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魔法戦史リリカルなのはSAGA(サーガ)

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【第一部】新世界ローゼン。アインハルト救出作戦。
【第3章】実験艦〈スキドブラドニール〉、出航。
   【第3節】マチュレアとフォデッサの来室。



 その後も、四人は魔法一貫校の「あるある話」や当時の恥ずかしい「失敗談」などで盛り上がっていましたが、しばらくすると、隣の部屋からもう一組の女性陸士ペアが訪ねて来ました。
(この部屋の扉は最初からロックされていません。)
「どーもー。はじめましてー」
「ちょっと、お邪魔させてもらってもいいっスかぁ?」
「あ~、どうぞ~」
「エルセア地方の陸士387部隊から来ました、マチュレア・セムディルとフォデッサ・ガウリンでーす。以後、よろしくー」
 随分と軽いノリでやって来たのは、胡桃(くるみ)色の長髪と茶色いクセ毛の、やや小柄で悪戯(いたずら)っぽい目つきをした二人組でした。この二人のために四人は奥へ席を詰め、マチュレアはノーラの隣に、フォデッサはツバサの隣に座り込みます。
 聞けば、階級と魔導師ランクはゼルフィやノーラと同じですが、年齢は一つ上の20歳でした。と言っても、普通に魔法学校の中等科を出てから一年制の陸士訓練校に進んだので、正規の局員としてのキャリアは、こちらの二人組と同じく、今年で5年目なのだそうです。

 マチュレア「いやー。私ら、執務官さんたちと相部屋になっちゃったんだけどさー。なんて言うか、もう息苦しくって、息苦しくってー」
 カナタ「え? でも、別に、ヴィクターさん、そんなに怖い人じゃないでしょ?」
 マチュレア「うーん。まあ、確かに『怖い』っていうのとは、ちょっと違うんだけどさー。……やっぱり、ほら。何と言っても、執務官様だし……」
 フォデッサ「それでなくても、あの人って元々、上流階級の出身なんスよね? なんだか、もう座ってるだけで、アタシらなんかとはオーラがゼンゼン違うっつーか。もっと正直に言うと、ただ目の前に座られただけで、アタシらはもう『ヘビに(にら)まれたカエル』の気分だったっつーか」
 マチュレア「自慢じゃないけど、私ら、下層の出身だからねー。昼食の時もテーブルマナーとか注意されちゃうんじゃないかと、もうヒヤヒヤものでさー」
 フォデッサ「なんか、もうゼンゼン食べた気がしなかったっスよ」
 二人は苦笑しながらも、息もぴったりにそう語りました。

 話によると、二人は中等科の頃からの親友で、ともに八神提督の大ファンでした。
 生まれも育ちもエルセアの片田舎で、二人は以前から「故郷が田舎で、実家が貧乏」という事実に関して強烈なコンプレックスがあったため、なおのこと、「辺境の管理外世界に生まれながら、実力ひとつで准将の地位にまでのし上がった八神提督」は本当に「憧れの(まと)」なのだそうです。
「もちろん、手を伸ばしても届かない『(あお)ぎ見る星』なんだけどねー」
 マチュレアは実際に天井を仰ぎ見ながら、照明器具に向かって真っすぐに右手を伸ばして、そう言いました。
「それだけに、いきなり名指しで招集を受けた時には、アタシら、震えたっスよ!」
「でも、今にして思うと、なんで、私らのことなんか、御存知だったんだろうね?」
「ウチの部隊長が()りにも()って、わざわざこのアタシらを推薦するとは、とても思えないんスけどね。(笑)」
 どうやら、この二人は、上司からあまり気に入られてはいないようです。
【と言うか、実際には「問題児コンビ」として相当に煙たがられています。】

