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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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AXZ編
  第192話:装者 vs ワイズマン

 S.O.N.G.の装者・魔法使いと元パヴァリア光明結社幹部3人の共闘によるジェネシスとの戦い。その最初の一撃となったのはクリスの一斉射撃であった。

「挨拶代わりだ、喰らいやがれッ!」
[MEGA DETH PARTY]

 展開したクリスのギアの腰部パーツから一斉に放たれた小型ミサイル。四方八方に飛んでいたそれが次々とメイジに命中し撃ち落としていく。対するメイジも障壁を展開したりライドスクレイパーに乗って加速して逃げ切ろうとするが、あまりにもミサイルの数が多く追尾されたメイジは例外なく逃げ切れず次々とミサイルに食らい付かれた。
 そんな中でも怯まず向かってきた者達が居た。幹部候補である白い仮面のメイジを筆頭とした集団が、クリスの形成した弾幕を切り抜け装者達に襲い掛かる。

 それを甘んじて受ける者は誰も居ない。クリスの弾幕を切り抜けたメイジには、例外なく残りの装者やサンジェルマン達による迎撃が待ち受けていた。

「接近戦なら望むところッ!」
「ハァァァッ!」

 翼が刀を、マリアが短剣を構え振り下ろされたライドスクレイパーやスクラッチネイルを防ぎ、或いは受け流して隙を作り反撃の一撃で下していく。突撃するしか能がない琥珀の仮面のメイジはそれだけで直ぐに倒れてくれたが、白い仮面のメイジはそう簡単にはいかず他のメイジと協力する事で個々の脳録の不足を補うという狡猾さを見せた。

 しかし連携に関して言えば装者も負けていない。特に切歌と調の2人の連携は装者の中でも目を見張る程の物を持っており、ザババの刃の連携は並居るメイジを一切寄せ付けず次々と仕留めていった。

「この程度ッ!」
「ちょろいもんデスッ!」

 大鎌と丸鋸がメイジの張る障壁をも切り裂き、敵の数を減らしていくのを尻目にクリスは両手のクロスボウを別々の方向に向け放たれる矢でメイジを撃ち落としていく。中にはその弾幕を抜けて肉薄しようとする猛者も居たが、それらは彼女に近付く前に透により切り伏せられていった。

「透ッ!」
「ッ!」

 不意にクリスの警告が透へと飛んだ。それを聞いた彼は詳細を聞いていないにも拘らず、彼女が言わんとしている事を理解しその場でしゃがみ頭を下げる。直後、彼が立っていた場所を死角から飛んできた魔法の矢が飛んでいき、それに応戦する様にクリスのアームドギアを変形させたライフルの弾が撃ち返された。

「チッ!?」

 透を狙って魔法の矢を放ったのはメデューサであった。この乱戦の最中、裏切り者である透を彼女は執拗に狙って攻撃を仕掛けたのである。だがそれはクリスにより察知され、彼女の警告のお陰で透は難を逃れる事が出来た。
 メデューサ相手に1対1は流石に彼でも辛いのか、一旦態勢を立て直す意味でも後退しクリスの隣に立った。クリスを守る様に立ちながら、呼吸を整える彼を彼女も守る様に油断なく周囲を警戒する。

「チッ、姉妹揃ってしつこい奴だ。いい加減諦めろってのに」

 苛立ち半分呆れ半分で未だに透をつけ狙うメデューサにぼやくクリスに透も仮面の奥で苦笑する。

 一方パヴァリアの3人が戦っている相手は、この場で最も厄介な相手であるワイズマンであった。最初こそ離れた所で観戦していたワイズマンであったが、見ているだけだと暇なのか配下のメイジ諸共装者に攻撃を仕掛けようとしてきた。それを察したサンジェルマンが、カリオストロ・プレラーティと共にそれを阻むべくワイズマンに挑んだのである。

「これ以上の暴挙はさせないッ!」
「アンタに恨みはないけれどッ!」
「放置する方が危険なのは容易に想像つくワケダッ!」

 サンジェルマンの銃撃がワイズマンの周囲に降り注ぐ。手にしたスペルキャスターだけでなく、両肩に両足など全身各所の銃口からの射撃は1人で張るには重厚な弾幕を形成しワイズマンをその場に縫い留めた。
 一見派手に見える攻撃。しかしそれがブラフである事は即座に見抜かれた。

