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IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐

作者:グニル
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暴走

 突然訓練が中止になったあと、私たち専用機持ち全員が一番奥の宴会用の大座敷に集められました。
 そこは既に大型の空中投影型ディスプレイが所狭しと並べられ、照明も薄暗くされているためほぼ作戦基地と化しています。
 私たちはあの後なんの説明も無く集められたため未だに状況把握が出来ていません。

「では現状を説明する」

 やって来た織斑先生が正面の一番大きいディスプレイの前に立ってそう言いました。

「二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ、イスラエルの共同開発の第三世代型の軍用IS、『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が軍の制御下を離れて暴走。監視空域より離脱したとの連絡があった」

「ぐ、軍用?」

「カスト、質問は後にしろ」

「す、すいません」

 思わず声を出してしまいました。
 でも軍用なんて、IS条約で軍事利用への使用は禁止されているはずなのに……

「続けるぞ。その後衛星による追跡の結果、福音はここから二キロ先の空域を通過することが分かった。接触時間は五十分後と予測される。学園上層部の通達により、我々がこの事態に対処することとなった」

 アメリカ軍でもイスラエル軍でも日本政府からでもなく学園上層部からの通達?

「教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって、今作戦の要は専用機持ちに担当して貰う」

 この内容って……
 学園上層部は専用機持ちが……ううん、多分だけど一夏さんが止めることを望んでる。じゃないとこんな重要任務に他の国の代表候補生を関わらせるわけは無い。何せ開発中のISの暴走なんて国家間の政治問題。それに他国を関わらせるほど各国も馬鹿じゃないはず。
 ということは学園側から何とかするという意見が出たということでしょうね。もしくは国際IS委員会からの命令……?

「それでは作戦会議を始める。意見があるものは挙手するように」

「はい」

 私は我慢できずに手を上げました。

「何故生徒の私たちが、なのでしょうか? こういう場合国家機密というのも考慮して教員方が対処するのが最も良いと思うのですが……」

「確かに通常ならばそうだ、だが……そうだな、ここからは目標のスペックと合同で話せなばらない。2か国の最重要軍事機密となるため情報が漏洩した場合、貴様らには査問委員会による裁判と最低でも二年の監視がつけられる。いいな?」

『はい』

 織斑先生がそう言うと一夏さん以外が声を揃えて答えました。
 それを見ると織斑先生は目の前のコンソールを弄り、正面の大型ディスプレイに情報を映し出していきます。
 全ての情報が映ってから織斑先生が話を開始します。

「まずこの『銀の福音』だが、高い攻撃力と機動性を保持した広域殲滅型という事だ。更には『銀の鐘』というオールレンジ攻撃が可能なエネルギー兵器を搭載している」

 『銀の福音』が画面上でゆっくり一回転してその全体像を映し出した後、部分部分にスペックデータが映し出されていきます。

「またデータ上では鳳の専用機『甲龍』を上回り、格闘性能も未知数だ。この時点で訓練用の第2世代では荷が重いと判断されたと思われる。更に一番の問題が……速度だ」

 織斑先生はそういいながら速度を表示しました。
 最高速度……2450㎞!?

「知っての通り、この速度は『打鉄』と『ラファール・リヴァイブ』ではとても対応できん。いや、専用機持ちの諸君らのISでも高速機動用のパッケージを装備しているものでないと追いつけないだろう」

「偵察も無理、ということですか?」

 ラウラさんが冷静に確認しました。正直全てが未知数すぎます。一回くらい偵察を行えないと辛いというのがこの場にいる全員の総意ですが……

「そうだ。この機体は現在も超音速飛行を続けている。アプローチは一回が限界だな。それに偵察に出た者がやられては元も子もない」

「となれば……作戦は限られますね」

 私の漏らした言葉に一夏さん以外の全員が頷いて一夏さんの顔を見ます。うーん、分かってないですねこの顔は……

「え、なんだよ、皆して……?」

 ほら、やっぱり。

「一夏、あんたの零落白夜で落とすのよ」

「それしかありませんわね。ただ、問題は――」

「どうやって一夏をそこまで運ぶか、だね」

「ですね。エネルギーは全部攻撃に使わないと無理でしょうし、移動をどうするか。その一点に絞られます」

「しかも、目標に追いつける速度が出せるISでなければいけないな。超高感度ハイパーセンサーも必要だろう。そうなると高機動パッケージが必要だな。誰か本国から送られてきていないか?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺が行くのか!?」