 マチュレアとフォデッサはそこまで一気に「自分語り」を続けてから、不意に話の矛先をカナタとツバサに向けました。
「ところで、最後にホールに来たこちらのお二人は、何だかすごく気軽に質問とかしてたみたいだけど……」
「もしかして、提督とは個人的にお知り合いなんスか?」
 これには、双子よりも先に、ノーラがいきなり悪戯っぽい口調でこう答えます。
「ふっふっふっ。聞いて驚け~! こちらのお二人は、八神提督の親友でもある『本局のエース・オブ・エース』こと、高町なのは教導官のお嬢様方だ~!」
「ちょっ! やめてヨ、そういう言い方!」
「いきなり親の名前から入るのは、さすがに勘弁してもらえませんか!」
 カナタとツバサはすかさず真顔で抗議の声を上げ、ノーラもこれにはぴたりと両掌(りょうて)を合わせて頭を下げました。
「あ~。二人とも、ごめんね~。なんか、ついノリで~」

「えー。じゃ、ホントにそうなんだー」
「じゃ、やっぱり、お二人はあの執務官さんともお知り合いなんスか? さっきも名前を略称で呼んでたみたいっスけど」
 マチュレアとフォデッサは、すかさずそうたたみかけて来ます。
「ええ。まあ、何度か会ってお話をしたことがあるぐらいですが」
「だったら、もう、部屋、変わってくんないかなー?」
「て言うか、なんでこんな部屋割りになったんスかねえ?」
 そんな二人の愚痴にも、双子は冷静にこう返しました。
「おそらくは、提督がお決めになったことですから、私たちが勝手に変えてしまうのも、どうかと思いますが……」
「存外、女性8人を年齢順に並べて二つに割っただけなのかもネ」
「そーかー! ほんの1歳の違いが大違いだったのかー!」
 カナタの言葉に、マチュレアはがっくりと首をうなだれました。

 すると、今度は、ゼルフィが少し心配そうな口調で二人組に問いかけます。
「ところで、あなたたち、その執務官さんたちを置き去りにして、二人でこっちに逃げて来ちゃって良かったの?」
「いやいや。置き去りにした訳じゃないっスよ」
「補佐官の人が『そろそろアフタヌーン・ティーの時間だから、自分たちは八神家の皆さんを誘って談話室でお茶を飲んで来る』なんて言い出したからねー」
「なんか、アタシらも遠回しに誘われてるような気も、したんスけど……」
「さすがに、『それはちょっとシンドイかなー』と思ったんで、私らは『他にも知り合いが乗ってるみたいなんで、自分らは先にそっちの方へ挨拶まわりに行って来まーす』とか言って、取りあえず、こっちの部屋に来たのよー」
「それ、大丈夫なの? ホントにあなたたちの知り合いが乗ってるかどうかなんて、少し調べれば、すぐにバレるわよ?」

「いやいや。ホントに乗ってるんスよ」
「ほら。ホールで右の列に一人だけ『髭面(ひげづら)のオッサン』がいたでしょ?」
「そう言えば、他の陸士の方々(かたがた)がおおむね二十歳(はたち)かそこらに見える中で、一人だけ明らかに世代の違う(かた)がいらっしゃいましたね」
 そんなツバサの指摘に、二人は『我が意を得たり』とばかりに、勢い込んでこう応えました。
「そう! その人が、私らの知り合い、バラム・ドルガン陸曹!」
「ああ見えて、実は、まだ26歳! そして、恋人募集中っス!」
「「!?」」
 これには、四人そろって一瞬、驚きのあまり息が詰まってしまいます。

 最初にその驚愕から立ち直ったのは、ゼルフィでした。
「ごめん! 私さ。今ちょっと、いきなり耳が悪くなっちゃったみたいなんだけど……もう一回、言ってくれる?」
「に~・じゅ~・う~・ろ~・く~・さ~・い~」
「うっわ~。それ、()け顔にも程があるよ~」
「ボクも、あの人だけはゼッタイ、提督より年上なんだと思ってた!」 
《アレで姉様と同い年とか!》
「と言うか……本気で『恋人募集中』なら、せめてあの髭ぐらいは剃った方が良いんじゃないですかねえ?」
 さすがに、ツバサは言うことが冷静です。
「それが、聞いた話だと、あの髭はドルガン家の家風らしいんだよねー」
「エルセアの北部じゃ、名の知れた名家なんスけど。なんか、男は先祖代々、ああいう顔立ちらしいんスよ」
「それも、なんだかな~」
《母方の遺伝子は一体どこへ?(笑)》

