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やはり俺達の青春ラブコメは間違っている。

作者:殻野空穂
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第三章
  俺たちはまた職員室にて説教をくらっている。そしてこれはケース 比企谷。

「君たちはあれか調理実習にトラウマでもあるのか」
 サボった調理実習の代わりとして書いて提出するようにと言われた家庭科の補習レポートを提出したら、なぜか呼ばれた職員室。
 なにこの既視感。なんでまたあなたに説教かまされることになったんでしょうか、平塚先生。そしてなぜまたいる比企谷八幡。お前料理得意なんじゃねぇのかよ!
 その料理が得意?な比企谷八幡が口を開いた。
「先生って、現国の教師だったんじゃ...」
 そういえばじゃなくてもそうだな。なんで平塚先生に説教されなきゃならないんだ。家庭科の先生じゃねぇだろ。
「私は生活指導担当なんだよ。鶴見先生は私に丸投げしてきた」
 なんて面倒な人に丸投げしてくれたんだ。おかげで最悪な気分だよ。
 鶴見先生。...絶対許さない。モブのくせに、モブのくせに...。
「おい桐山。目が恐ろしいことになっているぞ...。はぁ、まず比企谷の方からサボった理由を聞こう。簡潔に答えろ」
 なに、俺のこのキラキラと希望に満ち溢れた目が恐ろしいだと。なんて捻くれた性根をしているんだ平塚先生。
 教師がそんなことでいいのか!ダメだろうそんなことじゃ...、すんません調子こいてました。
 うん、俺嘘つき。腐ってるのも、捻くれてるのも、恐ろしい目をしてるのも全部俺でした。てへっ☆...ごめん。ホントごめん。

 話を戻そう。えっと、今の状況は、そう!比企谷がここでうまくごまかさないと次のターンで俺が先生の標的になった際、闇のデュエルの始まりだ!
 つまり何が言いたいのかというと、俺のライフが危ない。
 ...頼む比企谷。すっごい捻くれたこと言って俺の身代わりになるか、良いこと言って適当にごまかせ。
 そして俺のライフポイントへの被害を(おさ)えてくれ。でもな比企谷。絶対生きて帰れよ。だけど俺に被害がないようにしろよ。
 ...なにこの腐った友情。友情?
 そんな腐った仲である比企谷が口を開いた。
「や、あれですよ。クラスの連中と調理実習とかちょっと意味わかんなかったんで...」
「その回答が私にはもう意味がわからないよ。比企谷。そんなに班を組むのがつらかったか?それともどの班にも入れてもらえなかったのか?」
 先生は比企谷のことをわりと本気で心配していた。
 わかります、その気持ち。ま、俺が言えたことじゃねぇけど。

