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魔法戦史リリカルなのはSAGA(サーガ)

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【第一部】新世界ローゼン。アインハルト救出作戦。
【第4章】ザフィーラやヴィクトーリアたちとの会話。
   【第2節】三人の陸曹たち、来室する。



 そこで一拍おいて、また扉が小さく開きました。
「すみません。今、よろしいでしょうか?」
「どうぞ。こちらの話はちょうど一段落したところよ」
「では、失礼します」
 やや堅苦しい口調で談話室に入って来たのは、「かなりがっしりした体格の、髭面のオッサン」でした。彼の後には、「少しチャラい感じの、長身のイケメン」と「妙に顔色の悪そうな、地味な印象の若者」が続きます。
 エドガーはすかさず席を立って、その三人を出迎えました。
「ああ。ようこそ、皆さん。……お嬢様、御紹介しましょう。こちらが、私と同室になった三人の陸曹です。どうやら、男性陣の部屋割りは『階級と年齢の順に並べて、四人ずつ区切っただけ』のようで、聞くところによれば、他の八名はみな二十歳(はたち)前後の一等陸士なのだそうです」
〈ああ。やっぱり、そういう部屋割りだったのね。〉
 ヴィクトーリアはちらりと双子の方を見て、そう納得しました。
 どうやら、彼女も内心では、『同室の相手は、一般の陸士よりもこの双子の方が、自分としても気が楽だったのに』などと思っていたようです。

 まずは先頭の人物が、少し堅苦しい口調でこう切り出しました。
「我等三名、先ほど陸曹長殿よりお招きいただき、参上いたしました。お(はつ)にお目にかかります。自分は、エルセア地方の陸士386部隊より参りました、バラム・ドルガン陸曹であります。執務官殿の御高名はかねがね伺っておりました」
 そこで、エドガーはすかさず悪戯っぽい口調でこんな言葉を添えます。
「お嬢様。こう見えても、彼はまだ26歳なんですよ」
 すると、ヴィクトーリアの隣で、コニィは思わずブッと茶を噴いてしまいました。
「もっ、申し訳ありません! 私としたことが、とんだ粗相(そそう)を!」
 この侍女が粗相をするというのは、よほど珍しい光景らしく、ヴィクトーリアも思わず目を丸くしています。
「あの、すみません! 一見して、よもや自分よりも年下だとは思わなかったものですから。どうか、気を悪くなさらないで下さい」
 コニィは軽く(せき)込みながらも、そう言って、バラム陸曹に頭を下げました。
「いえ。どうぞ、お気づかいなく。その種の反応には、もう慣れておりますので」
 と言いながらも、バラムはちょっぴり悲しげな表情です。

 それを見て、ヴィクトーリアはやや強引に話題を変えました。
「ええっと……ドルガンというのは、あまり聞いたことが無いのだけど……やっぱり、オルセア系の移民の苗字なのかしら?」
 これには、バラムも少し気が楽になったような面持ちで即答します。
「はい。ミッドでこそ決して多くはない苗字ですが、聞くところによれば、オルセアではマグナスやランスターと同じぐらいよくある苗字なのだそうです」
(ランスター? ……ああ、そうか。ティアナさんも確か、元々はエルセア地方の出身だったわね。)
 コニィが慌てて自分のティーカップを下げ、ミニキッチンの方から布巾(ふきん)を取って来る中、ヴィクトーリアは独りそう納得しました。

 すると、今度は、長身のイケメンが少し軽い口調でこう自己紹介をします。
「で、自分は、アラミィ地方の陸士298部隊から来ました、ジョスカナルザード・ログニス陸曹、25歳です。以後、よろしくお願いします」
「えっと……ごめんなさい。切れ目がよく聞き取れなかったんだけど……ナルザードがミドルネーム、でいいのかしら?」
「いえ。ジョスカナルザードで一個のファーストネームです。……アラミィじゃそれほど珍しい名前という訳でもないんですが、どうやら、中央の方じゃ滅多に無い名前のようですね。……ま、確かに長いんで、普段の呼び名はジョーで結構です」
「それなら、これからはそう呼ばせてもらうことにするわ」

