英雄伝説~黎の陽だまりと終焉を超えし英雄達~
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序章~旧市街の裏解決屋(スプリガン)~ 第1話
8月27日、AM10:05――――
~クロスベル帝国領・旧都イーディス八区・旧市街~
地下鉄の駅から旧市街に足を踏み入れたアニエスは最新の戦術オーブメント――――Xipha(ザイファ)の地図を確認したり、周辺で遊んでいる子供達に目的地の場所を訊ね、ある建物の前に到着した。
「MONTMART(モンマルト)……うん、この建物で間違いないみたい。ビストロ、なのかな?素敵な雰囲気の店だけど……本当に、この2階が?」
1Fのビストロらしき店舗を目にしたアニエスは戸惑いの表情で店舗の横にある上階に向かう階段に視線を向けた。
「あら、お客さんですか?モーニング、まだやってますよ。それとも2階の事務所にご用かしら?」
するとその時優し気な女性がアニエスに話しかけてきた。
「は、はいっ。その、やっぱりこちらの2階が”アークライド”さんの……?」
「ええ、モーニングを済ませたばかりだからまだ出かけていないんじゃないかしら。二度寝しちゃってるかもしれないけど、ノックを何度かすれば大丈夫よ。」
「あはは……」
女性の助言に苦笑を浮かべたアニエスは階段を昇って事務所の入り口の扉の前に来た。
アークライド解決事務所
訳アリ客以外お断り
「えっと………」
扉の前に来たアニエスはザイファの画面と扉を見比べた。
(…………うん、十分過ぎるかな。)
そして確認を終えたアニエスは扉にノックをした。
事務所の中では黎い髪の青年――――――ヴァン・アークライドがソファーにページを広げた雑誌を顔に覆って二度寝していたが、扉からノックの音が聞こえてくると目を覚ました。
「ふわああっ……朝っぱらから客かよ……?」
目を覚ましてソファーから起き上がったヴァンは扉に近づいて扉を開けた。
「………えっと………まさかとは思うが、客か?」
扉を開けたヴァンは目の前にいる”客”と思われる人物――――――自分にとっても見覚えがある学生服姿のアニエスを目にして戸惑いの表情を浮かべてアニエスに確認した。
「は、はいっ……!こちらのアークライド解決事務所にお願いしたいことがあって伺いました!」
ヴァンの確認に対してアニエスは一度頭を深く下げた後ヴァンに依頼があることを告げた。その後、アニエスを事務所内に入ってもらい、ソファーに座ってもらったヴァンは自分の分と一緒に用意したインスタントコーヒーをアニエスの前に置いた。
~アークライド解決事務所~
「あ、ありがとうございます。――――――初めまして。アニエス・クローデルと申します。現在、オーベル地区にある――――――」
「旧首都きって、いや北・南カルバード両州きっての名門校、”アラミス高等学校”……その学生寮に住んでいる一年って所か。」
「よくご存じですね……あっ、制服で、ですか?」
自己紹介を始めたアニエスだったが、ヴァンが自分の通っている高等学校を言い当てた事に驚いた後自分が制服姿である事を思い出してヴァンに訊ねた。
「まっ、旧首都に住んでりゃどうしたってその制服は目立つ。一年ってのはただのカンだ。発育はともかくスレてなさそうだしな。」
「発っ……」
(……………………)
ヴァンは制服越しでも明らかに膨らんでいてわかるアニエスの豊満な胸に一瞬視線を向けた後アニエスに自分の推測を答え、ヴァンのからかいを込めた推測を聞いたアニエスは思わず頬を赤らめ、アニエスの身体の中にいるメイヴィスレインは顔に青筋を立てて黙ってヴァンを睨んでいた。
「ヴァンだ。ヴァン・アークライド。どういうツテでここに辿り着いたかは知らんが……"4spg"を知ってるってことは俺の肩書きが何かも知っている筈だな?」
「……はい。警察にも、遊撃士協会にも相談しにくい事を引き受けてもらえるという”請負人”……『裏解決屋』――――――そう呼ばれていると伺っています。」
真剣な表情を浮かべたヴァンの確認に対してアニエスは表情を引き締めて答えた。
「半分アタリで、半分ハズレだ。”相談しにくい事”だけじゃねぇ。”相談できない事”を引き受ける時もある。非合法スレスレのグレーな稼業……そういう人種ってのはわかってるのか?」
「っ………わかっている、つもりです。」
ヴァンの確認に一瞬息を呑んだアニエスはすぐに気を取り直して答えた。
「まあいい。まずは話すだけは話してみたらどうだ?引き受ける約束はできないが。」
「!はい……!それでは――――――」
ヴァンに促されたアニエスはザイファを取り出して操作を始め
「おいおい、最新式かよ。まさか学校の備品とか言わねえよな?」
ヴァンは学生であるアニエスが戦術オーブメントの最新式を取り出した事に若干驚いた様子でアニエスに訊ねた。
「えっと、まあ当たらずとも遠からずと言いますか。……こちらです。」