「いやいや。何言ってんですか先生。これは調理実習でしょう?つまり、より実地に近くなければやる意味がない。俺の母親は一人で料理してますよ?つまり、料理は一人でするのが正しいんですよ!逆説的に班でやる調理実習とか間違ってる!」
 グッジョブ!比企谷。すばらしい捻くれ具合。じゃあ八幡、後は任せた!...なんてね♪先生にすっげぇ睨まれてる。
 えへへっ、逃げらんなかった♪てへぺろ~☆い、命だけはお助けを...。
 俺の願いを聞き入れてくれたのか平塚先生は一度小さくため息をつき比企谷の方に視線を戻した。
「それとこれとは話が別だろう」
「先生!俺の母ちゃんが間違ってるって言うんですか!許さねぇ!これ以上話しても無駄だ!帰らせてもらおうか!」
 そう比企谷が言ったので俺もくるりと(きびす)を返してその場を後にしようとする。
「逆ギレでごまかそうとすんなコラ。...そして桐山。比企谷に乗じて帰ろうとするな」
 ...ちっ、ばれたか。なんでこの人は俺が存在感を全力で消しても俺の存在を忘れないんだ?俺の数少ない特技の一つなのに...。
 ちなみにもうひとつは直視できない内面に潜んだ気持ち悪さ...。ふひっ。...自分で言ってて難だけどふひって、...財津君かよ。
 平塚先生は俺と比企谷の制服の襟元を後ろから引っ張る。子猫を掴みあげるように再び向き直らされた。んー。「てへっ♪いっけなーい☆」と言いながらぺろっと舌を出せばごまかせたのかもしれない。...んなわけあるか。
 平塚先生はため息をつきながら比企谷のものと思われるレポートをぱんっと手の甲で叩く。
「おいしいカレーの作り方、ここまではいい。問題はその後だ。1、玉ねぎを櫛形切(くしがたぎ)りにする。細めにスライスし、下味をつける。薄っぺらい奴ほど人に影響されやすいのと同様、薄く切ったほうが味がよく染みる...。誰が皮肉を混ぜろと言った。牛肉を混ぜろ」
「先生、うまいこと言ったみたいな顔をするのはやめてください...見てるこっちが恥ずかしいです...」
「確かに...。結構痛いですよ、先生」
 ホント痛い。なんなの財津君とお友達なの?
「私だってこんなもの読みたくない。言うまでもなくわかっていると思うが再提出だ」
 先生は心底呆(あき)れ返った様子で口にタバコを運んだ。
「君は料理できるのか?」
 レポ―ト用紙をひらりとめくりながら平塚先生が意外そうな表情で比企谷に尋ねた。
 そう、俺の認識では比企谷はかなり料理得意なイメ―ジがある。まぁ、そういう話を比企谷から聞いただけだから実際はどうなのかは知らん。たぶんカレ―ぐらいは楽勝に作れるのだろう。...ん?普通に俺でも作れるぞ。
「ええ。将来のことを考えればできて当然です」
「一人暮らしでもしたい年ごろか?」
「いや、そういうわけじゃないです」
「ふうん?」
 じゃあなんで料理を?という感じで平塚先生は呟く。...ちなみに俺はその事について知ってる。だって聞いたし。
 でもそれを知らない平塚先生は視線だけで比企谷にその理由を聞いた。
「料理は主夫の必須スキルですからね」
 比企谷が答えると平塚先生は控えめなマスカラで縁取られた大きな瞳をぱちぱちと二、三度瞬(まばた)かせた。たぶん比企谷の言ったことがよく理解できなかったのだろう。ま、当然と言えば当然だ。俺も変わってるが比企谷も同じくらい変わり者だ。
 平塚先生は落ち着きを取り戻したのか自然に尋ねる。
「君は専業主夫になりたいのか?」
 さすが先生。理解が早いなぁ。
 平塚先生の問いかけに比企谷は平然と答える。
「それも将来の選択肢の一つかなって」
「ドロドロと目を腐らせながら夢を語るな。せめてキラキラと輝かせろ。...参考までに聞くが、君の将来設計はどうなっているんだ?」 
 ...将来設計。あんまり考えたことなかったなぁ...。でも、比企谷の将来を気にする前に自分の将来を心配した方がいいと思います。平塚先生...。
 その平塚先生の問いにまた比企谷は理路整然に答える。
「まぁ、それなりの大学に進学しますよ」
 ここまでは普通。俺も同じことを答えるだろう。
 この場合、問題なのは就職について。賭けてもいい。ここが最大の山。このあと俺の番がまわって来たときに俺のライフを守りきることができるのか、もしくは闇のデュエルが始まってしまうのか...。
 そう俺の生死に関わる問題になりかねない。...頼む、比企谷。
 平塚先生はやはりその事について尋ねた。
「ふむ。その後、就職はどうするんだ?」
 ...頼む。マイ ゴット 比企谷八幡。俺の生命は君に託された...。
「美人で優秀な女子を見繕って結婚します。最終的には養ってもらう方向で」
 嗚呼、俺の望みは断たれた。まぁ、わかってはいたけど...。ちくしょうデビル八幡め...。許さん。
 ...だからなんなんだっつーの、この(もろ)い友情。友情?絶対違うだろ...。
 ま、比企谷と俺の関係は都合のいい友人関係にあるということで...。いや、やっぱ友人でもなんでもないや。ただのぼっち二人。そうだ、これにつきる。...俺たち悲しすぎんだろ...。
「就職って言っただろ!職業で答えろ!」
 というわけでやはり平塚先生は納得いかなかったようだ。
「だから、主夫」
 そこは譲れないんだね、比企谷。...ああ、Oh,my life! 去らば一人もいない友よ...。
 友達がいない俺の別れの言葉が独り言と化していると平塚先生が大声を出した。
