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色々と間違ってる異世界サムライ

作者:モッチー7
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第22話:どうしてこうなった

セインperspective

ノーザスタルの聖剣すら横取りされた僕達は、早急にバルセイユに戻れと司令が下った。
……くっ!また下げたくない頭を下げ、死ぬほど辛い屈辱を味わえと言うのか!?
まぁ、いくら勇者でも簡単に裏切る様な者は信用されない……戻るしかない……
王は頬杖を突いて重心を傾ける。
「急に呼び出して悪かったな」
こいつが王でなければ踏みつけにして殺していた。かつて殺したギルドのライバル達のように無様に命乞いするのだろうな。
「数日前に『サムライ』なる冒険者がワシの国の民を殺したので捕らえたのだ」
捕らえた!?
あの忌々しいツキツバ・ギンコを!
正に大安吉日!これ程喜ばしい事はあるまい!
「僕にその者達の首を斬れ、という事でしょうか?」
あぁ、楽しみだ……
勇者である僕の行く先々で邪魔をした凶悪大量殺人鬼を、この僕の手で殺せる……
あぁ、楽し―――
「いや、そうではない」
……へ?
「サムライなる冒険者がワシの国の民を殺した事に関して貴公に質問が有るのだ」
「質問……とは……」
まさか……ノーザスタルの聖剣すら横取りされた事すらバレたのか!?
いや……違う!
聖剣を手に入れ損ねただけならわざわざツキツバ・ギンコの名を出す理由が無い!他の理由があるからこそ奴の名が出たんだ!
……どう言う事だ?
「まさかと思うが、勇者の貴公を抱えるワシの顔に泥を塗る様な真似はしておるまいな?」
はあぁー!?
何でだよ!
あの忌々しい凶悪大量殺人鬼のツキツバ・ギンコを捕らえただけなの、何で僕の素行を疑われなきゃいけないんだ!
「身に覚えが無いと言うのか?」
「何を言っているのかさっぱり……」
「衛兵よ、サムライを取り調べた検察官を呼べ」
な……何を言ったんだ……あの凶悪大量殺人鬼は……

検察官perspective

「おや?」
「では取り調べを始める―――」
「某は男です」
チーン
嘘を看破する魔導具がいきなり鳴った。
「……何故性別を詐称した……」
「めぐみん殿が異様な妖術を使いますので、恐らくそれも何かの妖術がかかっておるかと思いましたので」
「……なぜ……そう思う……」
「その鈴、罪人との問答とはあまりに不釣り合いでしたので」
……
魔導具は鳴らない。
……ヤバい……こっちが嘘を看破する魔導具を使って来る事を見抜いている!
完全に相手のペースだ!何としてもペースを取り戻さねば!
「ではまず出身地と冒険者になる前は何をしていたのかを聞こうか」
「某は月鍔ギンコ。日ノ本から来た侍です」
魔導具は鳴らない。
これは事実か……だが!
「日ノ本という名の地名は聞いた事がないな」
「それは……某が異なる世界に迷い込んでしまった……としか言いようがありませぬ」
……
えぇー!?何で鳴らないのぉー!
「……で……この世界に来た目的は?」
「転生寺にある大仏様に某に誉高い討死をさせてくれる強敵を望んでおったのですが、気付けはこの世界におりました」
……
鳴らないぞ。
「その後、ノノ殿と出会い、ノノ殿にマモノの存在を教えられ、ノノ殿に案内された神殿に有った刀を失敬させて頂きました」
……
鳴らないぞおい!
「誰かぁー!鑑定紙をぉー!」
「それよりも、そろそろ本題に入らぬか?」
「本題……とは?」
「某が何故あの者達を斬り捨てたかです。お主はそれを聞きたかったのでは?」
ヤバい……完全に相手のペースだ!
「話は永くなり申すが……どこから話せば良いのか……ま、発端はノノ殿が下したセイン殿への評価とセツナ殿が下したセイン殿への評価が真逆になってしまった事です」
……
鳴らないか。
「で、実際のセイン殿はどの様な人物かを訊き出す為にこの国に来たのですが、ノノ殿がセイン殿の素晴らしさをセツナ殿に説明してくれとその者達に頼んだのです」
……
魔導具は鳴らない。
「そしたら突然ノノ殿がその者達に殴られたのです」
……
鳴らない!これってつまり!
「先に手を出したのはお前が殺した男性の方か!?」
「その事が今回の事に何の意味が有るのです?」
「何でって!……正当防衛が成立するかもしれんのだぞ」
「正当防衛!?某を見縊らんで下され!某はその様なモノに縋る気はござらぬ!」
……
……鳴らない……何なんだこいつは……
「貴様にとってはそうかもしれんが、こっちは死活問題なのだ。だからもう1度訊く、先に手を出したのは……どっちだ?」
「……ノノ殿が殴られたうえに向こうが先に刀を抜いたので、某も刀を抜いた。それでよろしいか?」
……
鳴らない……我々は問い質す相手を間違えたか……