ヴァンの問いかけに答えを誤魔化しながら答えたアニエスはヴァンにザイファに映る映像を見せた後そのままヴァンに手渡した。
「そいつは……年代物の懐中時計、いや。」
「お願いしたいのは他でもありません。こちらの古い”導力器”の捜索を手伝って頂きたいんです。数十年前の品で、私のひいお祖父ちゃ――――――曾祖父の遺したものになります。」
「…………………………この画像は?」
アニエスの説明を聞きながら黙ってザイファに映る画像を見つめていたヴァンはアニエスに新たな質問をした。
「その……ちょっと大きな声では言えない導力ネットの検索方法で……一週間前に、旧首都のとある古物商から盗難されたばかりだそうです。」
「P4プロトコルの穴を利用した特殊な検索アプリを使ったわけか。だが、コイツは……………………………」
ザイファの画像を真剣な表情で黙って見つめたヴァンはアニエスの前にザイファを置いた。
「え、えっと………」
「――――――悪いことは言わねえ。ギルドか警察にでも相談するんだな。なんの導力器かは知らんがアンティーク価値も結構ありそうだ。盗まれた事も含めて厄介な連中が絡んでいる可能性もある。むしろ故人の遺品ってことなら尚更、甘っちょろいギルド向きなんじゃねえか?」
「そ、それは……駄目、なんです。警察には、まして遊撃士協会にも相談するわけにはいかなくて。……………………」
ヴァンの忠告と指摘に一瞬言いよどんだアニエスは顔を俯かせて複雑そうな表情で答えた後黙り込んだ。
「ふう、何だか知らんが………――――――っと、茶請けを出し忘れたか。」
アニエスの様子を見て溜息を吐いたヴァンは茶請けが無い事に気づいた。
「あ……わ、私も忘れていました。」
ヴァンの言葉を聞いてある事を思い出したアニエスはヴァンの前にあるケーキ店の紙袋を置いた。
「その、学生寮近くの人気のお店のケーキでして。1日20個限定みたいですから、結構美味しいんじゃないかと――――――」
「”アンダルシア”の晩夏限定ケーキ!オレド産黒イチジクを隙間なく敷き詰めてアルモニカ産糖蜜でコーティングした特製タルトかよ!」
そしてアニエスが自分が購入したケーキについての説明をしようとしたその時、ヴァンが目の色を変えてより詳細な説明を口にした。
「えっと……お詳しいんですね?」
(あの様子だと、あの男は甘味に目がないようですね。)
ヴァンの様子にアニエスは冷や汗をかいた後戸惑いの表情でヴァンに訊ね、二人の様子を見守っていたメイヴィスレインはヴァンを分析していた。
その後二人は事務所を出た。
~旧市街~
「……………………………」
「……えっと………」
黙り込んでいるヴァンに対してアニエスはどう声をかければいいかわからなかったが、ヴァンが振り向いてアニエスに答えた。
「―――いいか、一言言っておく。限定ケーキに釣られたわけじゃない。いいね?」
(フン、少なくてもアニエスが用意した珍しい甘味も依頼を請けた理由の何割かがあるのは明白でしょうが。)
「は、はあ……――――ふふっ、甘い物、お好きなんですね?すぐに食べるかと思ったら大切そうに冷蔵庫に仕舞って………」
ヴァンのアニエスへの念押しにメイヴィスレインが嘲笑している中、アニエスは戸惑いながら頷いた後可笑しそうに笑いながらヴァンに確認した。
「”アンダルシア”の限定品だぞ!?一日のご褒美にしないでどうすんだよ。クソ……たしかに学生寮の近くだったか。学生様はいいですなぁ、簡単にお買いになれて。」
アニエスの指摘に真剣な表情で答えたヴァンは頭を抱えて若干悔しそうな様子で呟いた。
「あはは、私達にもなかなかの競争率ですけど。えっと……その、アークライド所長。――――本当に、いいんですか?」
「限定ケーキはあくまで口利きだ。規定の依頼料は払ってもらう。言っておくがギルドより割高だぞ?」
「はい、構いません。ある程度は用意してきましたから。それで……これからどちらへ?」
「盗品絡みなら人一倍、鼻の利くオッサンを知っている。色々うさんくせぇヤツだが、今日の昼なら多分、六区にいるだろ。」
「六区……河沿い(リバーサイド)の地区ですね。そうなると地下鉄で?」
「いや、このタイミングだと路線バスが早いだろう。まだ11時、できれば今日中に片づけて限定ケーキを堪能したいところだぜ。」
「クスクス………―――――どうかよろしくお願いします、アークライド所長。」
限定ケーキを堪能する事に真剣になっている様子のヴァンに微笑んだアニエスは表情を引き締めて改めてヴァンへの依頼を頼んだ。
「ああ、こちらこそだ。それとヴァンでいい、クローデル嬢。」
「あ……はい、ヴァンさん。私もアニエスでお願いします。」
そして二人は調査の為にバスに乗車して六区へと向かった――――――
後書き
シルフェニアの18禁版も更新しましたので、興味がある方はそちらもどうぞ。
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