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神々の塔

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第五十八話 見えてきたものその六

「また進むのはな」
「ええな」
「ゲーテさんはワーグナーさんにも影響を与えたけどな」
「何か曲も作ってたか」
「そやったやろか、兎に角それでそのワーグナーさんもな」 
 ベートーベンと並ぶと言っていい名の知られた音楽家である彼もというのだ。
「ニーベルングの指輪を諦めた」
「それでも完成させたな」
「気を取り直してな」
「それで今も残ってるな」
「上演十五時間の作品やが」
 四部作で四日途中の休憩を入れて六日や十日かけて上演される。
「それでもな」
「完成させたんやな」
「途中諦めたけどな」
 それでもというのだ。
「完成させたさかいな」
「ええんやな」
「今の話やとな」
「そうなるか」
「諦めたにしても」
「再開したらか」
 それならというのだ。
「ええんちゃうか」
「そういうことか」
「まあな」 
 ここでだ、言ったのは中里だった。
「一つ思うことは」
「何や?」
「いや、六十年とかな」
 ファウスト完成までにかけた歳月はというのだ、ゲーテは二十かその辺りに構想を思いつき八十過ぎに完成させたのだ。
「途方もないな」
「長い歳月やな」
 羅もそれはと応えた。
「我等の今の年齢の四倍はかけてな」
「それで完成させたな」
「それは凄いわ」
「ほなそやな」
「というかな」
 こうもだ、羅は言った。
「ゲーテさんってその間も色々してたな」
「若きウェルテルの悩みとか書いてな」
「詩も書いたな」
「それで恋愛もしてな」
 恋多き人物でもあったのだ。
「政治家でもあった」
「ついでにベートーベンさんと喧嘩もしたな」
「ああ、前に話したな」
「ベートーベンさん達と戦う時にな、それでな」
 羅は考える顔で言った。
「忙しい人やったな」
「その忙しい中でや」
「六十年かけてか」
「ファウストを完成させたんや」
「そやねんな、やっぱり凄いな」
「ああ、しかしな」
「しかし?」
 羅は横から来た数匹の蛇を青龍偃月刀の一撃で一蹴してから中里のその言葉に尋ねた、一瞬見てそうしてみせたのだ。
「どないした」
「いや、ゲーテさんって結婚しててな」 
 そのうえでというのだ。
「恋愛もしてたんやろか」
「不倫やな」
「ただ相手の人がおったらな」
 好きになった女性にというのだ。
「そこからはいかんかったらしいからな」
「それで若きウェルテルの悩み書いたんやな」
「節度はあってんな」
「そこはワーグナーさんとちゃうな」
「それでこれから戦う」
 中里はさらに言った。
「梁山泊の好漢の人でな」
「不倫か」
「された人おったな」
「何人かおるな」
 羅も否定せず答えた。 
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