 そこで、ヴィクトーリアが三人目の若者の方へ目を向けると、その男は少しボソボソとした口調でこう語りました。
「私は、クルメア地方の陸士339部隊から来ました、フェルノッド・ウベルティ陸曹、24歳です。多分、顔色が悪く見えると思うんですが、これが地顔(ぢがお)で、本人はいたって健康ですので、どうぞ、お気づかい無く」
「え? クルメアのウベルティ家って……もしかして、フランカルディ家の〈四大分家〉の一つのウベルティ家?」
 ヴィクトーリアがちょっと驚いた口調で問うと、フェルノッドはやや居心地の悪そうな表情でこう答えます。
「ええ。まあ、先祖をたどれば確かにそうなんですが……ウチはウベルティの中でも分家の分家筋のそのまた分家なので、父も母も兄も私も妹も、フランカルディ家やウベルティ本家の方々とは全く面識がありません。どうぞ、一般市民あつかいでお願いします」
「ああ、そうなのね。解ったわ」
 ヴィクトーリアは「何故か」ほっと安心したような表情でそう応えました。
【この辺りの説明は、また「第6節」でやります。】

「それでは、改めて皆さんに御紹介しましょう。こちらが、ヴィクトーリア・ダールグリュン執務官です」
「はい。古代ベルカの王族の(すえ)であると(うかが)っております」
 エドガーの言葉に、バラムはまた必要以上に丁重な口調で応えました。ヴィクトーリアは思わず少し恥ずかしげな微笑を浮かべます。
「まあ、〈雷帝〉はもう十世代以上も昔の人だし、当家では代々、おおむねミッド人の女性を妻に迎えて来たから、私の体の中にはもう〈雷帝〉の血なんて千分の一も流れてはいないはずなんだけどね」
 そこで、ヴィクトーリアから視線で先を促され、エドガーはこう続けました。
「そして、私はエドガー・ラグレイト。管理局員である以前に、お嬢様の執事です。こちらは、同様にお嬢様の侍女であるコニィ・モーディス。二人とも、管理局では『第一種・乙類』の資格でお嬢様の補佐官を務めております」
「コニィさんも、階級は陸曹長でしたか?」
「ええ。でも、私は元々の身分が侍女ですから、あまり『目上あつかい』はしていただかなくても結構ですよ」
 布巾でテーブルを拭き終えたコニィは、バラムの質問に笑顔でそう答えました。

 すると、エドガーもまた、少し人の悪い笑顔でこんなふざけた説明を付け加えます。
「しかし、こう見えても、格闘では私より強いぐらいですからね。皆さん、下手に彼女に手を出したりすると、火傷(やけど)をしますよ」
 ところが、そこですかさず、ジョスカナルザードがにこやかに軽口を叩きました。
「火傷だけで済むなら、オレ、出しちゃおうかなあ?」
 残る二人の陸曹は思わず頭を(かか)え、溜め息まじりにツッコミを入れます。
「チャラいよ! お前、それ、チャラすぎるよ!」
「それ以前に、その言い方はいくら何でも女性に対して失礼だろう!」
「ええっ? これぐらいは誉め言葉のうち……ですよね?」
 最後の一節は、コニィに向かって確認を取る口調になりました。どうやら、ジョスカナルザード自身は本気でそう思っているようです。
「あなたがそういう意図で言ったのなら、私もそういう意味に受け取っておきます」
 コニィはごく()っ気ない口調で、軽く流しました。どうやら、ジョスカナルザードのような男は、全く「コニィの好みのタイプ」では無かったようです。

「そして、こちらが八神家のザフィーラさんです」
 ザフィーラが無言のまま小さく会釈して見せると、バラムが少し遠慮がちな口調でこう尋ねました。
「そう言えば、ホールでは、お一人だけ、別行動を取っておられたようですが……」
「ああ。オレは、誰かに壇上から偉そうにモノを言えるような立場じゃないんだよ。管理局では、正式な階級も魔導師ランクも全く持ってないからな」
「「ええっ!?」」
 思わず絶句する三人に対して、エドガーはにこやかにこう解説を加えます。
「と言っても、実際には、ほとんど『オーバーSランク』の実力の持ち主ですからね。私たち全員が(たば)になってかかっても、片手で軽くあしらわれてしまいますよ」
「おいおい。『片手で』というのは、いくら何でも大袈裟(おおげさ)だろう」
 ザフィーラは『お前たちが全員でかかって来ても、オレ一人に勝てない』ということ自体は否定しませんでした。
「まあ、上層部(うえ)の方からは、特例措置というヤツで、『有事に限って、現場では陸曹長として行動しても構わない』とは言われているんだがな」