『当然』

 私たちの声が重なります。というよりそれ以外作戦が無いんですよね。残念ながら。

「織斑、これは実戦だ。訓練ではない。場合によっては命に関わる。その覚悟がないなら今すぐ辞退しろ。誰も咎めはせん」

 でも確かに一夏さんは代表候補生でも国家代表者でもない。この場でこの作戦に関わる義務は箒さんと同じくない人物の一人です。
 なんですけど……

「……やります。俺が、やってみせます」

 自ら危険に首を突っ込む所はなんというか。そういうところ格好いいですよ。

「よし。それでは作戦の具体的な内容に入る。現在、この専用機持ちの中で最高速度を出せる機体はどれだ?」

「それなら、わたくしのブルー・ティアーズが。ちょうど本国からから強襲用パッケージ『ストライク・ガンナー』が送られてきていますし、超高感度ハイパーセンサーもついています」

「私の『デザート・ホーク・カスタム』もほぼ同条件です。いけます」

 全く、こんな形でパッケージが役に立つなんて……皮肉ですね。

「オルコット、カスト、超音速下での戦闘訓練時間は?」

「二十時間ですわ」

「わ、私は十四時間です」

「ふむ……少々不安は残る時間だがそれならば任せ……」

「待った待ーった。その作戦はちょっと待ったなんだよ~!」

 こ、この声は……!
 辺りを見渡した次の瞬間には床の畳が吹き飛びウサミミをつけた束博士が顔を覗かせました。え、どうやってそんなところに……

「山田先生。室外への強制退去を」

「は、はい! 篠ノ之博士、とりあえずそこから出てきてください」

「とうっ」

 束博士は山田先生に促されて、って多分促されなくても出てきたでしょうけど天井近くまでジャンプすると一回転して着地しました。頭の上に10点って札が出ましたけど……自作? でもこの人身体能力もすごい……

「ねぇちーちゃん! もっと良い作戦が私の頭の中でナウ・ローディング!」

「思いついてないなら帰れ」

 織斑先生が頭を抱えているのを見ながらも束博士の言葉は止まらない。

「そんなこと言わなーい。ここは断・然『紅椿(あかつばき)』の出番なんだよ!!」

「何?」

「紅椿のスペックデータを見てみて! パッケージなんかなくても超高速機動ができるんだよ! 紅椿の展開装甲を調整してーっと、ほら! これでスピードはばっちり!」

 展開装甲?

「わ!」

 聞きなれない言葉に首を傾げた瞬間、シャルロットさんが声を上げました。その方向を見てみると今まで福音のデータを映していたディスプレイが全て『紅椿』のスペックデータ画面へと切り替わっています。乗っ取った? あの一瞬で!?

「ではでは優しい束さんの説明コーナー。展開装甲というのはだね、まあぶっちゃけて言えばこの天才さんが作った第4世代ISの装備なのだよ」

 だ、第4……世代!?

