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色々と間違ってる異世界サムライ

作者:モッチー7
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第23話:勇者の計算外その5

セインperspective

『円卓会議』
ヒューマンを主とする各国の代表者が集まり話し合う場。
古くからこの場にて勇者が紹介され、名前と顔を覚えてもらう。
さらに魔王討伐への助力要請も行われるため、非常に重要な会議と位置づけられている。
そんな大事な会議に聖剣無しで出席する訳にはいかない。
だが、確かに普通の方法では北の果ての国であるオーサムに行ってからでは間に合わない。
そこで移動時間を短縮する為に、フェアリーに協力を仰ごうと考えたのだ。
かつての勇者達はフェアリーに『妖精の粉』をもらい、空を飛んで移動したという伝説がある。
ならば僕もそれを手に入れるべきなのではと思い至ったのだ。
我ながら大分寄り道が過ぎるが、飛躍的に移動速度が上がるなら許容範囲。
フェアリーも僕を見ればすぐにでもひれ伏すことだろう。
なにせ僕は勇者。いずれ伝説になる存在だ。
ん?ドワーフ?何それ?美味しいの?

フェアリーの里へ向かう道中、幾度となくツキツバ・ギンコの噂を耳にした。
『聖剣を3本も持っている』
『武装したオークの軍団を剣1本で一瞬で粉々にした』
『トレントやバジリスクを苦も無く真っ二つにした』
『たった一振りでグレムリン4体を倒した』
『獣人用弓矢を楽々と完璧に使いこなした』
『120キロの斧を振り回した』
『フェアリーを連れている』
『ツキツバは異世界から来た女勇者』
『バルセイユに偽物がいるらしい』

内容に僕の中のなにかが切れそうだった。
だが、それら全てをあえて無視する。
どうせ尾ひれが付いた噂話だ。
それに本物は僕なのだから、いずれどちらが間違っていたかはっきりする。
今までの僕は功を焦りすぎていた気がする。
勇者であることに囚われ余裕をなくしていた。
これでは失敗して当然だ。
さぁ、里へ行くぞ。

「やめ、あげっ!ぼくはゆうしゃ、あぎゃ!止めろと言っている!殺すぞお前ら!」
「偉大なる種族を捕らえに来たバルセイユの手下め!早く失せろ!」
「ぺっ!帰れ帰れ!」
真上をぶんぶんフェアリーが飛んでいる。
どいつもこいつもガラが悪く、近づいてくる度に唾を吐きかけるのだ。
おまけに見た目と違ってかなり強い。
すでに他の3人は気絶させられダウン状態。
我が身を守るので精一杯だ。
「くそっ!あんな女運が無い不細工負け犬共と一緒にするな!殺すぞ!」
「はははっ!やれるものならやってみろヒューマン!」
「僕は勇者だ!協力しろ!」
「愚かなヒューマン♪心の汚れたヒューマン♪たまたま勇者になれたヒューマーン♪」
「唄うな!耳障りだ!」
僕は愚かじゃない。
僕は正義そのもの。
僕はなるべくして勇者になった。
お前らの言っていることはでたらめだ―――

《警告:魔眼所有者よりもレベルが上である為、効果を及ぼせません》

え?
僕はいつ誘惑の魔眼を使用した?
と言うか効かない!?
んだとっ!?またなのか!
「皆の者、そのくらいにしたらどうじゃ」
「長!」
「勇者よ。帰るがいい。ここはお前の来る場所ではない」
「ふざけるな!僕に妖精の粉を渡せ!」
老人は「愚かじゃな」などと首を横に振る。
直後に、フェアリー達が石を投げ始めた。
奴らは「帰れ」を連呼する。
苛立ちが頭の血管を破裂させそうだった。
皆殺しにしてやりたいが、動きが速すぎてそれもできない。
このままではただのサンドバッグだ。
仕方がない、ここは撤退する。
「起きろ!退くぞ!」
「うっ!?セイン!?」
3人を蹴って起こす。
攻撃は止んだが帰れの大合唱は続く。
僕が何をしたって言うんだ!?
あー、イライラが止まらない!

