そう言えば、先ほど、フェルノッド陸曹の(うめ)き声が聞こえて来たような気がしたんですけど……彼、大丈夫でしたか?」
「いやあ。苦味(にがみ)が全くダメな人って、ホントにいるんですねえ」
 コニィは心底(しんそこ)呆れ果てたような口調で苦笑いを浮かべました。
《ああ~。やっぱり、リンディお祖母(ばあ)様と同じタイプの味覚の持ち主だったか~。》
《まあ、ジョーさんとの会話からして、何となく予想はついてましたけどね。》
 カナタとツバサの目から見ても、やはり、リンディの味覚はちょっとおかしいようです。

 一方、コニィは続けて、溜め息まじりにこう語りました。
「他のお二人は、普通に飲んでくれたんですが……あの人だけは、一口飲むなり、『頼むから、これには砂糖を入れさせてくれ』などと、ほざきやがりまして」
「コニィ。人前でその言葉づかいはダメよ。(苦笑)」
「ああ。すみません、お嬢様。つい、いつもの癖で」
《……いつもは一体どんな口調で喋ってるんだろう……。》
《何だか怖いから、それは訊かないことにしましょう。(笑)》
「先日、()れたばかりの今年の新茶ですから、よく味わえば、ほのかな甘味もするはずなんですけどねえ……。結局、半分ちかくも残されてしまいました」
 コニィは引き続き不機嫌そうな表情です。

 それを見て、ツバサは話題を変えようと、ひとつ基本的な質問をしました。
「やっぱり、新茶は味が違うんですか?」
「ええ。普通は、同じ木から年に四回ほど葉を摘むんですが、基本的には、回を追うごとに苦味が増していきます。……ところで、実は、昨年の四番茶も持って来ているんですが、お二人とも、おひとついかがですか?(ニッコリ)」
《それって、「一番苦い抹茶」って意味だよね?!》
《ええ。ここは丁重にお断りしておきましょう。》
 そこで、カナタはとっさに「いつもの言い訳」を使います。
「すいません。せっかくですけど、ボクら、味覚がまだコドモですから」
「解りました。それでは、仕方がありませんね」
 コニィはにこやかに笑って、そのままミニキッチンの方へと歩み去って行きました。

 それを見送ってから、ザフィーラは実にしみじみとした呆れ顔で、双子にこう語りかけます。
「普段は、オレたちがコドモ扱いをすると露骨に嫌がるくせに。お前たちは、ホント、自分たちに都合の良い時だけ、コドモになるよなあ」
「まあ、それは、十代前半の特権ってことで」
「そのうち、オトナになりますから、もう何年かは大目に見てやってください」
 カナタとツバサは息もぴったりにそう(こた)えました。


 
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