罵倒

　　　　　　　　　　　　　　　　罵倒
　佐竹万里夫は非常に温厚な性格で知られている。
　小太りで黒髪の毛を右で分けていて四角い顔で眼鏡をかけている、社内ではコツコツと仕事をすることで知られている。
　彼は優しい、しかし。
「あの、佐竹さんですが」
「どうしたの？」
「いえ、凄くいい人ですけれど」
　新入社員の鬼頭猛は先輩のＯＬに話した、面長ですっきりとした顔立ちで黒髪をショートにしている。背は一七三位で痩せている。
「何か嫌いな相手は」
「凄く嫌うでしょ」
「嫌いな人が出たらわかります」
　佐竹がそう思っている相手がというのだ。
「顔に出ますから」
「凄く嫌そうになるでしょ」
「それで巨人のお話を聞いても」
「あの人カープファンよ」
「凄く嫌そうで。僕も巨人嫌いですが」　
　それでもというのだ。
「あそこまでは」
「嫌ってないわね」
「何か凄く」　
　本当にというのだ。
「嫌いな相手はです」
「嫌うわね」
「お顔に出て」
　そしてというのだ。
「お話する時も凄くです」
「嫌いな相手についてはね」
「嫌そうにお話しますね」
「好きな相手は凄く褒めてね」
「嫌いだとね」
「無茶苦茶嫌そうに言いますね」
「褒めないでね」
「何でなんでしょうか」
　鬼頭は首を傾げさせて言った。
「あの人がああなのは」
「どうしてかしらね」
　先輩のＯＬも首を傾げさせた、兎角彼が嫌いな相手についてはとことんまで嫌悪を見せることは社会でも知られていた。
　鬼頭もこのことを不思議に思っていたがその時にだった。
　取引先の会社にだ、思わぬ人がいた。
「佐竹さんと高校がですか」
「うん、一緒なんだよ」
　彼と同じ位の年齢の小柄で痩せた優しい顔立ちの人が言ってきた、目の光もかなり優しいものである。
「佐竹君とね」
「君付けですね」
「友達だったんだ」　
　その彼山田俊平はこう答えた。
「彼とはね」
「そうでしたか」
「一緒のクラスだったこともあるよ」
「そうなんですね」
「いい奴だよね、彼」
　山田は鬼頭に笑顔で話した。
「親切で穏やかでね」
「いい人で僕もよくしてもらってます、ただ」
　ここで鬼頭はこう言った。
「あの人嫌いな人には」
「ああ、きついね」
「お顔に出て態度にも」
「出るよね」
「このことご存知ですか」
「仲良かったからね」　
　山田はそれでと答えた。