ノノ・メイタperspective

僕達は……勇者セイン様が率いる白ノ牙(ホワイトファング)の称賛の声を聴きにバルセイユに行った筈なのに、ツキツバさんが勇者セイン様の名前を聞いただけで怒って僕達を襲ってきた男性達を殺してしまい……
「申し訳ありませぬ。某達を匿ってくれて」
「いやいや。偉大なる種族のお力になれて光栄ですじゃ」
取り敢えずは正当防衛と視なされて仮釈放となったのですが、バルセイユの機嫌が変わる前に逃げようと言う事で、フラウさんの案内でフェアリーの隠れ里に逃げ込む事になったのです……
うっ……ううっ……
何で……
僕はただ、みんなで勇者セイン様の素晴らしさを理解しようとしないセツナさんを説得しようと言ったのに……
どうしてこうなった。
僕が想定外の展開に泣き崩れていると、結界の外で警備していたフラウさんが戻って来た……
「ただいまー」
「フラウさん、外の方はどうでしたか?」
だが、フラウさんの口からまた想定外の言葉が出た。
「あれは辞めた方が良いわ。あいつは勇者じゃないわ」
え?
何でフラウさんがセイン様反対派に回ったの?
「でも、勇者に選ばれたのはセイン様でしょ?」
「そこが解んないのよ。アイツを勇者に選んだ王や神々は人を見る目が節穴なのかしら?」
それを聞いたセツナさんがドヤ顔で言い放った。
「これで解ったろフラウ!あのウンコセインにツキツバやノノの力が渡る事態がどれだけ最凶最悪かが」
僕が必死に釈明する前に、フラウさんがとんでもない事を言ってしまいました。
「そうね。偉大なる種族であるツキツバ様とは雲泥の差だったわ」
何で!?
「でも!魔王を斃せるのは勇者であるセイン様だけなんだよ!」
フラウさんは何故か首を横に振った。
「いるわよ。魔王と戦うべき存在が」
「だーかーら!それが―――」
セツナさんが僕の説得を遮った。
「ツキツバ・ギンコ、お前だよ」
何の関係も無い話で何の前触れも無く指名されたツキツバさんがキョトンとしていた。
「……某?」
「何で!?ツキツバさんは寧ろ勇者セイン様が率いる白ノ牙(ホワイトファング)と魔王軍との戦いに巻き込まれた被害者なんだよ!その被害者に―――」
僕はセツナさんにビンタされた。
「目を覚ませ!何故ツキツバがこの世界にいるのか考えた事はあるか!?」
「ツキツバさんがこの世界にいる理由……」
今度はセツナさんが僕を説得しようとする。
「ツキツバ!お前は確か『テンショウジのダイブツにお祈りをしていたらノノが暮らしていた村に飛ばされた』と言っていたな!?」
「……そうですが、それが何か?」
「それってつまり、テンショウジのダイブツがウンコセインを見限ってツキツバ・ギンコに鞍替えした。そうは思わんか」
「でも、ツキツバさんは勇者じゃないし―――」
けど、当のツキツバさんが僕の肩を叩きました。
「ノノ殿、じゃま……」
……怖い……
「被害者?馬鹿を言ってはなりませぬ。そんな(こころ)が濡れる話を聴かされて、据え膳食わぬは侍の恥!仏様は言っておられる……人と魔の争うこの合戦場で存分に戦い、侍として死に遂げよと言っておられる!是非も無し!」
ちょ……なんであんたが答えてるんすかー!
更にセツナさんは畳みかける様にめぐみんさんを見た。
「それに、魔王に爆裂魔法をぶち込めば、アークウィザードとしての箔も爆上がりだと思うぞ!」
それを聞いためぐみんさんの目が輝いた。
「爆裂魔法!?望むところです!」
なんか勝手に盛り上がってるし!
おお……おおお……落ち着け。お……落ち……落ち着くんだ僕。ここここ……ここは冷静に2人に上手くお断りさせて、勇者セイン様が率いる白ノ牙(ホワイトファング)の仲間入りさせないと!
「あ……あのですねツキツバさん。申し上げにくいんですが―――」
「やりますぞ!ノノ殿」
「あっ……はい……頑張りましょうね……」
ど……どうしてこんな事に……
あぁー……この世界の運命が適当に決められて逝く……

