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ソードアートオンライン アスカとキリカの物語

作者:kento
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アインクラッド編
  夕餉と会議

サチとアスカが料理をしているキッチンから良い香りが漂ってきて、キリトの仮想の空腹感を刺激する。
我慢できずにそわそわするが,同じく大テーブルを囲む他の男4人も、似たような様子だ。
時刻は午後6時。丁度夕飯時なので腹が減るのは致し方ないだろう。

ボス攻略会議が終了してから1時間後、キリトとアスカは〈月夜の黒猫団〉のギルドホームへとご招待されていた。





旧友との再会を遂げたキリトだったが、安堵するのも束の間、サチに手を捕まれている状況(本当は女同士なので何の問題もないはずなのだが)に多くのプレイヤーから貫通属性が付与された視線を浴びて、すぐさま手を放した。
キリトだけでなく、アスカも〈月夜の黒猫団〉と知り合いだったようで、ケイタとダッカーが話しかけていた。

突然参加の新規ギルドに周りが驚いている中、ようやく落ち着いたアスカがギルドの紹介を済ませた。
そして、〈月夜の黒猫団〉がボス戦に参加することが決定したところまではスムーズに事が運んだ。
今回のボス戦は誰しも億劫に感じていたので、人数が増えることに文句を言う者などいようはずもなかった。
だが、パーティー編成をする時に問題が生じた。
その問題点に関しては省略するが、色々と訳あってキリトとアスカがパーティーに参加することになり、折角だから夕飯を一緒に食べようというケイタの提案により〈月夜の黒猫団〉のギルドホームへとやって来て今に至る、というわけだ。



こちらの世界の料理はかなり簡略化されているらしいので、サチとアスカがキッチンで調理を開始してからわずか数分でできあがった料理がテーブルへと運ばれてくる。
料理を作る側のアスカやサチからすると簡略化されすぎていて面白くないらしいが、ご馳走になる側のキリトとしては早く料理が食べられるのでありがたい。

アスカは一度第26層にて手料理を頂いたことがあるので、言わずもがなであるが、〈月夜の黒猫団〉全員分のご飯をいつも作っているらしいサチもかなりの熟練度のようで、並べられた料理は、控えめに言っても美味しそうだ。

いただきますを言うが直後、大皿に盛られた料理をせわしなく奪いあうキリトと〈月夜の黒猫団〉の男組。

本当はご飯を食べながら明日のボス戦の打ち合わせ、と言っていたが食後の後でもいいだろう。

「・・・・話し合いはいいの・・・・?」
「んぐ・・・・腹が減っては会議もできぬと昔からよく言うだろ」
「戦、の間違いだろ」

サチの問いに対するキリトの返答を聞いてアスカは少し呆れた様子で溜息を付いていた。




30分後には大皿に盛られた料理もきれいに無くなり、食後のデザートにシュークリームのようなもの(クリームは第26層で飲んだメロンクリームソーダから得た情報を頼りにアスカが作ったらしい)を頂きながら、ようやく話し合いが始まる。
まあ、先ほどから会議や話し合いなどと言っているが、別にそこまで大層な話をするつもりはキリトにも、そして恐らくアスカにも無いだろう。


「サチさん、どうしますか?」
「私は・・・・・・・・・・・・・」

アスカの問いにサチは黙ったままだ。まだ決断できていないのだろう。

今から決めないと行けないことはたった1つ。
サチが槍使いとして後衛、あるいは片手剣士として前衛のどちらに加わるのかと言うことだけだ。


さっき省略したパーティー編成の時に生じた問題というのは、〈月夜の黒猫団〉のビルド構成のことだ。

〈月夜の黒猫団〉の5人はバランスが悪い。

前衛を担当できるのは盾とメイスを装備したテツオだけ。
他の4人はシーフであるダッカーの短刀を除けば両手棍、長槍と中、遠距離用武器だ。
テツオがHPを回復するためにスイッチしようとしても、代わりに前衛を出来るプレイヤーがいないので、ずるずると後退するしかない。
キリトが初めて下層の迷宮区で〈月夜の黒猫団〉と出会った時と変っていない。
短い期間だけキリトはサチの片手剣の練習に付き合ったが、その後続けていた訳ではないらしい。
その原因を作ったのが自分であると思っているキリトはズキリ、と胸が痛む。

更に、唯一前線で攻撃担当しているテツオのメイスでは、第40層ボスの亀の顔を的確に狙い撃つのは至難の業だろう。
メイスは重量武器で、技の正確さよりも威力重視の武器だ。

それらの条件から、〈月夜の黒猫団〉には前衛を担当できるダメージディーラーの中でもボスの頭部に的確に攻撃を放てる人材となったわけだが、ボス攻略会議が終了してからの参入だったので、既にダメージディーラーを担当しているプレイヤーは各パーティーに配属されているので、誰も新規ギルドに協力しようと手を挙げなかった。
そこで仕方なく、勝手のきくソロプレイヤーのキリトと、ボス戦の最高責任者のアスカが旧知の仲であることも考慮してパーティーに加わった。



言葉に詰まるサチにアスカは優しい言葉遣いで続ける。

「俺は明日のボス戦のことだけを考えるなら、無理してサチさんが前衛に加わる必要はないと思っています。前衛は俺とキリトとテツオさんだけでもなんとか回せます。でも、これからも攻略組としてレベリングをしていくつもりなら、今のパーティーのビルド構成は変えないと厳しいはずです」