「ところで、陸曹ってことは……何? その人って、あなたたちの直接の上官なの?」
 ゼルフィの問いに、二人は見事にシンクロして首を横に振りました。
「いや、お隣の386部隊の人なんだけどさー。実は、去年の夏に、エルセア地方の西側を担当する三つの陸士隊が、若手を中心にはるばるカルナージまで行って合同演習をしたことがあってね。その時に知り合ったのよー」
「まあ。半分、慰安旅行を兼ねてたんスけどね」
「うわ~、カルナージのベルーラか~。いいな~、わたしたちも早く行きた~い」
「三年前からミッドの陸士隊全体で順番にやってる行事なんだから。別に急がなくても、そのうちに、私たちの番だって巡って来るわよ」
「いや~。理屈は、確かにそうなんだけどさ~」
 そんな相方(あいかた)のぼやきを他所(よそ)に、ゼルフィは後学のため(?)また二人にこんな質問をします。
「それより、三部隊合同って……相当な人数になったんじゃないの?」
「うん。どの部隊からも八人小隊が四つほど来てたからねー。途中から加わった現地の人たちまで合わせると……百人は超えてたはずだよ」

「ああ、そうか。当然だけど、カルナージにも陸士隊はあるのね」
「うん。名前は『首都警邏隊』だったけどねー。ほら、カルナージって、首都とその近辺以外には、ゼンゼン、人が住んでないから」
「アタシらが生まれた頃までは、まだ無人の世界だったって言うんスから、まあ、それも仕方ないっスよね」
「あれ? でも、確か……どこか首都から何時間もの時差がある土地に、ひとつだけ特別な場所があるって話が無かったっけ?」
「あ~。確か、ずっと西の方の島に『士官専用』だか、『一見(いちげん)さん、お断り』だかっていう、特別なホテルがあるんだよね~」
「うわー! なに、その『老舗(しにせ)の料亭』みたいな設定!」
【一般には、ホテル・アルピーノに関して、このような誤解が広まっているようです。(笑)】

「て言うか……カルナージって、首都の外側には、マトモな交通インフラがゼンゼン無かったように思うんスけど。何時間も時差があるような場所へ、あの首都から一体どうやって行けば良いんスか?」
「いや~。だから、一般の定期便で首都の次元港に降りちゃったら、もうダメなのよ~。最初からチャーター便で、直接、現地の次元港に降りないと~」
「うわー。それは、私ら下っ()には、そもそも辿(たど)り着けないわー」
 四人で盛り上がる中、カナタは念話でそっとツバサに確認を入れました。
《ねえ、ツバサ。これって、ホテル・アルピーノのことだよネ?》
《ええ。でも、あの時、提督から『ここでの一件は、すべて、職場では内緒にしておくように』と念を押されていますからね。間違っても、『自分たちはそこへ行ったことがある』なんて言い出さないで下さいよ。》
《解ってるって。あれは、ホントに特秘事項だらけの3泊4日だったからネ。》
 二人はしばらく黙って聞き役に徹することにしました。

 マチュレアとフォデッサは、そのまましばらくカルナージでの体験談を語り続けた後に、また不意にこんな話題を切り出しました。
「そう言や、カルナージの陸士隊に一人、すっげぇカッチョいい人がいたっスよね」
「そうそう。すっごく背が高くて、真っ赤な髪で、大きな槍を持ってて」
 すると、もうすっかり打ち解けた様子のゼルフィは、早速「前のめり」でその話題に喰いついて来ます。
「え? なになに? イケメン?」
「そりゃぁ、もう。あんなイケメン、アタシ、生まれて初めて見たっスよ!」
「オブザーバーだから、演習それ自体には参加してなかったんだけどさー。ずっと熱い視線で、私らの演習をしっかり見つめててねー」
「ふんふん。それで?」
「演習の直後に現地の人から『妻子持ち』だって説明されなかったら、私ら、ゼッタイ、アタックしてたわー。(笑)」
「なんだー! 妻子持ちの話かー!」
 ゼルフィは『(だま)されたー!』と言わんばかりの(くや)しげな口調で天を仰ぎました。これには、ノーラも思わず変な声を上げて笑ってしまいます。