「フッ、虚仮脅しか」

 その言葉通り、これはワイズマンの意識を自分に向けさせるためのサンジェルマンの策であった。本命はこの隙に接近しているカリオストロの一撃にある。

「タァァァァァッ!」

 変形させたガントレットによる鋭い殴打。並の魔法使いであれば喰らえば鎧も砕かれるほどのその一撃を、ワイズマンは素早く展開した障壁で受け止めてしまった。

〈バリヤー、ナーウ〉

 ぶつかり合うカリオストロの拳とワイズマンの障壁。激しい火花を上げてぶつかり合う両者だったが、カリオストロはワイズマンの障壁が一向に罅割れる気配もなく自分の拳を受け止め続けている事に驚愕せずにはいられなかった。

「な、んて奴……!?」
「この程度か?」

 目を見開くカリオストロに、ワイズマンの挑発が飛んだ。最初それを睨み返すカリオストロだったが、次の瞬間その口元には笑みが浮かぶ。

「うふっ♪ そんな余裕も今の内よ?」
「あ?」

 何の事か分からず首を傾げるワイズマン。直後カリオストロが横に飛び、間髪入れずにプレラーティがスペルキャスターをチャリオットにして突撃してきた。

「カリオストロの一撃の後で、これを受け止められるかッ!」
「おぉっ!?」

 カリオストロの拳は余裕で受け止められたワイズマンの障壁も、プレラーティの全力の突撃までは完全に防げなかったらしい。最初の接触で大きく罅が入り、それから数秒も経たず障壁が砕けチャリオットの先端がワイズマンに迫る。

 この瞬間プレラーティは自身の勝利を確信した。だが…………

「ヌンッ!」
「なっ!?」

 何とワイズマンはチャリオットの破城槌の様な先端が自身を貫く前にそれを両手で掴んで押さえ付けた。玉を変形させた車輪が地面をガリガリと削っているにも拘らず、チャリオットはそこから1ミリも動かず完全に全身を阻まれる。
 だけでは終わらず、ワイズマンはそこから大型化したスペルキャスターをプレラーティごと持ち上げ上空から自分を狙っているサンジェルマンに向け投げつけた。

「おぉぉぉぉあぁぁぁッ!」
「な、わぁぁぁぁっ!?」
「くっ!?」

 あまりの勢いに振り落とされたプレラーティが落下し、サンジェルマンは自身の視界を埋め尽くそうとする巨大けん玉を回避する。その際に出来た隙をワイズマンは見逃さず、接近した彼は回避の為に体勢を崩したサンジェルマンをそのまま地面に向け蹴り落とした。

「ハッ!」
「ぐぁっ!?」
「サンジェルマンッ!? このぉぉぉっ!」

 地面にめり込むほどの勢いで蹴り落とされたサンジェルマンに、カリオストロが激昂して殴り掛かる。が、彼女の拳はどれもワイズマンに掠りもせず空を切ってばかりだった。

「くっ! このっ! 何よ、その動きッ!」

 確実に当たると思った筈のタイミングで放った拳も余裕で回避される、と言うより回避の素振りも無く拳が空を切る事もザラであった。まるで自分が距離を見誤ってばかりいるような状況に、カリオストロの中で困惑が大きく膨らむ。
 その困惑が隙を生み、次の瞬間懐に入り込んだワイズマンの肘鉄がカリオストロの鳩尾を捉えた。

「んぶっ!?」

 強烈な肘鉄を鳩尾に喰らい、一瞬意識が飛びかける。同時に呼吸が止まり込み上げる吐き気に苦しんでいる間に、続くワイズマンの蹴りでカリオストロは大きく蹴り飛ばされた。

「がはっ!?」
「カリオストロッ!」

 蹴り飛ばされ地面に叩き付けられたカリオストロを、偶然近くに居たマリアが助け起こす。翼はそれを援護しつつ、カリオストロ達を1人で叩きのめしたワイズマンに険しい目を向ける。

「パヴァリアの幹部3人は決して弱くはない。それをたった1人でこうも圧倒するとは……」
「……3人でダメなら、数を増やすまでよ」
「単純だが、それしかないか……輝彦さんッ!」