 そのまま束博士は1世代目からのISの説明を始める。多分、分かっていない一夏さんのため、というよりそれ以外ない。束博士から見ればこの場には3人しかいないのも同意だから。
 ISの完全な完成を目指した第1世代機。事実上退役してる世代で使ってる国は片手で数えら得れる程度しかない。
 次に第2世代、後付武装(イコライザ)によって用途の多様化を目指した世代。現主力ISで私の所属する赤道連合でもほぼ全てが第2世代型。
 そして操縦者のイメージ・インターフェイスを用いた特殊兵器の搭載を目標とした第3世代機。分かりやすいもので言えば『甲龍』の『龍砲』や『ブルー・ティアーズ』のBT兵器、『シュバルツァ・レーゲン』のAICがこれに当たる。どの国も試験運用段階で正式採用できてる国はほぼ無いに等しい。
 そして現在机上の空論のみで論じられているのがパッケージを必要としない万能機、どんな状況でもその身一つで全てに対応できるとされる最強を目指したIS。現在の技術ではEU、赤道連合、日本、IS大国と呼ばれるアメリカですら試作段階にも手を出せていない正に未来のIS。
 それが……その第4世代が『紅椿』?

「具体的には『白式』の『雪片弐型』に使用してるんだ。試しに突っ込んだだけだけどねー」

『え!?』

 その言葉に一夏さんも驚く。それの指す意味は『白式』も第4世代相当と言う意味と変わらないから。

「まあ? あそこまで上手く行くとは思ってなかったんだけどー、上手く行ったから『紅椿』の全身に採用してみたんだ。システム最大稼働時のスペックは倍率ドン更に倍!」

 束博士がおちゃらけて言うが全然笑えない。開いた口が塞がらないと言うのはこのことなんですか。
 何て滅茶苦茶……

「『白式』では攻撃だけだったけど『紅椿』の展開装甲は更に発展したものだから攻撃・防御・機動何でもあり! 第4世代の即時万能対応機(リアルタイム・マルチロール・アクトレス)ってやつだね。やってみたら案外出来ちゃったよさっすが私!」

 束博士の言葉が終わるとその場が静まり返った。全員が全員、顔を下に向けています。

「はにゃ? 何でみんなお通夜みたいな顔してるの? 変なのー」

 お通夜……日本で言うお葬式。それはそうでしょう。
 私も両親が開発局勤務だから分かります。研究に研究を重ねて、時間を、資源を、人材をありとあらゆるところから掻き集めて、やっと今第3世代の研究、試作機を作ってる段階。早くてもギリギリ正式採用にこぎつけるくらいです。
 数え切れない人が身体を壊すまで研究して、今あるものさえも犠牲にして、国さえも傾かせるほどの資金を投入して何とか維持しているISの開発。
 それがこの人には通じない。『試しにやってみた』、『上手く行ったから』、それで全て片付いてしまう。
 これでは私たちが、世界が……馬鹿みたいだ。会うまで分からなかったけどこれが『天災』の『天才』の本当の意味なんだと今更ながらに理解しました。

 ISが公表されたときと同じだ。世界はまた、この人1人に敗れたってことだから。

「束、言ったはずだぞ。やり過ぎるなと……」

「そうだっけ? ま、私は世代とかどーでもいいんだよねー。私が作ったものに他人が勝手に第何世代なんてつけてやってるだけだからさー。分かりやすいように私もそれに乗っかってるだけだし」

 最早どう驚けばいいのかも分からない。そんな私たちを尻目に束博士は悪そうな笑みを浮かべると織斑先生に向き直って話しかけました。

「それにしてもアレだよね、海でIS暴走って言うと10年前の『白騎士』を思い出すよね? ちーちゃん?」

 『白騎士』事件。ISに関係してない人でも世界で知らない人はいないだろうってほどの大事件。
 10年前に起こったそれは束博士がISを公表してからわずか1ヵ月後に起こり、世界にISが認められるようになった事件。
 『現行兵器を全て凌駕する』という束博士の言を誰も信じず、信じるわけにもいかなかった時、原因不明の事件が起こった。日本を射程内に収める各国、国籍を問わない弾道ミサイル合計2341発が何者かのハッキングを受けて、日本に向けて発射された。
 そのミサイルは……全て一機のISにより撃墜(・・)された。

