金木犀の許嫁

「賢いでしょ」
「恥どころかですね」
「人にどんな暴力振るっても平気で」
「それが問題にならないなら」
「そんなとこ今自分は大丈夫でも」
　他の者が暴力を受けている状況である、当然ながら暴力も見る場合と受ける場合では全く違うものである。
「何時かね」
「自分もですね」
「暴力受けるかも知れないから」
「逃げることですね」
「自分で何か出来るなら変えるべきってね」
　その様にというのだ。
「お姉ちゃんは言ってたけれど」
「先輩のお姉さんですね」
「そう言ってたけれど」
　それでもというのだ。
「お姉ちゃんそうも言ってたから」
「とんでもない環境で、ですね」
「自分でどうにも出来ないならね」
「自分に火の粉が降りかかる前にですか」
「逃げて」
　そうしてというのだ。
「難儀を避けないと駄目ってね」
「それは決して悪いことじゃなくて」
「正しいってね」
　その様にというのだ。
「言われたから」
「先輩はそうされますね」
「そう考えてるわ、暴力を受けて」
「我慢はですね」
「しないわ、見てもね」
「逃げることもですね」
「するわ、若し逃げないで」
　その選択を選んでというのだ。
「怪我かもっと酷いことになっても残れって言った人が一生面倒をみるか」
「絶対にしないですよね」
「無責任に言ってるだけだから」
　こうした時自分はどうだったかなぞは理由にならない、その時その人で環境が違うからである。もっと言えば暴力があること自体がおかしいのだ。
「じゃああんたが殴られろってね」
「言えばいいですね」
「自分よりずっと立場や体格が上の人によ」
　教師という権威と大人の体格である。
「虐待されて我慢しろってね」
「おかしいですね」
「本当に性犯罪とか受けたらどうするのよ」
「最悪ですよね」
「それでそんなこと言う人は」
「相手にしたら駄目ですね」
「暴力はそれ自体が駄目で」
　それでというのだ。
「逃げることもね」
「いいことですね」
「自分の身を守るのは自分だからね」　
　そうであるからだというのだ。
「それもよ」
「いいことですね」
「そうなのよ」
　こう言うのだった、そしてだった。
　夜空は人参を切っていった、それが終わると自分からジャガイモの皮剥きを手伝って一緒にしたのだった。


第十話　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　２０２４・１・１５