 翼が声を掛けた時、輝彦は今正に数人のメイジを仕留める所だった。ハーメルケインで流れるような動きを見せ次々とメイジを切り伏せる。
 その最中に声を掛けられ、彼は一瞬意識をそちらに持って行かれそうになりつつ残りのメイジへの攻撃を止めることは無かった。

「何だ、今こちらも忙しいッ!」
「暫し雑魚の相手を任せますッ!」
「何? どういう、くっ!」

 理由を聞こうとする輝彦だったが、メイジの相手をするのに忙しくそれどころでは無かった。その間に翼は颯人救助の為に動いている奏と響を除いた装者全員に声を掛ける。

「雪音、暁、月読ッ!」
「しゃーねぇ。透、少し任せたッ!」
「調、私達もッ!」
「うんッ!」
「後は任せろッ!」

 他の魔法使いの相手は同じ魔法使いである輝彦達に任せ、装者達は集まりワイズマンと対峙する。半円を描く様に自身の前に立ち塞がる装者達の姿に、ワイズマンは仮面の奥で浮かぶ笑みを抑えきれていなかった。

「ふむ、今度は君らが私を楽しませてくれるのかね?」
「ハッ! 楽しめればいいけどなッ!」
「挑発に乗るな雪音」
「分かってる。コイツがどんだけ悪辣かは、あたしがこの中じゃ誰よりも分かってんだよ」

 何を隠そうルナアタック事変の際に唯一ワイズマンに単身で挑んだのが他ならぬクリスである。その時に彼女はワイズマンの非情と言う言葉では片付けられない悪辣さに敗北を喫したのだ。その言葉には重みがある。

「個人でも、ただの連携でも敵わない。でも私達なら……!」
「全員のユニゾンで、アイツに目にもの見せてやるデスッ!」

 サンジェルマン達の連携も見事だったが、装者達には彼女らにも負けないユニゾンと言う手札がある。これまでに培ってきた連携とユニゾンがあれば、この強敵にも食い下がれるという自信があった。
 その自信をワイズマンは鼻で笑う。

「御託は良い、掛かってきたまえ」
「あぁ、そうか……よッ!」

 開戦の狼煙を上げたのはやはりクリスであった。小型ミサイルとガトリングの一斉射撃がワイズマン1人に一斉に襲い掛かる。

「フッ!」

 雨霰を降り注ぐ銃弾の嵐を切り抜け、迫るミサイルを素早い動きで引き離そうとする。だが誘導性に優れたミサイルは簡単には振り払う事が出来ず、魔法を用いた縦横無尽の動きにも追随してくるではないか。

「チッ」
〈テレポート、ナーウ〉

 しつこく追いかけてくるミサイルに嫌気が差したのか、ワイズマンは転移魔法で一瞬で姿を消す事でミサイルの誘導から逃れた。

 しかしそれは装者達に読まれていた。ワイズマンが魔法で転移した正にその場所で、切歌と調が合体させたアームドギアによる一撃をお見舞いしていた。

「「喰らえぇぇぇぇぇぇッ!!」」
[禁合β式・Zあ破刃惨無uうNN」
「ぬぅっ!」
〈バリヤー、ナーウ〉

 迫る凶悪な回転鋸を、ワイズマンは先程カリオストロの一撃を受け止めた時とは比べ物にならない強度の障壁で受け止める。鋸の回転に合わせて障壁から火花が散るが、障壁はビクともせずワイズマンも一向に後退る気配を見せなかった。

「「く、くぅぅ……!?」」

 強烈な切断力を持つ筈のザババの刃が、ワイズマンの障壁を破る事が出来ない現実に2人の額に汗が浮かぶ。先程はプレラーティのチャリオットによる突撃で白旗を上げていた障壁だが、その時はまだ手を抜いていたのだ。ワイズマンが本気で魔法を使えば、この程度の事は造作もない。

 それでも奴がその場で釘付けにされている事は間違いない。翼は今が好機とみて、2人とは別方向から動けないワイズマンに向け『天の逆鱗』をお見舞いした。

「ハァァァァァァッ!」
[天ノ逆鱗]
「何ッ!?」

 別方向から迫る巨大な刃。自身に向けそれが蹴り落とされてくる光景に、ワイズマンは今相手にしている2人が煩わしくなった。

「調子に……乗るなッ!」
〈ライトニング、ナーウ〉

 至近距離からの強烈な電撃に、切歌と調の2人は攻撃を押し返され吹き飛ばされる。

「「うわぁぁぁぁッ!?」」

 切歌と調を排除したワイズマンだったが、彼に休む間は与えられない。この時点で既にもう数秒の猶予も無い程翼の一撃が迫っていたのだ。
 ワイズマンはそれを赤い光の短剣を取り出す事で防いだ。