「え? いや……。しかし、一体どうして……」
 ジョスカナルザードは、もう動揺の色を隠そうともしませんでした。
「オレの『本業』は、あくまでも『八神提督の個人的なボディガード』なんだよ。しかし、下手に階級や魔導師ランクを取ると、それに応じた『役職』を局から割り振られ、結果として『本業』に専念することができなくなってしまうだろう? だから、わざと何も取らずにいるのさ」
「でも、階級がひとつ違うと、基本給の方もだいぶ変わって来ますよね? その点は大丈夫なんですか?」
ジョスカナルザードが真顔で問うと、二人の陸曹は再び頭を抱えてしまいます。
「お前! ここでも、また、(かね)の話かよ!」
「お(ぬし)は、金と女にしか関心が無いのか?!」
「いやいや、お金は大事だよ! そりゃ、旦那は名家の出身だから、本気で金に困ったコトなんか一度も無いんだろうけどさ!」
《同年代の同僚から『旦那』と呼ばれてしまう26歳。(笑)》
《カナタ! それ、間違っても、声に出して言っちゃダメですからね!》
《解ってるヨ! いくらボクだって、そこまで非常識じゃないヨ!》
 カナタとツバサは、顔にこそ出しませんでしたが、実のところ、笑いをこらえるのに懸命でした。

 一方、ザフィーラはひとしきり首をひねってから、ジョスカナルザードの質問に答えました。
「管理局員になった時点で、オレ名義の『給与振り込み用の通帳』も作られたはずなんだが、シャマルに預けたきり、自分では一度も開いて見たことが無いな。正直なところ、自分の月収や預金残高が今どれぐらいあるのか、オレにはよく解らん」
「ええ~っ!?」
 ジョスカナルザードは『とても信じられない!』と言わんばかりの表情です。
「オレは、衣食住のすべてを提督から個人的に(まかな)われているからな。自分では『日常的にカードや現金を所持している必要』それ自体が無いんだよ」
「え? いや! ……でも! 何か、個人的な趣味とかは無いんですか?」
「そうだな。昔はよく、近所の小児(こども)らに格闘技の基礎を教えたりもしていたんだが……主人(あるじ)が提督の地位に就いてからは『本業』の方が忙しくなって、それ以降は、『道場』の真似事のようなコトも、もう長らくやっていないなあ」
「ええ……。じゃあ、今はもう何の楽しみも無い人生ってコトですか?」
「いや。仕事も訓練も、オレはそれなりに楽しいぞ」
 驚愕にうち震える若者に対して、ザフィーラはさも当然のことのような淡々とした口調で、さらなる追い打ちをかけました。ジョスカナルザードはすでに(あご)が落ちており、全く文字どおりの意味で『()いた口がふさがらない』という状態です。

「だから、世の中、お前みたいな人間ばかりじゃないんだよ!」
「お(ぬし)も、千分の一でいいから、ザフィーラ殿を見習え!」
 二人の陸曹はここぞとばかりにたたみかけました。
「私も同じ『主人(あるじ)に仕える身』として、ザフィーラさんのことは常々、目標にさせていただいております」
「……そう言う割には、あなたは……」
 ヴィクトーリアはふと、ジト目で執事を睨みつけましたが、エドガーはそのキツい視線をさらりと受け流して、また話を先へと進めました。
「そして、最後になりましたが、こちらの小柄なお二人は……」
「名前は、こちらがカナタで、こちらがツバサだ」
 ザフィーラは、エドガーの言葉を遮るようにして、不意にそう口をはさみました。二人の苗字をわざと省略しているのは、話題が「高町なのは」に及ぶのを防ごうとしてのことでしょうか。

「どうも、初めまして」
「よろしくお願いしま~す」
「実を言うと、この双子の姉妹は、アインハルト執務官とは身内も同然の間柄でな。まだ12歳の二等陸士なんだが、足手まといにならぬ程度の実力は充分に(そな)えているので、今回の作戦にも急遽、参加してもらうことになった」
「え? 姉妹なんですか? 兄弟じゃなくて?」
 フェルノッドは迂闊(うかつ)にも、つい思ったままの内容を口にしてしまいます。
「私たちは普段から、こんな格好をしているので、よく間違われるんですが」
「こう見えても、ボクら、フツーに女の子ですから」
「いや。あの……。それは……ど、どうもすみませんでしたっ!」
 フェルノッドは狼狽の表情もあらわに、年齢が自分の半分しか無い小児(こども)たちに向かって深々と頭を下げました。どうやら、かなり生真面目(きまじめ)な性格のようです。
「いえ。どうか、そんなに気にしないでください」
「ボクら、その種の反応には、もう慣れてますから。バラム陸曹と同じで」
《カナタ! その一言は余計です!》