次にツキツバ・ギンコに斬られた者達の内、命に別条がない者を呼び事情聴取する事にした。
「で、あの者達はお前達に勇者セインの称賛を強要した事が、お前達を殺した犯行動機だと主張しているが―――」
「なんだよそれ!?まるで俺達が加害者みたいじゃねぇか!」
チーン
……鳴ったか。
「言い忘れていたが、これは嘘を看破する魔導具だ。つまり、君は動機詐称を行った事になる」
「何で鳴るんだ!?待ってくれ!別に嘘はついてない筈だ!」
チーン
「この魔導具の前でこれ以上余計な事を言えば、お前を偽証罪で訴えるぞ」
「ぐっ……ムカついたんです」
……
鳴らないか。
「で、お前達に勇者セイン称賛を強要したツキツバ達に腹を立てた理由は?」
「そんなの!あいつらが上から目線で―――」
チーン
「あいつらの言葉遣いが―――」
チーン
「……彼女にフラれたからです」
……
ここで鳴らないとは……勇者セイン称賛強要との関連性が解らんな……
「で、ツキツバ達とお前が彼女にフラれた事と何の関係が有るのかな?」
「まったくの無関係です」
チーン
「……セインの糞野郎に彼女を奪われました」
……
鳴らないのか?
と言うか、アイツ泣いてないか?
「よ……よし次だ。勇者セインに恨みは?」
「何で勇者を恨まなきゃいけないんです?魔王軍に苦しめられている人々を助ける為に戦っている―――」
チーン
……今……鳴らなかったか?
「はい。正直そんな感じで勇者セインの称賛を強要されましたが、本音を言えば『いくら勇者様だからって俺の彼女を奪いやがって!ぶっ殺してやりたい!』と思いました」
……
鳴らない……つまり、ツキツバ・ギンコの正当防衛は成立か?

セインperspective

あの負け犬共ぉーーーーー!
つまり、ツキツバに殺された連中が僕を正しく評価してちゃんと称賛していれば防げた殺人事件だと言うのか?
ふざけるな!
「許可無く動くな!」
立ち上がろうとしたところで、王を警護する騎士達が剣に手を添えた。
すぐさま元の状態へと戻る。
危うく検察官の胸ぐらを掴んで問い詰めるとこだった。
寝取られた恨み?
馬鹿な。女なんていくらでもいる、さっさと次を作ればいいじゃないか。
そうか、女を理由にして僕に嫉妬しているんだな。
恵まれた僕が羨ましいんだろ。
「今1度訊く、勇者の貴公を抱えるワシの顔に泥を塗る様な真似はしておるまいな?」
「ございません。事実無根です」
「まぁよい。勇者と言えど貴公はまだ成長過程だ。今回の事は大目に見てやろう」
「ああっ!深き御心に感謝いたします!」
内心で自身の気持ちの悪さに吐き気がする。
「挽回のチャンスを2つ与えてやろう」
「ぜひ!」
「先ずは聖剣の換わる武器について提案がある」
え……
ちょっと待て!グリジットの王都で行われる円卓会議に聖剣を手に入れる前に参加しろと言うのか!?
「陛下、どうかチャンスを」
「今からオーサムからグリジットを目指す心算か?」
オーサム……ここから遥か北の果ての国の事か。
それだけ解れば―――
「これは余が手に入れたドワーフ作のルビーソードだ。実に美しいだろう。だが、随分と金を使ってしまった」
王が衛兵に持って来させた剣身がルビーで出来た剣を見せびらかすが、僕にとってはどうでもいい。
どうせ勇者である僕は聖剣を手に入れるんだ。
それに、あんな樽の様なモグラ人間なんて興味無い。寧ろ、全てが容姿端麗と称されるエルフの方に興味がある。
「余はドワーフ製の名器を無料(タダ)で手に入れたい。そこで貴公には、グリジットの洞窟に暮らすドワーフの里に往って貰う事にした」
「僕に捕まえてきてもらいたい、ということでしょうか?」
国王は返事はせず笑みを浮かべるだけだ。
明言はしない。
言葉にせずとも意味は分かるだろう、そう意思が伝わった。
ドワーフの奴隷……全く興味無い……
「そして、2つ目は魔王軍幹部であるベルディアを討つ事だ。これを機に貴公には、魔王討伐の旅に出て貰う事となる。やってくれるな?」
「はっ!必ずや果たして見せます!」
「よろしい。次に会う時はグリジットの王都で行われる各国の会議だ。それまでにドワーフと勇者らしい手柄を用意しておけ」
国王に「下がれ」と指示を受け一礼する。
僕は颯爽と謁見の間を退室した。 
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