「ムンッ!」

 一見するとか細く容易く折れてしまいそうな光の短剣。しかしワイズマンはそれ一本で圧倒的質量さがある筈の『天の逆鱗』を防いでいるのだ。その事に翼も悔しさに歯噛みせずにはいられない。

「くっ! これすら防ぐか。だが……マリアッ!」
「んッ!?」

 翼が明後日の方に向け声を掛ける。ここで漸くワイズマンも、ここまでの攻撃が全て自分を消耗させつつこの場に釘付けにする為の布石である事に気付いた。
 彼女達の本命は正にこの後。力を溜めていたマリアによる全力の『HORIZON ♰ CANNON』をお見舞いする為の準備だったのである。
 他の装者達の攻撃で完全にマリアの存在を失念していた、否、最初から気にしても居なかったマリアが強烈な一撃を放とうとしている事に、ワイズマンが気付いた時には全てが遅かった。

「これで、決めるッ!」
[HORIZON†CANNON]

 左腕のガントレットに短剣を挿し込む事で作り上げた砲身から強力なビームが放たれる。それを見たワイズマンは、『天の逆鱗』の軸をずらして巨大剣を地面に突き立てさせるとその刀身を駆け上がり翼をその場から蹴り飛ばした。

「ぐっ!?」

 まさか刀身を駆け上がって来るとは思っていなかったからか、対応が間に合わず蹴り飛ばされる翼。ワイズマンは彼女を尻目に振り返ると、自分に向けて放たれる砲撃を前に右手の指輪を交換してハンドオーサーに翳した。

〈イエスッ! ファイナルストライクッ! アンダスタンドゥ?〉
「ぬぅぅぅ、ハァァァァァァッ!」

 まだ残っている『天の逆鱗』を足場代わりに、マリアの砲撃に自ら必殺技を放つワイズマン。魔力を集束させた蹴りと装者5人のユニゾンも味方して強化された砲撃がぶつかり合い、拮抗してせめぎ合う。

「ぐ、うぅぅぅぅぅ……!?」

 全力で砲撃うぁなっているにも拘らず、ワイズマンが放つ蹴りを押し返せない事にマリアの口から苦悶の声が上がる。砲身は焼け付きそうなほど熱くなり、その熱がマリアの体も苛む。

 どれ程攻撃をぶつけ合っていただろう。結局両者の攻撃に決着がつく事はなく、マリアが力尽き砲撃が止んだ時、そこには傷一つない姿で佇むワイズマンの姿があった。

「ぐ、は……はぁ、はぁ……」
「マリアッ!」
「マリアしっかり!?」
「嘘だろ、これでも勝てないのか!?」
「マジもんの化け物デスッ!?」

 自身の砲撃の威力を受け止めるのに体力を大幅に持っていかれたマリアがその場に膝をついた事に、仲間の装者達が彼女を心配して駆け寄る。
 その光景を空中に佇むワイズマンが見下ろしている。微塵も疲労した様子を見せず、余裕さすら感じさせる姿で。

「フフフッ……」

 仮面の奥で口元に笑みを湛えながら、ワイズマンは楽しそうに戦場を見渡した。

 サンジェルマン達はまだ完全に態勢を立て直せてはおらず、ワイズマンから受けた傷を癒している。

 輝彦達3人の魔法使いは、メデューサを始めとしたメイジの相手で手一杯。

 装者5人は言わずもがな。

 残るは颯人と彼を助ける為に向かった奏と響のみ。そちらでは、今正に奏に襲い掛かろうとしているレギオンファントムと暴走気味の颯人、そして奏と響のコンビによる変則的な三つ巴に近い戦いが繰り広げられている最中であった。 
 

 
後書き
と言う訳で第192話でした。

ワイズマンvs装者の戦いは一度はやっておきたい戦いでしたね。因みにこの戦いはあるゲームのあるムービーシーンが元ネタだったりします。さて何人が気付く事か。

今回はあまり出番がありませんでしたが、次回こそは颯人と奏の方にスポットが当たります。そろそろあのフォームも出せるかな?

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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