 一方、ジョスカナルザードは、フェルノッドの恐縮ぶりを見ると、ここぞとばかりに反撃を始めました。
「お前の目は節穴かよ。男か女かなんて、(ひじ)関節を見ただけでも区別がつくだろうに」
「解らねえよ! て言うか、何だよ? そのマニアックな見分け方は!」
 カナタは慌てて自分の肘とザフィーラの肘を見比べましたが、さっぱり解りません。
 そして、ジョスカナルザードは双子の方に向き直ると、自信満面にこう言ってのけました。
「大丈夫だよ、二人とも! 君たちはあと四~五年もすれば、きっと道行く男どもがみな振り返るほどの美女になる。このオレが保証するよ!」
「いや……。お(ぬし)に保証されても……」
「ナニ言ってんの、旦那! 自慢じゃないけど、オレはこう見えても、女を見る目だけは確かなんだよ?」
「ちょ! 『だけ』とか。お前、それ、ホントに自慢になってねえぞ!」

 ジョスカナルザードとフェルノッドは一瞬、互いに険悪な目つきで(にら)み合いましたが、そこで不意に、ヴィクトーリアが小さな笑い声を漏らしてしまいます。
「あなたたちって、とっても仲が良いのね。本当に、今日、初めて出逢ったばかりなの?」
「これが……仲が良いように見えますか?」
 気勢をそがれて思わずひとつ溜め息をつきながらも、フェルノッドは少し呆れたような面持ちで、ヴィクトーリアにそう問い返しました。
「ええ。見えるわよ。だって、本当に仲が悪かったら、そもそも、まともな会話なんて成立しないでしょ?」
 それは確かにそうかも知れませんが、それでも、フェルノッドは何か釈然としない表情です。
「しかし、その論法で言うと……やはり、お嬢様とハリーさんも『大の仲良しだ』ということですね?」
「エドガー! アレは例外だから!」
 ほとんど嫌がらせのような「笑顔でのツッコミ」に、ヴィクトーリアはまた思わず声を(あら)らげてしまいました。

 そこで、コニィは内心では笑いをこらえながらも、静かに席を立ちました。
「いつまでも立ち話は変ですね。どうぞ、皆さんもおかけください。今、お茶をお入れします」
「あれ? もしかして、ボクたち、席を替わった方が良いのかな?」
 12歳児のそんな言葉にも、バラムはごく丁寧な口調でこう応えます。
「いえ。どうぞ、お気づかい無く。おっつけ、他の陸士たちも来るでしょうから、我等三名は一番向こう側の席に陣取らせていただくとします」
「では、皆さんはどういうお茶がよろしいですか? 何種類か揃えて来ておりますが」
 コニィの問いには、一拍おいて、ジョスカナルザードがこう訊き返しました。
「……緑茶って、ありますか?」
「はい。普通の煎茶と御抹茶の二種類になりますが」
「じゃあ、特別に濃い抹茶を三つ。もちろん、ミルクや砂糖は抜きで!」
「解りました、アラミィ(ふう)ですね。しばらくお待ちください」
 他の意見も訊かず、コニィは足早(あしばや)にまたミニキッチンの方へと歩み去ってしまいます。

 それを呆然と見送ってしまってから、フェルノッドは思い出したように、ジョスカナルザードに小声で()ってかかりました。
「ちょ! おま! ナニ、勝手に決めてんだよ?」
「良い機会じゃねえか。挑戦してみろって」
 そこで、フェルノッドは助けを求めるような目つきでバラムを見つめたのですが、バラムはひとしきり首をひねってから、こうつぶやきます。
「うむ。確かに、地元ではできないことに挑戦してみるというのも、旅の醍醐味かも知れんな」
 フェルノッドは「まさかの裏切り」に()って、愕然となりました。
「はい。二対一で多数決な」
「いや! だって! ……抹茶って、アレだろ? ワサビみたいな色をしたヤツだろ?」
「別にワサビは入ってねえよ。(笑)」
「勘弁してくれよ。……オレ、ガキの頃、兄貴に『抹茶ムースだから』と(だま)されて、練りワサビをスプーン一杯、喰わされたコトがあるんだよ。(半泣き)」
「だから、ワサビは入ってねえって! トラウマかよ。て言うか、お前。それ、匂いで気づけよ」

《うわ~。それは、ヒドいお兄さんだ。》
《それに比べれば、奏太(そうた)(にい)さんの悪戯(いたずら)なんて、まだカワイイものでしたねえ……。》
 カナタとツバサも幼稚園児の頃、三つ年上の従兄(いとこ)から何かされたことがあったようです。(笑)



 
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