「それはヒモと言うんだっ!恐ろしいくらいダメな生き方だ。奴らは結婚をちらつかせて気づいたらいつの間にか家に上がりこんできてあまつさえ合鍵まで作ってそのうち自分の荷物を運び始め、別れたら私の家具まで持っていくようなとんでもないろくでなしなんだぞっ!?」
 詳しすぎる...。息切れして目まで潤んできてるよ...。
 ...あんまりだっ!平塚先生が可哀想すぎるっ。やめてください平塚先生...、自堕落な人生を送ろうとしている俺の決意を揺らがさないでくださいっ...。あんまり可愛そうなもんだから迂闊(うかつ)にもなんだか元気づけてあげたくなってしまった。
「先生。大丈夫です!比企谷はきっとそんなろくでなしになったりしません。ちゃんと家事とかしっかりできる...、言うなれば、そう!ヒモの中のヒモ、まさしくヒモを超えたヒモになってくれるはずですっ!」
「どんな超ひも理論だっ!」
 あれ?ダメだったか。比企谷も納得して力強く頷いていたのに...。
 将来の夢を否定された比企谷は人生の岐路に立たされていた。夢が断たれようとする瀬戸際、ここにきて比企谷は理論武装を開始する。
「ヒモ、と言えば聞こえは悪いけど専業主夫というのはそんなに悪い選択肢ではないと思うんですよ」
「ふん?」
 平塚先生は椅子をぎしっと鳴らして比企谷の方を(にら)む。聞いてみてやるから早く言えコラ、といった姿勢である。ヤンキーかよ...。
「男女共同参画社会とやらのおかげで、既に女性の社会進出は当然のこととされてますよね。その証拠に平塚先生だって教師をやっているわけだし」
「...まぁ、そうだな」
 比企谷からしたら、掴みはOKってところか...。比企谷は話を続ける。
「けど、女性が職場に多く出てきたら、そのぶん男性が職にあぶれるのは自明の理。そもそも古今東西、仕事の数なんて限られているじゃないですか」
「む...」
「だよなー」
 夢だのなんだのなんて限られてる。少なくとも凡人には。夢と希望に満ち溢れた子供たちに教えてあげたい。この救い用のない現実を...。君たちの生きる世界は退屈、君たちがする努力はすべて無駄、自分にはきっと才能があるはずって思ってもなにも出てこないよ、って教えてやる。
「例えば、とある会社の五十年前の労働人口が百人で男性率百パーセントだったとしましょう。そこえ、五十人の女性の雇用を義務付けられたら当然もといた男性五十人はどこかへいかなきゃいけない。ごくごく単純な計算でもこれですよ。ここに昨今の不景気具合を加味すれば男性労働者の受け皿ががくっと減るのは当たり前のことです」
 比企谷がそこまで言うと、平塚先生は顎に手をやり考える姿勢をとった。
「続けたまえ」
「会社というもの自体が以前よりも人を必要としなくなったのもあります。パソコンの普及やネットの発達で効率化が図られ、一人あたりの生産能率は飛躍的に向上したわけで。むしろ、社会からしたら『そんな働く気まんまんでも困るんですけど...』という状態。ワークシェアリングとか、まぁなんかそんな感じのあるでしょう?」
「確かにそういう概念はあるな」
 どうしよ、平塚先生もだいぶ納得してる。...俺も専業主夫目指そうかな。
「それに、家電類も目覚ましい発展をしたことで誰がやっても一定のクオリティを出せるようになった。男だって家事はこなせます」
「それはもう男が専業主夫になるためにあるようなものじゃないか!よし、俺も専業主夫目指そう!」
 さあ、職にあぶれた男たちよ専業主夫になるために立ち上がるんだ!
「いや、ちょっと待て」
 なんだよ、平塚先生。ここまで来たら男は専業主夫になるしかないだろ。
 平塚先生は小さく咳払(せきばら)いすると、ちらと比企谷の顔を覗き込んで言った。
「あれはあれでなかなか扱いが難しくてだな...、必ずしもうまくいくわけではないぞ?」
「「そりゃ先生だけだ」」
「...あ?」
 椅子をくるりと回転して先生は俺と比企谷の(すね)をうまい具合に()った。すっごい痛い。くそっ小声で呟いたのにどうして聞こえるんだ?
 比企谷は睨み付けてくる平塚先生をごまかすように話を続けた。
「よ、要するに!そうやって働かなくて済む社会を必死こいて作り上げた働けだの働く場所がないだの言ってるのはちゃんちゃらおかしいわけですよ!」
 そうだな。なら働かず専業主夫として頑張ることは間違ってない。
 完璧に見える結論。働いたら負け、という比企谷の信念に基づいた結論である。
「...はぁ。君は相変わらずの腐れっぷりだな」
 平塚先生は大きなため息をつく。だが、すぐになにか思い付いたのか、ニヤリと笑った。
「女子から手料理の一つも振る舞われれば君の考えも変わるかもしれんな...」
 平塚先生はそう言って立ち上がると比企谷の肩をぐいぐいと押し、職員室の外へと連れていく。
「ちょ、ちょっと!何するんですか!痛い!痛いっつーの!」
 やっぱ痛いんだ...。
「奉仕部で勤労の尊さを学んできたまえ」
 比企谷が何すんですかと文句を言おうと振り返ると、平塚先生は扉をピシャリと閉めた。
「ハハッ...」
 やっぱり比企谷は面白い。じゃあ、そろそろ俺は帰るとするかな...。
 そして俺は職員室を出た。
「どこへ行くつもりかな?」
 ...はい、連れ戻されました。
「次は君だ、桐山」
「...はい」
 ...ライフポイントは4000からスタートするのが通常。
 さあ、闇のデュエルの始まりだ...。

 
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