「ぶった斬ったんだよねぇ、半分の1221発。残りは荷電粒子砲をぶっ放して全部撃墜。あれこそ愉快痛快ってやつだよねー。あの時の各国首脳陣の顔は笑えたねー」

 2341発のミサイルを1機で、全て撃墜。半分は切り落とすという圧倒的格闘能力、その当時誰も成し得ていなかったビーム兵器の実用化、更には大質量兵器を量子から構成する能力。全てSF映画や漫画でしか実在しなかったものがそこにあった。
 これらを脅威とみなした各国は当時の国際条約を全て無視し現地へと軍を派遣した。当然オーストラリアも国の防衛戦力さえ引き裂いて戦力を投入し、各国非公認だけど裏では臨時の連合さえ組んだともされています。任務は目標ISの捕縛、もしくは撃破。

 その連合は、たった一機のIS『白騎士』に敗北しました。

 戦闘機207機、巡洋艦7隻、空母5隻、衛星8基を誰も殺すことなく無効化した『白騎士』は現れたときと同じように忽然と姿を消した。最新鋭レーダーもすり抜け目視も出来ない完全なるステルス能力。
 たった一日で世界は敗北し、変わらざるを得ませんでした。
 一機の存在で複数国家の軍をも凌駕するISの存在。当然世界はISの運用制限条約を締結し、今でも続く果てない研究と開発の道へと突入することになりました。

「そして私のらぶりぃなISは、世界に広がったんだよねぇ。ま、世界の変化とか女性優遇とかおまけみたいなもので私にはどうでも良いんだけどね。あ、でも隙あらば誘拐・暗殺っていう生活はなかなかエキサイティングだったねー。映画の主人公みたいで」

 そして目の前にはどこの国家にも属さない形で存在する第4世代型ISとその所持者。世界で唯一の男性IS操縦者に世界的『天才』の妹。どこの国家も力ずくで手に入れようとするでしょう。もちろん赤道連合も。

「話を戻すぞ」

 束博士が脱線させた話を織斑先生が元に戻す。

「束、『紅椿』の調整にはどれくらいかかる?」

「織斑先生!?」

 作戦に参加できると思っていたセシリアさんが声を上げました。高機動パッケージ持ちは私とセシリアさんだけですからね。

「私と『ブルー・ティアーズ』なら必ず成功して見せますわ!」

「そのパッケージは量子変換してあるのか?」

「そ、それは……まだですが……」

 織斑先生に言われてセシリアさんが言葉に詰まります。そう、パッケージのインストールは時間が掛かります。
 装甲、ブースター、武装、出力等など様々な点を調整しつつ行わなければいけないそれは通常の武装をインストールするのとは天と地ほどの差があります。リース先輩でも30分掛かった作業。

「私は量子変換はしてあります」

「ではカスト、調整は済んでいるか?」

 う……それは……

「いえ、ブースターとスラスターの微調整がまだ不十分です。30分もらえればなんとか……」

「ちなみに紅椿の調整時間は5分あれば余裕のよっちゃんだね」

「5分!?」

 その言葉に生まれた私の感情は、『恐怖』……別に命を狙われたわけでも武器を持っているわけでもない。ただただ、この人の頭脳が、この人の言動が、怖い。
 リース先輩だって飄々としてるけどもう2年も整備科で勉強してるエリートです。本国の技術者にさえ負けない技術者だと思ってるしその腕もあると私は思っています。確かに調整とインストールでは時間は違うけど先輩だって5分では無理。そんな作業をこの人は5分で余裕だと言う。いくら開発者でも、生みの親だからって……

「よし。では本作戦は織斑、篠ノ之の両名による目標の追跡及び撃墜を目的とする。そのバックアップにオルコット、カストの両名を配置。二人は時刻までにパッケージのインストールと調整を終わらせろ。出来ない場合は置いていく。他のものは4名をサポート。以上だ。各員準備に掛かれ!!」

『は、はい!』

 織斑先生の声に意識を引き戻されました。
 考えることなら後でも出来る。今は、こっちに集中しなくちゃ! 
 

 
後書き
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