アスカの言葉は辛辣だが、ボス戦のことだけでなく、今後彼らが攻略組として活動を続けるつもりならサチの片手剣士への転向は必須であることも事実。
つまり、この場しのぎで槍使いを選択しても、逃げ場が無くなる状況がいずれやって来る、ということだ。

「敬語を使わなくて良いよ。アスカの言うとおり、戦闘で限界を感じたことはある。それは何度もギルド内でも話し合ったんだ。・・・・でも、どうしても近距離でモンスターと剣を交える恐怖が消えなくて・・・・・」

サチが最後は消え入るような声で返す。

気持ちは分からなくもない。
この世界ではモンスターのグラフィックのリアリティが高すぎて、間近に見るモンスターはホラー映像も笑えるほどに怖い。
元から気弱そうなサチが、今まで遠くから槍で突いていた状況から急に前衛で戦え、などと言われて足が竦むのも理解できる。
キリトもワーム系のモンスターを見ると気持ち悪くて怖気が走ってしまう。

「他の誰かが代わりに前衛に転向は出来ないのか?」

アスカとサチの間に割って入ったキリトの問いにはケイタが答える。

「それは難しいかな。僕とササマルのスキル熟練度は500を超えてるし、ダッカーはシーフとして〈索敵スキル〉とか〈解錠スキル〉を取ってるから今から片手剣士に変えるとスキルスロット数が足りなくなる。それにサチはキリトが少しの間だけ付き合って練習してたときの〈片手剣スキル〉を残したままだから、すぐに実戦で使い物になるんだ」

ケイタの説明を受けてキリトとアスカは同時に首を捻る。
ケイタが言っていることはシステム的数値観点から見たら合理的で正しいのだが、だからといってサチの意志を切り捨てるわけにはいかない。
前衛に加わることで危険を背負うとことになるのはサチ本人なのだから、彼女が戦う決意をしなければ始まらない。
キリトは視線をケイタからアスカに移しながら訊ねる。

「どうする?」
「明日のボス戦は個々のパーティーの強さより全体での連携が重要になるから、前衛3人でも俺とキリトがいたら問題ないはずだ」
「まあなー。偵察隊の話ならタンクじゃなくても攻撃防げるんだろ?」
「ああ。前足の攻撃と水弾は鈍いし、プレモーションも分かりやすい。ステップ回避だけで十分だ。頭への攻撃も俺がなんとかする」
「流石は〈閃光〉アスカ殿。頼りにしときます」
「・・・・お前にも手伝って貰うからな、〈黒の剣士〉キリトさん」

アスカからの返しにうっと唸るキリト。
〈黒の剣士〉などとキリト本人としては不本意なあだ名を頂戴されたのは随分と前だ。
別に性別を隠すために黒色の服を着ているだけなのだが・・・・。

「あのー俺はどうしたらいいっすかね?」

そーっと手を挙げて質問してきたのはキリトとアスカと同じく前衛を担当するテツオ。

「テツオの武器はメイスだから、わたしとアスカがブレイクして硬直したボスへの攻撃に専念して。メイスじゃクリティカルポイントが異常に狭い箇所への攻撃は厳しいはずだから」
「了解っす」
「じゃあ、これ以上話し合っても進展なさそうだし、一旦解散する? サチが前衛でも後衛でも問題ないなら明日の朝に決定しても問題ないだろ?」

キリトの提案に渋々といった様子で頷くアスカ。
隣でサチが分かりやすく安堵の表情を浮かべている。

「・・・仕方ないな。じゃあ、明日の朝に再度パーティーの配置を決めるってことで今日は解散するか」

全員がアスカの発言に頷く。
そのままアスカとキリトが帰ろうとするが、2人ともケイタとサチに呼び止められる。

「ねえ、今日はもう遅いし泊まっていかない?」

またしても揃って首を捻るキリトとアスカ。
だが、

「ごめん。俺は明日のボス戦の打ち合わせがあるから」

と、アスカは軽く頭を下げて謝る。

「じゃあ、キリトは大丈夫?」

サチが期待の籠もった眼差しをキリトに向ける。

「うーん・・・わたしは別にどっちでもいいけど・・・」
「じゃあ、泊まってこうよ! 私の部屋のベッド大きいから2人分のスペースあるし!」

言いながら、キリトの手を掴んでずるずると引っ張っていくサチ。

「サチ、分かったから!自分で歩くから!」
「先にお風呂入ろっか!このホームのお風呂結構広いよー」
「ええっ!? 一緒に入るの!?」
「大丈夫だよ。女の子同士だし」
「いや、でも――!―――!」

なおも食い下がろうとするキリトの背中をサチがぐいぐいと押して廊下を進んでいく。
その光景をアスカとケイタは少し呆れながら、ダッカーとテツオとササマルは女の子2人がお風呂に入る光景を浮かべて羨ましそうに、見送った。








そしてサチに背中を押されながらキリトは思い出していた。
半年前の〈月夜の黒猫団〉との出会いのことを。


 
 

 
後書き
もう「狂双剣士」を読んでくださっている方は知っていると思いますが,「狂双剣士」を連載打ち切りとすることにしました。

詳しいことはあちらの最新話に説明していますので,そちらを読んでください。

身勝手な理由で取りやめをしてしまい,誠に申し訳ございません。

「アスカとキリカの物語」につきましてはこれまで通り頑張って連載していく所存ですので,こんな馬鹿野郎のお話にこれからも付き合ってくださったら幸いです。

こちらの更新も今までのようなハイペースで行うことは難しいと思いますが,可能な限り早め早めの投稿をしていこうと思っています。



 
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