セインperspective

僕は追い詰められていた。
あれから幾度もフェアリーの里へと向かったが、その後は話すらさせてもらえず、矢が飛んでくるだけ。
奴らは本気で僕を殺そうとしていた。
勇者であるこの僕をだ。
これ以上フェアリーに、時間を割くのは得策ではないと判断した僕は、馬を購入して急ぎオーサムに向かう。
ドワーフ?
そんなの知るか!そんな暇無いわ!
しかし、僕の行く手をゾンビの群れが阻んだ。
時間が無いって時にぃー!
「オーサムにある聖武具を狙っている冒険家グループがいると聴いていたが……お前達が噂に聞く『サムライ』か?」
首無し馬に乗って自分の頭を小脇に抱えた甲冑騎士が僕に質問するが……
何故そこでサムライが出て来る!?
万死に値するわ!死にぞこないのクソゾンビ共ぉーーーーー!
「全員戦闘態勢!あの男をやる!」
「分かったわ!フレイムブロー!」
リサの炎魔法が敵の集団を直撃する。
あの甲冑騎士も炎に包まれた。
だが、この程度で死にはしないだろう。
すかさず走り出し剣を振るう。
甲高い音と共に刃が何かに防がれた。
「俺はつい先日この近くの城に越してきた魔王軍の幹部の者だが……本当にその程度の理由で引っ越しさせられたのか?」
「無傷……だと……?」
炎が吹き飛び甲冑騎士が現れた。
僕の剣は容易に手甲で阻まれていた。
リサの魔法を喰らって無傷なんて、こいつ……ヤバい。
鑑定スキルで確認すればレベルは205。
噂に聞く死霊魔法か。
死体を操り従わせる忌み嫌われた魔法。
おまけに背中が凍りつく感覚があった。
おそらく戦闘技術でも僕を遙かに上回っている。
なんだこいつ、どうしてこんなところにこんな奴が。
男は僕を見て目を細める。
「貴様、もしかして新しく選ばれた勇者か?」
「だ、だったらどうする!」
「勇者よ、1つ訊いて良いか?我らが同胞、魔王様の配下を殺したサムライはどこにいる?」
「知りません」
僕の剣は拮抗することもなくあっさりと弾かれ、がら空きの眉間に激烈な右手の中指のデコピンがめり込んだ。
たったそれだけの他愛もない攻撃で、僕の体が派手に吹っ飛んだ。
地面を何度もバウンドし、その度に体が叩きつけられる。
「おぶっ、へぶっ、ごぶっ」
吐き出すのは粘度の高い唾液。
これほどのダメージを受けたのは生まれて初めてだ。
「弱い……本当に知らぬ様だな?」
「やめてくれ……ころさないで……」
「……質問を変えよう。貴様レベルはいくつだ」
「63です」
「……まぁいい。俺はお前ら雑魚にちょっかいかけにこの地に来た訳ではない。俺が幹部だと知っていて喧嘩を売っているなら堂々と城に攻めてくるがいい!その気が無いないなら街で震えてるがいい!」
男の背後に控えていたゾンビがゲラゲラ笑う。
僕はかつてないほど屈辱を受けていた。
205だって知っていれば戦わなかったさ。
笑うな、僕を笑うな。殺すぞお前ら。
「セイン、今助けるから!」
リサの炎魔法が男の腹部に直撃する。
すぐさま僕は後方へと下がり、入れ替わりにネイが空中右ストレートをたたき込んだ。
だが、男は微動だにせず拳を甲冑で平然と受け止めている。
「まだまだ!」
ネイは体をひねり太い首に空中回し蹴りを喰らわせた。
けれど男の体は岩のように重く動かない。
ちょうどいい、ネイにはこのまま戦ってもらおう。
「ネイ!そいつをここで足止めしろ!」
「ちょ、セイン!?ネイを捨てる気なの!?」
「助けてあげてください!彼女は私達の大切な仲間なのですよ!」
「お前らは僕がこんなところで死んでもいいのか!勇者だぞ!僕は魔王を倒し世界を救う選ばれし勇者なんだ!」
リサもソアラも黙り込む。
当然の反応だ。僕の言っていることは正論なのだから。
お前らと僕とでは命の重みが違う。
お前らは死んでもいいが、僕だけはどうやっても生き延びなければならないんだ。
「逃げてくれ!ここはアタシが引き受ける!」
「当然だ。お前はそこそこ顔も体も良かったが、もう飽きたよ、ここで僕の為にしっかり死んでくれ」
「セイ、ン?」
僕は2人を連れて離脱する。
くそっ、こんなところで駒を失うなんて想定外だ。
あいつはいずれ捨てるつもりだったが、それは新しい駒を見つけてからだったんだ。
いいさ、次はもっと抱き心地が良くて強い女を僕の物にしてやる。
その為にはレベルを上げなければ。
できれば他人の女が良いな。
人のものを奪うのは最高の快感だ。
「貴様らには仲間の死に報いようという気概は無かったのか!?この人でなし共がぁー!」
男の怒号が聞こえた。
「うううっ、ネイ……」
「なんてことを。仲間を見捨てるなんて」
「尊い犠牲さ。落ち込むことはない」
それよりも国王の依頼を達成できなかったことの方が問題だ。
待てよ……本当に問題か?
違うな、これはレベル205の敵がいることを教えなかった国の責任だ。
むしろ僕は被害者だ。
危うく死ぬところだったんだぞ。
おまけに仲間も1人失ってしまった。
責められるべきは国であり国王だ。僕じゃない。

月鍔ギンコperspective

「と言う訳で、魔王と合戦しに往きます!」
とは言ったモノの……しかし、魔王とはどの様な人物なのか?
力強いマモノ達を従える器量。
思慮深く野心に満ちた大大名の如き御仁であろう。
む?
と言う事は……
戦場なら兎も角、平時に某の様な一介の侍が立ち合いを望んでも……身分が違い過ぎてお相手して貰えぬのでは?
「うおぉー!そ、そんな情けない話は無い!門前払いなど侍の恥!」
「……何を騒いでいる?」
あっ。
「いやすまぬ。もしも魔王に相手されなかったら思うと―――」
「それは無いだろう。だって魔王軍の幹部を3人も葬ってるし、聖剣も3本あるし―――」
「どの道門前払いされるのは当然でしょ。僕達は勇者セイン様が率いる白ノ牙(ホワイトファング)じゃないんだから」
「だーかーら!お前の力がウンコセインの手に渡ったら取り返しがつかない事になるって何度言ったら解るんだ!」
……またノノ殿とセツナ殿が喧嘩を始めてしまいました。
果たして……某達は魔王と合戦できるのでしょうか…… 
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