 そして、カナタは再び念話でツバサに確認を取りました。
《ねえ、ツバサ。これって、エリオさんのことだよネ?》
《ええ。カルナージで、長身で、赤髪で、大きな槍と来たら……まず間違いないでしょうね。》
《確かに、エリオさんはマンガに出て来るような美形キャラだからなあ。》
《私も「笑うと白い歯がキラリと光る男性」なんて、リアルでは生まれて初めて見ましたよ。》
 二人は幼稚園の頃に、地球で美琴(みこと)お姉ちゃんの蔵書(古典的な少女マンガなど)を、いろいろと読み込んでいたようです。(笑)

 そして、今度はマチュレアの側から、ゼルフィとノーラにこう問いかけました。
「ところで、あなたたちの方は、他に知り合いとか乗ってないの?」
「うん。部隊は別なんだけど、一貫校時代の同輩が二人、乗ってるわよ」
「あ~。そう言えば、ゼルフィ。わたしたちも、ディナウド君たちの方へ挨拶とかに行った方がいいのかな~?」
「え? 同い年の男友達? イケメン? 私らにも紹介してよ!」
「田舎に住んでると、ホンット、マトモな出逢いが無いんスよ!(半泣き)」
 マチュレアとフォデッサは早速「前のめり」で()いついて来ます。
「う~ん。イケメンかなあ? まあ、二人とも、それなりの外見だとは思うけど……」
「まあ、オトコの好みなんて、人それぞれだからね~」
 ゼルフィとノーラは事前にそう「予防線」を張ったのですが、それでも、二人の熱意は収まりません。
「行こう、行こう! 取りあえず、みんなで挨拶に行こう!」
 マチュレアはそう言って、隣にいるノーラの手を引きました。
「え~。女の側から男の部屋に押しかけるっていうのも、なんだかな~」
 そう言いながらも、ノーラは特に抵抗はせずに、そのまま立ち上がります。

 ゼルフィもそれに合わせて立ち上がると、カナタとツバサにもこう問いかけました。
「あなたたちはどう? 一緒に来る?」
「いやぁ。この大きさの部屋に六人で押しかけるというのは、さすがにどうかと」
「ああ。言われてみれば、それもそうよねえ」
「ですから、私たちは先に、談話室の方へ御挨拶に行って来ようかと思います」
「うん。じゃあ、お互い、また夕食の時間までにはこの部屋に戻るってことで」
「解りました。確か、18時でしたね」
 こうして、15時頃、四人の女性陸士らは男性陣の部屋を巡りに行ってしまったのでした。


 さて、カナタとツバサは部屋を出ると、まずはトイレに立ち寄りました。今からヴィクトーリアのところへ行くと、お茶を付き合うことになるので、『出すべきものは、先に出しておこう』と考えたのです。
 しかし、入ってみると、そこは必要以上に立派な造りのレストルームでした。今回の上陸部隊には女性が全部で14名しかいないことを考えると、明らかに広すぎるのですが……どうやら、例の四人部屋と同様、このレストルーム全体が「規格化された、一個の建造用ユニット」のようです。
【こうした「既成の規格品」を多用しているのは、艦の建造費用を少しでも削減するための工夫でしょうか? それとも……。】

 カナタが個室に入って便器のフタを上げると、便座の下に張られていたシャッターが左右にスライドして、便座の脇に収納されて行きました。
《ああ。次元航行船の便座にはシャッターがついてるって話、ホントだったんだ。》
 他には誰もいませんでしたが、場所が場所だけに、二人は壁越しに念話で会話をします。
《万が一、疑似重力発生装置が壊れたら、艦内は無重量状態になってしまいますからね。便器の中に溜まったモノが宙に飛び散ったりしたら、嫌でしょう?》
《なるほどねえ。……ところで、ツバサ。その疑似重力ユニットって、「使用中」にいきなり壊れたりしないよね?》
 カナタはベルトを(はず)すと、ズボンとパンツを一緒に下げて、便座に座ってしまってから、ふと不安げな思念(こえ)を上げました。
《しませんよ!(笑) 外部からの砲撃とか、内部からの破壊活動とかが無い限り、普通に壊れたりはしませんから、安心して使ってください。》

 こうして、二人は小用を済ませ、よく手を洗ってから、レストルームを後にしたのでした。


 
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